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ドッジボールでタイガと対決するからといって何かこれといって特殊なイベントが発生することはなかった。
我が3年2組は予選の全試合において圧倒的な勝利を飾った。俺はどうやら弘樹という男の統率力を甘く見ていたことを小学校からという長い付き合いながら初めて知った。
3年2組と他のクラスの大きな違いは団結力だ。
タイガの3年1組も団結しているように見えたが、それは見掛け倒しに過ぎなかった。
一見全員で勝利を目指すチームだが、その全貌は熱くなって一人テンションの高いタイガと、そのタイガに振り返ってもらおうとキャーキャー言いながら張り切る女子と、その女子に振り返ってもらおうと頑張る男子という如何にも高校生みたいな構図だ。
それではMr.生ける太陽こと弘樹には及ばない。タイガは人気でクラスを統率するが、弘樹は人気ではなくカリスマ性でクラスを統率する。
明るい性格とクラスメイト全員からの圧倒的な信頼のなせる成せる技だ。
なぜ今まで彼女の一人もできなかったのか甚だ疑問である。
ドッジボールを終え、俺はまたブルーシートへ戻ってきた。
理由としては単純明快。あの天使がまだ佇んでいるかも知れないという淡い希望が故だ。
やっぱりというか何というか、そこにもう吉田さんはいなかった。
「はぁ」
当たり前だが、現実を見て嘆息した。
「や、幸せが逃げちゃうゾ?」
不意打ちに目の前がクラっとする。
「私がいなくてガッカリした?」
いたずらに笑う彼女に『そりゃあ、もちろん』と言えたなら、どれだけよかっただろう。
結局、ニヤつきそうになる顔をなんとか耐え、気持ちとは裏腹に言った。
「まだ一種目しかやってないのに疲れたなぁってさ。変わってくれない?」
そう言って笑うと手をブンブン振って反論した。かわいい。
「ムリムリ、私なんてシュンくんの足元にも及ばないもん!」
「ははは、確かにね」
「もう!そこは否定するとこでしょ!」
リスのように頬を膨らませる吉田さんがあまりに可愛くて、変な気でも起こしてしまいそうだ。
「吉田さん、そういえばさっき……」
何か言おうとしてなかった?と、聞こうと思っていたのだが、
「シュンく~ん!」
とてもいい笑顔で俺を呼んでいるであろう、腹立たしいまでの邪魔者は……俺のあだ名をここまでハイテンションで呼ぶ男が二人もいてたまるか。
振り返らずとも正体はわかるが、一応振り返る。
ここまできて無視じゃ、他はともかく吉田さんの評価が気になる。
「なんだよ、タイガ?」
そこにいたのは間違いなく紛れもなく純心純粋100%タイガだ。
タイガは何の悪気もないであろう無邪気な笑顔で俺を見てくる。
「さっきのドッジボール凄かったですね!流石、鈴木さんとシュンくんがいるだけのことはありますね!特にあのオーバーヘッドキックのような……」
「あぁ、そうだな」
適当な受け答えをしていると、先ほどまで近くにいた吉田さんがいないことに気が付いた。
「あれ?吉田さんは……」
「吉田さんって、さっきの女の子ですか?それならあっちへ走って行きましたよ」
タイガの指さす方向を見ると、そこには3年2組の面々が何やらざわざわやっている。
また聞きそびれたことに嘆息する。
「もしかして僕、何か邪魔しちゃいましたか?」
「あぁ、そうだな」
溜め息混じりにそう答えた。




