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龍神の花嫁修行  作者: 霜月 如(リハビリ中)
小鳥遊ルート番外編
65/83

51-2 夏の悪役組織合宿

小鳥遊ルート番外編です。

作中、龍脈ポータルとカッコ良く言いますが、早い話『龍穴』です。

見える人には見えるそうで、瞬間移動は創作ですが、実際『龍穴』はパワースポットになります。

S県、I半島の先端、Yヶ浜

悪役組織3人組は、夏休みを利用して、海へ合宿に来ていた



合宿と言っても、名目だけであり

早い話、海水浴である



龍脈の中を抜け龍穴を開いて、最寄りの神社の境内へ出た途端に、セミの排泄を貰う


「着いて早々に、洗礼を受けるとは……」

「あはははは、セミにオシッコ掛けられてるし」

「千尋先輩、近寄らないでくださいね」

……

二人も、セミに掛けられてしまえ


手水舎のお水を貰って、拭った手を洗い流す




何で急に、海行きになったかと言うと……


あれは8月に入り、1週間が過ぎようとしていた頃


このまま何処にも行かないのは嫌~

と言う、緑さんの我が儘を聞いて、合宿が決定したのだ



半ヴァンパイアの緑さんだけは、念のために、日焼け止めクリームを厚目に塗りたくり

パーカーを羽織って、日傘をさすと言う重装備


まあ、完全なヴァンパイアでないので、いきなり灰に成ったりはしないのだが

長時間の日光は、日差しの強弱関係なく、肌が赤く腫れ上がって、ヤケドしてしまうとのこと


ちなみに、色々検証した結果、1時間ちょっとなら、直射日光に当たっても、腫れ上がらないそうだ


その為、学園でも窓際の席は出来るだけ避け、廊下寄りに替えて貰って居るというので

ちょっと不憫である



「それにしても、便利ね龍脈ワープ」


「龍脈ワープて……僕的には龍脈ポータルなんですがね。まぁ、何処へでも行けるって訳じゃありませんけど。龍脈が繋がった土地の神域なら、余程相性の悪い神様でない限り、龍穴を開けられます」


龍脈は気の流れであり、星の記憶やら生命の源等々エネルギーの川を、潤滑に廻しているのが龍神である


その龍脈へ、小さい龍穴を開けて、中を移動しているわけだが

流れが早すぎて、瞬間移動のように感じているだけなのだ



それに、龍神は水辺と相性が良いので、海の中の龍宮(海神の宮)なんかにも、行けたりする


僕が、龍神に就任した時に、龍宮(海神の宮)の『豊玉姫(とよたまひめ)』にも挨拶に行ってきた


豊玉姫は、浦島太郎に出てくる『乙姫』のモデル元になった海の神様である


緑さんは、一緒に挨拶へ行きたがって居たが

半ヴァンパイアの緑さんや、人間の小百合ちゃんでは、水圧に耐えられないだろうし


何より、二人は水中で息ができないので、龍宮(海神の宮)行きは我慢して貰った


人間? の二人には、地上の豊玉姫を祀った神社へ行って貰おう




「じゃあ、ここからだと少し歩きますが、僕の父方の伯父さんがやっている民宿へ案内します」

母方の親戚でないので、龍の因子は持って無いのだが、僕と同じ歳の男の子がいるのだ


「ホテルや旅館じゃ無いってところが良いわね」

「はい、合宿って感じがします」



龍脈から飛び出した神社から、3人海へ向かって歩く


どことなく、吹く風に磯の香りがするのは、珍しくて新鮮だ

僕ら山育ちですからね



「目標! 海の幸全種類制覇よ」

「了解です姉様」

「お二人さん、水を差すようだけど、季節外れのものもあるから、全部は無理ですって」


それに、お金もありませんから

貧乏学生だと言うのを忘れすぎだ



「お金の心配なら、ワープロブレムよ」

「姉様、それを言うならノープロブレムです」

本当に問題無いのか、心配になってきた



半ヴァンパイアの緑さんは、夜の方が身体能力が上がるらしく

祓い屋の仕事を遣りまくり、相当稼いだらしい


と言うのも、小百合ちゃんが朝餉(あさげ)の支度をしてくれるので、安心して祓い屋の仕事に専念出来るとのこと



一応貴女は、龍神である僕の花嫁さんなんですがね

あれ? 花婿になるのか?


