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「と、言うわけです」
じゃ、ねぇよ。という言葉を持参した緑茶とともに飲み込んだ。
こんな重たい話が来ると思っていなかったこともあるが、それでも想像よりえげつない重たい過去が出てきた。
普通の人が牙狼タイガーにハマる理由なんて受験期に暇だからテレビをつけてみたら意外と面白かったくらいのものだろう。
「確かに気になるとは言ったけどさ……まじ?」
「マジもマジですよ。丁度八年前ですかね、妹と母が亡くなったのは……」
さすがに八年経っているからか、タイガは少し遠い目をしていても顔に悲しみの色はない。
「悪い、俺が悪かった」
その表情から嘘ではないことは明らかだ。疑う気にもなれないし、実際タイガの母の話など聞いたこともない。
「今日、父さんが一人で墓参りに行ってるんですよ。他にも行くところがあるらしいですけど」
「俺ってもしかしなくても邪魔じゃない?」
そう言うとタイガが手をブンブン振って否定する。
「違うんですよ、今日父さん一人でって前から言われていたんです」
「そう言えば誘ってきたのはそっちだったな」
思い返してみればゴールデンウィークの最終日に誘ってきたのはタイガの方だった。
「俺の申し訳なさ返して」
「手のひら返しが速すぎですよ」
そう言って二人でケラケラ笑う。
「はぁ、なんてぇか、大変だったのな」
「あはは、昔のことですよ」
「んなわけ……」
タイガに聞こえるか聞こえないかくらいの声量で呟いた。
タイガの苦労は知れたもんじゃない。今後そのことについて教えてくれるかもわからない。
だが、全く知らずにしてもアニメのようなフィクションのような壮絶な人生だ。
わかるとは言えない。口が裂けても、どれだけ考えても、俺にはタイガの気持ちが分かるとは言えないだろう。
彼の人生に寄り添おうとするだけで目から涙が溢れそうになる。
「ほら、とりあえず行こうぜ」
溢れそうになる涙を抑えながらタイガに話しかける。
「行くってどこへ?」
「決まってるだろ……」
気付かれないようにいつも通り笑って、なんでもないような風を装う。
このタイガの過去を知ってから、今までのようにタイガと接することができるだろうか?
否、その心配はきっとない。
俺とタイガはまだ出会って一ヶ月くらいだ。しかも、飛び蹴りから始まった不思議な関係だ。
この形が違うのであればまた形を変えればいいだけのことだ。そうやって丁度いい形を地道に探しに行こう。
「お前の話のせいで全然見れなかった牙狼タイガーの展示を見るんだよ。ほら入口行くぞ」
「はい!」




