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タイガルフ  作者: 波左間たかさ
4月
10/81

9

 4月の行事と言えば入学式と運動会くらいしかないと思うのは俺だけだろうか。

 実際、我が校では4月に運動会が行われる。

 出来立てほやほやのクラスの親密度を高めるような狙いがあるのだろう。

 だが、高校生ともなると

「たり~なぁ」

「休めばよかった」

 少し肌寒い気候の中、言葉とは裏腹に半そで短パンの名も知れぬどこかの世紀末漫画のような恰好をした3年3組の有象無象が話しているのが聞こえた。

 上下長袖ジャージだが、その意見には大いに賛成だ。

「頑張るぞお!」

 一人の掛け声をきっかけにいくつもの雄叫びが円陣の中に響き渡った。

 3年2組は一致団結の全身全霊で総合優勝を狙っている。


 一週間前の7限目HR

「運動会……勝つぞ!」

「おぉ!」

 ウチのクラスは盛り上がっていた。

 原因は我が幼馴染である弘樹だ。彼はこういったお祭り騒ぎ的なことが大好きなのである。

 小学校から数えて、もう何度目かの既視感を感じながら、馴れっこなので一丁前に声だけ出しておく。


 放課後

「来週の運動会楽しみですね!」

 俺の隣には最近謎の親交があるタイガが騒いでいた。

「シュンくんのクラスには鈴木さんがいますし、手強そうです」

「意外だな、タイガが運動会でそんな熱くなるなんて」

 意外だけで言ったら彼のイメージは話すようになってからガランと変わったのだが……

「そうですか?運動会は青春のマッサージだって『牙狼タイガースイッチ』の五月弦之介も言ってましたし」

 なるほど牙狼タイガーに影響されたなら、意外でもないな。

「今年は絶対に優勝します!」


 次の日、運動会6日前

 俺は昨日のタイガとの会話を世間話程度に弘樹に話した。(もちろん、牙狼タイガーのことはハブいた)

「なに⁉︎クッソォ、武田タイガめ……顔だけでなく行事でまで負けてたまるか‼︎」

 イスから勢いよく立ち上がり、

「おい、みんな!高校最後の運動会、絶対に勝とう!」

 さすがムードメーカーというべきか、弘樹が脈絡もなく言ったその発言は何の変哲もない休み時間のはずなのに『おう!』『がんばろうね!』などの力強い言葉が返ってきた。


 そのテンションが下がることなく突き進み、運動会当日である今日に至る。


「はぁ……」

 盛り上がる弘樹に比べ、歳をとったせいかいつの間にか彼に何か言われても特に盛り上がることがなくなった俺は円陣が終わると一人ブルーシートに座っていた。

「あれ、ボッチなの?」

 一人であの雲は何に似てるなとか、帽子を持って来ればよかったとか、ゲームしたいとか、青い空を見上げながら考えていた俺の目の前に美しい天使が現れた。

「やはり、寿命だったか……」

 そう言って静かに目を閉じると両肩を掴まれ、グラグラと揺らされた。

「寝ないで〜お話ししようよ〜」

 目を開き、目の前の吉田さんが驚くほど近距離にいることに気が付いた。

「わ、わわわわわ……」

 驚きのあまり後ろにいった体重を支えられなくなり、倒れた。

「大丈夫?」

「あぁ、まぁ」

 差し出された手を掴み、吉田さんの手は温くて柔らかいなとか思いながら体制を直した。

 すると、吉田さんも横に腰を下ろした。

「みんなのところに行かないの?」

「こっちのセリフだよ」

 そう言い返すと吉田さんはイタズラに笑った。かわいい。

「私はいいの、シュンくんが心配で来たんだから」

 あまり無い胸を張ってそう言った。

 恐らく、先ほどのことについて聞きに来たのだろう。別に何か理由があるわけじゃないから反応に困る。

「俺は吉田さんと違って運動できるからさ、いっぱい種目出るじゃん?だから体力を温存してるんだよ」

「は?私だって運動できないわけじゃないもん」

「はいはい、そうだね」

 二人で笑い合いながら、しばらく空を見上げた。幸せだ。

「シュンくん……」

「ん?」

 先ほどとは明らかに違う吉田さんのテンションにドキッとする。

「あのね、私……」

 そこまで吉田さんが言ったところで邪魔者が入った。

「シュン!今から競技だぞー‼︎」

 遠くから聞こえる声に手を挙げて応じる。

「あ、頑張ってねシュンくん!」

「あぁ、うん」

 先ほどの『あのね、私……』の続きがとても気になるが、もう先ほどまでのどこか恥じらう吉田さんがいなくなっていることに気付き、続きを聞くことを断念した。


「邪魔しちゃったみたいだな痛い!」

 そう言ってニマニマ笑う弘樹のケツを無言で蹴った。

「んで、一種目はなんだ?」

「ドッジボールだよ」

 尻を気にしながらそう言った。

 3年間も通ったらもう慣れたもんだが、一年生の頃は運動会にドッジボールがある違和感は凄かった。

 小学生からの人気者であるドッジボールが嫌いなわけじゃない。ただ、ドッジボールをメインに球技大会でもやればいいんじゃないかと思わずにいられない。

「相手は?」

「3年1組……武田大牙のいるクラスだ」

 ドッジボールは確か4チームによる総当たり戦をした後、一位のチームでトーナメントを行う。

 タイガのチームとはトーナメントまで上がれば対戦することもあると思っていたのだが、まさかこんなに早く当たるとは……

「まさか手加減なんてしないよな?」

 そう言われ溜息をつく。

「冗談は行事毎に熱くなるそのキャラだけにしとけよ」

「おい、さすがの俺でも傷つくぞ?」

 傷ついたら唾でもつけて治すのが弘樹という男だ。俺は気にせず足早にコートへ向かった。


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