緑さんは、男の子のアレが付いただけの『フタナリ(両性具有)』状態だから、余計にややこしい

女の子になってる僕が、他人の事言えないけど



しかし、メインである、巫女の仕事放って置いて、何やってるんだか

こんな事だと、龍の巫女の座が、小百合ちゃんになるんじゃ無いかと、少し心配する



鳥居を出てから30分、やがて海が見えてくる

3人分の荷物を背負いながら、もう少しですよ、と振り返ると


「居ないし……」


どこ行ったんだと見回すと、海の家に入って行く二人の姿が

まったく、荷物を民宿へ置いてからにして欲しいものだ



「ちょっと、荷物持ったままとか、勘弁してくださいよ」

「だって、お腹すいたし」

「姉様、サザエのつぼ焼き行きましょうよ」

「イカ焼きも良いわね」


コイツらは……聞いちゃいねえ

仕方がない、僕も諦めて席に座り、僕専用に角穴を開けた、麦わら帽子を取る


「僕はカレーで良いです」

「はあ!?」

小鳥遊姉妹(元弟)の声が見事にハモる



「せっかく、海に来たのにカレーって……」

「信じられません。千尋先輩には幻滅です」

たかが、カレーで酷い言われようだ



「じゃあ、カツカレーにします」

……

今度は黙っちゃったよ


「雰囲気台無しだから、せめて海の幸食べてよ。じゃないと、海月投げるわよ」

「ソレどっから出したんです!? しかも、微妙に海月じゃないし」

「姉様、カツオノエボシはクラゲ科と言うより毒持ち電気クラゲです」


「さっき、浜辺に打ち上げられてたのよ。これあげるから、シーフード食べなさい」


「そんな痛そうなの要りませんって。だいたい、これから行く民宿で、たくさん海の幸が出るんですよ。ここで食べたら、感動が薄くなっちゃうじゃないですか」


「それを早く言いなさいよ!!」

「隠してるなんて酷いですよ千尋先輩」


今度は非難の嵐だ

言おうと思ったのに、勝手に海の家へ入っちゃった癖にね


僕の言葉を聞いたせいで、メニューを見て唸る二人

別に食べたいモノ食べれば良いのに


散々迷った挙げ句、結局最後は、3品づつ海の幸を食べていた



「お嬢ちゃんたち、この辺の娘じゃないら?」

海の家の店員である、日焼けした兄ちゃんに、話し掛けられる

「分かるんですか?」

不思議そうに答える緑さんだが

地元人なら、海の家で食事せずに、家で食べるものね


二人は、メニューを見るのに集中していて、気が付いて居なかったが、さっき他の女性客にも、同じ事言ってたの聞いたし

手当たり次第の片っ端かい



その後も、品を持ってくる度に、緑さんと話していく

彼女に手を出されているようで、ちょっと面白くない


バチ当ててやるか


そう考えていると、僕の前に頼んでいないフランクフルトが置かれる

「嫌いじゃないら? オイラが焼いたんで食べてって」

「あ、ありがとう」

どうした事だろ……なんで僕だけ?


