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龍神の花嫁修行  作者: 霜月 如(リハビリ中)
龍神ルート
69/83

39-3 尻尾の難点

更新遅くなってすみません。

赤城の龍神と淵名の龍神ですが、作中では千尋の雌龍が希少とする為に、わざと雄の龍神としてます

本物の赤城と淵名の龍神は姫龍です

興味のある方は、赤城姫と淵名姫で検索すれば出てきます



昼間から酒盛りをする、馬鹿龍2匹の為に、僕は酒の(さかな)を作り続け

空になった冷蔵庫に、溜め息をつく



そんな僕の気も知らずか、熱燗お代わりと言う、龍神達の声が掛かる


「お前らペース早すぎだろ、本当に在庫飲み干す気かよ」

「まだまだ序の口ですよ千尋さん」

「そうだぞ~御酌しろ~」

酒臭い


「いい加減にしろ馬鹿龍共め」


「うはぁ、もっと罵って」

赤い方は、罵られて喜ぶ変態さんか


「馬鹿とは何だぁ嫁の癖にぃ、一杯ぐらい付き合えよ」

こっちは絡み酒か、面倒臭過ぎる


「未成年だと言ってるだろ!」

尻尾で叩くと吹っ飛ぶウチの龍神


まだ良く加減が分からん



まあ、今まで神社の敷地から出れずに、同族と逢えなかったんだ


今日だけは大目に見てやるか



しかし、龍神達のツマミは暫く良いとして、買い出しに行かないと、夕御飯の材料が何もないな

仕方ない、近くのスーパーまで行ってくるか



さすがに平日とは言え、下校時間になろうとしてるし、制服でも補導とか大丈夫だろう

女子の制服だけどね



社務所の婆ちゃんに、買い出しに行くことを告げて、留守をお願いする

婆ちゃんに、任せっきりでゴメンと謝ったら、龍神様が優先だから気にするなと言ってくれた


お昼ご飯も、ほとんど龍神達の酒の肴になっちゃったし、お握りだけで本当に申し訳ない



とりあえず、ブラウスの上に上着を羽織って出掛ける用意をする

尻尾さえなければ、ズボンで行けるのに……


気を付け無くては成らないのは、前貼なのでノーパン状態を見られる事だ

神社の石段を、スカートを押さえながら、ゆっくり下る


非常に面倒だ


どうして、スカートはこんなに無防備なんだか……

風が吹いたら、お終いじゃないのさ


もう一つ、気を付けなければ成らないのは、尻尾だ


あまり持ち上げ過ぎると、スカートが捲り上がってしまう


かと言って、下げすぎると、角と一緒で霊感のある人にしか見えないので、踏まれてしまうのだ


スーパーに着くまでに、すでに2回踏まれたし


いやはや、尻尾の中間は、まだ鱗に覆われてるから良いが

尻尾の先っぽはヤバイ


足の指先を箪笥(たんす)にぶつけた時ぐらい痛かった


やはり、脊髄に直結しているからか、鱗の無い処……先っぽとか付け根は、かなり敏感だ


なので、狭い場所では、自分の間合いを余分にとるように動く


スーパーの狭い通路では尚更だ


ショッピングカートに轢かれると思うと……想像したくもない



湯掻いたタケノコがまだあるし、人参や椎茸や油揚げ買って行って、タケノコご飯にしよう


元々、タケノコご飯にする予定が、急遽始まった龍神達の呑みの肴になってしまって、作れてないしね


他にも、龍神達がまだ呑んでるなら、酒の肴になりそうな落花生とかの菓子を籠に放り込む

シメ用に、麺類も買って行ってやるか


