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龍神の花嫁修行  作者: 霜月 如(リハビリ中)
龍神ルート
73/83

43-3 宝剣

Y県S関市


まだ海水浴には早い季節なので、泳いでいる人は流石に居ない


そんな冷たい海の中を、僕とセイは宝剣を探しに海へ潜って探索する


と言うのも、数日前にオロチの壱首に出逢ってしまい


その事を、神社本庁の西園寺(さいおんじ)さんに話したら

切り札として、オロチを斬れる宝剣が必要だとのこと



宝剣……『天叢雲剣あめのむらくものつるぎ


別名『草薙剣(くさなぎのつるぎ)



1185年、檀ノ浦の戦いで海中に沈んだとされ、以降喪失されたままだと言う



『おい、これだけ探して無いんだから、もう誰か持って行ったんじゃないのか?』

頭の中のセイの声が響く


海中では、声を発っせられ無いため、『念話』と言うもので、直接会話を飛ばしているのだ


最初は戸惑ったが、慣れてしまえば何てことない


ただ、思った事が全部いってしまうため、念話での内緒事は難しかった


『ん~、そんな事はないと思うよ。オロチの心臓の入った勾玉が反応してるし』


僕は、頭の上に居る小さく成ったセイに、そう念話を飛ばす



手分けした方が早いのだが

探知レーダー役の、宝剣に反応する勾玉は1つしか無い為、結局一緒に行動している


じゃあ、セイは留守番のが良かったんじゃ? と言ったら


水流を操るのも龍神修行の内だ! とか行って着いてきた



『本当は、河豚が目的の癖に……』


『何か言ったか?』


『べ、別に』

危ない危ない、思った事が念話でいってしまった


『しかしなぁ、もう4日目だぞ。だいたい、800年以上も見付かって無い、宝剣(モノ)を探せって言ってもなぁ』

セイは、だいぶ飽きが来ているようだ


僕も水流操作が上手く成って、今や海流に逆らって泳ぐのも、御手の物に成るぐらい泳ぎっぱなしなのである


ただ、1つ心配なのは、海水なので塩分過多に成らないかと言うことだけ



そのまま捜索しようにも、セイがあまりに五月蝿くなったので、捜索を中断して岸に上がる


「ふう、やっと声で話せるし」

「よし! 飯にするぞ飯!」

「セイ……そればっかだな」

「馬鹿者、ずっと山奥の神社で暮らしてたんだぞ。海に来たのに、海のモノを食べないでどうする」


まぁ、言いたいことは分かりますがね



陸に上がった僕らに、タオルを持ってきてくれた、初老の男の人が問う

「宝剣探索の方は、どうですか?」

そう聞いてきたのは、西園寺 兼仁(さいおんじ かねひと)