「千尋の事、気に入ったみたいね」

「はい?」


そんな馬鹿な

確かに今日は、男の子の格好でなく、ワンピース姿であるが……特別お洒落したわけでないし、肌の露出も少な目だ


だが、気に入られた要因に、すぐ気がつく

『胸』か……

店員の視線が胸に行ってるし、悲しい男の(さが)って奴だな


得心がいったわ


その後も、気を引こうとしているのか、焼きそばとか出してくれたが

カレーを食べた後で、そんなに食べ切れないってば


せっかくの好意を、無下に出来ないので

焼きそばは、パックに詰めて貰い、後でいただくとする


だって、貰った焼きそばを二人に勧めても、今回は海の幸以外食べないって頑固なんだもの



「さて、そろそろ伯父さんの民宿に行かないと、心配されそうだから行きましょうよ」

「ん~、もう一品食べたいような……」


確か、神社(ウチ)を出るときに、小百合ちゃんの作った朝餉(あさげ)を食べてきた筈ですけどね

どんだけ食べるんですか


「まったくもう……この後、水着姿になったとき、お腹ぷっくりしてても知りませんよ」

僕の言葉に凍り付く二人


本当に考えて無かったんかい



お腹ぷっくりが効いたのか、二人は渋々メニューを置いた

会計を済ませ、波の音を聞きながら民宿へ向かう


雲ひとつない晴天だからか、日差しの強さに皆汗だくだ


「暑~、もう脱いじゃっていい?」

「ダメに決まってるじゃないですか! だいたい、緑さんが脱いだら、日光で焼かれますよ」

「そうですよ、何のためにパーカー羽織ってると思うんです?」

ほらみろ、小百合ちゃんにもツッコミ貰った



「だってー、暑いんだもの」

「皆同じですって、我慢してください」

だから、朝の涼しい内に民宿へ着こうとしてたのに、海の家で時間くってるんだもの



「だいたい誰よ、海で合宿したい何て言い出したの」


「姉様……健忘症ですか?」

「僕の記憶だと、言い出しっぺは、ブラックテンプルさんだった筈ですけどね」

「なら、そのブラックなんちゃらさんを連れてきてよ」

く、鏡があったら、突き付けてやるのに



ぶつぶつ文句を言い続ける緑さんを連れて、民宿へ到着する

「伯父さん、こんにちは」

「おう、いらっしゃい。遠いところ良く来たな」



伯父さんは、元々内陸部の出身で

たまたま釣りに来ていた所、奥さんに一目惚れして、そのまま結婚したので、あまり地元訛りは無い



その奥さんは、隣町の大きな病院で、看護師長をやっている

責任ある役職のため、泊まり込みが多く、滅多に帰ってこないので、大概は伯父さんと息子の『(わたる)』君だけだ



伯父さんに、緑さんと小百合ちゃんを紹介し、民宿の中へ案内してもらう

「お世話になります」

「おう、上がった上がった。こっちだ」

そう言って、奥の4人部屋へ通される



「部屋のお茶は、自由に飲んでくれ、夕飯は19時だ。風呂はまだ、(わたる)が掃除してるから、お湯が張るまでは入れねーぞ」

「了解です」



「しかし……本当に女の子になっちまったんだな」

「あはは、まぁ、話すと長いですけどね」

どうやら、ウチの婆ちゃんに、電話でだいたいの話は聞いてたみたいだが

やっぱ、信じられないよね



「今回は、8月いっぱい居られるのかい?」

「えっと……それが……神社の仕事もあるんで、明日には帰らないと、いけないんです」



そうなのだ、ちょっと目を離すと、直ぐに龍脈が切れるんで、帰って龍脈を整えなければならない

下手をすると、龍脈ポータルが使えなくなるので、その前には帰らないと、電車で半日以上掛けて、帰る羽目になる



「1泊かぁ、そりゃまた急だな。よし! 今夜はご馳走にするぞ」

「さすが千尋の伯父様、話せるわ」

そう言って、伯父さんに抱き付く緑さん

本当に食い意地が張ってるんだから



限られた時間を有効活用するために、僕らは部屋で水着に着替えてしまう

もう1年以上も同棲しているので、羞恥心も薄れ家族みたいなものだ

僕は薄い水色のビキニタイプで、小百合ちゃんは白いワンピースタイプだ



しかし……問題は……



「千尋先輩……これ、どうします?」

「どうしようか?」


小百合ちゃんと二人で、緑さんの股間の膨らみに頭を悩ませる


「二人とも、凝視されると、流石に恥ずかしいんだけど」

「緑さん。今は、それどころじゃ、ありませんよ」

「そうですよ、恥ずかしがらずとも、私達二人は元男の子で、見慣れてますから」


緑さんの『フタナリ』状態が、ここに来て仇になるとは……

寧ろ、完全な男の子なら、カイパンって手も有るのだが

緑さんは、フタナリで胸がある為、それは出来ない


「パレオを巻くしかないかな」

「そうですね」


一応腰に巻くパレオを用意してきて正解だった

もしかして、萎えてる状態なら、膨らみ分からないんじゃ? と期待したんだけどね

こればかりは仕方がない



