46-3 決意
身体測定をするために、尻尾穴ありジャージに着替えたのだが
何故か、着替えただけで、多大な被害が出てしまった
水に濡れた服は、龍神達が水分操作して、乾かしてくれたので元通り
この先、梅雨に入るのに、便利な術だ
後で教えて貰らおう
ただ、天気干しじゃないので、お日様の匂いはしないけどね
とりあえず、身体が女子に戻ってしまったのだけど、男女どちらで受けるべきか……
男子更衣室みたいに、スケベな男子共と、一悶着あるのも面倒だしなぁ
かといって、女子に混ざって身体測定とか、目のやり場に困る
女子だと、鴻上さんも居るし……
「あー。僕は、どうしたら良いんだ」
「そんなの、決まっていよう。女子だ!」
セイ……お前は分かりやすいな
「人間の雌なんか見て、何が面白いんだか……」
そう言う、赤城の龍神さんは、本当に人間と龍族相手で手の平を返しちゃうな
人間には興味無いし、寧ろ下に見下してる節がある。アニメは好きなのにね
「むう、お昼ご飯になったら起こしてくれ、儂は寝る故……」
淵名さんは寝てしまった。本当に、この方はマイペースだ
と言うか、僕の頭上で3龍会議しないでよ
「あー! やっと見つけたわ」
そう言って現れたのは、香住だった
「いやね……彼方此方、水浸しにしたのには訳が……」
「もー、その尻尾穴ジャージ穿く時は、スカート併用してって言ってるのに」
なんだ、男子更衣室を水浸しにしたの、怒られると思ったら、ジャージの事か
「心配して損した」
「何言ってんのよ! 尻尾が見えない人には、尻尾穴の中のお尻が丸見えだって言ったでしょ」
「でも、ジャージでスカートだったら、ジャージ穿かなくても良くなるし」
「ダメだってば! ほら、スカートを穿いて」
強引にスカートを穿かされてしまった
「なんか、変な感じ」
「うん、これで尻尾穴が見えないわね」
着替えが終わって、香住チェックを受けていると、神木先輩が現れる
「やっぱり此方でしたか龍神様!」
「げえ、志穂……我はお前等、呼んでおらん! 去ね去ね」
「そう言う訳には参りませぬ。昨日居なくなったと思えば、また瑞樹の龍神様の処へ……余り社をほったらかしでは困ります」
神木先輩は、そう言って僕の頭上に居る赤城の龍神様を掴むと、そのまま連れていってしまう
「ええい、放せー。無礼者めー」
「ご容赦を……」
赤城の龍神の怒声が遠ざかる
あの人間嫌いな赤城さんを、無理矢理とはいえ、やり込めるんだから凄いものだ
「じゃあ、私達も行きましょうか」
「ちょっと、香住? 香住さん? 行くって何処へ?」
「決まってるでしょ、身体測定よ。今回は、身長……私の勝ちね」
「くっ、確かに女体化で少し縮んだから……て、そうじゃなーい! 何処へ……いや、どっちへ連れてくの?」
「保健室よ。因みに、男子は体育館で、測定受けてるみたい」
「待て待て待て、じゃあ、保健室は?」
「女子だけど?」
うはぁ……
「僕、一応男子なんですが?」
「その身体で、男子が居る体育館行く気?」
……
最初は、その心算でいたんだけど
さっきの更衣室での一件を考えると、襲われそうだと実感したし
今までの様に、男装している訳じゃ無いのだから、周りも僕を男として見れなくなってるのは当たり前、軽率だったわ
「はぁ……保健室で良いです……」
「もう、千尋ったら。この間だって女湯入ったでしょ。大丈夫よ」
心配しないのよ、と僕の背中を叩いてくる香住
「……そうなんだけどね。今回は更にハイレベルと言うか、同級生だし」
前回はまだ、顔見知りが居らず。歳上の方が殆どだったけど、今回は同じ歳、しかも顔見知りばかり
「考え過ぎだってば、お風呂と違って下着迄だし。まあ胸は……胸囲測るのに脱ぐけど、下はパンツ脱がないから」
全部脱がれてたまるか!
下まで脱いで全裸なら、鼻血吹いて倒れる自信があるわ!
