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龍神の花嫁修行  作者: 霜月 如(リハビリ中)
龍神ルート
70/83

40-3 スカートと嫉妬と既視感と

翌朝、いつもと違って、女子の制服を着ることになる


本当に、これで登校して大丈夫なのか……不安だ


男子用のネクタイでなく、女子用リボンをつけると、もう完全に女生徒の姿に


はぁ……

なんか、遂に踏み込んだら、戻れない領域に、来てしまった


何だかんだ言っても、見た目だけは男子を貫いて居たのになぁ

今や女子の制服……しかもスカートだなんて……



いや、昨日も着てじゃないか! と、セイ辺りにツッコミ入れられそうだが

やはり、自分の生活基盤である、学園へ着ていくと成ると、話は別だ


寝る時間を抜けば、ウチでの生活時間の長さと、ほぼ変わらないのだから……


はぁ……クラスメイトの反応を考えると、朝から憂鬱な気分になる



しかし、姿見に映る女子の制服姿が、思った以上に似合ってしまって居るのに、ショックを受けた

そりゃあさ……元々女の子っぽい顔だし、背も低く朝礼の列も先頭ばかりだったけど


ここまで似合うなんて……

まるで、生まれてずっと女子だった様に、錯覚する程だ



自分の男気の無さに肩を落とし、朝餉(あさげ)の用意に台所へ向かう



そうだ、結局酔い潰れて泊まった赤城(あかぎ)さんと淵名(ふちな)さんは、朝御飯どうすんだろ

二日酔いで、食べれないと困るので、水をもって起こしに行ってみる


「赤城さん、淵名さん、起きてますか?」

声を掛けてから襖を開けると、淵名さんしか居ないし


僕は、寝相が悪く、布団を剥いで寝ている淵名さんに、布団を掛け直すと

赤城さんを探しに、セイの部屋に行ってみる



「ちょっとセイ、赤城さんが居ないんだけ……」

声をかけてから襖を開けると、アニメを見て泣いている2匹の龍神



「良い話だな……」

「だろ……」

まさか……徹夜でアニメ観賞か!?