水着に着替え終わったので、渉君を誘って海へ繰り出そうと声を掛ける

ちょうど、露天風呂の掃除が終わり、風呂場から出てきた渉君に逢うことが出来た



「渉君久しぶり! 元気だった?」

「ち、千尋か?」

「そうだよ。前に来たときは、中学に上がって直ぐの夏だから……4年ぶりだね」

指を4つ折りながら、笑顔で答える


「嘘だ!! 千尋は男だったはず。お前は女じゃないか!」

え~、そうくるか


「そんなこと言われてもなぁ」

自分が、自分である証明とか、難しいね



「本当に千尋なら、何か思い出を話してみろよ」


「思い出かぁ……4年前、海で溺れ掛けて、伯父さんに怒られたのとか? 沖の赤いブイまで競争してて戻れなくなって……」

「あれは、千尋が帰りに、ヘバッタんだろ、焦ったんだからな」

「ゴメン、離岸流って言うので、いくら泳いでも戻れないんだもの、もうダメだと思ったよ」

龍神の今なら、水中で息できるし、水流も操れるから余裕だが、当時は本当に焦った



「ふん、まだ信用できないな、他には何か無いのか?」


「他かぁ、12年ぐらい前の秋に、渉君がウチの神社へ、七五三に来た時あったよね」

「5歳の時だろ」

「うん、あの時、渉君オネショ……」

「分かった!! 言わなくて良い!!」


どうやら、分かって貰えたようだ



「渉君、掃除終わったんでしょ? 一緒に海行かない?」

「それは構わないけど……なんか落ち着かないな」

そう言いながら、胸をチラチラ見ている


「あぁ、これ? ちょっと、腫れてるだけだと、思って貰えば良いから」

「そんな虫刺され見たいに言われても、ちょっとじゃねーし!」


難しいお年頃だ


こればかりは、モギ捨てる訳に行かないので、我慢して貰おう



渉君を二人に紹介し、4人で海へ向かう


「千尋に、今夜は浜で花火があるって聞いたので、楽しみなんだ」


日傘を差した緑さんが、はしゃぎながら、クルクル回っている


本当に最近、良く笑うようになったので


僕も、そんな緑さんを見て、嬉しくて仕方ない



「今日を選んだのは、それ(花火)も目当てだったんだ」


「そうか……だが、今年はどうなるか、分からねーんだ。何せ、アイツが出るから……」

「アイツ?」



その時、サイレンが砂浜に鳴り響く

「ち、噂をすれば……出やがった」


沖の方に、白くて大きなイカが現れる

クラーケンだ!!



「イカ!? さすが海辺のイカは、スケールが違うわね」

「姉様……アレは海でも、でかすぎますよ」


「たぶん、二人が海の家で、焼きイカ食べたりするから、怒ったんじゃ?」

「あんなのが、報復に来るなら、食べなかったわよ!」


「違うぞ! アイツは、去年の春ぐらいから、頻繁に出るようになってな。ちょっと暴れては帰っていく、嫌な奴なんだ」


うはぁ

傍迷惑なイカ



「とにかく、あんなのに花火を邪魔されてたまるもんですか!! 小百合! 千尋! やるわよ!」

何処にしまっていたのか、ブラックテンプルの鞭を取り出して構える

「了解です姉様」

「仕方ありませんね。緑さん、分かっていると思いますが、大日如来の真言は駄目ですよ」

半ヴァンパイアとは言え、大日如来は、緑さんもダメージを受けかねないので、釘を刺しておく



ライフガードのお兄さん達に誘導されながら逃げていく一般人を他所に

僕ら、3人でクラーケンに対峙する



「正気か!? 早く逃げろって」

青ざめる渉君の忠告も聞かずに、鞭へ帝釈天の雷撃を纏わせる緑さん


「先手必勝! 帝釈天の鞭(インダラウイップ)!」

振るわれた鞭から出る雷の衝撃波が海上を走る


直撃!


クラーケンの触手2本を吹っ飛ばす


「私も負けてられません!」

小百合ちゃんもどっから出したのか、リリィの鎌を出すと、チャージした魔法を撃ち出す

半月の魔法の刃がクラーケンの触手を切り裂く


「僕、遠距離だと、やることが無いんだけど……」

「同じく、俺も何も出来ない……」

渉君と二人で、ただ見ているしかない


だが、おとなしく静観していられなかった

ゆっくりではあるが、クラーケンの触手が再生してるのだ


さらに、怒ったクラーケンが墨を吹く

距離があるから油断していた

「きゃあ」

緑さんと小百合ちゃんが墨をモロに被ってしまった

「目がぁ……」

目を押さえながら、ゴロゴロと砂浜を転がる二人



仕方ない

僕は、渉君に二人を任せ、海へ飛び込む


向こうがクラーケンなら、こっちは水の龍神だ

お互い水中を得意とするなら、最悪引き分けても負けはない筈


僕は、ある程度の間合いで止まると、海中から顔を出し、水のレーザーブレスを吹く

この距離なら外す事はない



クラーケンは、墨を細くして圧力を上げ、僕のブレスを相殺した



イカの癖に芸達者な奴め


しかし、困った

僕には、攻撃手段が他に無いんだもの



『アタマにキタ! ヴオオォ』


ん? コイツ話せるのか?