「とりあえず、セイと淵名さんは、どうすんの? 教室で待ってる?」
「行くに決まっておろう。大丈夫、姿は術で消していくから」
セイは、本当にブレ無いな
「淵名さんは……て、寝ちゃってるか」
「淵名の奴にも、姿を消す術掛けておくから、大丈夫だ」
いやね、龍神達の姿云々より、下着姿の女子が居る処へ、連れて行く方がね……
「じゃあ、はいこれ着けて」
僕は、ハンカチを帯状になるまで折り畳んだ物を、セイへと渡す
「何でだコレ」
「目隠しに決まってるだろ」
「いや。先週、お風呂の時はしなかったし、今回も別に……」
「ダメだってば」
「何だよ急に……」
……
確かに、この間の銭湯の時は、モヤっとしたものがあっただけで、そこまで嫌じゃ無かった
だけど……
今は、セイが他の女の子の裸見てるのとか、凄く嫌なんだ
「じゃあさ、銭湯の時みたいに、雌に成っていくから……ダメ?」
「ダメ!」
「何だよ! ケチー、少し位良いじゃんか!」
僕は、近くの窓を開けると、セイの身体を掴んで、窓の外へ落とせるように手を突き出した
「目隠しか、自由落下か、好きな方を選ばせてやる」
「待て待て待て。ここ4階じゃないか!?」
「そだねー」
「……目隠しで良いっす」
素直でよろしい
僕は、ハンカチでセイに目隠しを施すと、頭上へ戻して香住の後を着いていく
あー、緊張する
丁度、ウチのクラスが保健室前に並んでいた
まだ廊下は、ジャージ姿だから良い
だけど、保健室内は……
……
くっ、意識しちゃ駄目だ
僕は、出来るだけ窓の外の景色に目を向けて、気分を落ち着かせていると
「来たわね、瑞樹千尋!」
やっぱり出たよ……鴻上さん
「えっと、ご機嫌麗しゅう……」
「ご機嫌なんか、斜めに決まってるでしょ!! よくも、ドアごと水圧で吹っ飛ばしてくれたわね!」
あちゃー、凄い怒ってるし
「でもさ。何で女子の鴻上さんが、男子更衣室のドアで吹っ飛ばされるの? おかしくない?」
聞き耳立ててたの知ってるけど、わざと言ってみる
「べ、別に……たまたま通り掛かったら、ドアが飛んできたのよ!」
「たまたまねぇ……」
「うるさい! うるさい! うるさーい! こうなったら、測定で勝負よ瑞樹千尋!」
「勝負よって……背丈は負けてるの分かってるし……」
「背丈は? まるで他は勝ってるみたいな言い方ね」
「だって、胸は僕のが大きいし」
と言うより、たぶん同級生全員僕より大きい子居ないんじゃ無いかな
しかし、この僕の何気無い一言で凍り付く女子達
何か、凄い不味いこと言ったかも……
「ふ、ふん。どうせ見かけ倒しでしょ」
見てなさい! とキレて列に戻っていく鴻上さん
何だかなぁ
僕は、あいうえお順だと、『み』だから後ろの方なので、最後まで待たされた
でも、これは却って好都合かも、途中で入室するより、皆が終わった後の方が、下着姿の女子も少ないだろうしね
そして、ついに順番が訪れる
「何で、鴻上さんは待ってるのさ」
「ふん。数値を誤魔化さない様に見てるのよ」
そんな事しないって、鴻上さんじゃあるまいし
僕はジャージを脱ぐと、胸囲を測る為にサラシを外そうとするが
何だ……
胸に違和感が……
まさか!? こんな処で男に戻るのか!?
そう思っていたら
突然、胸が車のエアバックを作動させたみたいに、更に膨らんでいく
「ぐお、お、重い……」
「な、何よそれ……」
と、青ざめる鴻上さん
保健室に居る全員が唖然としているが、当事者の僕はたまったものじゃない
「と、とりあえず瑞樹君。このままじゃ測れ無いから、このテーブルにうつ伏せになって」
我に返った保健教諭が、テーブルを持ってきた
さすが、人生経験豊富な年配者だ。立ち直りも早い
鴻上さんなんか、まだ立ち尽くしてるし
僕は香住に手伝って貰いながら、机の上から胸だけ出して、うつ伏せ寝になる
「せ、先生……早く……根元が千切れそう」
「えっと、ひゃく……126センチ……」
胸囲1メートル超えたぞ……どうなってるの僕の身体
測定が終わりサラシを着け様とするが
「どうすんだ……これ」
困っていると、また胸に違和感を感じた
まさか!? まだ大きくなるの? これ以上は、要りません。勘弁してください
そう願っていたら、小さく成って元の大きさになった
僕の頭の上で、笑い転がるセイへ、先日『宝剣』探しの時に教わった『念話』を飛ばす
『まさか、セイが何かしたんじゃないの?』
『俺じゃないぞ。だいたい、お前は術反射持ってるんだから、外から何かしようも出来ないだろ』
確かに
だとすると、やっぱりオロチの心臓の入った、勾玉のせいか
もう、勘弁してよ
「ふっ、瑞樹千尋。流石にあれは、あたしの負けで……ん? 胸縮みましたの?」
ヤバッ!!
