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「姉ちゃん、姉ちゃんってば!」
目の前を無言でスタスタ歩く姉の千鶴の背中を追う。
シュンさん達と別れてからもう十分くらい経つのだが、姉はずっと黙ったままだ。
「はぁ……」
あまりに恋する乙女な姉にため息が出る。
そんなに後悔するのに感情的になってあんなに強い言葉をぶつけるとは、何と言うか、可哀想というか哀れと言うか……
このまま沈黙を貫かれたまま家まで帰るのは気まずいし、面倒だし、何よりいつまでも乙女のような姉を見続けるのは普通に気持ちが悪い。ここは助け船を出してやることにしよう。
「シュンさんと連絡先交換したんでしょ?なら、今日早速謝罪のメールが送れるね」
半分本音だが、これだけ好きな人に正直になれない姉に対して半分冗談だ。
僕の言葉に反応して姉の動きが停止する。顎に手を当て、物思いに耽っているという感じだ。
確かにって雰囲気出してんじゃねぇよ。
「はぁ」
いつもは厳格な姉なのに……恋は盲目ということなのか、恋の魔法ってやつなのか。
いつもと違う姉を見ているとため息が止まらない。
「ほら、もういいからさっさと歩きなよ」
「わ、わわわ!」
後ろから背中を押し、帰路も恋も停滞状態な姉を無理矢理進める。
「まったく……」
この状態異常の姉を一人にしておいたら本当に事故にでも会うんじゃないか?当分は親友の幸花さんと一緒に帰ってくれることを願うことにしよう。
「なんでこんな調子でシュンさんにバレてないんだ?まぁ、あの人も鈍そうだからなぁ……」
姉のあの反応を見る限り素直になれていないのだろう。というか、素直になれないからと言って思い人にビンタするのはいかがなものか。好かれる前に嫌われないことを適当に祈ってやることにしよう。
この二人ってどうなるんだろう……
個人的な好奇心はあるものの、面倒くさいという言葉が頭を撃ち抜く。
「あーもう!大丈夫かなぁ!」
いきなり姉が声を上げる。情緒不安定なのかな?
「なにさ、どうしたのさ?」
すると姉はこちらに顔を向けずにスマホを差し出してくる。
「これどう思う?」
自分の赤面を見られたくないのはわかるが、その動作で赤面していることは丸わかりなので若干気持ち悪い。
姉に差し出されたスマホを無心に眺めるとシュンさんとのトーク画面に送信前の文章があった。
「うわ……」
やっぱりと思ったが、姉のこんなトーク画面見たくなかったという言葉がいの一番に飛んできた。
「はぁ」
少し悪いと思いながらも、勝手に修正を加え、次に『どうしよう、送ろうかなぁ』と来るのが想定できたので勝手に送信ボタンを押す。
「あ、何送ってるの⁉」
僕が送った内容はこうだ。
『今日はありがとうございます。あと、すいませんでした……いきなりビンタしてしまって……』
修正前のメッセージは人様にお見せできたものじゃないので省略だ。
姉にスマホを返し、今度は僕が先行する。
状態異常がある程度解除されたような姉が、急いで横に追いつく。
今まで浮いた話の一つも聞いたことがない姉はシュンさんにいつ惚れたのだろうか?
疑問はあるが、姉に聞いても……答えてくれそうだが、弟的にキツイものがあるので今日はやめておくことにしよう。
それに大体想像がつく。姉の状態が変化したのは一度はぐれてからだ。
ならば、まぁその間に何かあったのだろう。気になるが、知りたいとは思えないかな。