正式な龍神に成ってから、神性が増したせいか、ある一定の知力を持つモノなら、動物でも鳥でも魚でも、会話が出来るようになっていた


「おーい、聞こえてる?」

『オマエ、ニンゲンじゃないみたいだが、ニンゲンのミカタするキライ』

「ちょ、ちょっと待って……うわぁぁ!」

僕の言葉は聞き入れられず、足に絡んでくる触手で、逆さ吊りにされる


非常にマズイ


空中では、水のブレスが吹けないからだ


「あのさ、何で人間を嫌うの?」

逆さまのまま問い掛けると

「ニンゲン、ゴミすてる、ゴミいたい」

そう言って、クラーケンは背中に刺さった、大きな金属片を見せる


どっかで見た破片だ


……


…………


!?

思い出した!!

テレビで観た無人探査機の一部だ!!


と言うことは……僕らが去年、マジカルショットで撃ち落としたヤツじゃん!

クラーケンが、去年の春から現れるようになったと言う、時期も見事に合致する



「あの~クラーケンさん? 破片抜くので帰ってくれません?」

『ユルサン!ヴォオオオオ』

唸り声をあげると、触手で僕の胸の水着を剥ぎ取る


「わあああ! 返せ馬鹿ぁ!!」

僕の叫びも虚しく、目の前で引きちぎられる水着

あぁ……


このエロイカめ!


まだ1回しか着てないのに


ムカついたので腹筋を使い、僕の足を掴まえている触手に噛み付くと

クラーケンは痛みに驚き、僕を海に投げ込む



透かさず、水流を操りながら、クラーケンの背中に回り込んで飛び付くと、刺さった破片を抜きに掛かる

癒着してしまっていて痛いのか、僕を振り落とそうと暴れるクラーケン


「もう、大人しくしろってば!」

クラーケンの背中に足を掛けて、龍神の力全開(フルパワー)で破片を引っ張る


少しずつ抜けてくる破片


「もう……ちょっと…………ぐぬぬ……ぬあぁ! 抜けた!!」

一気に、掛かっていたテンションが抜けて、刺さっていた破片諸共、海へ落下する



これでもう、痛くないよね

そう思った矢先に、緑さんの声が聞こえる


因陀羅耶 莎訶(いんだらや そばか)!!」


「帝釈天の真言!? 駄目です緑さん! 僕の反射が……」

と叫ぶも遅く、雷撃を受けるクラーケンと緑さん


あーあ、だから駄目だと言ったのに……

緑さんは、半ヴァンパイアだから、即死は無いだろうけど……痛そう


クラーケンは雷撃を受けて、涙目で帰っていく

「破片、ごめんねー」

背中に向かって謝ると、ヴォオオオオっと声を上げ、海の中へ沈んでいった


さすがだ、破片が刺さってた傷が、もう塞がり掛けてたし



僕は、クラーケンが海中へ消えるのを見送ると、浜へ戻り緑さんの様子を伺う


「緑さん、大丈夫ですか?」


そう訪ねたが、痺れて呂律が回らないみたいで、何言ってるか分からない


「姉様……駄目みたいですね、一度宿へ戻りましょう」


「その方が良いかもね、よいせっと!」

緑さんを背中に負ぶさると、宿に向かって歩き出す



何故か、回りの人の視線が、僕に集まっている


クラーケンとの戦いで、龍神だってバレたかな?

そう思っていると、小百合ちゃんが


「千尋先輩! 胸! 胸しまってください!!」


あ! 忘れていた

クラーケンに、水着剥ぎ取られたんだったわ


「ゴメン、緑さん負ぶるので両手塞がってるし、水着も破かれちゃったしねぇ」


困っていると、渉君が

「女の子になったんだから、その……少しは気を使えよ」

真っ赤な顔で、視線を外しながらそう言って、自分のTシャツを脱いで貸してくれた


ありがとう、お礼を言ってTシャツを着てみたが、胸の大きさに引き伸ばされ、プリントされた文字が横長になってしまう


キャラモノじゃなくて良かったわ



その後民宿で、日光の当たらない場所に、緑さんを寝かせると、10分と掛からずに復活した

さすが(ハーフ)ヴァンパイア



水着が無くなっちゃったんで、水遊びは断念することに成ってしまったが

その分、温泉に入ってゆっくりした


「貸切状態ね」

「はぁぁ、癒されますぅ」

「他に、女性客が居なくて、助かりました」

「何? まだ千尋は気にしてるの?」


「そりゃあ、気にしますって。学園では、まだ男の子として通ってるし。こう言う、女だか男だか、あやふやな事してると、男の格好で女子更衣室入ってしまうのだって、あるんですから」(44-2話参照)


