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龍神の花嫁修行  作者: 霜月 如(リハビリ中)
龍神ルート
71/83

41-3 赤城の龍の巫女

ようやく、帰りのホームルームを終えて、鴻上さんの悪意から解放される


なんか……いつも以上に凄く疲れた


復帰初日からこれでは、身がもたないぞ、まったく……



「かなり(やつ)れたな……」

そう髪の中に居る、セイから声が掛かる


「あのな……言って置くけど、半分はお前のせいだからな」


あの調理実習の後、満腹になったセイは

事もあろうに、僕の頭の上で寝てしまったのだ

それも、イビキをかいて……



「あれは不可抗力だ。徹夜明けだったし、腹一杯で寝ない方が、おかしいだろ!」

「威張って言うなバカ! イビキの音を誤魔化すの、大変だったんだからな」


お陰で僕は、目を開けたまま寝いてる、変なヤツと思われてしまった

寝てないのに……


睡眠学習君とか、変なあだ名付けられたら泣くぞ



色んな事に疲れ、ゲッソリしながら、鞄に教科書を詰めていると、クラスメイトから声が掛かった

「おーい、瑞樹。お客さんだぞ」

僕は、呼んだクラスメイトの指差す方へ視線を送る

そこには、黒髪セミロングの女生徒が、教室の入り口に立っていた


リボンの色が緑……と言う事は、3年生か


待たせるのも悪いので、帰り支度を中断し、入り口に向かう


「瑞樹千尋……君? よね?」

「そうですが、えっと……初めまして……ですよね?」

「ええ、あってるわ」

「逢ってる!? 何処でだろ……」

「その『逢ってる』ではなくて、間違ってないと言う意味の『あってる』よ」


なんだ……紛らわしいな


「で、何でしょうか? 先輩」

「私は、神木(かみき)志穂(しほ)。ちょっと聞きたい事が……場所変えて良いかしら?」


何か訳ありの話らしい



僕は、神木先輩の後をついて、屋上へ移動すると

すぐに背中を壁に預ける


「何やってるのよ……」

「いや、屋上に呼び出されたので、大勢で待ち伏せて、袋叩きにされるのかと」

「する訳無いでしょ!」


「だとすると、僕を押し倒して無理やり……」

「しないわよ! 私を何だと思ってるの!?」


「いや、ついこの間まで、他の先輩に貞操狙われてましたから」

「そんな変な人と、一緒にしないでちょうだい!」



そんな変な人呼ばわりされて、停学中の小鳥遊先輩……今頃くしゃみしてるな



神木先輩は、急に眼を細めて睨みながら、僕との距離を詰めると、首を鷲掴みにして

「あなた……本当に瑞樹君なの?」

「そ、そうですが、暴力反対っす」

「おかしいわね……確か男の子って聞いてたのに……どう見ても、女の子じゃない」

「あの……飛び跳ねても、小銭の音はしませんから許して」

僕は、涙を一杯に溜めて訴える


「何よ! これじゃ、私が苛めてるみたいじゃない! カツアゲなんてしないわよ!」


「命でも、貞操でも、お金でも無いとすると……後何だろう……」


「だから、何もしないってば!」


「なんだ……じゃあ、とっとと話を先に進めてくださいよ」


「はぁ、貴女と話してると疲れるわ」

失礼な先輩だ




「ふ、コヤツが瑞樹千尋である事は、俺が保証しよう。赤城の龍の巫女よ」

埒が明かないと見たセイが、髪の中から出て来て、助け船をだしてくれる


「これは! 瑞樹の龍神様!」

小さいままなので貫禄が無いと思いきや、そんなセイに数歩下がって御辞儀をする神木先輩


「この龍の娘は、俺の子を産む大事な妻だからな、余り乱暴しないでやってくれ」

「僕はまだ、お前の……」

「まあ、聞け。ここで俺の話を否定すると、また首を絞められるぞ」

うぐ、確かに……


仕方ない、ここはセイの話に乗って、黙って置こう



「それで、赤城の巫女よ。俺らに何のようだ?」

「はい、実は……ウチの神社の御神体であらせられる、赤城の龍神様が、昨日からお姿が見られないのです」


あ~、昨日泊まってったからなぁ

連絡を入れ無かったのは、不味かったか……



ん?