神社本庁の人で、オロチ案件の担当係


見た目、白髪混じりの50代前半って処かな、目はほとんど開いていない糸目ってヤツで、新聞を読むときは老眼鏡を掛けてる


「ん~、800年以上も経ってるので、なかなか難しいです」

「ふん、泥とか砂礫に埋もれてるのかもな」

僕とセイはそれぞれ報告をする


「そうですか……海流で流されてる可能性も、考慮した方がいいですね」

西園寺さんは、そう言って顎に手を当て考えているが、元々糸目のオジサンなので、困っているのかどうか表情が読めない


「まぁ、流されてたとしても、そう遠くじゃないですよ。勾玉が反応してますから」

そう言って、首から下げた龍の鱗の勾玉を見せる


普段は七色に見える勾玉が、碧色だけ強調されて光るのだから間違い無いと思う



「ともかく、お昼ご飯にするぞ。腹減った」

セイが元の大きさに戻って駄々をこねるので、僕は我が儘ですみませんと謝った


「あ、いや。神様ですから」

そう言って苦笑いの西園寺さんは、用意したワンボックスの大きな車で、水着を着替えるよう言ってくれた


着替えも、ちゃんと尻尾穴のあるモノが用意されてて

全部、オーダーメイドなんだろうな。普通の人間なら、尻尾穴なんか作らないし

この水着もそうだが、お金が掛かっている


まぁ、それも宝剣が見付かり、オロチの一件が片付いたら、剣の所有権を熱田神宮へ渡すと、サインさせられたのだから

そのぐらいのサポートは、当たり前ですよ。と西園寺さんは言っていた



僕は、海中に居るのが苦になって無いので、別に良いんだけどね

むしろ、水の中のが心地良い位


なんか僕……人間離れしてきてるなぁ



着替えが終わると、西園寺さんのオススメ店に案内してもらいお昼を食べる


「本当にセイは、海産物ばっかだね」

僕は、名物の柔らかいウドンを食べながら言う


「昨日は河豚だったからな。今日は剣先イカだ」


まったく、海で冷えた身体に、冷たいイカの刺身とか良く食えるな

と言うかセイ……お前海に潜ってる時、隠れてエビ食ってたの、知ってるんだから



僕は、急ぎウドンを食べ終わると、店の外に出て香住に電話してみる


『はいはーい。千尋、そっちはどう?』

留守中、神社を任されてくれた香住が、元気な声で電話に出た


「こっちは、まだ宝剣が見付かって無いんだよ」

『あらら。じゃあ、明日の学園も休みなのかな』

「そうなるかも……まあ、この後の捜索次第って処。そっちは? オロチとか襲って来て無い?」

『全然、あの夜からさっぱりなのよね。目撃談も無くて、どこかに消えちゃったみたい』


まさか……オロチの心臓が西日本(ここ)にあるから、Y県に向かってたりして……


だとすれば、宝剣探しを急がなくちゃ


「他に何か変わった事はない?」

『んー。あ、旧中学校があったじゃない』

「あの山際にあるボロボロの校舎だろ、幽霊が出るとか曰く付きの」

『そそ、あれが燃えちゃった位かな』


おいおい、燃えちゃった位って、大事じゃないか

まさか、オロチ絡みなんじゃ……


『他にはねぇ、山の上の龍神湖が干上がったっと思ったら、翌日には戻ってたとか』


何それ、ちょっと見てみたかった



「一応、今の話セイ達にしておくよ」


『あ、後ね。淵名の龍神様が、千尋に言われてたお酒用意したって、未成年なんだからダメよ』


「いやいやいや、僕は呑まないから。対オロチ用のお酒だし」


『オロチ用って、神話みたいに呑ませるの!?』


「そう言う事。神話で須佐之男命(スサノオノミコト)が酔わせて倒してるからねぇ。神話に(なら)うのさ」


『成る程ね。それで天蔵(アマゾウ)さんから()()が届いてたのかぁ』


「もう届いたんだ? たぶん量的に冷蔵庫は無理だから、淵名さんのお酒と一緒に、冷暗所……セイの元居た洞窟にでも置いといて」


『分かったよ。その代わりお土産よろしく』


「はいはい。じゃあ、オロチに気を付けて」

そっちもね、と電話が切れる


お土産を忘れるな! と言うところが、正に香住らしい



スマホを仕舞おうとして、一件の不在者通知に気が付く


着信者は……正哉だ


僕はとりあえず、留守番電話を再生してみると


『千尋? 俺だ、正哉だ。早く帰ってきてくれ~。鴻上の奴に付きまとわれ……ヤベ! 気付かれた!』

そこで録音が終わっていた


「……」

聞かなかった事にしよう


どのみち宝剣が見付かるまで、帰る訳にいかないしね



僕は、お店の中へ戻ると、更に追加注文しているセイの前に座り、温かいお茶で冷えた身体を暖める


