レベル0の使命-6
「じゃあ……早速聞かせてもらう」
だが、俺は覚悟を決めてターゴンに目を合わせ、口を開いた。
「リューネとシル……いや、皆殺されるってどういうことだ!? それに……あの覚醒体ってのはなんなんだ!? どうして俺たちじゃないとダメージを与えられない!?」
「……まずは、後者の質問から答えてやる」
ターゴンはそう言うと、懐から手の平に置ける大きさの、ひし形の宝石を取り出す。
「それは……ソウルジュエルか?」
仄かに紫色に輝きを放つ美しいその宝石は、見間違えることなくソウルジュエルだった。
「これは……俺の大切な人が残していったものだ」
そう言うと、ターゴンは切なそうにソウルジュエルを握った。
全ての人の心臓に眠るとされるソウルジュエル……つまり、そのターゴンの大切な人とやらはもうこの世にはいないことになる。だが、そうなると少し気がかりがあった。
「なんで大切な人のソウルジュエルなのに、手元に残してるんだよ? 供養してやらないのか?」
俺がそう問いかけると、ターゴンは「ふ……供養か」と乾いた笑みをこぼす。
「話を戻そう。覚醒体とは……魔素をコントロールする術を学んだモンスターのことだ」
「魔素を……コントロールする術? それってつまり……」
「お前の考えている通りだ、魔素の籠もった攻撃を仕掛けても、その者に宿る魔素を吸収し、攻撃を無効化させてしまう。どれだけ強力な攻撃を放とうが……それが魔素である限りは無意味だ」
リューネたちがどれだけ攻撃を仕掛けても、ダメージが通らなかった理由がわかり、俺は納得する。だからこそ、魔素で肉体が強化されたリューネたちの攻撃は効かず、自然の力である精霊術式を使ったバーニャの攻撃は効いたのだろう。
なるほど……魔素を使った攻撃が一切効かないとなれば、レベル1以上の者に覚醒体を倒す術はない。肉体は魔素によって無意識のうちに強化されているからだ。
ただの殴打でも、蹴りでも、それには必ず魔素が宿ってしまう。
リューネが俺より筋肉がないのに、俺より力があるように。
「いや……ちょっと待て、いや待てよ、なあ……」
それを知ってしまったことで、俺の中で気付きかけていた、そうであって欲しくなかった真実の点と点が結びついてしまう。
覚醒体は魔素を含まない攻撃しか効かない。それはどこか、最近見たある現象と酷似していた。
「俺が倒したライガーウルフ、魔素化しなかったよな? メイプルが倒したアサシンカメレオンもそうだ……! そんで……お前が言うにあれが本来あるべき普通のことなんだよな?」
モンスターは、レベル0が倒せば死体が残り、レベルある者が倒せば魔素化して吸収される。
レベル0が倒した場合が本来あるべき状態とするなら、魔素化したモンスターは……どういう状態と捉えるべきなのか? それを考えた瞬間、俺は何故、ターゴンが先にソウルジュエルを見せてきたのかがわかってしまった。
「お前の考えている通りだよ」
そして、それは確信へと変わる。
同時に俺は呼吸を乱して俯き、大量の汗を浮かべた。
「ちょ、ちょっと……どういうことなのよ? ねえ、師匠……ユンケルは何に気付いたの?」
そんな俺を見て、バーニャが慌てだす。
対照的に落ち着いているメイプルを見るに、メイプルは事の真相の全てを既に聞かされているのだろう。今は珍しく、俺たちがそれを受け入れられるかどうかを見守るかのような真剣な顔つきを浮かべていた。
「覚醒体だけではなく、全てのモンスターはレベル0にしか倒せないということに気付いたのさ」
そして次にターゴンから吐かれた真実に、バーニャは顔面を蒼白させて訳がわからなさそうに固まってしまう。
「え? ……え?」
聞き間違いかと、バーニャは確認するようにターゴンと俺の顔を交互に見た。
無理もないだろう、俺でさえ事前にある程度気付いていたのにショックを受けているのだ。
「ハッキリと教えてやる……この世界は紛いものだ。俺たちレベルがある者たちは、この世界を自由に生きていると錯覚しているにすぎない」
「どういう……ことなの? ねえ師匠?」
「……ユンケルに聞いてみるといい、こいつはもうわかっているはずだ」
ターゴンに促され、不安そうな顔でバーニャは俺へと視線を向ける。
「だからこそ、そんなにも……汗を浮かべているのだろう?」
正直、俺もこんな推測は嘘だと思いたい。もし、俺の考えていることが全て正解だったとするのであれば……それはあまりにも残酷な真実だからだ。
「ゆ、ユンケル? 大丈夫なの?」
自分でも呼吸が乱れ、動悸が速まっているのがわかる。
これまでに感じてきた不可解な要素、それを新しく得た情報と照らし合わせれば、ターゴンに教えられるまでもなく、答えに辿り着くことができた。
まず、俺の故郷の村を襲ってきたミノタウロスの件だ。
ターゴンは、まるでリューネが止めを刺したせいでミノタウロスが村を襲撃したかのような口ぶりで話していた。
そして次に、ターゴンのアジトに辿り着いて、ターゴンが俺に強くなれと言っていた時のことだ。
ターゴンは俺に、人間が本来使える力を身に着けて強くなれと言っていた。まるで、レベルを上げて強くなることが、本来できることではないかのように。
そして次に、死体が残っていたライガーウルフとアサシンカメレオン。
死は本来、死体が残るのが普通……人間も、動物もそうだ。モンスターだけが……身体を魔素化させて崩壊する。だが、レベル0がモンスターを倒した場合のみ、モンスターも人間や動物と同じように死体が残る。
最後に、ターゴンが俺に見せつけてきたソウルジュエルの意味。
ソウルジュエルの機能を失った者はレベルが上がらず、俺たちのようなレベル0になる。
対してレベルのある者たちはソウルジュエルに魔素を吸収させ、人体にレベルという名の超常の力を与える……そうなると答えはもう、一つしかなかった。
「モンスターの肉体が魔素になって崩壊するのは……死じゃないってことだろう」
「その……通りだ」
俺が導き出した残酷な答えに、ターゴンは否定することなく頷いた。
モンスターが息絶えた時に見られる現象、魔素化が死でないとするならば、全てのことに辻褄が合う。
本来森から出るはずのないミノタウロスが村を襲ったのも、獣魔の森で倒して魔素化したミノタウロスをリューネが吸収したため、倒したミノタウロスと番だったミノタウロスが、同じ場所へ行くためにリューネの下に来たとすれば?
モンスターの死が魔素化でないなら、人間がレベルを上げる仕組みはそもそも自然にできたものとは考えにくい、もしも……人為的に誰かがそうなるように人間の身体をいじったのだとすれば?
ライガーウルフとアサシンカメレオンの死体が残ったのも、あれが本来あるべき姿だとすれば?
……全てに辻褄があった。
モンスターが俺と遭遇した時、何かを警戒するように硬直するのも、モンスターが俺にだけ奇襲をかけてこないのにも納得だ……つまりは本来ありえないはずの死を恐れているのだろう。
誰だって、死にたくはない。
むしろ、モンスターがレベル0以外には果敢にも挑むことがおかしいことに気付くべきだったのだ。
さっきレベル8のライガーウルフが仲間を殺されたのを見て逃げたのも……恐らくは。




