29
岩ノ森光太郎漫画館に到着した。
「……」
無言のまま横目にタイガを見ると、いつも通りのタイガがいた。それを見てホッと安堵の息を漏らす。
「さぁシュンくん!入りますよ!」
こちらの心境など知る由もなく、タイガは能天気な声をかける。
「お、おう」
あまりにいつも通り過ぎて逆にこちらのペースが乱されてしまう。
今この場にいるのは俺とタイガの二人のみ。タイガの父は俺たちを車から降ろすと、何か要件があるとかでどこかに行ってしまった。
要件が終わったらすぐ戻るから昼飯はまだ食うなと釘を刺された。どうやら一緒に食べたいらしい。
いつもと変わらないハズなのに妙な緊張感がある。理由は明確だ。
車の中で俺が聞いた謎の逆鱗、その不安要素が未だ頭から離れないことにある。タイガと二人になったからといってその不安は拭えない。
タイガの父がいないことで逆に先ほどのことが聞きやすくなってしまった。
『そのことは後で話します』タイガはそう言った。そのことが気になる。つまりタイガが牙狼タイガーに熱中する理由についての話が後でされるということだ。
確かに気になる。気になるが、聞くのが怖くもある。妙に言葉を詰まらせた武田親子を見ると言及が怖い。
あいつと一緒に行動しだしてからまだあまり月日が経っているわけじゃないが、それでも伝わってくる異常なまでの牙狼タイガーへの執着。その始まりがなんだったのか、どうして話すことを躊躇ったのか。
「シュンくん?」
「え、あぁ、すまん」
いつの間にか足を止めてしまっていた。そんな俺を不思議がり、タイガが顔を覗かせる。
「車にでも酔いましたか?父さんの運転荒かったですし」
「いや、なんでもないんだ」
まさか何の脈絡もなくそんな気まずいことを聞けるわけもなく一旦話を逸らす。
「そう、ですか。ならいいんですけど」
歯切れ悪くタイガが納得する。
「そういえばさっきの、えと、僕がどうして牙狼タイガーを好きになったかっていうアレなんですけど……」
入場するとすぐにタイガが話を切り出した。俺があんなに躊躇ったというのに本人は意外とあっさり話し始めるものだ。
「まぁ歩きながら話しますよ。さ、行きましょ」
そう言って馴れた足取りで進むタイガの後ろを追いかける。
「お、おう」
説明されるのはいいが、俺は岩ノ森光太郎漫画館の展示を楽しむことができるのか?
そんな疑問はあったが、今は目先の牙狼タイガーよりもっと目先のタイガのことなどで気にしないことにしておく。