何で赤城の龍神に仕える龍の巫女なのに、『赤城』じゃなく『神木』なんだろう

後でセイに聞いてみよう



セイはそのまま会話を続けている

「赤城の龍神なら、ウチに来たぞ」

「な!?」

「俺が天に帰る前に、挨拶がしたいと言ってな」

「そうでしたか……」

所在が分かったからか、安堵の溜め息を漏らす神木先輩



「たぶん、まだ居るかも知れんがな」

そう言って笑うセイだが

「それは、由々しき事態です。2日間も、赤城神社に御神体が居られ無いなんて……」


その分ウチの神社に、3柱もの龍神が集まってますがね


とりあえず、ウチに居たら連れ帰りたいと言うので、一緒に帰ることになった


「では、私は校門で待ちますので」

そう言って、先に外に出ていく先輩を他所に、僕はセイと1階の購買へ向かう



「購買で何を買うんだ?」

「女子の制服の予備と、此れから夏に向けて、衣替え用の夏服を注文しとくの」



そう、男子制服は一通り揃っていたのだが、女子用は今着てるのと他に、ブラウスが1着あるのみなのだ

胸のボタンがギリギリ耐えてる感じなので、もう一回り大きいのに注文しないと……


購買で寸法を測られたら、特注品になるとの事


むう……

試しに、既製品で今着てるヤツの上サイズにしてみたが、胸は良いんだけど、他の部分がブカブカで、やっぱり特注品になってしまった


仕方ない、胸回りのボタンよ……もうしばらく頑張ってくれ


ボタンに負担かけぬよう、明日からもう少しだけ、サラシを強めにするか……


後は……前貼りノーパン状態を、どうにかせねば


問題は山積みである



注文を終えて、神木先輩の待つ校門へ向かう途中で、屋上での疑問をセイに聞いてみることに


「なぁセイ、神木先輩の名字なんだけど……」

「ん? ああ、赤城で無いって言うのが、不思議なんだろ?」

「そうそう、龍の巫女なのに、どうしてなのかなぁって」

「それはな、龍の因子を持ってないからだ」

「え?」

「龍の因子を持った者が、戦時中に徴兵されてな。戦場で亡くなったと聞いている」

「じゃあ、今巫女をしているのは……」

「神社庁から派遣された、神事に詳しいだけの人間達だな」


成る程……

だから、僕が雌龍にされて、スカート穿いている、本当の意味(龍の神子を産む)を知らなかったのか


赤城の龍神さんが、雌龍の僕を珍しがってるのも、得心がいく



「ん? じゃあさ。もしかして、角と尻尾も見えてない?」

「どうだろうな、ただの人間でも、修行次第では見えるようになる者もいるし」



確かに、お坊様達は、修行で霊的なモノが、見えるようになると言う話もある


だったら神道でも、修行次第で同じ事が言えるかも知れない


こればかりは、修行した本人しか分から無いことだけどね



僕は、全然霊力とか神力なんて無かったけど


龍にされてからは、変なモノが見えるし、追われるし、狙われるし

……考えてみれば、良いこと無いな



しかし、神木先輩に尻尾が見えて無いなら、ただの女装癖と思われてそう

違うのに……



僕は、肩を落として昇降口へ向かうと

2階から、かけ降りてくる人物と、ぶつかりそうになる


「おっと、済まねえ!」

「正哉!?」

「なんだ、千尋か?」

「何だとは、ご挨拶じゃないか」


「いや、今追われてるんだよ! 鴻上が来たら、俺の事見てないって言ってくれよ」

「うぁ……僕を巻き込まないで欲しいんだけど」


鴻上さんの名前聞いただけで、身体が拒否反応してるし


何せ、今日は一日中、悪意の視線を浴びてましたから


そこへ、運悪く

「瑞樹千尋!!」

「ひぃぃ、こ、鴻上さん!?」

「また、斎藤くんと……」

「ち、違うから! えっと……僕は何も見てないよー」

「千尋、お前見つかってから言っても仕方ないだろ! しかも、棒読みだし!」

「だって、正哉が言えって……」


「瑞樹千尋……また、あたしと斎藤くんの恋仲を邪魔する気!?」

「え? いや、ちょっと待……」


「問答無用よ!!」

そう言って、鴻上さんは金属バットを振り上げる

「そのバット、どっから出したんだよ!?」

僕は、すかさずバットを白羽取りし、鴻上さんと対峙する


本気の殺意だし



鴻上さんの背後で、男子トイレから出てきた野球部員が『立て掛けといた、俺のバットがねえ!』って騒いでる

お前のバットかよ!


部員君のバットは、僕の頭をかち割りそうだよ!



「助けて正……」

振り返ったら、正哉が居ねえし


「済まん千尋、あとは頼んだ」

いつの間にか靴を履き替えて、外へ飛び出していく正哉


「こらー正哉ぁ! 裏切り者~」


ぐぬぬ……凄い力だ

少しでも気を抜くと、僕の脳天にバットがめり込むし


せめて金属は止めてよ



「金属バットでヤられる龍とか、お前弱すぎだろ」

髪の中からセイが呑気な声をあげる


「アホー、このままだと、頭上のセイもバットを食らうんだからな」

「なに!? おい、もっと気合い入れて押し返せよ」

ようやく事態を察したのか、慌て出すセイ


良いから、どうにかしてくれ


鴻上さんの殺気に、後ろでバット返してと言えずに居る野球部員

お前ら男の子だろ! 羽交い締めでも何んでも、どうにか出来ないんかい!



