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「ねぇ、あそこにいるのって……」
「あ、そういえば……」
「でも、あの人武田先輩と……」
野次馬が何か言っているが聞こえないフリをする。
時間の経過によって風化していた俺の黒歴史は今のヤンキー達とのケンカに刺激され、蒸し返されてしまったようだ。
現在俺は先生達に取り押さえられ、連行中だ。
なぜなら、先ほどの世紀末ヤンキー四人組を全員揃ってボコボコにしたからだ。
もちろん移動してからレッツバトルなんてことはなく、目と目があったらその場で即座に火蓋が切られた。もちろん人目につくが、そんなことを気に出来るほど先ほどの俺は冷静ではなかった。
だから、何も考えることなく蹂躙した。
「一体何をしたんだよ⁉」
運動会の先生達の溜まり場、通称本部に我が担任である関将司が凄い形相で入ってきた。
「まぁまぁ先生、落ち着いて」
「お前が言うなバカ!だっれのせいでこうなってると思ってんだ……」
そんなやり取りをしていると俺と関先生の間に一人の教師が割って入る。
三年一組担任、井上優美。若くて、美人で、優しくて、大人の魅力のある非の打ち所がない先生だ。
「まぁまぁ先生、落ち着いてください」
井上先生のおかげでようやく怒りを収めた関先生は俺に事情を聞く気になったようだ。
「はぁ、んで?一体なにしたのさ……」
「ヤンキーを蹂躙しました」
「は?」
「だから、ヤンキーを蹂躙しました」
「うん、一言一句逃さずに聞き取れてる」
信じられないとばかりに井上先生に助けを求めようと視線を送る。
「まぁ、大体……」
井上先生の肯定に首をガクンと落とす。
「お前ってやつは……」
「まぁ聞いてください、私が見るにかなり一方的でしたがケンカしてただけですよ」
井上先生が擁護するも聞く耳を持とうとしない。
「なんでこんなことしたんだ?」
関先生は先ほどとは違う静かな声で質問した。釣られて俺も先ほどのおちゃらけた感じとは違う真剣な声で話す。
「なんかムシャクシャして……」
そんな万引き犯のような言い訳だが、間違いではない。
俺はあのヤンキー達にイラついて、冷静さを欠いていた。
俺の発言に関先生は自身の前髪を掻き上げた。
「もういい、お前今日は帰れ……話はまた今度だ」
呆れ、怒り、失望……様々な感情がこもった言葉を突き付けられ、背筋が凍り付く感覚を覚えた。
「わかりました」
それだけ告げて去ろうとする俺の背に声がかけられた。
「あの、中西君。去年のことも含めて、君は勘違いされることが多いと思うけど……でも、何かあったら言ってね」
足を止め、井上先生の言葉に耳を傾ける。
その言葉を噛みしめ、飲み込むが振り向くことはしなかった。
「ありがとうございます。でも大丈夫です」
それだけ言って、その場を後にした。




