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龍神の花嫁修行  作者: 霜月 如(リハビリ中)
龍神ルート
78/83

48-3 籠雌(カゴメ)

ファストフード店のハンバーガーを、食べて研究した後


僕とセイは、街を彼方此方(あちこち)見て回った


やはり、ネットの写真を見ただけと違い、肌で街の空気を感じ、耳で喧騒を聞いて(はしゃ)ぐセイを見ていると、此方らまで楽しくなる


露店の度に足を止め、買い食いをしていくが、先程ハンバーガーを2個も食べたのに、良くそんなに食べれるものだ


「おい、あっちにも店が出てるぞ」


そう言いながら、ソフトクリームのお店を指差す


「食い物ばかりじゃないか、少しは服屋さんとか見ようと思わないの?」


「それは、腹が膨れるのか?」


「いや、どちらかと言えば、着たきりの服が変わるかな」

セイも宝剣探しの時に、着替えを数着貰ったんだ筈なのに、着ようとしないんだよね


「腹が膨れぬのなら要らん」

これだよ……


ま、支障が無いなら別に良いか



結局セイが、街を隅々まで堪能し終わる頃には、日も落ちてしまっていた


「いや~、美味いもんが、こんなに有るとはな」


「ふん! どうせ僕のご飯は飽きられて、美味しくありませんよ」


「ん? まだ気にしていたのか? 今日色々食べて改めて分かったが、お前の飯が一番元気をくれる」


「お世辞かよ」


「いや、世辞ではない。龍脈が『氣』を運んで要るのは知っているだろ。龍脈の『氣』を田畑の作物が吸い上げ、その『氣』を取り込んだ作物を食べる。結局は『氣』が体内へと摂取され、活力の源になるのだ」


「だから、龍脈の管理は重要だって、この前聞いたし」



龍脈が途切れた土地は、痩せてしまい。作物も元気がなく、味も落ちたりする


他にも、温泉が急に止まって出なくなったり。川の水量が極端に落ちて、干上がったり


色々と、自然の恩恵が滞ってしまう



だからこそ、龍脈の外科医として、龍神がバイパス手術を頑張っているのだ


ただ、バイパス手術なので、龍脈を迂回させた土地が、急に潤ったり、いきなり温泉が出たりする事もある



「元々からの素質なのか……お前の料理は『氣』が損なわれないんだよ」


「それは、誉めてるの?」


「もちろん。普通の食物は土から上げてしまえば、どんどん『氣』は減っていくモノなんだがな。材料の選び方とか、調理法が良いのか、天性の素質でやってのけてる」



んー。『美味しい』とかじゃなく『元気をくれる』と言うのが、何だか微妙な誉められ方だ


まあ、誉められて嫌な気はしないが、出来れば『美味しい』って言って貰いたいな


食材は業者任せなんだけどね。その辺は婆ちゃんが契約した、業者の選定が上手いのか


僕は本当に、業者の搬入品で足りないモノだけ、買いに出ている



今回のハンバーガーの材料も然別(しかり)