「おーい、朝ご飯食べれそう?」

僕の問いなど、お構いなしにアニメ談義を続ける龍神達

そんな2神にムカッと来たので


「……それ、最後ヒロイン消えちゃうんだよ」

「な!? ……んだと……」

「お前! ネタバレするのかよ!」


放心状態で固まる赤城さんと、抗議の声を上げるセイ


「何だ、ちゃんと聞こえてるじゃないか」

「それ刑事物のゲームで、犯人は相棒の刑事とか言うのと同じだぞ! コノヤロウ」

「船なのに落とし穴があったり、ナイフ飛んできたりで、ゲームオーバーに成るより良いだろ」

「お前……本当に16歳か……引き合いに出すなら、北海道舞台の刑事物ゲームだろ」


話が永遠に終わらなそうなので、勝手に切りあげて


「ハイハイ。それだけ元気なら、ご飯食べれるって事で良いんだな?」



僕は、セイの抗議を適当に(あしら)うと、台所へ向かう

鬼~と言うセイの言葉が掛かるが、その方が余程良かったわ、鬼なら尻尾無いしね



さて、何時もなら3人分で良いのだが、今日は5人分の鮭を焼き味噌汁も作る



糠床(ぬかどこ)から糠漬(ぬかづけ)けのキュウリを取り出し、包丁入れていると

おはよ~と香住が現れた


「香住、おはよう、今日は早いね」

「いやほら、女子の制服着るのを手伝おうかと思ったのに、もう着ちゃったのね、残念」

「香住に手伝って貰って、胸を潰すほど強くサラシを巻く必要も無くなったから」



女子の制服では、男装のサラシも意味無いので、揺れない程度に巻いてるだけだ



大急ぎで朝餉(あさげ)の支度を済ませると、猫飯(ねこまんま)にして流し込む


「千尋、本当にそれ好きよね」

「そうでもない。僕だって、ちゃんと時間があれば、ゆっくり食べたいんだよ」



境内の掃除と朝餉(あさげ)の支度で、ギリギリになってしまうだけ



最近は、セイの洞窟へ供物を持って行かなくて良い分、時間に余裕ができたけど、それも微々たるもので

その代わりに、セイを起こす為に時間を取られているから、前とあまり変わらない



歯を磨きをしながら、鏡で可笑しな処、寝癖等をチェックする


んー、角のせいで床屋とか美容院に行けないが、此ればかりはねぇ


見えないってだけで、角の存在が消えたわけで無いから仕方ない



支度を終えて、玄関で靴を履いて要ると

「俺も行くぞ」


セイが一緒に行きたそうに、こちらを見ている


「仲魔にしますか? NO」

「何でだよ!」


「仕方ないだろ、学園は部外者入れないし」

「夫だから、部外者じゃない」


「ダメだってば。だいたい、一緒に行ってどうすんだよ」

「いやほら、ずっと神社の敷地から出れなかったし、1度で良いから学園って所へ行ってみたいんだよ」


コイツ……学園モノのアニメの影響だな


「仕方ないな、姿変えられたりする?」

「それなら任せろ」

そう言うと、手の平に乗る位に、小さく成っていく



「一寸法師か!」

「小さい龍神様、可愛いね」

「ふ、此のぐらい朝飯前よ」


腹をぐ~っと鳴らしながら、僕の肩に乗るセイ



「朝飯前って、本当に朝ご飯食べてないんかよ!」

せっかく作って置いたのに

「帰ってから食べる!」


「もー、赤城さんと淵名さんはどうすのさ」


「赤城の奴は、アニメの続きを観ると言うから、操作教えてきたし。淵名は、お昼まで起きないから大丈夫だ」


それで良いのか……




そんなやり取りをしていたせいか、結局遅刻ギリギリになってしまう

「ほら、千尋急いで」

「ちょっと待って、尻尾が左右に振れちゃって、上手く走れないんだよ」


初の尻尾付きダッシュに、四苦八苦しながら、学園までの道のりを、香住と走り抜ける


「これじゃ、小鳥遊先輩の待ち伏せを、避けられそうにないな」

「あっ、そっか。千尋は休んでたから、知らないんだ」

「知らないって何の話?」

「2日程前に。小鳥遊先輩、科学室で爆発騒ぎ起こしてね。今停学中みたいよ」

「はい?」


何やってるんだ、あの人は……



「そう言えばこの間、祓い屋の娘が、俺の髪を少し持ってったな」

「おまっ……何で渡すんだよ」

「いや、祟り神の時に、妻が世話になったからな。髪位ならと、くれてやったのだ」


アホー

先輩が、ろくな事に使わないの、分かってるだろうに


まったく、もう……

香住の話では、被害者が出ていないらしいので、不幸中の幸いと言ったところか



おーい、急げーと校門に立つ先生の声に、走るペースを上げる

ちょっとずつ、尻尾で走るコツをつかんできたぞ


もう既に、周りに生徒の姿はなく、僕と香住だけのようだ


チャイムと同時に校門をくぐり抜け、昇降口へ向かう


何か忘れて要るような……


何だっけ?


まあ、忘れるぐらいだし、たいした事じゃないな


セイは肩だと目立つので、僕の髪の中に隠れさせて

どうにか、朝のホームルーム前に、教室に滑り込む



「オッス、千尋。大怪我したって高月から聞いたけど、元気そうじゃないか」

「正哉、おはよう。いや~、どうにか生きてるよ。後でノート写真撮らせて」

「良いけど、高月に見せてもらった方が良くね?」

「香住だと、手書きで写せって(うるさ)いからさ、正哉お願い」


どうにか、ジュース3本で手を打って貰う



さて、椅子の背もたれの下に空いた空間に尻尾を通すと、やっと腰を下ろし落ち着ける


着席同時に始まる、朝のホームルームで、出席確認を取る担任の先生


「眞山、三島、瑞樹……お、今日は出てきたな……次、茂木、矢島……」


「ちょっと待って下さい!!」

そう言って、1人の女子生徒が立ち上がり、出席確認を中断させる


確か、彼女は『鴻上(こうがみ)千鶴(ちづる)

僕とは話したこと無いが、おかっぱ頭でつり目の、キツそうな性格のクラスメイトだ


「どうした鴻上(こうがみ)? ホームルーム中だぞ」


「先生もクラスの誰も、瑞樹君の格好が、気にならないんですの?」

!?


