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【星月子猫】LV0の神殺し  作者: 【N-Star】星月子猫
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レベル0の使命-11

 それでもこうして勇気を振り絞り、助けに来てくれたのが俺は素直に嬉しかった。


「よし……この隙に!」


 覚醒体の頭部はバーニャの攻撃によって燃え盛っていた。魔素による魔法ではなく、精霊術式による魔法のため、覚醒体は苦しみもがいている。

 攻撃するなら今だ……!


「待て」


 だが、俺は肩を掴まれて飛び出すのを邪魔された。

 振り返って誰なのかを確認すると、そこにはいつの間に来ていたのかターゴンの姿があった。


「バーニャが屋根の上にいるから多分来てるとは思ったけど」

「バーニャが覚悟を決めてくれたんでな」


 恐らく、あそこまでバーニャを運んだのはターゴンなのだろう。


「……それで、待てってどういうつもりだ? 今が絶好の攻撃チャンスだろう」

「闇雲に攻撃しても無駄だ……見ろ」


 ターゴンがそう言って指差した先を追って、俺は覚醒体へと目を向ける。

 バーニャは覚醒体が怯んでいる間にも、間髪を容れずに風の刃を生成する魔法を撃ち放っていた。


「レベル0に必要なのは、相手の体力を削る攻撃じゃない……相手を仕留めるための攻撃だ」


 バーニャの魔法は効いてはいた、効いてはいたが効いているだけ。

 相手の命を奪うほどのダメージじゃない。覚醒体の全身に傷を刻み込むだけだった。


「とは言っても……どうすればいいんだよ? バーニャ以上の攻撃なんて俺にはできないぞ?」

「いいや、できるはずだ……長い年月をかけて鍛え、磨かれてきた観察眼を持つお前なら」


 俺の何を知っているのか、ターゴンは断言する。


「どんな生物にも必ず弱点は存在する。人間ならどこが急所だ?」

「……目、喉、心臓、鼻下、脳……人間は急所だらけだよ」

「その急所だらけの人間は、どうやってモンスターと渡り合っている?」

「守りながら……だな」


 なんとなく理解できた。つまりは覚醒体の弱点を探してそこを突けと言いたいのだろう。


「でも、弱点があったとしても、俺のパワーじゃ届かないぞ」

「いや、お前の鍛え抜かれたその身体であれば、充分に届くはずだ」

「さっき試して届かなかったんだよ!」

「それはお前がその一撃に全てを籠めていなかったからだ。場合によっては攻撃をやめて下がるつもりでいたんじゃないか? 状況に応じて行動するのは身の安全を守るうえでは有効だが、相手を仕留める気概……殺意が鈍る」


 言われて、俺は自分の手元へと視線を落とす。確かに、全力で突き刺したと言っても、すぐに次の行動に移れるように俺は保身を掛けていた。

 だからこそ、覚醒体が反撃してきた時もすぐに避けることができたのだが……それを捨てろということか?


「仲間を信じて、相手を仕留めることに集中しろ……殺意を、研ぎ澄ませるんだ」


 仲間を信じて……その言葉が、不思議とすんなり耳に入った。

 さっきは俺一人で挑んだから、身を守ることを考えなければならなかったが、それを仲間に預けることができるならば……!


「息を整えろ。今のお前はいつも通りのお前か? 常に冷静に物事を考え、いち早く変化に気付くことのできるお前か? 違うはずだ……」


 言われて、俺は胸に手を当てる。

 バーニャとターゴンが来てくれたことで安心し、心臓の鼓動は少し収まっていたが、それでもいつもよりも早く動いていた。


「心臓の音を止めろ。冷静に、一つのことだけを考えられる集中力を高めるんだ」


 指示に従い、俺は瞼を閉じ、深く息を吸い込む。

 そして、時間をかけてゆっくりと口から吐き出した。

 徐々に心臓の動きが緩やかになり、静かになっていくのを感じとれる。

 そうだ、これだ……これがいつもの俺だ。


「そうだ、それでいい。お前の中に眠る門は……今開かれた」

「いや、これじゃまだ駄目だ……もっと、もっと」


 もっとだ、もっと集中させろ。

 思い出せ、俺とリューネが過ごしてきた日々を。

 レベル0の俺が、モンスターを倒すために繰り返し過ごしてきた日々を。


「まだ……高まるのか?」


 無駄だ無駄だと言われ続けても、やり続けてきた努力を。

 草木に隠れて息を潜め、ひたすら……ひたすらに倒すためのチャンスを待ったあの日々を。

 誰かを守ることに気を遣わず、ただ、ただモンスター仕留めるためだけに研ぎ澄ませてきた殺意を、感覚を……! これから放つ一撃に籠めて……!


