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龍神の花嫁修行  作者: 霜月 如(リハビリ中)
小鳥遊ルート番外編
66/83

52-2 悠久の合間に

そして月日は流れ


満月の晩に、僕と緑さんは、(かつ)て展望フロアでキスをした、県庁跡地に来ていた


緑さんは、半ヴァンパイアらしく、黒いゴスロリ服

僕まで、お揃いの服着せられて、ちょっと……いや、かなり恥ずかしい


女性服には慣れたとは言え、さすがにペアルックはねぇ



「千尋?」

緑さんが、心配そうに僕の顔を覗き込む


「あ、すみません。昔を思い出してて……もう数百年経つんですね」

「そうね……お互い姿は変わらないけど、街は随分と様変わりしたわ」

僕も緑さんも、16~17歳の時のまま時間が止まった様に、若い姿のままだった


僕は龍神として、寿命がどのくらいだか分からないけど、まだまだ衰えは感じないので、あと数百年は行けそうな気がする


緑さんの方も、(ハーフ)ヴァンパイアの為か、まだまだ若い姿のまま壮健だ。



(かつ)て県庁だった跡地は、公園になっていた。


「緑さんとのファーストキスをした、思い出の場所無くなっちゃいましたね」


「そうね、夜景の見える展望フロアも、今では色とりどりの花で、飾られた公園だもの」


近くの花壇の花を、優しく愛でながら言う緑さんに、釘付けになった。


━━━━━月明かりのせいかな? ずっと見ていたい気持ちに駆られる。


思い出の場所は無くなったが

「これはこれで、悪くない……かな」

緑さんに聞こえると、からかわれるので、小さく呟く。


そんな僕の呟きも聞こえないまま━━

「それにしても、あのドタバタな日々が懐かしいわね」

花を人差し指で軽く撫でながら、そう感傷に浸る緑さん。


「ええ……確かに……」

当時を知る人は、もう僕と緑さんと、ぬいぐるみ化した龍ちゃんだけだろう。


お互い、親しい人に先立たれる悲しみも味わった。


今、神社に残っているのは、僕と緑さんの子孫達だ。



子孫達は人間と結婚するので、代を重ねる毎に、少しずつ人間の血が濃くなって、角も短くなっている。



僕は月明かりに照らされた緑さんの表情を見てから

「これから、どうするんです?」


「そうね……世界を廻ってみるって言うのはどうかしら? もし、千尋が嫌なら独りで行くわ」

「ふふ、何言ってるんですか。僕が緑さんを看取らなくて、誰が最後を看取るんですか?」


「あら? 私が千尋を看取る方かも知れないわよ」

「残念でした。僕は龍神ですから、寿命前には天に帰ります」


「そっか、私より先に逝ったら、額に落書きしてやろうと思ったのに、残念」

「ちゃんと、お経で供養してくださいよ。御寺出身の娘さんでしょ」


「あのね、私が御寺に居たの、何百年前だと思ってるのよ」


そう……その数百年と言うのが、最近問題になってて、アイナンバーから割れたのか、歳をとらないとニュースに成ってしまった。


子孫に迷惑掛けない為にも、死んだことにして龍神の洞窟に籠るか━━━━

それとも、出ていくかと迷っていたのだ。



「でも、良いの? 龍神の仕事は」


「何のために子孫が居るんですか? 龍ちゃんが龍脈操作の事教えてくれるだろうし、大丈夫ですよ。それとも、御神体として、僕に龍神の洞窟に(こも)れと言うんですか?」


僕の居場所は、貴女(緑さん)の隣だけですよ

そう言って緑さんに身を寄せる


緑さんは、そんな僕の手を取ると


「じゃあ、決まりね。急ぎじゃないし、船旅しましょうよ」

「なるべく、酔わない乗り物にしてくださいね」


「大きな船の先端で、両手広げるヤツやるわよ」

「あの映画、船沈むじゃないですか! 嫌ですよ。水中で息できる、僕だけ生き残るなんて」

縁起でもない……


まったく、緑さんは何時もこんな調子だ。




「ねえ、千尋」

「なんですか?」


「外国の知らない土地でさ、また学生してみない?」

「はい?」

「今度は私が男子学生して、千尋が女子学生するの」

そんな事、考えてもみなかった


本当に……この人には、色々と驚かされる


「ふふ……あはは、良いですね」

「でしょ。またドタバタな日々を過ごそうよ」



そう言って、僕の手を引いて歩き出す

着の身着のまま━━━━


僕らは、その身が朽果てるまで、一生離れずに居るだろう


フタナリ(両性具有)のハーフヴァンパイアと、元男の子の雌龍神の可笑(おか)しなカップルは


世界の何処かの学園で、ドタバタな日々を送っている。



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