レベル0の使命-3
「おいおい……嘘だろ?」
十数分後、俺たちはリューネの家の前にまで辿り着く。
家は、二階のリューネの部屋あたりが屋根ごと破壊され、そこから広がるように家に火がついて燃えていた。
「…………俺に任せるといい」
呆然としていると、ターゴンが手を家の二階へと向けて突き出し、魔素を手元に籠め始める。
直後、ターゴンの手元から冷風が吹き出し、家の二階部分は一瞬のうちに氷漬けになった。
「すげぇ……!」
あまりにも強力な魔法を前に、俺は言葉を失う。
「……シル!」
だがすぐに我に返り、俺は家の入り口へと駆け寄り、ドアを開けて中に入ろうとする。
しかし鍵が掛かっているのか、引っ張ってもドアは開かなかった。
懐をまさぐり家の鍵を探すが見つからず、バザーの店の中に置きっぱなしなことに気付く。
「……くそ! 今はシルが優先だ」
どうせ二階が壊れているのだからと、俺はドアを蹴破って家の中へと入り込んだ。
「シル! いるか!? いるなら返事しろ!」
家の一階部分は、特に荒らされた様子はなく、いつも通りの光景だった。
恐らく二階だけ、モンスターか冒険者たちの被害を受けたのだろう。
俺は声を張り上げ、一階に絞ってシルを探し回る。
「…………お兄ちゃん?」
声が聞こえ、俺はすぐさま声の聞こえた方へと走って向かう。
するとそこには、キッチンのすぐ横に置いてある、食料を保管している大きめの木箱の中に入り、蓋を開けて顔だけをピョコっと出したシルの姿があった。
ずっと不安でしかたなかったのか、少し涙目になっている。
そして不謹慎だが、ピョコっと顔だけを出す姿が可愛すぎて、俺が尊さで死にそうになった。
「お兄ちゃん!」
シルは俺の姿を見るや否や、木箱から飛び出して俺に抱きついた。
いつモンスターに襲われるかと不安だったことだろう。
俺はシルを安心させるように中腰になり、目線の高さを合わせて優しく頭を撫でた。
「もう大丈夫だ、とんでもない化け物を連れてきたからな」
「酷い言いようだな、俺も一応人だぞ?」
家の周囲のモンスターを片付けてくれていたのか、遅れてターゴンが家の中へと入ってきた。
玄関のドアを壊してしまったため、正直かなり助かる。
「リューネは? シル一人だけか?」
「お姉ちゃんは……すごく大きなモンスターと戦ってて、危ないからって……私だけ家に」
「よしよし落ち着け、もう大丈夫だからな。リューネは今、戦ってるんだな?」
再度頭を優しく撫でて問いかけると、シルはゆっくりと頷く。
「絶対に外に出るなって、この中に入ってなさいって……ずっと動かずに待ってたの」
「なるほど……賢い判断だ。守ってやれないのなら、家の中に閉じこもっている方が安全だからな。外はどこから襲われるかわかったもんじゃない、それにモンスターも、わざわざ籠もっている者を襲わずに、外にいる者を襲う」
シルが言いつけを守る素直ないい子で助かった。普通の子供なら、不安に耐えきれず、外に出て逃げまどっていてもおかしくはない。
とにかくシルが無事でよかった。あとはリューネだが、あいつもレベル15の猛者だ。てこずるほどのモンスターと戦っているみたいだが……そう簡単にやられはしないだろう。
「ターゴン、シルを守っていてくれ」
「どこに行く?」
「着替えるんだよ、俺の部屋は無事っぽいし……これから何があるかわからないだろ?」
仕事用の服では、いざという時に動きが鈍る。
着替えられるなら今のうちに着替えておきたい。
そう考え、俺は二階の自室へと向かう。
「よし……俺の部屋は無事だな」
とはいえ、ゆっくりもしていられない。
いつモンスターが壁を壊して侵入してくるかわからないからだ。
俺はすぐにいつもの黒い戦闘服に着替え、ターゴンからもらった火炎瓶などを使い慣れたポーチへと移し、短剣に加えて毒が塗りこんである鋭利なナイフを追加で装備する。
「よし、準備万端…………!?」
準備を終えると同時に、十数分前にも聞いた爆発音が再びすぐ近くで鳴り響く。
慌てて自室の窓を開け、外の様子を窺うと、家の向かい側にあった建物が破壊されていた。
「あいつ……!」
そして、そこには見覚えのあるモンスターが立っていた。
全身に紫色のオーラを纏い、通常の数倍のサイズを持つ巨体、鋭すぎる牙を持った化け物……マンティコアと酷似した、覚醒体と呼ばれる別の何か。
それと対峙していたのは、リューネを含めるセレスティルに所属する連中だった。
「こっちを見ろ! 怪物め!」
一度戦闘した経験のあるルードとリューネが指揮を執り、致命傷を受けないように立ち回りながら覚醒体に攻撃を仕掛けていく。
だが、森の中で出会った時と同じように、覚醒体はダメージを受けてもすぐに傷を修復してしまっていた。何度も何度も攻撃を繰り返すが、結果は変わらない。
「ターゴン! 早く逃げるぞ!」
慌てて俺は一階へと降り、シルを抱き寄せてここから避難するように促した。
「落ち着け、戦ってるのはこの家のすぐ前だ。今、下手に外に出れば巻き込まれる可能性がある」
「あんたが守ってくれればいいだろ!」
「足止めはできるかもしれんが……あいつは俺でも倒せん。万が一のこともある……慎重になれ」
ターゴンに静止を受けるが、俺は逸る気持ちを抑えきれずに舌打ちをしてしまう。
家の前だからこそ、いつこの家ごと被害を受けるかわかったもんじゃないからだ。
「その顔……やはりわかっていたな、だからお前は『倒せ』ではなく『逃げよう』と提案した」
言葉通りだった。
故に俺は答えを返さず、蹴破って開かれたドア越しに覗き見て、リューネたちの戦いを見守る。
あれは恐らく、どれだけ高レベルの者が相手にしても倒すことはできない。
「どうやって、気付いた?」
「額だよ……あの覚醒体とやらの額に深い傷があるだろう? あれで気付いた」
覚醒体の額の中心に、深い傷跡があった。
あの覚醒体は恐らく、森の中で出会った奴と同じ個体のはずだ。バーニャがつけた傷跡がそっくりそのまま修復されずに残っている。
「あいつ…………俺たちじゃないと傷をつけられないんだろ? 俺たち……レベル0じゃないと」
「その通りだ」
セレスティルのメンバーは果敢にも覚醒体に攻撃を仕掛けていく。
魔素を籠めた飛ぶ斬撃、強力な真空の刃で切り裂く魔法、目にも止まらぬ斬撃の連続、並のモンスターであれば貫通してしまう程に力強い弓矢での攻撃、その全てが無駄だった。
一瞬、ほんの一瞬だけ傷がついたと思いきや、即座に修復し、痛みなんて感じていないかのように覚醒体は即座に反撃する。
ならばその身体を一瞬のうちに崩壊させてしまえば――――そう考えたのか、並のモンスターであれば木端微塵にしてしまう威力を持つ高等爆破魔法、エクスプロージョンをセレスティルのメンバーの一人が放つ……が、無傷。
……建物壊したの、お前らかよ。
「あれだけの攻撃を与えても、あの化け物に傷一つつかない……なのに、バーニャがつけた傷は未だに残ってる。ならもう、そう考えるしかないだろ?」




