9 帰り道
香住の承諾も得られたので、正哉に全部話そうと思う
でも、どう切り出そう……
午後の授業は、そればかり考え
授業の内容など、頭に入っていなかった
丁度、終業のチャイムが鳴り、辺りは喧騒に包まれる
あぁ、結局考えが纏まらなかった……
どうしよう……
だが、そんな考えも杞憂に終わる
「千尋!帰ろうぜ!」
そう言って、正哉は背中を叩いてきた。
「正哉?」
「なんだ、まだ帰り支度してないのかよ」
「あ、ごめん直ぐするから……」
鞄に教科書を詰めながら
今まで、ウジウジ考えてたのがバカみたいで
本当に、正哉のこういう真っ直ぐな性格に、いつも助けられていた
香住は、相変わらず部活だからと、教室を出ていってしまう
出ていくときに、『ガンバレ』と口を動かしウィンクしていった
解ってます。
教科書を詰め終わって、学校を出る
正哉も僕も、帰る方向は同じで、徒歩通学だ
家が近くて、中学も同じだったので、ウチの境内は溜まり場と化して居た。
よく御神木に登って、婆ちゃんに怒られたっけ
付き合いは香住の次に長い、そんな第2幼なじみに女体化の経緯を話そうと
「正哉……あのさ、今朝の事なんだけど……」
「ああ、別に無理に話さなくて良いって言ったろ」
「そ、そうじゃない! 無理じゃないんだ! だから……聞いてほしい」
そう言って、正哉に龍神の事や、龍の神子を産むために、女にされた事等を話す
「なんだよそれ! 千尋の気持ちを無視して、承諾も無しに女にするなんて許せないな」
なんか、当事者の僕より怒ってるし
まあ僕の場合、怒りよりも、どうやって男の子に戻ろうと言う、焦りの気持ちのが、先に来てたんで
怒ってる間もなかった
でも、今のところ不便なのは着替えと、トイレで立って出来ないことだけだし
幸い、男子トイレでも個室に入っちゃえば、周りには解らないしね
「正哉が、信じてくれて良かった」
「あのサラシで巻いた胸を見せられちゃ、信じない訳にはいかないだろ」
「胸だけじゃなく、下のモノも無くなっちゃったけどね」
そう言って苦笑いをする
「しかし、不思議な感じだよ。髪が伸びた以外、見た目ほとんど変わってないからさ」
あ、背が少し縮んだか? と僕の頭に手を置く
「止めてよ、そうじゃなくても、背が低いの気にしてるのに」
「ひじ掛けに、ちょうど良い」
その言葉に、ムッとしたので、正哉の股間を蹴り上げる
「ぐぁ……千尋おま……この辛さ……分かってる癖に……」
そう言いながら、ピョンピョン飛び跳ねる
「ごめん、ちょっと、やり過ぎた」
今の僕には、付いていないものの、過去の経験から痛みの感じは分かる
正哉が落ち着くまで、腰をトントン叩いてやり、本当ごめんと謝り続た
「それで、どうするんだよ」
正哉が股間を擦りながら聞いてくる
「ん~、分んない」
「分んないって……お前なぁ」
「だって、僕じゃ元に戻す方法分らないし、取り敢えず従ってるしかないよ」
「うーん、そっかぁ……まあ俺の方でもネットで調べてみるよ」
「うん、お願い」
歩いていると神社が見えてくる
もう着いちゃうのか……
と言うか、今朝は御勤めせずに逃げ出したんで、婆ちゃん怒ってるだろうな
もの凄く帰りたくない
「はあ……」
「どうした?」
「今朝の御勤めしなかったんで、婆ちゃんに怒られると思うと……」
「うぁ、お前の婆ちゃん怖いものな。真夏に千尋と手水舎で水掛け合ってた時に、怒られたのなんて……」
あー、あの時も正座で説教でしたね
2時間も……
「あ、ヤバッ思い出しただけで寒気が」
「同じく」
まあ頑張れよっと肩を叩かれる
どうやら、一緒に来てはくれないようだ
「じゃあ、また明日な」
と神社へ続くの石段の前で別れる
「正哉~ありがとうー」
去っていく正哉に声を掛けると、手を上げながら『おう』と一言返す
本当に話して良かった。
風邪薬が効いたみたいなので、9話も仕上げて更新です。
誤字修正しました。
ご報告ありがとうございます。