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「だぁ!もう!」
背後からは未だに牙狼タイガーヴァンプについての熱弁が続いている。
一応聞いてだけいる。忘れていたがタイガは頭がいい。先ほどからヴァンプの要点要点をまとめて話し、それでいてストーリーの重要な部分を話さない。今からヴァンプを見ようかなと考えている人に対しても優しい説明だ。
「へぇ、なるほど、そうなんですか……」
千鶴は興味を示している。または首を縦に振るだけの肉壁になっている。
俺は後者であったが、それはあの時代に牙狼タイガーについて興味がなかったが故だ。しかし、今の千鶴には興味を持つ『俺』という理由がある。傲慢だろうか?
「で、シュンくん大好きな蒼井剣矢がですね」
「あぁ!そうだな!」
先ほどからタイガは蒼井剣矢の話が出るたびに「シュンくんが好きな」とか「シュンくん溺愛な」とか「シュンくんLOVEな」とかいらないことをつけ足している。
そいえばタイガはあんまり他の人に牙狼タイガー好きを公言してこなかったが、千鶴は牙狼タイガーショーにいたから諦めているのだろうか?
「あ、シュンく~ん!」
目前で手を振って俺を呼ぶ天使は吉田さんである。
後ろには京汰、おまけで明人と弘樹もついている。
京汰は俺の後ろにいる千鶴を見つけると、パタパタと走って来る。
「おねえちゃん!一体今までどこ行ってたの!」
「うぐ……」
小学生に怒られる高校生である。
だが、千鶴本人もぐうの音も出ないだろう。
「まぁまぁ京汰くん」
ぷんすか怒る京汰の頭を吉田さんが撫でて怒りを鎮めようとする。羨ましい……じゃない。間違えた。
「本当にみなさん、ご迷惑おかけしました。ッヒ!」
礼をし、頭を上げた瞬間に小さな悲鳴を上げる。
何があるのかと千鶴の視線の先を見て納得する。そこにいたのは明人と弘樹だ。
電話で弘樹からなんとなく聞いているが、一悶着あったらしい。
忘れていたが、千鶴は明人、弘樹と俺が関係することを知らない。
俺は黙って千鶴の肩に手を置く。
「大丈夫だ。取って食いはしないって……多分」
多分の言葉に千鶴はギョッと振り向く。
現実で取って食うとかいうセリフを言う日が来るとは思ってはいなかったが、千鶴驚愕の顔を見れて俺個人は満足である。
「さっきはすいませんでした……驚かせるつもりはなかったんだけど……」
弘樹の控えめな物言いに怖い人ではないとわかったのか、警戒心を解いた解いたようだ。
「こちらこそすいません。私の早とちりで……」
「アハハ、あんな感じで来られたら誰だって勘違い……」
明人はそこまで言うと急に悪寒を感じたようにブルった。
見てみると明人の後ろには人を一人、二人殺していそうな顔の弘樹がいた。
「と、とりあえずだ。無事に京汰と千鶴が会えて何よりだってことで」
話を無理矢理締めて気まずい空気に終止符を打つ。
すると、閉園を迎えたらしいペニーランド内のアナウンスが鳴り響く。
帰宅の時間らしい。




