プロローグ
尊敬している人はいるか?
そんな風に聞かれたら一般に人はどう答えるのだろうか?
事実、就職の集団面接を受けている俺の左四人は全員で口合わせをしてきたのでは?と、疑いたくなるほど全員一致で野口英世と答えていた。
別に千円札となった野口さんを否定するわけではないが、彼らは野口英世という男が金遣いの荒い人間であったという事実をこの二十数年の人生の中で一度も耳にしてこなかったのだろうか?
それとも、それでもなお野口英世を推す何かが存在したのだろうか?
きっと、彼らの先祖は梅毒にさぞかし苦しめられたのだろう。
面接官が四人目の野口英世に対する熱弁を聴き終えた後、お前も野口英世の話をするのか?と聞きたげな顔でこちらを向き、
「では、次の方」
そう促され尊敬している人を思い浮かべる。
大学の仲間との面接練習では俺も偉人の尊敬しているところや、その人の業績なんかを長々と話し、その後で自分のことを少しばかり話すつもりだった。
だがどうしてだろう。緊張と四連続続いた野口英世トークのせいで俺の脳みそはやられていたらしい。
最後俺一人まで来た偉人ビンゴに俺は待ったをかけた。
「私の尊敬する人は……」
言葉を詰まらせた。当たり前だ、ぶっつけ本番で言うことを変えるなんてノー勉で試験に臨むようなものだろう。
「決して歴史に名を残した偉人ではないのですが……」
俺が話したのは高校最後の年に出会った生涯の親友の話だった。
ハタ迷惑だが正義感が強く、敵わないとわかっていても飛び出していく。
そんな物語の主人公のような俺の親友……