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手放したもの

作者: 寺崎 征十郎

注:作者は成人式未経験です。想像だけで成人式の様子を書いてしまったことを、お許しください。

中学時代、付き合っていた彼がいた。

彼とは幼い頃から一緒に育ってきたいわゆる幼馴染で、

中学校に入った時に、向こうから告白してきた。

それまでは、仲のいい友達としか見てなかったのに、

告白されてからは、彼の事がとても格好良く見えた。


付き合い始めても、特にお互いの接し方は変わらなかったけど、

一緒にいる時間は増えてたと思う。


そんなこんなで三年間、ずっと付き合い続けてた私たちは、

別々の高校に進むことになった。


そこで私は彼にこう持ち掛けたのだ。


「お互いの高校生活を全力で楽しむために、一度別れよう。

もし、成人式までに気持ちが変わってなかったら、もう一度私に告白してほしい。」


彼は一瞬複雑そうな表情を浮かべた後、分かった、と言ってくれた。


それから三年間。私は部活に勉強に友達にと、青春を大いに満喫した。

その姿を見てか、私に告白してくれた人もいたけど、私はそれを断った。


そして、成人式を迎えた。



_____________________________________



「うぅ、重たい……」


振袖を着、ばっちりと盛り髪を決め込んだ私、今野椎菜はそんな事を考えていた。


「なんでこうも動きにくいものをみんな好むのかなぁ。ホント分かんない……」


と、ブツクサ言っているなら着なければいい、と思う人もいるかもしれないが、

それはそれ、人生で一度きりの成人式に自分だけ着ていかないなんて事はもったいない!