スーパーで買い物をして、早速仕込みに掛かる


ワインビネガーにピクルスを、漬けなくては成らないからね


本当は2~3日漬けて置きたいけど、そこまで待つと、他の材料買い直しになってしまうし、浅漬けもまた良いんじゃないかな


それと、明日が休日なので、朝から料理に掛かれるのもある



ここのところ、ちょっと休みすぎだよな……


宝剣探しは公の依頼だったので、西園寺さんが出席扱いにするよう頼んでくれたが


遅れた授業の内容に着いていくのが大変だ


…………

……


「今日こそは勉強しないと……と、思っていたのに……また酒盛りかよ!」


「仕方あるまい。赤城のヤツがまたやって来たんだからな」


この龍共……人の気も知らずに……


龍神達は既に、居間で酒盛りタイムに入ろうとしていた



それならば、対オロチ用に買った、()()を試してみるか


僕は香住に頼んで、冷処へ運んでもらって置いた、()()を持ってくる



「ふふふ、此れを呑ませれば……」



()()と言うのは、ポーランド原産のウォッカ。アルコール度数が96度と言う、芋から造る狂気のお酒である


そのアルコール度数の高さから、日本ではガソリンと同じ危険物に該当する程だ


普通なら、割って呑むのだが、試しに原液で出してやった



「お待ちどう様。はい、お酒」


「おう、変わった酒だな」


「日本酒と違って、お米じゃなく、お芋から造るお酒だからね」


「ほう」


御猪口(おちょこ)に一杯づつ注いで出してやると、乾杯してイッキ飲みする龍神達


「ぐあ……喉が焼ける」

と、セイが居間で、のたうち回る


「けほっけほっ、何ですかコレ」

()せながらも、堪える赤城さん


「……」

あ、淵名さんが倒れた。元々お酒に弱かったしね



「アルコール度数96度の世界一強いお酒、オロチに使おうと買って置いたんだ」


「それを、俺らに試すな!」


「そうですよ千尋さん、呑む前に一言いってください」


非難の嵐だ


「ごめんごめん、いやぁ流石96度は伊達じゃないね」


「火龍なら、火を吹いていたぞ」

それはそれで、ちょっと見たかったかも


幸い全員が雨水の龍神で良かった、社が火事に成らなくて済んだし


「水を操れるのに、アルコールは中和出来ないんだね」


「水気を飛ばして、濃くする事はできるぞ」


これ以上濃くしてどうする


「でも、薄めるには、空気中の水分を集めねば成りませんから、それをするなら水を汲んで来る方が早いですよ」


成る程


その後、日本酒で呑み直すとのことなので、またもや酒のツマミを作らされる


まったく、たまには赤城さんの処でも行って、呑んでこいよな


だが96度のウォッカ……その威力は証明されたのだった




翌日


案の定、寝ていて起きてこない龍神達


(かえ)って、邪魔されないので好都合だ


僕は、香住お手製の巫女装束改(尻尾用の緋袴スカート仕様)に着替えると、ハンバーガーを作りに台所へ向かいエプロンを着けた



先ず、バンズを焼くのに小麦粉をこねて、寝かせて置いてイースト菌で膨らませる


膨らましてる間に、パティの肉を味付け形成し、フライパンで焼く


その後、膨らんだ小麦粉を丸く形成してオーブンへ


バンズを焼いている間に、玉葱とレタスを刻み、挟む野菜は良いだろう


やっぱり、お店で大勢に出すのじゃなく、採算度外視で自作するのだから、タレにも拘りたい


ちょっと手間だが、ケチャップでなく、トマトを煮込んで、香住特製のミートソースを作った


ソースに時間かけてたら、丁度バンズが焼き上がったので、真ん中へ水平に包丁を入れ、上下二つに割る


これで後は、冷蔵庫からピクルスを出して、組み立てる


う~ん。昨日お店で食べたのより、手間を掛けた分豪華になったぞ


お店だと、大勢のお客さんに出さないとなんで、ここまで手間掛けられないものね



もう10時を回っていたので、龍神達を起こしに行った


「う~、水くれ~」


「千尋さん、すみません。此方にも水を……」


「儂にも……」


「だらしがないなぁ。はい、お水」


お水を出してやったのに、誰も飲もうとしない


「なぁ、また例の96度じゃ無いよな?」


「そこまで鬼じゃないよ! ちゃんとしたお水だよ!」

疑ってたんかい


昨日してやられたからな、と疑いの目を向けて来る龍達


だいたい、匂いで分かるだろうに


僕は、大丈夫だからと念を押して、やっと口をつけ飲み干す


龍神達は、お水を数杯お代わりし、ようやく一息ついたようだ



「ふぅ、で? 何で今日も『はんばーがー』なんだ?」

と、セイが言ってくるので


「健忘症にでもなったか? セイが食いたいって言ったんだろ!」


「昨日食べたじゃないか!」


「アホめ、昨日のと同じだと思うな」


「ん? こりゃあ美味しいですよ千尋さん」

昨日、後から来たので、ハンバーガーを食べてない、赤城さんが絶賛してくれる


「本当か? どれ……ほう、味が濃厚だ」

セイの言葉に満足し頷く僕


そりゃそうだろう、伊達に手間を惜しんでないよ


淵名さんは、いつの間にか無言でペロリと食べ終えているし


良かった。どうにか美味しくできたようだ


後で香住にも差し入れして、料理の神様の採点を貰わないとな



僕は、空いたお皿を下げて、台所へ持っていこうとしたのだが


突然


神社の境内から、物凄い殺気が感じられた


全身の毛が逆立つような


何だこれ


急いで、外へ出てみると。あのオロチの壱頭が、殺気を放っている


「この地に、心臓がこの辺りに在るのは分かっているが、どうしても見つからん! そこで、この土地に詳しいお前達龍神(トカゲ)共に命じる。オレの元へ心臓を見つけ届けるがよい!」


「我らをトカゲ呼ばわりとは、ミミズ風情が良く吠える」

赤城の龍神も負けずと殺気を放つ


「やる気か? このオレ様に楯突こうなど、弐千年早いわ!」

更に殺気が増し、それだけで尻餅を着きそうになる


こんなのに勝てるのか?