「向こうの様子はどうだって?」

口いっぱいに魚介を頬張りながら、セイが聞いてくるのを


「お行儀悪いぞ、食うか喋るかどっちかにしろよ」

と、(とが)めてセイの追加した刺身を一切れ貰う


「おまっ……自分で頼めよ」


「良いじゃん、一切れぐらい。どうせ西園寺さんの奢りなんだし」


僕は、先ほどの香住の話を、セイと西園寺さんに聞かせる


「姿を見せないって言うのが不気味ですね……急いだ方が良いかもしれません」

と西園寺さん



セイなんかは、地元の事よりもオロチが倒せるか? と言うのが心配みたいで


「宝剣でオロチを斬れたとしても再生されては、また同じ結果になるんじゃないのか?」

大昔(神話)でも、オロチを仕留め切れなかったのに……

と、セイの言うことも最もだった


「その辺りは、もう一度、封印し直すしか無いでしょうね」

封印か……


まあ、酔わせて動けなくする算段は出来てるけど、封印ねぇ


根本的に倒した事に、ならないんだよな


何か良い方法は無いものか……



まあ、何はともあれ

先ずは、宝剣を見付けてみない事には、始まらない



「もう少し、内海の方に移動してみますね」

僕は水着に着替え直すと、小さく成ったセイを頭に乗せて、海中へ飛び込んだ


内海へ移動するに連れて、勾玉の光が強くなる


『お前の読み、当たりかもしれんな』

海中なので、再び念話で話してくるセイ


『この辺りかもね』

海底を探して回るが、剣らしきものは見当たらない


やっぱりセイの言う通り、800年の内に泥や砂礫に埋もれてるんだろうか


適当な岩をひっくり返してみるが、巻き上がる砂煙で視界が悪く成るだけだった


そんな時セイが

『おい、ちょっと待て……』


『宝剣があったの!?』


『いや……吐きそう……』


『馬鹿ぁ! 僕の頭の上で吐くな!!』


『どうも、食べすぎたみたいだ……』


『アホー、あっちの岩影に……いや吐くな! 海中だし漂って来そうだもん』


『無理っぽい……うぷ……』


僕は、口を押さえてるセイを、頭上から掴んで下ろすと、岩影に向かってぶん投げる


漂って来そうではあるが、頭上で吐かれるよりはましだ



『大丈夫?』

セイに向かって念話を飛ばす


『せっかく食ったモノが……勿体無い』


『第一声がそれかよ!』

声じゃ無いけど


『あった』


『何があったって?』

僕は、嫌々セイの吐いた岩の裏へ顔を出す



今まで岩影で見えなかったが、その岩の腹に剣? らしきモノが刺さっている


『お手柄じゃないか』


セイの吐瀉物(としゃぶつ)……いや(あた)って吐いた訳でないから、吐物(とぶつ)を扇いで遠くへやると、試しに勾玉を剣らしきモノへと近付けてみる


勾玉は凄い光を放ち、剣もそれに反応し光だした


そして光が剣に吸い込まれたと思うと、一気に海流が吹き出し大渦を創る


『何が起きた!?』

『僕に言われても分からないよ! ただ言えることは、僕等、渦に流されてる』


二人共、剣から吹き出した水流の渦に流され、巨大な洗濯機の中に放り込まれたかのように、海中をぐるぐる回る


『おい、水流操作して渦から離脱しろ!』

セイの言葉に水流操作を試みるが、全然操作できずに流されるのみだった


『無理みたい……』


『このままだと、また……うぷ……』


『僕の頭上で吐くのを止めろー、だいたいセイの方が、水流操作上手いんじゃないの? 現役の龍神なんだし』


『渦で酔ったから集中できん』

アホー


その時


渦に流されるままの僕の手を、突然掴んで引っ張る人影


いや


尾びれ!?


僕は謎の人物? に手を引かれて、渦から脱出する



渦から、だいぶ離れた小さな岩礁に引き上げられると、僕は助けてくれた人? にお礼を言った

「ありがとう、お陰で助かったよ」

そう言ってから、岩礁に立って渦へ振り返る



「きゃあああ! あ……足がある……」

「そりゃあ、足はあるって、君だって……ん!?」

岩礁に腰掛けた、髪の長い彼女の脚は、尾びれになっていた


いわゆる『人魚』って奴だ


生まれて初めて見た……ちょっと感動


「こ……こ……」


「こ?」


「コロス!」

そう言って、近くのバレーボール大の石を持つと、殴り掛かってきた


「何でだああ!?」

さすがに、石だと白羽取りと言う訳にもいかず

横に跳んで避ける



「私達人魚は、人間に姿を見られたら、殺さないと成らないのよ! 尻尾が尾びれに見えて、同族が溺れてると思ったのに……騙さ……あれ? 尻尾? 人間に尻尾なんて、ありましたっけ?」


