37-3 瑞樹 命
龍神ルートです。
母親の視点で過去やろうと思いましたが、夢語りにしてしまいました。
祟り神後より分岐です。
祟り神の一件で、受けた傷の痛みと発熱で、朦朧としながら夢を見る
夢現つ……
まさに、そんな状態だ
「千……尋……千尋……」
誰かが僕の名前を呼ぶ
とても懐かしい声
この声……
「お母さん?」
真っ暗で何もない空間に、7年前の母親の姿が浮かび上がる
「大きくなりましたね……」
「うん、もう16だよ」
「そう……そんなに経つのね」
「僕、ちゃんとやれてるよ、香住も正哉も助けてくれるし」
「良かった……支えてくれる友達が居て……」
本当は母親に抱き付き甘えたかったが、それでは母親を困らせてしまう
安心して成仏して貰えるよう、強いところを見せなくては……
「僕は大丈夫だから、安心して」
「そう……ごめんなさいね、こんな形でしか逢えないなんて」
そう言いながら、僕に優しく触れようとするが、実体がないのかすり抜けてしまう
夢であっても良い、母の温もりを感じたかったが、それは叶わないようだ
お母さんも同じ気持ちだったのか、僕をすり抜けた両手を悲しそうに見つめた後、会話を再開する
「千尋……」
「お母さん?」
「女の子になって、めちゃくちゃ可愛いじゃないのよ!」
「え?」
「いやね、千尋小さい頃から、見た目女の子みたいだったし、女の子の服似合いそうで着せてみたかったのよ」
「そんなの嬉しくないってば!」
だいたい、今はミイラみたいに包帯ぐるぐる巻きなのに、そんなの着れるわけ無い
いや、着る気もないからね
「女の子の服を買って置かなかったのが、残念でならないわ」
「そんなの必要無いから、学園にも男の子の格好で行ってるし」
「育て方間違えたかしら……」
「間違えたのは、お母さんの子育て理念だ」
まったく、どうなってるんだウチの親は……
「そうそう……今回逢いに来たのはね、7年前の真相を話す為と……これを渡す為」
そう言って、自分の首に掛かっていた、5センチ位の勾玉を外し僕に渡す
何故だか、母には触れないのに、勾玉はちゃんと物質の質感があり触れるのだ
「勾玉? それにしては、七色の勾玉だなんて初めて……」
それは、見る角度を変えると、色が変わる不思議な勾玉だった
「それは龍の鱗で出来ているの」
「龍の鱗?」
普通なら、翡翠や瑪瑙、琥珀とか鼈甲が多いけど、龍の鱗は初めて見た
「本来なら、勾玉を渡すことも、話すこともなく、終わるはずだっただけどね……千尋、あなたは龍になってしまったから。次期龍神としてソレを渡し、事実を話さねばならないのよ」
「ちょっと待ってよ、僕は正規の龍じゃ無くて、元人間だよ」
「知ってますよ、私が貴方を産んだんですもの。私達に元々龍の血が入ってるのだから、龍神になっても変じゃ無いんですよ」
「龍の血って……タダお仕えしてるってだけじゃないの?」
「元々、初代が龍の血を持っておられたようでね。そのお陰で神子降ろしの儀の時に、雌龍へと変えられていたと伝えられているの」
そのせいで、僕が雌龍にされたのか……迷惑な話だ
「じゃあ、僕が勾玉を持っていれば良いの?」
「そう簡単な話じゃないわ。その勾玉の中を覗いて見なさい」
僕は、言われた通り、勾玉を眼の近くに持ってきて、中を覗く
え!?
