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「あの三組の人たちは教室にいたよね?」
「なんで呼ばれてないんだろう」
「そいえば三組の竹内って教頭の息子だよな」
「じゃあそれでお咎めなし?」
鈴木さんの下に情報が集まる中、その声は点こそ鈴木さんに向いているもベクトルは様々だ。
当の本人は耳に手を当て俯いている。
僕も一応聞いてはいるが、部分的にしか聞き取れていない。こんな大勢の意見を聞き取るなど、聖徳太子でもない限り無理だろう。
様子を見守っていると鈴木さんが不意に手を前に出し、取り巻いていた人々が口を閉ざす。
「オーケー、大体わかった。みんなありがとう」
そう言うと囲んでいた人々は思い思いの返事をして解散していった。
「よし、んじゃあこの件の概要について説明すっかな」
後ろに立っていた僕の方に振り返つ鈴木さんに唖然となった。
「え、え?えぇ?」
驚きに声が出ず、息に音を乗せてみましたみたいな声しか出ない。
「お、どうした?」
何食わぬ顔でそう言ってくる鈴木さんに疑問をぶつける。
「あ、あの……聞き取れたんですか?」
「何が?」
「え、だからさっきのって……え?」
何言ってるんだこいつみたいな目で見てくる鈴木さんに質問を諦める。
「なんでもないです」
「そっか、んじゃあ……」
説明を開始しようとする鈴木さんにまたも待ったをかける。
「すいません、移動しながらお願いします」
「それもそうだな」
教室に取りに行きたいものがあると伝え、教室経由で校長室へ向かう。
「ことの発端はさっき説明したとおりだ。騎馬戦でタイガを落としたやつとシュンがケンカしたんだ。んで、四人をシュンがボコって問題になった」
「でも、ケンカでシュンくんだけが呼び出されるのは……」
「あぁ、おかしいよな。由緒正しき喧嘩両成敗のお言葉をこの学校の教師陣は知らないのかもな」
「あはは」
「冗談だよ」
「わ、わかってますよ」
人とあまり話してこなかった弊害がこんなところで現れるとは思ってもいなかった。
そんな僕のことなど気にも留めず、鈴木くんは本題に話を進める。
「んでだ。三組の連中だが……」
そこで先ほど二組の人たちの会話の中で一際異彩を放っていたものが頭を過る。
「教頭の息子って……」
「あぁ、それが多分こっちの切り札だ」
ジョーカーと称された三組の竹内少年。彼らは学校でも有名な不良だ。
我が校には地毛じゃなければならないだとか、ピアスがダメだとか、改造制服がダメだとか色々あるのだが、彼らはとりあえず今あげた三つは守っていない。
今までは不良が怖くて先生達が何も言えないだけだと思っていたが……
「多分、竹内が教頭の息子って話はかなり有力だと思う。だからこそ、土日のうちに事情を聴き終えたんだろ」
「でもそれじゃあ……」
「まぁ、偏った意見になるだろうし、シュンには不利なもんになるだろうな」
そこまで話したところで鈴木さんの推理ショーは終了したらしく、丁度そこで校長室にたどり着いた。
「ありがとうございました。後は任せてください」
「一人で大丈夫か?」
そう聞かれて、校長室を見る。
そんなはずないのに扉からは威圧感を感じる。手は震えている。膝は笑っている。内臓は誰かに揺すられているかのような感覚に襲われている。
「だ、大丈夫です。先に戻っててください」
「そっか、頑張れよ」
僕の背中に大きな紅葉を作って、鈴木さんは教室へ戻って行った。
「っよし!」
両頬を叩いて気合を入れ直す。
リュックからいつかシュンくんにドッキリを仕掛けようと思って持ってきていた牙狼タイガーレイワンのお面とボイスチェンジャーを装着。
緊張で冷える手を温めようと手を揉むが効果は薄い。膝は大爆笑している。内臓はおかしなことになっているし、歯は噛みしめていないと噛み合わない。
「ふぅ」
息を吐き、肺の中身を空にする。
自身の状態異常の回復を待ちたいところだが、扉の向こうからうっすら聞こえてくる声から察するにあまり時間をとってはいられない。
扉に手をかけ、脳が、意識が、感覚が、状況を理解して焦りだす前に開ける。
「シュンくんを助けられるのはただ一人……」
牙狼タイガーレイワンの台詞……それを途中まで言うと、周りの視線が集まって高揚した。
「僕です‼」
唖然としながら僕を見る一同をお面越しに眺めていた。