何味が良いんだろうと、悩んでるところ。後ろを通った、他の客の押すカートに、尻尾が轢かれる


危うく悲鳴を上げそうだったが、両手で口を押さえ、涙をいっぱい溜めて我慢した


まるで、海外アニメのネズミと猫の追い掛けっこで、猫がネズミ取りの罠に引っ掛けられた時のようだ


出来れば先っぽでなく、鱗のある場所にして欲しい




痛みが治まった処で、ようやく支払いを済ませ、神社へ向かうが


頻繁に、僕の後ろへ誰か来ないか、警戒して歩く


なんか、利き腕で絶対握手しない、300万ドルで仕事する殺し屋になった気分だ


あんなカッコ良くないけどね


神社の石段も、袋を尻に当てて昇る

せめてパンツが穿ければ……まだ見られてもねえ


前貼りだけだと、痴漢と言うか、痴女認定されかねない




「ただいま」

玄関の引戸を開けると、また見慣れない履き物がある


「やっと帰ってきたな、紹介しよう『淵名の龍神』だ」

居間から出てきたウチの龍神の他に、黄色い髪の龍神が挨拶に出てくる


また龍神が増えた……


「本当に雌龍ではないか!? 何処で(かどわ)かしたんじゃ?」

「ふふん、良いだろ」


「儂は淵名の龍神じゃ、コイツの嫁より儂の処に来ぬか?」

「おい、俺の嫁を誘惑するんじゃない」



余程、龍界隈(かいわい)は雌不足らしい


僕は、黄色い髪の龍神と簡単に挨拶を済ませると、居間へ行き龍神達に提案を出す


「龍神が、いっぱいで紛らしいので、名前を付けます」

「名前? 皆龍神で良いだろ」


「皆龍神だから、紛らわしいんだよ! 街中で『そこの人間』って呼んで、全員振り向くのと一緒で、龍神って呼んで3匹振り向かれても困るから」


あまり乗り気じゃない龍神達だが、呼ぶとき困るのは僕の方だ


まぁ、赤城さんと淵名さんは良いが、問題はウチの龍神をどう呼ぶか……


「ん~、お前は青いから(セイ)で良いだろ」

適当にウチの龍神に名前をつける


「おい、いくらなんでも、適当過ぎるだろ」


「じゃあ、ポチかタマな」

「ペットか! その3沢かなら、セイで良いわ」


すっごい嫌そうだが、とりあえず此れで区別がつく


だいたい、我が儘なんだよ……名前無いから、僕からは呼びたくても、呼べなかったのに


僕の方は、名前がちゃんとあっても、一度だって『千尋』と呼んでくれた事ないのにさ


……妻だなんて言って置きながら、本当は好かれて無いのかな……


そんな僕の気も知らず、他の龍神と酒を酌み交わす、セイを見てたらイラッとしてしまい


買ってきた食品を持って、台所へ向かうと、乱暴に食材を切り刻む


イラついてる理由が馬鹿みたいで、更にイライラする



「そうだ、見ろ! 淵名が名酒持ってきてくれたぞ」

そう言って、台所に顔を出し、一升瓶に頬ずりするウチの龍神のセイ

まだ呑む気なのか……


僕は、そんな能天気な顔のセイに、包丁を突き付けると

「程々にしなよ」

と、釘を刺す


「何だよ……機嫌悪いでやんの」

そう言いながら、退散するセイの背中に、聞こえぬぐらいで

「馬鹿……」

僕はそう呟くと、まな板の上のタケノコに包丁を入れる


タケノコご飯の用意ができたので、後は炊き上がりを待つだけだ



さて、貰ったお酒だが……ラベルに『龍殺し(ドラゴンスレイヤー)』と銘が書かれているけど、大丈夫なんだろうか?


