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校長室のドアを乱暴に開いて入ってきたのは牙狼タイガーレイワンのお面をつけた制服の男。
「シュンくんを助けられるのはただ一人、僕です‼」
声は変声機で変えているらしく、身代金を要求する誘拐犯のような声でお面男は宣言した。
「誰だ⁉」
そんなどこかの誰かさんが喜びそうな、悪役のテンプレートみたいなみたいな台詞を教頭が吐くとお面男は声を変えているにも関わらず、中の人がバレそうな勢いで話し出す。
「え、僕?僕ですか?えへへ、僕は通りすがりの牙狼タイガーです」
正体隠す気あるのか少々疑問に思うが、今のところこの自称正体不明の牙狼タイガーの正体に気が付いたのは俺と恐らく井上先生と関先生のみ。教頭と校長は未だに気付いていないように見える。日々授業しているかどうかの違いが今こんなところで出るとは思ってもいなかった。
「まぁ、僕のことはどうだって良いんですよ」
一度咳払いしてからお面男が話を変える。
「話は聞かせてもらいました」
ドアにへばりついて聞き耳立てていたのか。不審な行動を匂わせながら話を続ける。
「先ほどから聞いていれば教頭先生はまるで誰かに聞いたかのような言い様ですね」
ゆっくりと教頭に近付き、息がかかるような距離まで顔を近づける。
お面を被り、声を変えているという謎の威圧感に教頭が委縮した。
「っひ……!」
細い悲鳴を上がるもお面男はさらに距離を詰め
「一つ言いたいことがあります」
そう言って肩をつかみ、額を合わせる。
「あなたはシュンくんの行動を見ていたんですか?見たにしては井上先生の発言に実感が湧いていなかったみたいですね。まさか、三組の連中の証言だけで決めつけた訳じゃないですよね?でもそれにしてはシュンくんへの発言が随分刺々しかったみたいですけど。一切何の肩入れもなく平等な視点での判断だったのですか?シュンくんを悪者と決めつけ、怪我をさせた方が一方的に悪いだなんて小学生みたいな考え方じゃないですよね?」
そこまで言い終えると、生気を失っていた教頭が顔を赤くしてお面男の体を押しのける。
「何なんだ君は!いきなり入ってきて、面も取らずに一人でずっと一方的に話して!何がしたいんだ⁉」
するとお面男は一度鼻を鳴らした。
「入ったときに言ったじゃないですか。僕はシュンくんを助けに来たって、良いですか?あなたが彼らに肩入れするのなら、僕はシュンくんの味方です」
「それがどうした!そこの奴の処分はもう決まっている。今更覆らない‼」
その発言に沈黙。だがそれは突如として現れた闖入者、お面男によって打ち切られる。
「三組の生徒に竹内って人がいるのをご存じですか?」
「……」
沈黙を肯定と捉えたのかお面男が続ける。
「あれれ?偶然ですね、教頭先生と苗字が一緒だなんて!」
白々しい大根芝居を行いながら、また教頭へ詰め寄る。
「そういえば竹内くんも今回の件に関わってますよね……で、あなたと三組の竹内くんの関係は何ですか?正解は親子でしたー」
最後、低い声でそう告げる。
「親が子を守るのは納得です。親心ってやつでしょ?僕にはまだわかりませんが……まぁでも、僕はあなたを許しませんけどね」
胸ぐらを掴み、教頭を立ち上がらせる。止めに入ろうとする関先生は一瞬躊躇った後、足を止めた。
教頭の頭からずれ落ちたカツラがあまりにも滑稽だ。
「知ってますか?ヒーローは自分のためには怒らないんです。どれだけ馬鹿にされようと、どれだけ殴られようとね。じゃあ、何で怒ると思います?」
問いかけられた本人である教頭は完全にお面男に対して委縮してしまい、声が出ていない。
「友達が馬鹿にされたとき、傷ついたとき、道を踏み外そうとしたときに怒るんです」
お面男は一度息を大きく吸った。
「あなたの一方的な考えで!一人の生徒が犠牲になりかけた‼一体何を考えてるんだ!周りの大人だってそうだ!彼の間違いに誰も気づいていない‼他人に任せて、強い人に乗っかる‼もっとちゃんと真実を追求しろよ!何が彼らは被害者だ、ろくに調べてもないのに決めつけてんじゃねぇよ‼」
ところどころ声量が大きすぎて変声機の拾う範囲をオーバーしたらしく、お面男本人の声が漏れだす。
お面男が手を離すと、腰が抜けた教頭はソファに深く沈んだ。
「ふぅ、以上です。僕はこれで」
「ちょ、君!」
校長がお面男を呼び止めるも、彼は去って行った。




