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「いくらイケメンだからって近すぎだ!」
「あ、すいません。つい、熱が入ってしまって」
タイガは恥ずかしそうに頭を掻きながらそう言った。
「牙狼タイガーはもう何年も見てねぇよ」
「そうなんですか……」
俺の発言にタイガは少しだけ元気を失ったように見える。が、目前のイケメンに励ましの言葉をかける前に聞くべきことは聞かねばなるまい。
「さっき、階段でタイガーキックとかって言ってたよな。なんだ、それは俺がソッカーの怪人にでも見えたってことか?」
「いや、えっと……そういうわけじゃなくて……」
タイガはどう返答するべきか迷っているように見える。
どうでもいいかも知れないが、人が冗談で言ったことくらい否定してほしい。
これではまるで俺がソッカーの怪人に見えるみたいじゃないか!
「土日ってあまり人いないじゃないですか……外だと部活の人がいますけど校舎内なら、あんまり人がいないんで……タイガーキックでもマネしてみようかなぁ……って思ってたらあなたに当たっちゃって……」
確かにこの学校は部活がある人か、俺みたいに塾に通っていない受験生くらいしかいない。にしても、階段でタイガーキックというのはいかがなものだろうか。
このタイガという男はイケメンで高身長で勉強も出来て(以下略)な人間のはずだろ?
こいつと話し始めてまだ二十分も経っていないが……
なぜだろう……いや、疑問に思うとこでもない。これは直感。生き物の本能ってやつだ。それが俺に訴えかけてくる。
『こいつには関わらない方がいい!」
「あの!このことを秘密にしてもらうことは出来ないでしょうか?無理は承知です!医療費なんかは払いますから!」
再び土下座をして、そう言ってくる彼を見ているとこっちがまるで借金の取り立てをしているような罪悪感に駆られてくる。
「はぁ」
別に頭が痛むわけじゃない。蹴られたところも問題なさそうだ。何か問題があれば医療費も出すと言っているし、そんな騒ぎ立てることでもないだろう。
「わかった。構わないよ、それで」
するとタイガは表情を明るくした。こいつは何かあると顔に出るタイプなんだろう。
「あの、そういえばお名前は……?あ、僕は三年一組の武田大牙と言います」
有名人の彼の名前を俺は勝手に呼んでいたが、自分の自己紹介がまだだった。
「俺は中西俊太郎。クラスは三年二組だ」
「隣のクラスなんですね、中西さんは」
「なぁタイガ」
「はい?」
「俺はお前のことを呼び捨てにしてるんだ。俺も呼び捨てで構わない」
「あ、そうですね。でも僕、人のこと呼び捨てにするの苦手で……」
無理強いはよくないが、このままでは俺が嫌なのでタイガに一つ提案する。
「じゃあ『シュン』って呼べよ。周りの友達なんかはそう呼ばれてるんだ。それでどうだ?」
「とも……だち。はい!よろしくお願いします!シュンくん‼︎」
結果、敬語とくん付けはそのままだった。まぁさん付けよりマシだろう。
クラスも違うし、趣味も違う。タイガとの接点なんてあんまりないし、もつきっと関わることなんてないだろう……って思ってたんだがなぁ。