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普段ジャージな関先生だが、校長室ということもあるのかスーツである。
中に入ると校長に教頭、あと井上先生がいた。
「そちらにお座りください」
促されたソファに座ると、あいさつもそこそこに校長が話を切り出した。
「先日の運動会で俊太郎くんが暴行した件についてなのですが……えー、結論から言わせて頂くと、我々は俊太郎くんを停学にしようと思っています」
停学という処分に周りの先生を見渡すも、誰も反論は無いようだった。
「停学……ですか。この子は何をしたんです?」
「お子さんから聞いてませんか?」
母の疑問に関先生が疑問を重ねる。
「うちの子からはケンカとしか……」
それに反応を見せたのは頭部に若干の違和感がある教頭だ。
「三年三組の男子生徒四人に暴行したんですよ、しかもかなり一方的に」
「暴行……ですか?」
教頭の言葉に母は困惑を隠せていない。
まぁ、それも当然と言えるだろう。教頭の言う暴行と俺の言うケンカとでは意味が異なる。
ケンカとは一般的に争いや諍いのことを意味する言葉だろうが、暴行というのは相手に対する一方的な暴力だ。
確かに俺はヤンキー達を煽ったし、ボコボコにもしたが、彼らだって一応手は出していた。殴りかかって来たし、蹴られそうにもなった。
四対一という構図だけを見れば多勢に無勢、大人数で俺を袋たたきにしようとする悪いヤンキー達なのだが……
「ケンカ……そう言うには酷く一方的なんですよ。彼は無傷なのに三組の生徒たちはボコボコにされている。おかしいとは思いませんか?俊太郎くんの言い分では『ケンカ』なはずなのに被害者側の言い分では『暴行』となる。加害者と被害者、大人はどっちの意見を尊重すると思う?俊太郎くん」
目の前で勝ちを確信したようにニヤけた中年太りのおっさんはどうしても俺を悪者にしたいようだ。俺が何を言っても意見がひっくり返るとは思えないし、聞いてくれるかどうかすら危うい。
おっさんの煽り口調というのはどうしてこうも神経を逆撫でするのだろうか?
生れ落ちて十数年……この世におっさんの煽り口調以上に人の腸を煮えくり返すモノを俺は知らない。
教頭へのヘイトを募らせながらも、しっかりと目を合わせて返答する。
「さぁ、どっちですかね?」
「おい、俊太郎」
見かねた関先生が間に入ろうとするも、関先生の隣で先ほどから肩身の狭い表情をしていた井上先生が挙手した。
「あ、あのぉ……」
「どうしましたか?井上先生」
教頭の威圧的な物言いに一瞬ビクッとしてから続ける。
「私から見てですけど、三組の生徒も俊太郎くんに手を出しているように見えました」
井上先生の鶴の一声……とまではいかないが勇気ある発言はとても意味あるものだった。
俺と三組の生徒達の件が暴行からケンカへと変貌する。
俺の一方的な暴力ならば暴行と扱われても仕方ないが、今の井上先生の証言のおかげで三組の生徒も手を出していたということになったはずだ。
「それは我々に判断できることではないでしょう。本人達は一方的にやられたと言っているのだから、第三者の証言で覆すような真似はできないよ」
「は?」
それでは三組の生徒に『私たちも手を出しました』と言わせなければ俺の停学は揺るがないということじゃないか。
背中を刺されるような痛みを錯覚する沈黙に襲われた。
反論の声は上らない。
「何もないのなら帰りなさい。一週間後にまた学校で」
ふんぞり返る教頭は早くもこの話し合いの幕を下ろそうとする。
「三組の生徒は?」
「あぁ、彼らは被害者ということでお咎めなしだ」
納得がいかないと声を大にして言いたいが、反論できるだけの材料は何もない。
手をこまね、酸素が薄いように感じる。
意識に何かないかと訴えかけるも起死回生の案は浮かばない。
そのとき、ドン!大きな音を立てて校長室の扉が開かれた。