と考える自分もいる訳で……、乙女心は複雑なのだ。


さて、そんなこんなで届いていた招待状に書かれていた会場まで行くと、

大勢の若者がわいわいがやがやと詰めているところだった。

私もその一人ではあるんだけど、こうも人が多いと圧倒されてしまう…。


そんなエネルギー発生地帯を掻き分け、もとい流されていると、

見知った顔が集まっている区画に出た。


「ん?おーい!こっちこっち!!」


声が聞こえてきた方を見ると、中学時代の友人がこちらに手を振っている。


「久しぶり。元気にしてた?」


友人の元までたどり着き一言声を掛けると、

その横から私に飛びついてくる影があった。


「しぃちゃ~ん!!会いたかったよぉ~!」


小柄で、いかにも女の子って感じの雰囲気を醸し出している少女。

わんわん泣きながら抱き着いてきたのは、

私のもう一人の幼馴染の善最梓だ。


「ちょ、ちょっと梓!離れなさい!大体あんた先月も会ったでしょ!?」


涙で今にも私の振袖にしみをつくりかねない梓をグイっと押しのける。


「えぐっ、えぐっ、だってぇ……」


「だってじゃない!ほら!離れて!!」


未だぐずっている梓を引きはがすと、声を掛けてきた友人・中之条鶴子がまるで、

おばあちゃんが久しぶりに遊びに来た孫を見るような目でこちらを見ているのに気付いた。


「?どうしたの?」


「いや、あんたたちって本当に変わらないなって思ってたのよ」


「?そう?」


私と梓は見合わせるが梓もいまいちピンと来ていないようで、顔に疑問符を浮かべている。


「私たちとしては結構変わっていると思うんだけど、ねぇ?」


「うんうん、だって私しぃちゃんに一日くっつかないと死んじゃう病治ったもんね!」


「あんたそれ一か月に期間が延びただけでしょ」


「あたっ!」


私たちの一連の絡みを見て、鶴子はさらに笑う。


「やっぱ変わってないよ、あんたたち」



_____________________________________



それからしばらくは互いの近況報告になった。


「二人は部活とか何やってたの?私は放送部だったよ」


「あ~なんかぽい~!!えとね~、私はね~」


「ソフト部でしょ?」


「も~、なんでしってるのさぁ~」


「なんでって、スポーツ推薦だったでしょあんた」


「あ、そうだった」


梓はとぼけたように笑う。


「それで?椎菜は?」


「私は吹奏楽部だったよ」


「へー、吹部かぁ。何吹いてたの?」


「えっとね~、しぃちゃんはね~、えーと……、バ、バ、バリ…、バス……、バスサク?」


「バリサクね。バリトンサックス」


「バリトンサックス…。サックスっていうと、あれか。

渋めのおじさまがペーペー吹いてるやつ。」


鶴子の思い浮かべるイメージを想像して小さく噴き出す。

そんな私をジト目でにらんでくる鶴子。


「……なに笑ってんのよ」


「いや、よくあるイメージだなって。…確かにそんな感じだね。

私のは普通のやつより大きくて低い音が出るのよ」


「ふーん。あ、そろそろ始まるみたいよ」


そんな鶴子の言葉を受け周りを見回してみると、

あれだけ騒がしかった会場が静まってきている。

確かにそろそろ始まるらしい。


「そういえば、瞬君は?」


梓のその一言に、ドキッとする。

瞬。約束の彼がまだ来ていないらしい。

確かに顔を見ていない気がする。


「あー、そういえばいないな。新堂君。

まぁ来ない人もいるみたいだし来ないんじゃ……、と噂をすれば何とやらってね」


鶴子がそう言うので入口を見てみると、

男性が一人、会場に慌てた様子で入ってきたところだった。

その男性の姿を見て、はっと息をのむ。

髪の色が明るくなり、中学までかけていた眼鏡もしていない。

かなり垢抜けてはいるが、間違いなく彼だ。

少しばかり直視しすぎたのか、視線を感じたように彼はこちらに目を向けた。

視線が交差する。目を合わせている時間なんてほんの少しの間のはずなのに、

私にとってそれは、あまりに長すぎた。

やがて、どちらからともなく目線は外された。

顔が熱い。自分では見えなくても、間違いなく真っ赤になっているだろう。


「いやー、新堂君。しばらく見ない間に見違えたねぇ。

いかにも地味って感じだったのに、今じゃイケイケな若者って感じになってんじゃん。

ん?椎菜?何顔赤くしてんのよ?さては……、ははーん。」


「ちょっ、何よ!?」


「いんや~、別に~。あ~あ~若いっていいわねぇ」


「あんた年変わんないでしょ!!」


「んっふっふ。精神年齢は経験によって取っていくのよ」


鶴子は何やら年寄り臭いことを言っている。

彼女は中学の頃からこうだ。うちの代で誰よりも大人びていて、

それが過ぎて周りからは『おばあちゃん』とまで呼ばれるに至っていた。

本人は、「おばあちゃんはないでしょ!」と遺憾の意を示していたが、

呼ばれても仕方がないくらいには老成していた。


そんなやり取りをしている私たちを梓は静かに見ていた。

こういう時に静かになる梓は、決まって真面目な時だ。


「瞬君。覚えててくれるといいね」


梓は、私たちの間に何があったのかをすべて知っている。

鶴子は優れた洞察力や推理力をもって、大体の事を把握しているらしいが、

それでも全てを知っている訳ではない。

私たちの恋の立会人に、幼馴染である梓以上の適任者はいないだろう。


「……うん」


頷く私の姿は、誰が見ても恋する乙女のそれだっただろう。



_____________________________________



成人式も終わり、二次会等諸々も終わった頃。

誰もが帰り支度をしている最中に、梓に声を掛けられた。


「しぃちゃん。行かなくていいの?」


その声は、ただただ私を心配する感情だけが込められていた。

それもそのはず、成人式が始まってから今に至るまで、

瞬からのアプローチは一切なかった。

このままでは話すことなく、彼との関係は終わりを迎えてしまう。


「うん、そうだよね。私から行かなくちゃ駄目だよね」


そんなのは嫌だ。だから、私から行こう。


「うん!その意気だよ!しぃちゃん」


「ありがとう梓。行ってくるね」


梓は元気よく送り出してくれた。

あの子の後押しはよく効く。

このままで終わってもいいかって思いかけていた私に活を入れてくれた。

そこまでされたのなら、女を見せなきゃ。


瞬は一人、会場を出て帰ろうとしているところだった。


「瞬」


私はそこに声を掛けた。

小細工なんていらない。ありのままの私で瞬に相対する。

瞬は私に話しかけられたのが意外だったのか、驚いているようだ。


「し、椎菜。…久しぶりだな。」


「うん、久しぶり。ねぇ、一緒に帰れる?」


瞬は少し考えるそぶりをして、分かった、と返した。



_____________________________________



しばらくは二人共無言のまま、帰り道を進んでいた。

気まずい空気が流れる。…このままじゃだめだ。


「ねぇ」


「ん?」


「高校、どうだった?」


「別に、普通だったよ。そっちは?」


「私はね、いっぱい楽しんだよ。

何事にも全力で取り組んでた。

部活では部長をやったし、

勉強も学年一位だった。

みんなから勧められて、生徒会長にもなった。

どれも大変なこともあったけど、

最高に楽しい高校生活だったよ。」


私の話を聞いて、そっか、とつぶやいた。


「……俺もさ、高校は楽しんだよ。

友達と馬鹿やったり、部活とバイトに明け暮れたり、

……彼女も作った」


………え?


「卒業式の日。お前に分かれようって言われた時、俺は唖然としたよ。

なんでなんだろうって。ずっといっしょにいて、喧嘩もしてなかった。

なのになんで別れるんだろうって。それを考えてたら、思ったんだ。

高校生活を全力で楽しむって、つまりは俺なんかと一緒に居たら楽しめなかったんだろう?

だから別れたんだろ?」


彼は何を言っているんだろう?分からない。言葉の意味が理解できない。

頭が言葉を理解しない。ただただ、何を思うでもなく、涙がこぼれてきた。


「……そっかぁ、そうだよね。そう、思われちゃうよね………」


「お、おい。なんで泣いてるんだよ……」


「…何でもないよ。ごめんね、急に一緒に帰ろうなんて言っちゃって。それじゃあ私、先に帰るから」


返事を聞く前に駆け出す。後ろから声が聴こえてきた気もするけど、

それを気に留める余裕は、今の私にはない。



_____________________________________



気付けば家にいた。いつの間に着替えたのか、部屋着でベッドに寝そべっていた。

涙はもう流れていない。悲しくもない。

私の心の中には、ただ虚しさだけが残っている。

別れを切り出したあの日から、彼を思い出さなかった日はない。

色々と取り組んできた高校生活も、彼へのお土産話を増やすための物だった。


……それが、全て水泡に帰した。

あると思っていた繋がりは、私の手で、どうしようもなく分かたれていて。

私は、青春の全てを手放していたのだ。

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