一応元人間とは言え、僕も龍になってるんだし他人事じゃない



熱燗作る時に、龍殺しの臭気でヤられたりしないよな



そんな馬鹿な事考えていると、香住が現れる

「千尋、具合はどう?」

「もう大丈夫だよ」

千切れ掛けてたと言う足を振ってみせる


「ええ!? 千尋がスカート!?」

あ、そっか……尻尾の事話さねば……


僕は、赤城の龍神が着てからの事を、香住に話す


「尻尾ねぇ……私には見えないから、ピンっと来ないけど」

何か前貼りしてあるとは言え、スカート持ち上げられて凝視されると、恥ずかしいんですが


「も、もういいだろ……」

僕は、捲られてるスカート押さえながら、香住の視線から逃げるように身をよじると


湯煎(ゆせん)している徳利を、湯の中から引き上げる


「そうそう、龍神様が増えててビックリしちゃった」

「昼過ぎ位かな、いきなりセイに逢いに来てね」

「セイ?」

「うん、ウチの龍神の名前。龍神がいっぱいで、呼ぶのに間際らしいから、勝手につけたんだ」


「え!? まさか、そこから酒盛りしてるんじゃ?」

「そのまさか……」


「うぁ、大変だ。私に手伝えることない?」

「う~ん、ツマミは間に合ってるから、後は夕御飯の用意だけだし……そうだ! 香住縫い物得意だよね?」

「そりゃあ、一応これでも家庭科部ですから」

そう言って、袖を捲り力瘤(ちからこぶ)を見せてくる


縫い物って力要るっけ?


色々と間違えてる気がするが、あえて触れずに置こう



「実はさ、尻尾のせいで巫女装束の緋袴が穿けなくなっちゃったんだ。尻尾通す穴とか作れないかな?」

「穴開けるだけなら、簡単だけど……問題は穴の大きさと位置よね」

私には見えないからと、肩を(すく)める



「だったら、コイツを使うと良い」

いつの間にか台所に現れたセイが、眼鏡の様なものを香住に渡す


「いつの間に来たのさ」

「なに、熱燗が来ないので取りに来たんだ」

何かお前機嫌悪そうだったし……と頭を掻きながら、台所の入り口で立ち尽くす龍神のセイ


「んで、この眼鏡は?」

「実はな……祟り神戦で、嬢ちゃんが一緒に後方支援出来るようにと、見えないモノが見えるようになる眼鏡を作っていたんだが、間に合わなくてな。今頃になってしまった」


それを聞いた香住が、眼鏡を掛けると

「わぁ! 見える! 見えるよ千尋!!」

僕の尻尾を触ってくる

「ちょ、香住? くすぐったいんですが」

「結構太いね……これだけの大きさの穴開けると、穴が目立つよ。制服のズボンは無理だね」

「ええ!? 明日登校するのに困るよ」


「だったら、その格好で行けば良かろう?」

僕の気も知らずに、スカートで行けと(のたま)ふセイ

「アホか! 此れで行ったら、さすがに女体化がバレるわ!」

「しかし、他に手はあるまい?」

うぐ……


悔しいが、セイの言う通りである


「試しに、緋袴でやってみましょう。制服のズボンと違って、緋袴なら沢山あるみたいだし、失敗しても取り返しつくもの」

香住は、そう言うと裁縫箱を出してきて、僕の尻尾の寸法を測ると、さっそく尻尾穴作りに勤しむ


困ったときの香住様


僕は、香住にお願いしますと頼んでから、セイに徳利の載った御盆を渡す



「何だよ、一緒に来て御酌してくれないのか?」

「僕は……ちょっと……」


モジモジしている僕を見て

「ああ、なんだ厠か?」


デリカシーの欠片もない龍神のセイへ、尾撃を足先に狙ってかます


「ぐぁ! お、お前……指先だけ狙いおって……」

「ふん、早く持ってけよ」


涙目のセイを他所に、僕はトイレに向かう



ずっと我慢していたトイレに行って、問題にぶち当たる


洋式のトイレの貯水タンクが邪魔になり、便座に座れないのだ


いや、尻尾を思い切り垂直に立てれば、ギリギリ座れるのだが

この状態で用を足せば、小水は収まらずに床へ(こぼ)れる……よなぁ


はぁ……仕方ない、外の和式に行くか……


この時ばかりは、外国人参拝者向けに洋式へと直したトイレを、全部工事しなくて良かったと心底思った


しかし、トイレの度に外に行かねば成らぬとは……


ん?