あ、ヤバ。そうだ忘れてたわ

今僕は、女子の制服なのだ


「ん? おお! 瑞樹どうしたんだ!?」

今更驚きの声を上げる先生


「あれ? 本当だ。余りに似合いすぎてて、違和感なかった」

「ああ、前から女っぽかったからな、瑞樹は」

「やだ、可愛いし別に良いよね」

……

似合いすぎって……クラスメイトの言葉に、ちょっと泣きそうだ

前は男の子ぽかったよ、と誰も言ってくれないし



「まあ、似合ってるし、別に良いだろ……出席続けるぞー」

良いのかよ……

まあ、その方が、僕も助かるけど


何てクラスなの!? と僕を睨んで着席する鴻上さん


うぁ、なんで恨まれてるの? 僕……


そのまま出席確認が終わると、何事も無かったかのように、出ていってしまう担任


「何よ! 許せないわ!」

「チヅー止めなよ、瑞樹君可哀想じゃん」


周りの女生徒に宥められる鴻上さん。その周囲の行為が、自分の見方が居ないと感じさせ、余計にキレてるみたいだ


「だいたい、今まで斎藤くんと仲が良くても、男の子同しだからと我慢してたのよ! なのに……何よアレ!」


ああ、成る程

鴻上さん、正哉が好きなのね……


手に負えないシスコンなのに……酔狂な事で



確かに、シスコンを知らなければ、スポーツ万能で、背も高くて、顔も良い

香住から聞いた、女子の彼氏にしたいランキング、上位者であるからして

分からなくも無い



超シスコンでなければな……


知らぬが仏とは、良く言ったモノだ



「何か、思ったより悪意が飛び交うのだな」

髪の中からセイが呟く

「いやいや、普段はこんな事無いから」

「だが、ずっと悪意の視線が、こちらに向いてるぞ」

授業中、僕はなるべく鴻上さんの方に、視線を向けぬようにしていたが、セイが悪意を敏感に感じ取って、僕に教えてくる



正直止めて欲しい

僕と正哉は、別にそんなんじゃ無いのに


ただの悪友で親友の幼馴染だって、だけなのになぁ



まぁ、来年にでも、妹の紗香ちゃんが入学すれば、シスコンも知れ渡るだろう


同じ中学から来た者は、知ってるのだけどね



去年、少子化のせいで、近くの高校が廃校になってから、隣町の出身者が増えて

正哉のシスコンを知らない生徒も多いみたいだ


おそらく、鴻上さんは、その隣町の出身者なのだろう

鴻上さんの周りの女子生徒、誰でも良いからシスコンだと教えてやれよな




逆恨みされたまま、4時限目に突入する


「ほら千尋、教室移動よ」

「4時限目って何だっけ?」

「私の得意な家庭科~」

嬉しそうに、くるっと回る香住


僕は休んでいて、知らなかったのだが、今日の家庭科は料理作って、そのままお昼休みに食べるらしい

「ちょっと香住、僕材料持ってこなかったよ。そもそも聞いてないし」

「だって、言って無いもの」

おい!