バットを挟んで、完全に膠着状態の僕と鴻上さん


そこへ


「何時まで待たせる気だ!」

待ちくたびれたのか、校門で待ってたはずの神木先輩が、戻ってきた

「先輩助けて……」

「瑞樹君……いったい君は何を……」


状況が良く掴めて無いのか、僕が金属バットを白羽取りしてるのを、不思議そうに見ている


「赤城の巫女よ、何とかしてやってくれ」


「はっ、龍神様の頼みならば!」


おいおい、僕の助けを頼んだ時と大違いじゃないの

セイの頼みなら、ひとつ返事かよ


神木先輩は、靴を脱ぎ捨てると、そのまま僕の目の前に来て、バット片手で取り上げる


「片手!?」

ただの人間なのに凄い力だ

僕なんか、龍化してるのに、押し負けそうだったし……


「何するんですか!? 瑞樹千尋の味方して!!」

「別に、瑞樹君の味方と言う訳ではない、私は龍神様の命を遂行したまで」

そう言って、金属バットを野球部員に返していた


「ふん! 命拾いしたわね瑞樹千尋! 今日の処は、これで許してやります」

せいぜい首を洗って待ってなさい! と捨て台詞を残し、靴を履いて出ていってしまう


……

もう二度と関わりたく無いんですが



僕は、靴に履き替えると、神木先輩と帰路につく


普段なら、香住が部活で正哉と帰るのだが

正哉の奴逃げたからな


後で覚えとけよ、あんにゃろめ



「神木先輩は、帰る方向こっちで良いんですか?」

「私は隣町からの編入組だから、何時もはバス通学よ」


あそっか、少子化で廃校に成ったんだっけか……


鴻上さんも、同じ理由で隣町からだったな


まあ、首都圏と違って、田舎は過疎化が進むので、仕方がない


もしかしたら、逆にこちらの学園が廃校に成って、僕等がバス通学してたかも知れないしね


やがて、ウチの神社の石段が見えてくるので、神木先輩と一緒に登り上がる


息一つ乱れないのは流石だ


「婆ちゃん、ただいま~」

「お邪魔します」

二人で玄関から上がると、セイが僕の頭から飛び降りながら、小人化の術を解く


「どう? まだ赤城さん居られるの?」

「んー、気配では、居るみたいだな」

そう言うと、セイは自分の部屋に向かっていくので、後を追う


セイの部屋へ着くと、中で倒れている赤城の龍神さんが

「龍神様!?」

慌てて駆け寄る先輩


「どうしたんです? 大丈夫ですか?」

そう、僕も廊下から声を掛けるが

「……心配ない、寝落ちしてるだけだ」

とセイ


寝落ちかよ!


「ふ、さすがに名作ばかり選んでおいたからな、途中で止めれんかったのだろう」

「ディスク貸してあげてたら良いのに……」

「いやなに、最初は貸そうとしたんだが、再生機を持ってないと言うのでな」

あらら、それは仕方ないわな



神木先輩が、いくら揺すっても起きそうに無いので、背負って帰ると言い出した


「いやいやいや、もう一泊されたらどうですか? ウチは構わないので」


「そう言う訳には行かないのよ瑞樹君。もうすでに、2日も御神体が居られないのに、ここで泊まっては、3日も不在になってしまう」


気持ちは分かりますがね……


どうしても帰ると聞かないので、タクシーを呼ぶことにしたが


ウチの石段下までは、担いで降りなければ成らない


仕方なく、僕も手伝って石段を降りる


「赤城の龍の巫女よ、赤城の龍神が起きたら、これを渡してやってくれ」

タクシーへ乗り込む神木先輩に、セイが紙袋を渡す

「畏まりました、神木志穂、命にかえましても……」

「いや、そこまで大袈裟なものじゃ無いから」


袋を預り一礼すると、タクシーで帰っていった


「何を渡したの?」

「オススメのマンガだ」

聞くんじゃ無かったわ……


僕は頭を左右に振ると、石段を上り始めた……その時


「お、丁度シロネコ印の宅配便が着たぞ」

セイの声で、僕は石段を引き返す

天蔵(あまぞう)さんから、お届け物っす。サインか印鑑おなしゃす」

サインをして荷物を受けとると、嬉しそうに


「ほら、お前のパンツだ」


そう言って、セイは段ボールの一つを僕に寄越す


「はい? 僕は尻尾あるから、普通の下着穿けないぞ」

「うむ、大丈夫だ。ちゃんと穿けるヤツだから」


セイが絶対大丈夫と言うので、部屋に戻って箱を開けてみる


なんだ……これ……


女性モノの下着なのだが、お尻に大きく穴が開いていた


「どうだ? 何でも『おーばっく』とか言う下着らしいぞ」

「あのな……下着はありがたいが、ノックぐらいしろ」


しかし、これなら穴の部分に尻尾を通せるな


やはり、前貼りだけだと心許なかったから、これは良い感じだ


ちょっとエロいが、この際贅沢は言うまい



「ありがとな、セイ」

「うむ、やはりノーパンだと情緒が無いからな」

セイに変な(こだわ)りがあって助かった


僕は、一つ悩みが減った事に安堵し


夕餉の支度に台所へ向かうのだった



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