「ターゴン、あんたにはまだ見せたことがなかったな……目を凝らしてよく見とけ」


 自分でも、心臓の鼓動が感じとれないほどに静まった時、俺はゆっくりと瞼を開いた。



「俺の本気を……少しだけ見せてやる」



 そして俺は走り始める。バーニャの魔法によって未だ苦しみもがく覚醒体へと向かって。


「メイプル! バーニャ!」


 走りながら、俺は叫ぶ。


「二人とも、準備しておけ!」


 何をしてほしいかの指示を出さぬまま、俺は覚醒体までの道を一気に駆け抜けた。

 さっき攻撃を仕掛けた時とは全然違う。身体の震えも、死んでしまったらどうしようなんて恐怖もない。ただ殺す。そんな純粋な殺意だけが俺を支配していた。


「ゴガァァァァァァアアアアアアア!」


 苦しみもがきながらも、俺の接近に気付いた覚醒体は、すかさず勢いをつけて前足を使い、殴打を放つ。俺は、その攻撃を低い体勢に移ることでギリギリ回避した。

 鋭い爪が俺の頬をかすめるが、気にせずにその場に踏み留まる。

 そう、覚醒体の目の前で俺は攻撃を仕掛けることもなく、回り込むこともなく、危険を承知で堂々と立ちはだかった。


「ユンケル……!? 何をしてるの? 離れて!」

「ユンケルさぁ~ん! さすがにそれだけ近いと……!」


 誰がどう見ても危険な立ち位置に、バーニャとメイプルが心配して声を張り上げる。

 だが、問題ない。


「ぐ…………ガァァァァァア!」


 覚醒体は、目の前に立っているのに何も仕掛けてこない俺を一瞬警戒する。

 しかしすぐに、巨大で鋭利な口を開いて俺に噛みついてきた。

 俺は、それを待っていた。


「ギギャァァァァァァア!?」


 覚醒体の悲痛な叫び声が周囲に響き渡る。

 目の前へと近付いてきたことで焦り、俺に攻撃を先に仕掛けたのが運の尽き。

 正面に立てば、その大きな口を開いて噛みついてくることくらい容易に予想がついた。


「今度はしっかりと、体内に入り込んだだろう?」


 俺はタイミングを合わせて後ろへと跳躍することで噛みつきを回避し、覚醒体が噛みつくために開いた口を閉じた瞬間を狙って再び一気に距離を詰める。

 そして、攻撃しやすい位置にわざわざ顔を近付けてくれた覚醒体の目元に向かって、既に一度斬りつけて毒を消費したあとのナイフを突き刺したのだ。今度は奥深く、柄に届く深さまで。


「メイプル!」


 俺は叫び、身を屈める。

 すると察したのか、メイプルは俺の周囲に薄い光を放つバリアを展開させた。

 直後、覚醒体の前足による殴打がバリアへと衝突する。


「いいぞ、完璧なタイミングだ」


 覚醒体は目にナイフを突き刺され、先程までよりも激しく暴れている。

 この動きを予測するのは不可能だ。だから、俺はメイプルのバリアに任せることにした。


「探せ……どこを狙えばいい?」


 その間、俺はポーチから火炎瓶を取り出し、先端の蓋を開けて中に入っている油を新たに鞘から抜き取った短剣へとべちゃべちゃに付着させる。


「……まだだ、まだ、しっかりと見ろ、必ずあるはずだ」


 暴れる覚醒体の動きを観察し、俺は探り続ける。

 この覚醒体が、最も攻撃を受けるのを恐れている箇所を。

 暴れ苦しむ動きの中で、唯一無意識のうちに守りを固めている一点を。


「…………見えた!」


 そして俺はその一点を見つけ出し、覚醒体へと一気に詰め寄る。


「いいぞ…………そうだ、やれ! お前ならできるはずだ!」


 覚醒体の前足による殴打を滑り込むことで回避し、俺はそのまま覚醒体の胴体の真下へと潜り込む。


「魔素を持たない古の勇者たちが魔王に対抗するために身に着けた力……全ての動きを見抜き、的確に急所を見つけ出す冷静さと観察眼を持つ者だけが放てる一撃を!」


 そして、俺はたっぷりの油が付着した短剣を両手で握りしめ、覚醒体の前足によって守り固められた胸元へと向かって全力で突き出した。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 短剣の切っ先が、覚醒体のふわふわの毛が生える胸元へと突き刺さると、今度はそこで弾かれることなく、奥深く、短剣を握る柄の部分まで刺しこまれる。

 直後、それだけ苦しいのだろう。覚醒体は声にもならない叫び声を上げてもがき苦しんだ。

 それは、本来なら勝てるはずもない弱者が、強者に勝つために研ぎ澄ました力を、たった一度のチャンスに籠めることで放てる大番狂わせの致命の一撃。



【クリティカルヒット】



「今だ! バーニャぁぁぁぁあああ!」


 ナイフを突き刺したあと、俺は叫びながら覚醒体から離れ、巻き添えを受けないように飛び出して地面を転がる。直後、俺と入れ替わるようにしてこれまでで一番大きな炎の球体が、覚醒体に突き刺した胸元のナイフめがけて撃ち放たれた。


「くらぇぇぇええええええええええええ!」


 バーニャの全身全霊を籠めた叫びと力が、炎の球体となって覚醒体に衝突する。


「ギャアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 炎の球体によって、ナイフに塗りこまれた油に火が燃え移り、覚醒体は内側からも外側からも身を焼かれ、かつてない苦しそうな叫び声を上げた。


「ぎ…………ぎぃ………………」


 暫くして、覚醒体は叫ぶ気力すらも失い、地面へと横たわる。

 全身がぶすぶすになって焼き焦げた覚醒体はそれ以降、二度と動くことはなかった。

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