「どうするんだよ」

「ん? だって言う必要無いでしょ、どうせ同じ班だし」

どうやら、男子2人と女子2人の4人で1班って事らしい

「よし、男2人は千尋と組むぜ」

「正哉!?」

「お前と高月が居れば、美味く出来るの間違いなしだしな」

はっはっはっと高笑いする正哉だが

ああ、感じるよ……鴻上さんの視線を……


「じゃあ、あたしが女子の2人目になりますわ」

そう言って、僕らの班に混ざってくる鴻上さん


復帰初日から、ハード過ぎる


そんな僕の気持ちも知らずに、髪の中から「面白い事に成って来たな」と楽しむ馬鹿セイ

コノヤロウ……

夕飯1品減らすぞ


「えっと、私は高月です、鴻上さんですよね? 失礼だけど料理の腕前は……」

「まったく出来ませんわ」

すげえ、言い切ったよ

普通、そこは好きな正哉の手前、嘘でも出来るって言わないのか……


見栄を張らないのは良いことだが、女子だし少しは料理しようよ


まあ、今の時代。必ず女子が、台所に立つと言うのは、時代錯誤なのかもしれないけどさ……


ん~

……

本人が良いなら、別にいっか


下手なこと言って、これ以上恨まれたく無いしね




さて、調理開始……なのだが


「何か既視感(デジャヴ)なんだけど……」

僕は、朝と同じく鮭を焼き、味噌汁の具を刻む


「仕方ないでしょ、作るように指示された献立が、和モノの朝食なんだし」

香住が、隣で玉子焼きを作っている


正哉は、米を研いで炊飯器にセットしただけで、後は僕と香住に任せきりだ


そして、鴻上さんはと言うと、そんな正哉の隣に座って、正哉にピッタリとくっついて居る

どうよ羨ましいだろうと、ニヤケタ視線を送って来るが、本当にどうでも良いわ


と言うより、勝手に恋敵に認定しないで(涙)


そのままカップル成立した方が、僕も妹の紗香ちゃんも、助かるんですがね



そんな、僕の気も知らずに、セイが小声で

「なあ、俺の分もあるか?」

と話てくる

「食欲無いから、僕の分を全部やるよ」



だいたい、何も食べて無いセイと違って、同じ献立を朝に食べてきたし

どうせなら、お昼なのだから、朝と違う洋食が良かったなぁ



ここで違うもの作って、減点されても仕方ないので、大人しく指示に従い料理する


朝と同じ朝食を、作り上げた


まったく同じでも無いか、香住お手製の激甘玉子焼きあるし


出来上がった、各班の料理を、先生が小皿に一口づつ取っては、採点していく


まあ、プロの料理屋とまでは行かなくも、及第点(きゅうだいてん)は行ってるはず


さて、ご飯をよそ……


「ええ!?」

炊飯器から吹き出る泡に、僕は2度見した


「ま、正哉? これは一体……」

「うお! なんじゃこりゃああ!!」

「どう見ても、洗剤の泡よ」

唖然として、炊飯器の前で立ち尽くす僕ら3人を他所に

鴻上さんが


「あら、洗剤が効いて、綺麗に洗えたわ」

そう言って、お茶碗に泡だらけのご飯を盛り付け始めた


……

誰か……

鴻上さんに、米の研ぎかた位、教えてやれよ……


丁度そこに、運悪く採点の先生が来てしまう

「この班の採点するわね」


「ああ、先生それは……」

僕の呼び止めも聞かず、ご飯を口に放り込む家庭科の先生


だんだん顔が、青紫色になり

遂に口を押さえて、飛び出していく


生徒の前で、吐かないのは凄いな


数分後えらい剣幕で、戻ってくると

「これを作ったのは誰だぁ!!」

女将を呼べ!と続かんばかりにキレる女教師


「コイツです」

と僕を指差す鴻上さん

ええ!? そりゃないよ……



こうなったら


「仕方ありません、1週間後に本物のご飯……」

「ダメに決まってるでしょ」

駄目だった



直ぐに、余ったお米で炊きなおす


全員分無くても、採点分だけでも炊ければ、まだ挽回する余地はある


問題は炊き上がり時間が、間に合えば良いが……



「ねえセイ、水分コントロールして、早くふっくら炊くとか出来ない?」

小声で髪の中のセイに話し掛ける


「う~む、やったこと無いが……美味い飯の為だ、やってみよう」

そう言うと、セイは何やらブツブツ唱えると

炊飯器から一気に、余分な水分が吹き出した


「うあ、大丈夫なのか……」

さすがに、もう余分なお米無いし、これで駄目なら終しまいだ


僕は、恐る恐る炊飯器を開けると、一口分味見をする


お、芯まで柔らかい


「成功した?」

そう聞いてくる香住の口に、一口分放り込んでやる


「うん、良いじゃないの」

「良かった、香住のお墨付きが貰えるなら、大丈夫だ」


さっそく、家庭科の先生に採点して貰い、なんとか及第点を頂いた



やれやれ、とんでもない人に、目をつけられたモノだ


僕は、正哉にベッタリくっつく、鴻上さんを見て、ため息をつく


これから先に、やってくる日常を想像し、憂鬱な気分になるのだった。



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