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「何してたの?」
冷たく怒る声が部屋に響く。
「すいません」
冷たい視線を頭頂部に感じ、正座のまま頭を上げることもできずフローリングと睨めっこする。
もしフローリングに感情があったなら腹抱えて笑っていると保証できるほど、今の俺は酷く怯えた表情をしていることだろう。
「違う、すいませんじゃない。私があんたに求めているのはそんな答えじゃない」
「ごもっともです」
「……で?」
現時刻は六時。親から連絡が入ったのは夕方五時のことだ。
我が母、中西友花は関先生から俺が諸事情により俺が運動会から早抜けしたことを聞いてすぐに電話をかけてきたようだ。
ついでに俺はその時タイガと一緒にゲームセンターでレーシングゲームを楽しんでおり、『誰』というとても大切な情報を見逃して電話にでた俺は『モヤシモヤシ』と、ハイテンションで電話に出た。
その後、スピーカーから怒気のこもった『あ?』という声を聞き取り、脳内の音声認識で『誰』と判別するより早くスマホの画面に表示されている名前を確認。
人間って一瞬でこんなに冷や汗がかけるんだなぁって思いながらスマホを耳に当てなおす。
『今すぐ帰ってこい』という指示に『わかりました』と敬語で了承したときには、俺はタイガに周回差をつけてゴールし、軽快なファンファーレが流れていた。
「誰と、どこで、何をしていたの?こんな時間まで」
フローリングの木目と睨めっこしている俺には母の表情が見えないが、怒っている。十中八九怒っている。むしろ怒っていないと言うのならば、その理由を四百字の原稿用紙にでも書いて説明してほしいところだ。
同年代や担任、赤の他人ならともかく、怒る母に油を注いで着火させる勇気など持ち合わせていない。
「タイガと駅前のゲームセンターで遊んでました」
故に正直に話した。
今の俺に話す以外の選択肢などないし、話したところで起こってしまったことは仕方ない。
すると、母は呆れたように眉間を揉んでから言った。
「んで?アンタは何で運動会で強制退場喰らったわけ?」
そう聞かれ、一度沈黙した。
はて、どう説明するべきか……
先生には蹂躙という不健全で説明不足な言葉を使用したが、母に対しても『ヤンキーを蹂躙した』と、説明すべきだろうか?
そこまで考えたところで詮索を入れてみる。
「えっと、先生はなんて?」
時間稼ぎと情報収集を兼ねた満点回答。
しかし、それに対する母の回答は早かった。
「息子さんに直接聞けってさ、アンタ本当に何したの?」
時間稼ぎにも情報収集にも失敗し、出来るだけオブラートに包んで言おうと努める。
「け、ケンカして……」
「ケンカってアンタ……無傷みたいだけど、前あんなことになったのにまた人に暴力を振るったの?」
母の言葉に含まれた呆れ、不安、心配……それは無傷の俺とは対照的に怪我をしたヤンキーに対するものではない。
過去に負った傷を自ら抉るようなマネをした俺に対する、愛する息子に対するものだ。
一度、下唇を噛んでから母の質問に答える。
「まぁ、色々あってさ……」
せっかく心配してくれたのに、この親不孝はうやむやな答えを返した。
母はそれを聞いて嘆息した。
「その色々っていうのは聞いても教えてくれそうにないわね……仕方ないから、そこは月曜日に先生から直接聞くことにするわ」
「そう、そうしてくれるとありがたい……って今なんて言った?」
そう聞くと母は当然のように
「月曜日、学校に呼び出されてるのよ。だから、先生に直接聞くことにするわ」
「っな……」
立ち上がろうとする両足はしっかりと痺れており、無様にうつ伏せになる。
「さ、夕飯にしましょう。ナギも待たせてるし」
そう言って母は二階へ妹の渚を呼びに行った。
力無く言いながら、痺れが足から去るのを大人しく去った。