「そんな事、あるわけ無いよ。目の錯覚じゃない? 小さく見えるのは、サラシで潰してるからだよ」
はははーと、渇いた笑いで誤魔化した
「むう、なら体重はどう? 女子はね、この日の為に、前日から食事を抜いて来る位、命掛けるのよ! 貴女にその気構えがありまして?」
うはぁ……本物の女子って凄いな
僕なんか、この間まで男だったから、体重など気にしたこと無いし
元々、食は細い方だけど、どうなんだろうな……
僕は、体重計の上に片足を掛ける
他の女子の視線が集まり空気が張り詰め……
もう片方の足も、体重計にのせた
「え!?」
「なに?」
「そ、測定……不能……」
そう、体重計の針が振りきれたのだ
「はあ? 何よそれ!?」
「僕に言われても知らないよ」
凄い剣幕で、掴みかかろうとする鴻上さんに答えた
『あはははは、まあ、そうだろうな』
セイの笑い声が念話で飛んでくる
『セイ、どう言うこと?』
『だって、お前は龍なんだぞ。見た目は、人間に角と尻尾が生えただけかも知れないが、実体は大きな龍なのだから、重いに決まってる』
『そう言うことか。でも、困ったな……』
『だったら、尻尾を床に押し付け、身体を浮かせれば良い』
その手があったか、インチキに成ってしまうが、この際仕方ない
僕は、体重計の外の床へ尻尾を立てると、ゆっくり身体を浮かせていく
すると、振り切れてた体重計の針が戻ってくる
「ど、どうなってますの?」
不思議そうに針を見ている鴻上さんと保健の先生
『なあセイ、女子の平均体重って、どれくらいかな? 余り浮かせ過ぎても騒ぎになるし』
『俺に聞いても、知るわけ無かろう。他の女子のと、同じぐらいで良いんじゃないか?』
んー、じゃあ50キロ位にして置くかな。でも、ちょっと背も縮んだから、更にマイナス2キロっと
「48キログラム……」
保健の先生が用紙に記録する
「何よあれ!? インチキじゃありませんか? 針が戻るなんて……あり得ません!」
と、鴻上さんが喚き散らす
その鴻上さんの後ろで、尻尾の見える様になる眼鏡を掛けた香住が、額に手を当てて頭を振っている
いや、だって。振りきれるのは可笑しいし、仕方ないでしょ
他にも、身長を測ろうとしたのだけど、尻尾が邪魔で、背中が計り器に付けられない等
トラブルだらけだった
最後は、無理だと判断され、メジャーで測られたけどね
身体測定が終わる頃には、皆疲れきってしまい、勝負云々は有耶無耶に成ってしまった
その方が、僕としては良かったので、御の字である
本来、他のクラスの身体測定終わるまで自習なのだが、女子は購買店へパンを求めて買いに出た
やはり、前日から食事を抜いているのが、効いているのだろう
改めて、女子の体重に対する執念には、驚かされる
パンを買い出しに行かない女子は、きっと思ったより体重が多かったのに、ショックを受けたのであろう
まぁ、数日でそこまで変わらないとしても、少しでも軽くと願うのは、女心と言うものだと勉強に成りました
僕なんか、身体測定と聞かされて無いから、しっかり食べて来ちゃったよ
測定が終わって、戻ってくる男子勢の中に、見知った顔……正哉だ
「千尋、お前の背丈どうだったよ」
「伸びる処か、逆に縮んだわ!」
「そっか、残念だな。俺なんか去年より3センチ伸びたんだぜ」
くう……羨ましい
「僕なんか、ずっと張り合ってた、香住との背丈競争……負けちゃったよ」
「抜きつ、抜かれつだった勝負に、決着が着いたか……でも、胸は勝ってるんだから、良いじゃないか」
あ、馬鹿! 香住の胸の話は……
「斎藤君、今何て言ったのかな?」
突然、背後に現れた香住の殺気で、硬直したように立ち尽くす正哉
「た、高月……さん? 俺は何も……」
「あら? 胸がどうとかって聞こえたけど、斎藤君じゃないなら、千尋かしら?」
僕は、頭が取れるんじゃ無いかと思うぐらい、左右に振って否定する
超怖えー
香住の顔は笑っているのに、殺気が凄すぎる
「じゃあ、二人とも同罪って事で……」
「ひっ!」
そこから、僕は意識を失って、よく覚えていない
正哉、巻き込むなんて酷いぞ、コノヤロウ……
そして……
気が付けば、お昼休みだった
僕らは、屋上に出てレジャーシートを広げる
「やっぱり、赤城さんは来ないんだね」
「まあ、赤城の龍の巫女が、連れて行ったからな」
重箱を開けて、淵名さんにも勧める
「千尋殿は、料理が美味くて良いではないか」
「コイツの料理は、和食ばっかなんだぞ、飽き飽きだ」
言わせて置けばコノヤロウ
何だかんだ文句は着けても、毎回ちゃんと食べてくれるんだよね
そこだけは、嬉しかったり……
でも、悔しいから、何時かちゃんと『美味しい』って言わせてやる
……
何時か……か……
もう、余り時間は無いんだよな……
セイが、天に帰ってしまう
僕は、別れの時が近いのを改めて感じ
セイが帰る前に、絶対美味しい料理をご馳走すると、決意をするのだった。