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プロローグ


小さい頃、僕は戦隊物のヒーローが好きだった。

影響を受けたと言ったらいいのか、例えば虫を殺してしまう農薬や殺虫スプレーなんかを嫌っていたし誰かがポイ捨てをしたり道にゴミが落ちていたら率先して拾ってゴミ箱に捨てる、そんな子供だった。


だから、僕と玲奈が出会ったあの日も僕にとってはヒーローごっこの延長戦のようなものだった。


あの日の小学校が終わってすぐの帰り道、僕は母にお使いを頼まれていたのでいつもとは違う道で帰っていた。

僕の通っていた小学校では帰るのに決められたルートがあってそれとは違う道で帰ることは禁止されていたのだが、理由がある場合はその限りでない。

だから僕はお使いを免罪符にいつもと違う帰り道をウキウキに歩いていたのだった。


でも、そんな僕の気分はすぐに不快な物へと変わることになる。

女の子が僕と同じくらいの背丈の三人の男の子にランドセルを盗られて揶揄われているところを見つけた。

僕はそれを一目見ていじめだと思ったし助けなければと思った。

小学生らしい万能感ゆえの“もし学校にテロリストが来たら”を何回もシミュレートしてきたように、いじめられている子がいたら、は僕の中では何度も行い解決してきたものでそれを実際に行う良い機会だという女の子のことなど考えていない独りよがりな考えからくる行動だったけども。

 現実はボコり(ボコられ)×2くらいだったが僕はその女の子に鞄を返してあげることができた。

 そのランドセルに付いていた名札を見て僕はその子の名前が『御園玲奈』ということを知った、最近では個人情報の価値が上がっているので名札は付けないらしいが、当時はひらがなでそう書いてあったので僕にも読めた。


 女の子――玲奈は小さな声で「ありがとう」と言い、そのまま行ってしまった。

当時の僕は三人と闘ったことに興奮していてあまり気に留めなかったが、随分素っ気ない反応だと思った。

だけど、今の僕にはその「ありがとう」が玲奈の中で振り絞って出てきた言葉だったのだと分かる。


御園玲奈とはそういう女なのだ。

高飛車な性格で人に借りを作るのが大の苦手、人に弱みを見せたくない負けたくない完璧・完勝主義でだからこそ何があっても泣かない。

 何があっても泣かないというのは彼女が言った言葉だ。


あの日から玲奈と僕は腐れ縁、いや玲奈みたいな可愛い女の子と一緒なのが嫌というわけではなく切っても切れないという意味、小中高と一緒だった。

玲奈はその性格から人をあまり寄せ付けるタイプではないので、小学校の頃はよくいじめられていて、そのたびに僕が出張っていったのだったがそんな時でも彼女は決して泣いていなかった。


そんな彼女の親に僕は気に入られていて、小学生高学年の時に一度だけ彼女の家にお邪魔したことがある。

 そのころには僕たちはすっかり友達で、玲奈から「お母さんが家に呼びなさいってうるさいから来て」と告げられた僕は「ポケモン持ってくからバトルしようよ」と既に家に行った後のことを答えていた。

 塾もスポーツもやっていなかった僕は遊びの誘いを断る理由なんて無かった。


 玲奈の案内のもと着いた家は僕の家の三倍は大きくて、子供ながらに玲奈の家がお金持ちなのを知ったのだった。


 そんな館のような家の居間に通されて、そこで出迎えてくれた玲奈のお母さんは玲奈にそっくりの美人さんだった、とても優しそうな雰囲気で思わず


「僕のお母さんより全然優しそう」


 と口にしていた。

玲奈のお母さんは微笑んで後に言った。


「そんなことないわ、きっと裕也くんのお母さんだってとても優しいよ」


 僕はどうしてこんな優しいお母さんがいるのに玲奈が高飛車な子になるのか分からなかった。


「お菓子あるから食べてね」



 そう言って玲奈のお母さんが出してくれたのは僕の家で出てくるような徳用ではなくて高級そうな箱に包まれたチョコだった。


「え、これ高いんじゃないですか?」


 子供ながらに僕は遠慮ができる子だったと思う、いや玲奈と付き合っていると彼女に合わすことが多いから自然にそうなったというのが正しいか。


「全然!そんなことないわよ!ね?お母さん」


「そうね、気にしないで食べてね、裕也君」


 二人がそういうので僕はおずおずと1つ摘まんで食べた。

 初めて食べた味がした。

 とてもおいしくて、手が箱と口を何往復もしてしまい


「気に入ったみたいで嬉しいわ、まだあるから気にしないで食べてね」

 

 と言われる始末。

 でも本当に美味しくて今度お母さんに買ってもらおうと思って箱の名前を読んだ。

 ゴディバしか知らない僕にはなじみのない名前だったけど後にそのチョコも十分に高級品だったと知った


 それ以来、バレンタインデーには玲奈はロイズのチョコをくれるようになった。


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