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「いないなぁ」
園内を適当に歩き始めて十数分が経過した。あまりの収穫のなさに隣を歩いている弘樹がぼやく。
「そりゃあ人も多いし、俺たちが探してるのはたった一人の女の子だからな」
ベンチを見ても、アトラクションを見ても、千鶴らしき影は見つからない。
「でも珍しいよな?」
「今どきおさげの眼鏡っ娘がか?」
「違ぇよ、まぁそれはそれで珍しいけどな」
じゃあ何が?と聞こうとしたところで弘樹は急にどこかを指さした。
「おいシュン!あれ見てみろよ」
楽しそうにそう言う弘樹の指の先、そこにいるのは制服の女子と社会人くらいの男の二人組。
「あれがパパ活ってやつかな?」
「どうだろうな、年の差カップルじゃないか?」
妙にテンションの高い弘樹に嘆息し、千鶴を探す。
「俺ちょっと横通り過ぎてきて……」
「やめとけ」
弘樹の襟をつかみ、悪ふざけを辞めさせる。
この男は複数の声を聴き分けるという特殊能力?みたいなことが出来る。言ってしまえば人よりちょっとばかり耳が優秀なのだ。
そんな男が気になる人間の近くを通りたいだなんて盗聴するに決まっている。
「なぁ、行かねぇから離してくんない?」
「お前だったら逃げかねぇからな」
「信用ねえの」
むしろ信用しているから手を離さないのだ。
弘樹は「思い立ったが吉日」というのをモットーに生きている。だから人助けだろうと悪ふざけだろうと考えついたらやる。それが長年一緒にいる人間が思う弘樹だ。
「あ、あのカップル今日はホテルだってさイッテ!」
通り過ぎたカップルの夜の営みについて告げられ、ついつい頭にチョップを入れてしまった。
話を逸らそうと先ほど弘樹が言いかけたことについて言及する。
「そいえば、お前さっき何言いかけたんだ?」
「ん?あぁ、シュンが珍しく女の子を下の名前で呼ぶもんだから」
「そうか?」
とは言うが、自覚はある。基本女子は下の名前で呼ばないし、もし苗字呼びが嫌ならばニックネームをつけることにしている。
当たり前だが、俺が長い付き合いと感じる分、こいつも俺とは長い付き合いと感じているのだろう。
「まぁ年下だからさん付けするのも癪だし、苗字呼びするにはなんか近すぎてな」
「年下ってことは一年生か?」
「ん?いや知らないけど、二年生はどうした?」
「こう言っちゃ悪いが自動削除だ」
弘樹の発言に渋々納得する。
「そりゃあ、あんなことがあったんだ。近づこうなんて物好きそうそういねぇよ」
そう言うと弘樹は黙った。
人の黒歴史だ。いじりにくいのはもちろん。デリケートな問題だ。
「千鶴ちゃんがあのこと知ったら……」
「知らねぇよ」
食い気味にそう答えた。
「もし、知ったとしてそれで俺が嫌われるなんてそんなの去年死ぬほど見せられた。離れてく人間との関係性なんてそんなもんだ。千鶴とは会って日も浅いし、学校なんかで話してたら二、三年あたりが勝手に告げ口するかもしれない。それで離れてったときに……傷つくのが俺だけなら何にも言わねぇよ」
「ずいぶんかっこいいこというじゃん」
「うるせえ、バカ!」
茶化してケラケラ笑う弘樹を照れ隠しで貶した。