「ちょっと待ってよ。この前コンビニ出逢った時は、そこまで切羽詰まって無かったじゃないか、いったい何があったのさ」

僕は、オロチに問い掛けながら、今にも戦闘が始まりそうな、二人の間に割って入る



「……もう一首、封印が解けててな。オレより先に、心臓を手に入れようとして要るのが、分かったのだ」


「何だって!? もう一首の封印が解けてる? そんな……」

西園寺さんから、なにも聞いて無いよ


「オレも今朝接触するまで、知らなかったが……眼に薄い色付きの硝子をはめて、赤い眼を誤魔化して居やがった」

薄い硝子……コンタクトレンズの事か


たぶん、色付きと言うからには、カラーコンタクトレンズなんだろう


いったい誰だ?



「ふん! そんなのは、そっちの都合だろう。此方はお前だろうと、もう一首だろうと、復活されては困るんでな」

そう言いながら、僕を後ろへ匿う様に前へ出るセイ


確かに、どちらが心臓を手にしても。此方は終わりなのだ。



兎に角この膠着状態を、どうにかしないと……


そうだ! お酒!


僕は、そっと抜け出して、お酒を取りに行こうとしたが


「おっと! 何処へ行く気だ? 雌トカゲ」

あっさりオロチに捕まってしまった


「放せ! この!」


「丁度良い、雌トカゲを人質にして置く。3日の猶予をやろう。3日後の日没までに、オレのところまで心臓を届けねば……コイツを食ってやる」


オロチは、僕を抱えたまま、空間に孔を開けると飛び込んだのだった。




穴の向こう側は、また可笑しな世界が広がっていて


なんと、遥か彼方まで、竹林ばかりが続いているのだ


360度見渡す限り竹林で、一画だけ竹林のない、開けた場所がある


その開けた場所には、だいたい50メートル真四角で、そこに2本の鳥居が並んで立っていた


オロチは、僕をその開けた場所へ降ろすと


「逃げようと思っても無駄だぞ、この隠世(かくりよ)はオレが創った世界で、その名を『籠雌(カゴメ)』と言う」


籠雌(カゴメ)?」


「その字の通り、龍の雌を閉じ込める為に創った世界だからな、『言霊(ことだま)』の縛りもあるので、お前が龍の雌である限り絶対出られん」

無駄な足掻きは止めることだな。と言い残し、また空間に孔を開けて、何処かへ行ってしまった


この間、コンビニで逢ったときは、良いヤツだと思ったのに


く、困ったな


オロチの心臓は、僕が勾玉に入れて持っているのだから


見付かったら即アウトだ


セイ達も困ってるだろうな、探すも何も、僕が持ってるの知ってるし


心臓の在りかを教えても、多分ここでオロチの復活を眼にして、真っ先に食われるだろう


……


何とか脱出方法を考えねば



先ず、2本の鳥居を調べてみる


試しに、片方の鳥居にゆっくりと手を潜らせてみるが、もう片方の鳥居から僕の手が出てくるのだ


ちょっと面白いかも


今度は頭をゆっくり潜らせると、頭だけ鳥居に突っ込んだ僕の身体が横に見える


ループしてるわけか……


と言うことは、鳥居は引っ掛けだな


そもそも、こんなのに目立つモノが出口な分けない



他に出口に成りそうなのは……



考えろ、アイツは何て言った


確か『言霊に縛られてる』と、言っていたな


ならば、言霊から抜け出せば良い


では、どうやって?


アイツはこうも言った。『龍の雌には出られない』と……


つまり、僕が龍でなく人間に戻るか、もしくは男に戻れば出られるって事か


ちょっとそれは難しいな


男に戻りそうだった事もあったけど、自分の意志でやったんじゃないしね



では、他に方法は?


籠雌の籠と言う文字


龍の上に竹が載っている


この竹林にヒントがあるのかも


『籠』と言う字を崩すため、僕は駄目元で逆立ちをする


龍が上下逆さまに成れば、籠じゃ無くなるからと思ったのだが


やっぱり、無駄だよな……


そう思っていたら、竹林の一ヶ所が、上手く竹が交差してて、六芒星になってる箇所がある


その中心部の向こう側、明らかに此方側と空の色が違った


まさか! 出口!?


僕はその竹が交差する、六芒星の元へ行ってみた



向こう側から風が吹いてる


此方の世界みたいに停滞していない。間違いなく元の世界、現世(うつしよ)


問題は、穴の小ささ


僕の腕がやっと通る位しか開いてなかった


どうにか成らないのか……


僕は、その場に座り込むと、何か手は無いか考える



その時


『お困りの様じゃのぅ』


「え? 何処から?」

僕は突然聞こえた女性の声に、吃驚して周りを見渡す


『ふふふ。見渡しても、そんな処に居らぬわ。何せ妾は、御主の中に居るでのぅ』


「僕の中!?」


『妾は、淤加美(おかみ)(のかみ)。御主が望むなら、妾が手を貸してやろう』



なんか、凄い神話級のお方が、出てきちゃったんですけど


もしかしたら、このお方なら、出ることが出来るかもしれない。


そう一筋の希望に、(すが)るのだった。

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