そう言いながら、僕の臀部(でんぶ)に生えた尻尾を、凝視(ぎょうし)する彼女


「人魚の娘よ。コヤツは人間出はない。見ての通り龍神だ」

いつの間にか、船酔いならぬ、渦酔いしていたセイが立ち直って、僕の頭上から声を掛ける


正確には、龍神候補何ですがね。変な事言って、また『コロス!』なんて襲われると厄介なので、敢えて訂正しないでおく



「じゃあ、私は殺さなくて良いの?」


「うむ、ちゃんと角もあるのが、龍の証拠だ」

セイの言葉を聞いて、持っていた石を落とすと


「すみませんでした。龍神様とは知らず、襲い掛かってしまって」


「あ、いや。渦から助けられたのは僕等の方だから、本当にありがとう」


両者共に頭を下げて、それぞれ謝罪と御礼を言い合う



「しかし、困ったな。どうやって宝剣に近付くよ」

渦を凝視したセイが言う


「渦の外からは、水流操作効かないから無理だね」

人魚ちゃんみたいに、相当泳ぎ慣れて無いと、流れを読んで進むのは無理だろう


「たぶん、俺の水流操作でも、御しきれるか分からんぞ」


「大丈夫、困った時の西園寺さんさ」

僕は、胸の間に挟んでおいた、防水スマホを取り出すと、西園寺さんにヘリを飛ばして貰うよう連絡する


「おい『へり』ってなんだ?」


「簡単に言うと、空飛ぶ鉄の塊。まぁ、すぐに来るから分かるって」


そうセイに告げてから、人魚の彼女に再度御礼を言う


この後は、西園寺さんとかパイロットさんとか、人間が来るからと人魚の彼女とお別れする


「良いのか? 名前も聞かないで……可愛い娘だったのに」


「だったら、自分で聞けよな」




僕はヘリが来る前に、作戦を説明する


「渦の中心は水流がない、そこで空から中心部へ直接飛び込み、ワイヤーを宝剣に掛けて引っ張りあげる!」

「お前、凄いこと考えるな」


「名付けて『宝剣キャッチャー大作戦』」

「ネーミングセンスは最悪だ」

うるさいよ


あらかじめ、ヘリにワイヤーを積んできて貰うよう、話しておいたので準備万端だ


セイは、初めてヘリに乗ったと(はしゃ)いでいるが


実は、僕もなんだ


二人で、ヘリに揺られながら、子供のように(はしゃ)


「そろそろ渦の中心です! 千尋君……御武運を」

そう西園寺さんの合図で、渦の中心部へワイヤーを持って飛び込む


今回、セイは念話での連絡係として、ヘリに残て来たが、ずっと一緒だったので少し寂しい

本人の前では、調子に乗るから言わないけどね



僕は、横風に流される事もなく、丁度、渦の真ん中へと潜ることに成功した


後はこのワイヤーを引っ掛けてっと

先に付いたフックにワイヤーを通し、剣に襷掛(たすきが)けする


『準備オッケーだよ、ゆっくり揚げて』

僕はヘリに残したセイへ念話を送る


『よし! 引くぞ』

そう念話の返しと同時に少しずつ、緩んでいるワイヤーが引かれて張っていく


少しずつテンションがかかり、引き抜かれていく宝剣


良かった、ポッキリ折れなくて


何時もの流れだと、オチがあるんだもの


僕の心配も他所に、無事に抜けて引き揚げられていく宝剣を見守る


宝剣が岩から抜けた時点で、いつの間にか渦も消えていた


『じゃあ、僕は渦が消えたんで、このまま泳いで陸に上がるよ』

そう念話を送ると、車が止まってる場所に向かって泳いでいく



陸に上がって驚いたのは、タオルを持ってきてくれたのは、人魚の彼女だった


「えええ!? 足があるし」

「ふふ、実は海水が乾くと、足になるんですよ」

成る程ね


普段は、人間として振る舞い、暮らしてるんだそうだ


「君のお陰で助かったよ」


「じゃあ、是非ウチのお店でお土産買って行って下さい」


それぐらい御安いご用だ


香住にも、お土産頼まれてるしね


僕は、帰る前にお店へ寄らせて貰うと約束して、ヘリの止まってるところへ駆けて行く


なんと言うか、宝剣を引き揚げたのに、ガッカリ肩を落として居るセイと西園寺さん


あーやっぱり。何かオチがあったらしい


「こいつを見ろよ……」

そう言って顎で宝剣を見るよう促すセイ


海中では、薄暗くてよく分から無かったが、引き揚げられた物体は


形こそ剣だが、錆び錆びと言うか、色んなモノが、こびり付いてて


それこそ、ウチの包丁のが切れそうなのだ


駄目じゃん


全ての苦労が、水泡に帰したのだった。



お話しの中のでは、檀ノ浦に沈んだ宝剣を引き揚げたと成ってますが

そもそも、宝剣が檀ノ浦に沈んで居ないと言う説もありますので、ご了承下さい


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