35
その後、僕ら親子二人は今まで家のあった石巻を離れ、仙台へ引っ越した。
理由は二つ。一つ目は父さんの仕事が仙台で見つかったため。二つ目は今まで四人で住んでいた家は二人で住むには広すぎたため。
そして石巻から仙台に引っ越す前日、僕ら二人はある場所に訪れていた。
「なんか近すぎてあんまり来たことないけど、すごいね」
目の前には言葉で説明するには少々難しい建物。
「タイガが小さい頃はよく来たんだがな、小学生になってからゲームばっかで興味しめさなかっただろ?」
「そりゃ小さい頃は牙狼タイガー好きだったけど、小学生で見てる人なんていないし、ゲームは友達とも盛り上がれるからね」
「まぁ、そうなるわな」
父さんは笑いながら納得した。
今来ている場所は岩ノ森光太郎漫画館。あの日見た牙狼タイガーマジックの原作、牙狼タイガーの作者である岩ノ森光太郎の展示物が多くある場所だ。
漫画時代の牙狼タイガーだけでなく、平成の牙狼タイガーのマスクなんかも飾ってある。
あの日、牙狼タイガーマジックを見てから一度来てみたいと思っていた。父も同じことを考えていたらしく、どうせ地元なのだからと連れてきてくれた。
なぜあの日、父さんが牙狼タイガーを見ていたのかはわからない。なぜその日を境にお酒をやめられたのかもだ。
聞きたいのも山々だが、父さんもきっと何かを決断してのことなのだろう。せっかくかっこつけてくれたのだ。かっこいい父さんでいてもらうために何も聞かないことにした。
「ほらタイガ、何してるんだ」
「待って、今行くから」
それから仙台に引っ越して、人生が今までより良くなったかと聞かれればそうじゃない。父さんは工事現場で働き始め、給料も今までより安いはずだ。それに母方の祖父とは未だにギスギスしているらしい。
僕も転向した小学校での生活は難航した。周りの視線がとにかく気になってしまう。いつしか、僕は社交性のある仮面を一枚着けた状態で生活するようになった。
これらは僕ら二人にとって一生消えないであろう傷だ。
でも、牙狼タイガーが教えてくれた。辛いことがあっても乗り越えなければいけないということを。
父さんが絶望したなら、僕が父さんの希望になる。そう思わせてくれた。
二人とも同じようで違う形の傷を負った。絶望という名の傷の名前は同じだが、痛むタイミングも疼くタイミングも一緒ではない。
だが、今残された道はその傷をいかに痛まないようにするかではない。いかにその痛みに耐えるかだ。
痛まないということはカナデと母さんのことを忘れることと同義だろう。だから、慣れるでも、忘れるでもなく耐えるしかないのだ。
そして痛みをちゃんと耐えられるようになったとき、絶望を乗り越えられたということになるのだろう。
いつか、そのときが来るまでゆっくり父さんと支え合って生きていこう。




