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一話

 高校三年生、つまり受験の時期になるとたいていの友達と同じように塾や予備校に通うようになった。

 お金を出してくれている親には申し訳ないけれど僕は別に必要ないと思っていたけれども日本人気質というのだろうか、皆が行くから僕も行こうという気持ちで通わせてもらっている。

 まともな将来像なんて考えておらず、

大学に行って就職する。

 こんな漠然とした想像だけで、どこで何をするとかの具体性は何もなかった。


 その癖に、高卒で働く人間や専門にはなりたくないといった気持ちだけはあるのだ。

 僕と玲奈は同じ予備校に通っていてある程度の科目は同じなので帰る時間が一緒でよく二人で並んで帰る。

 ある時その帰り道にある僕たちと小中学校が同じだった友達に会った。

 あちらもこちらに気づいたようで笑顔で歩み寄ってきた。


「久しぶりじゃん!お前らまだ付き合ってたんだ」

「うん久しぶりだ」


この時から玲奈は何も答えなかったのを覚えている。

彼とは全部僕が話したはずだ。


「今からどっか行くん?」

「ううん、家に帰るだけだよ、そっちは?」

「俺も友達の家でさっきまで遊んでてさその帰り」


 僕はこの言葉に少しだけ驚いていた。

 高校三年生になって部活も引退した今、遊ぶことなんて全くなかったからだ。

 というか遊んでる場合ではないという雰囲気が僕らの間には漂っていた。

 そのためたまの休憩でさえ悪いことをしているような気がしてどこか落ち着かないのが当時の僕だった。

 

「そうだ、今から三人で遊ぼうぜ」


 だから彼のこの誘いはすぐに断った。


「ごめん、僕ら勉強しないといけないから」


 勝手に玲奈の分も断ってしまったが彼女が行くとは思えなかった。


「そっか、お前ら大学行くのか。

勉強大変だろ?」

 

 その時の彼の顔はなんだか偉い人を見るような、寂しがるようなそんな顔だったのを覚えている。

 

「まあまあ大変かな」

「そっか、頑張れよ。

邪魔しちゃ悪いから帰るわ」

「悪いね」

「いいよ別に、あっ!合格したら教えてな!」


 そう言って彼は僕たちに背を向け去っていった。

 久々に会った友達が去っていくというのに当時の僕はそのことに全く寂しさを感じなかった。

 結局その後、僕が彼に合格を告げることは無かった。


 去っていく背中が完全に見えなくなって僕たちも歩き始めて少ししたくらいで玲奈はその重い口を開けた。


「彼、就職するのね」

「みたいだね」

「……こんなこと言ったらいけないけど私彼みたいな人嫌いだわ」

「それはどうして?」


 好きではないにしても嫌いか。


「勉強から逃げてしたいことだけして何かの資格があるわけでもない。

そんな人が入れる会社に勤めて底辺で生きていくのよ」

「……でもそれが彼らの選んだ道なんだから僕たちがとやかく言うことじゃないだろ?」


「ええ、本人たちもそう思っていればね。

自分の行動の結果底辺で甘んじているくせに社会や政府のせいにして仲間たちで傷をなめあって努力する人を馬鹿にして自分を貫くことと他人に迷惑をかけることを勘違いしてる人間」

「確かに玲奈の性格だと受け入れがたいかもね」

「あれ?じゃあ裕也は受け入れられるのかしら?」

「いや、僕も無理かな」

「でしょ?」


 そりゃそんな人間と仲良くなりたいかと聞かれたら誰だって嫌と答えるに決まってると思う。

 とか思っている僕だって玲奈の言っていること本当はわかってる。

 大体の人間が、底辺よどうか僕らに関係ないとこで生きてくれと願っていることを。

 大体の中には僕も入る。


「ねぇ」

「ん?」

「もし裕也がそういう人に困らされてたら助けてあげようか?」

「そりゃぜひ」

「まかせなさい」


 心強い約束をしてもらったけど本来は男である僕が言わないといけないセリフだよな、いくらヒーロごっこは卒業したとはいえそれくらいのかっこつけはさせて欲しい。

 だから僕も約束することにした。


「もし玲奈がそういうことで困ってたら僕が守るよ」

「まかしたわ」


 その日はそんな約束をして帰った。



 朝起きて制服を着ようとして自分が高校を卒業したことを思い出した。

 昨日はその打ち上げで夜通し騒いだというのによく忘れられるものだと自分でも呆れてしまう。

 あの日からすでに半年は立っていた。

 僕と玲奈は二人ともすでに受験を終えて後は合否の発表を待つだけだ。

 だからどうしても、どこかそわそわしたような浮かれた気分になってしまって二度寝するとはいかず普段着に着替え階段を駆け降りてリビングに向かう。

 

 とはいえ平日なのですでに両親はおらずラップされた朝食がテーブルに残されるのみとなっていた。

 一抹の寂しさを感じながら電子レンジで朝食を温める。

 ゴウンゴウンと音を立てて回る朝食を眺めながら携帯を開く。

 そこには友人からのメッセージのほかに玲奈からもデートのお誘いもあって僕はすぐに『分かった』と返信した。

 いてもたってもいられないのは玲奈もなのかもしれない。


 もし合格していたら僕たちは同じ大学に通うことになる。

  

 今住んでいるここを離れての東京暮らしになるわけだ。

 浮足立つのもしょうがないことだと誰にでもなく言い訳をしてしまう。

 だって憧れのキャンパスライフなんだから。 

 受験も正直言えば手ごたえはあった、自己採点もして玲奈にも見てもらったがボーダは上回っていた、当然玲奈もだ。


 だから僕は大学生になるのだと信じて疑ってなかった。



 


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