そう言えば、学園のトイレ……どうしよう

全部洋式だったよな


何か手を考えねば……


用を済ませた後、もう1つ問題が

よく拭いたのに、前貼りがくっつかないのだ


はぁ……これも代わりのテーピング持って行かなきゃだな


普通なら、考える必要もない問題が、色々出てくる



手を洗って、香住の様子を見に行くと

「千尋、ちょうど良かった。まだ仮縫いだけど、穴の位置が良いか穿いてみて」

そう言って、仮縫いの緋袴を渡してくるので

スカートを脱いで、変わり果てた緋袴を穿きに掛かる


「えっと……足を通しながら尻尾も通すのか……面倒臭いな」

「尻尾の穴の位置も、ちょうど良いみたいね」


メジャーを当てたり、生地を引っ張ったりしながら、弛みが無いか様子を見る香住


「さて、問題はここからね」

そう言って、香住はセイから貰った眼鏡を外す


「どう?」

僕は恐る恐る香住に尋ねると

「うぁ、ダメね。尻尾が見えないと、袴の中のお尻が丸見えだわ」


「と言うことは……」

「制服のズボンも同じね。尻尾の穴からお尻が見えちゃうわよ……これは、スカートで行くしか無いわね」

……

マジか


「いやいやいや、スカートで行ったらマズイでしょ」

「でも、他に良い手が無いし……いっそ休んじゃえば? 数日休めばゴールデンウィークに突入するし」

「ん~、もうすでに、4日以上休んでるしねぇ。入学早々でこれ以上は……」


まだ4月なのに、休みすぎだ


それに、休んだからと言っても、尻尾対策が見つかるとも思えないし


「じゃあ、仕方ないじゃないの。先生方に話して、許可貰う他無いでしょ」

「うぐ、これで(スカート)行くのか……」

僕は仮縫いの緋袴を香住に渡すと、観念してスカートを穿き直す


「じゃあ、明日は登校するのね?」

「……うん」

僕は力なく頷くと、更に香住は聞いてくる

「下は尻尾で仕方ないとして、胸はどうすんのよ」

「胸?」

胸かぁ、考えてなかった


今までは、胸をサラシで押さえていたが、女子の制服で行くなら隠して居ても意味無いし

かといって、下着まで女性モノは、さすがに抵抗がある


「今までと同じく、サラシで行くよ」

男装と違って、これまでみたいに、潰れるほどは巻かないけどね

揺れない程度に、押さえられれば良いし



僕は、裁縫を香住に任せ、居間に向かう


なんと言うか……すごい惨状だ

神様ってお酒好きが多いが、これは流石に……

龍神達の全員が、上半身裸で何やら盛り上がっている

いや、全員じゃないか、黄色い髪の淵名さんは酔い潰れて寝てるし


さすが『龍殺し』だ

効果覿面(こうかてきめん)


どうせなら、他の2匹も酔い潰れてれば、楽だったのに



まあ、布団の用意しとくか、空き部屋はあるしね



赤城の龍神とウチの龍神セイが、何やら話しているのを聞きながら、空いたお皿を片付け始めると

「ほら、これが泣ける話でな……」

「そうなのか? なら我に貸してくれ」

「これは保存用だから駄目だ、布教用を貸してやる」


「何の話してると思ったら、アニメの布教中かよ!」

「うむ、良い話は布教せねばな。ハマれば、数日後にはグッズ買うのに、天蔵(あまぞう)さんに注文しているだろう」

まったく、ある意味羨ましいよ

どんなモノだろうと、打ち込めるモノがあるんだから


ん? まてよ……


「おい、保存用? 布教用って……いくつ同じのあるんだよ!!」

「保存用と、予備の保存用、あと限定版と……」

「もういい、聞くのが怖い」


限定版は分かるとしても、予備の保存用って何だよ


買うのは良いし、どんな趣味でも僕は寛容だが、せめて未開封で放置のダンボールから出せ


セイの部屋に、掃除に入れないし


はぁ……

僕は溜め息を付きながら、空いた皿を下げて、シメの麺類を茹で始める


こんなので、明日とか大丈夫なのか……


先が思いやられる



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