「何だこれ!?」
勾玉の中に、何かの生物の心臓が見える
近くで見ないと、七色の光で邪魔されてて、分からなかったが
これは心臓だ、それもまだ動き出しそうな
「それはオロチの心臓よ」
「オロチ!? オロチって……あの神話に出てくる八俣遠呂智!?」
こんな、ちっぽけな勾玉に入ってるのが、オロチの心臓だなんて……信じられない
そんな僕の表情を見て、お母さんは悟ったのか
「信じられないだろうけど、勾玉に封じる前は大型トラックで運ばれて来たんだから」
そう右手の人差し指を立てて言った
何でも、ウチの神社の奉納されてた、龍の鱗に術を掛けて封じの勾玉にし、そこにオロチの心臓を封じたらしい
「でも、何んでオロチの心臓がウチに?」
「それはね、7年前に神社本庁の『西園寺 兼仁』によって、ウチに持ち込まれたのよ」
「西園寺 兼仁……」
僕は初めて聞く名前だ
「ん~、まずは神話から話さないとかな。須佐之男命が八俣遠呂智を酔わせて櫛名田比売の姿に女装して……いえ、神通力で姿を変えてるのだから、女装でなく日本初の性転換なのかしら……」
何それ、凄い見解だ
日本初かどうかはともかく、姉の天照大御神も男になったとか言われてるけどねぇ
そう考えると、神様って性転換好きなんじゃ?
話がズレたけど、簡単に略して話すと須佐之男命が、酔わせたオロチの首をはね倒した後、尻尾を切ろうとした時に中から天叢雲剣が出てきた
天叢雲剣は草薙剣とも言われ、今話題の3種の神器として熱田神宮に祀られている
と言うのが、簡単にまとめた神話のお話なのだが
「実はね、オロチは死ななかったのよ」
「はい?」
「再生しようと悪あがきをしてね。出て来た草薙剣ですら、トドメを刺せなかった」
「じゃあ、これが本当に?」
そう言いながら、僕は勾玉を持ち上げる
「そ、本当にオロチの心臓よ。オロチの八首もね酔ってる内に、日本の彼方此方に離して封印されたけど、死なずに心臓の元へ帰ろうとするみたい」
「え? ちょっとお母さん? こんな危ないモノ、僕に持たせてどうすんのさ」
「もし八頭部の1つでも、心臓に接触したりしたら終わりよ。だから、頭部が現れたなら、西園寺兼仁に心臓を渡し、他の神の元へと移して貰いなさい」
「待ってよ、お母さん。頭部は封印されてるって、言ってましたよね? だったら接触も何も無いんじゃ?」
「そうね……されていたらしいわね」
らしいわねって……
「そんな簡単に解ける封印なんですか?」
「仕方ないのよ、なにせ1頭部の封印されてた北方の島が、他国領になって、管理出来なく成ってしまったから」
成る程、それで頭部の封印が解けたのか
「じゃあ、その1首はもう国内に?」
「ええ、人間の姿に擬態して、彼方此方探し回ってるみたい」
話をまとめると、一ヶ所に留めておくと、オロチの探知に引っ掛かるので、定期的に色々な神様の処で管理していたみたいだ
その心臓の運び屋を、西園寺 兼仁と言う神社本庁の偉い人が行っており
今回、オロチの心臓を管理するウチの番の時に、千匹の岩を開けた『反魂失敗事件』が起きてしまった
本当なら、現龍神が天に帰るまで現龍神が管理し、次の神子が継ぐ筈だったオロチの心臓だが
継ぎ手の居ない今となっては、僕が次期龍神として管理しろって事らしい
「本当はね、反魂の儀式の時に、黄泉比良坂へ隠して来ちゃおうと思ってたのよ。そうすれば、絶対見付からないでしょ」
上手く行かないものね、と肩をすくめて苦笑いをする母
凄いことを考える
「とにかく、蛇にように鋭く赤い眼の者に気を付けて、たぶんオロチの1頭よ。それと、護りきれないと思ったら、直ぐに西園寺さんに電話して、電話番号は貴女のお婆ちゃんが知っているから」
お母さんはそう言うと、すり抜ける僕を、抱き締めるようにしながら『ごめんなさい』と一言だけ残すと
少しずつ空に浮いて離れていく
僕は目尻に涙を浮かべながらも笑顔で母親を見送る
その方が、安心出来るだろうから
やがて母は消え、真っ暗だった空間は、いつの間にか僕の部屋に戻っていた
夢?
そう思ったが、僕の手に握られた勾玉を見て、夢でなかった事を知る
「また大変なモノを貰っちゃったな」
そう呟くと、勾玉に通された紐を首に掛けて、胸の谷間に押し込む
邪魔だと思っていた胸も、良い隠し場所になるじゃないか
僕は、怪我で儘ならない身体を労りながら再度眠りにつく
今はとにかく傷を癒さなければ
やがて、やって来る厄災を相手にするために




