表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイガルフ  作者: 波左間たかさ
5月
59/81

32

「ただいま!」

 僕が帰ったときには家の電気はいつも通り点いており、ドアの鍵も開いていた。

「あ、ターちゃん帰ってきた!」

 そう言うのは母方のおばあちゃん。

「うん、うん、うん、わかったわ」

 おばあちゃんは誰かと電話しているようだ。

「ターちゃん、今からおばあちゃんとお出かけしよ」

「いいけど、母さんは?」

 家に帰ってから未だに母さんとカナデを見ていない。

 そう聞くとおばあちゃんは一度黙った。

「あ、あっちにいるから……」

 その言葉に、そうなのかと納得する。

 おばあちゃんと一緒に向かったのは病院だった。だが、予防接種にはまだ早いし、誰かが入院でもしたのだろうか?

 瞬間、心臓が締め付けられるような感覚に襲われた。朝から今までの出来事が、無意識のうちに集められパズルのピースのように嵌っていく。

 不安で不安で仕方がない。だが、体が震えたりするわけでもないため平然を装おう。

「虎丸くん、ターちゃん連れてきたわよ」

 表情が死んでいる。父さんはその言葉がよく似合う無気力な表情をしていた。

「ありがとうございます。お義母さん」

 父さんが力なく僕の手を取り、引っ張った。連れられた部屋は真っ白。その空間には二つの台があり、それぞれに布のかかった何かが乗っていた。

「ッヒ!」

 否、何かではない。これは僕が予想していた通りのことだ。

「か、母さん……?」

 肌は白く、生気を感じさせない母さんの姿があった。

「冷たい……」

 母さんの頬に触れると、氷のように冷たくなっていた。まるで偽物、作り物のようだ。しかし、肌の質感、産毛の感じがあまりに人間すぎて……

「父さん、母さんは死んじゃったの?」

「…………」

 父さんは何も答えない。口にしたくないのだろう。しかし、それはこれ以上ない無言の肯定だった。

 予感していたことが起き、今の感情は虚無だ。何もない。

 そして、母さんのとなりにもう一つ。

 目を見開いた。歯の根が噛み合わず、過呼吸になる。

 分かっていた。先ほどの母さんの死から予感はしていた。

 だが、何故だろう。

 母さんの死を何とも思わなかったわけじゃない。むしろショックだった。

 朝までいつも通りだったのに……どこで変わってしまったのか……

 記憶を掘り返し、違和感を探す。いつも通りでなかった場所を探す。

 ある。鍵が開いていなかった。ということは、あの時には家に居なくて……もしかしたら、もう、そのときには……

「うああああああああああああ‼ああああああああ‼あーーーーーーーー‼」

 あのときの僕には友達の家で遊ぶことしか頭になかった。目前にニンジンをぶら下げられて走る馬の様だ。

 なんて愚かで浅はかで……

 喉が潰れ、咳き込んで、喉から血が出てきた。それでも叫び足りない。嘆き足りない。

 僕が友達とノウノウと遊んでいる間にカナデと母さんは……

 鍵が開いてないことに気付いてから何時間遊んでいた?なぜ気づかなかった?

 小学四年生でゲームをやりまくっていたがバカじゃない。この後悔が無駄で、もうどうしようもないことはわかっていた。

 だが、それで嘆くな。喚くなと言われて黙れるほど大人でもなかった。

 いつの間にか崩れ落ちていた膝。目の前には床がある。拳を思いきり握り、振りかぶる。

「ああああああああああああ‼」

 思いきり打ち付けて潰れてしまえばいい。そのあと惨めに転げ回ればいい。僕がこんな奇行に走ったところで、母さんが……カナデが帰ってくるわけじゃない。だが、思いきり打ち付けて、痛い目を見たかった。

 だが、その拳は振りかぶったところで止められた。

「やめろ、やめてくれ……」

 顔は見えない。しかし、それは今にも泣きそうな父さんの声だった。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛‼」

 ガサガサになった声で泣き叫ぶことしか出来なかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