あの時に痴漢認定されて、酷い目にあったのが、軽いトラウマになり

今でも、女子トイレ、女子更衣室、女風呂等に少し抵抗がある


「どうせなら、女子生徒として通っちゃえば良いのに」

「簡単に戸籍が変えられれば、そうしてます」


こればかりは、仕方がない


それに戸籍が変更できたとして、僕の戸籍が女性に成ったのでは、緑さんと同性になってしまい、婚姻届けが出せなくなるし


ま、卒業までの我慢かな



僕は、他の女性客が来る前に、お風呂から上がり、早々と着替えて出てしまう


「伯父さん、コーヒー牛乳貰うね」

そう声を掛けて、お金を置き、コーヒー牛乳を一気に(あお)

飲むときに、腰に手を当てて置くのがポイントだ


「おう、良い飲みっぷりだねえ。おっと、お金は要らないぜ」

「そう言う訳には……」

「浜を救ってくれた英雄から、お金貰ったら龍神様のバチがあたるだろ」


そんな事で、バチなんて当てませんって……


だいたい、クラーケンが襲って来たのだって、僕の撃ち落とした無人探査機の破片が刺さったからだし

それを追い返して、お礼を貰うなんてマッチポンプは、僕には出来ません



「この後、浜の打ち上げ花火、見ていくんだろ?」

「ええ、そのつもりです。直ぐ目の前で上がるから、迫力も凄いですし」

「おうよ、今年もバンバン上がるからな、これも皆が化けイカを追い返してくれたからだぜ」

がはははは、と笑いながら、僕の背中を叩いてくる伯父さん



違うんです……クラーケンは……僕のせいなんです

今更、口が裂けても言えないけど……



僕と伯父さんが話してる処に渉君が現れて

「オヤジ、夕飯どうすんだ?」

「ああ、どうすっか……Yヶ浜の観光協会で、浜でバーベキューして、もてなすって言ってたしな」


いやいやいやいや

そんなマッチポンプな事、して貰う訳には行かないですから


本当に勘弁してください


「あの、僕は民宿(ここ)で、夕御飯貰って食べますから」

申し訳なく断っていると


「駄目よ! せっかくの、おもてなしを断るなんて」

「緑さん、これには訳が……」

「千尋先輩、勝手に断ったら先輩に噛みつきますよ」

「私も噛んでやる」

止めて……


特に、緑さんの甘噛みは、痕に成るから



結局、二人に押しきられるように、浜バーベキューに成ってしまった


3人とも、持ってきた浴衣に着替え、浜辺へ繰り出しす



観光協会の御好意で、沢山のシーフードが振る舞われたが


マッチポンプ状態を知っている僕には、好意を受けることは出来なかった


理由が言えず、断り続けるのが苦痛なので、その場を離れて一人で浜辺を散歩する


適当な処に腰掛けると、丁度打ち上げ花火が始まり、一人で眺めていると

「こんな処に居たのか」

「渉君?」

渉君は、僕の隣に腰掛け、シーフードが盛られた、発泡スチロールのお皿を、僕の目の前に突き出してくる



「千尋、何も食って無いだろ。俺が焼いたんだぜ」

「あ、ありがとう」

せっかく、渉君が焼いてくれたんだし。一皿位なら、貰ってもバチは当たらないよね



焼かれた海老を頬張りながら、花火を見ていると渉君が

「キレイだ……」

僕に向かって言ってくる

「だねぇ、ウチの地元だと、此処まで近くで見れないから、迫力が違うよ」

そう渉君に笑顔で返すと

「あ、ああ……そうだな……」

そう答えて、夜空の花火に視線を戻した


そこは、『だろ!? 他じゃちょっと御目にかかれねーぜ!』と返してくると思ったのに、拍子抜けだ


何か悪いこと言ったかな?



やがて花火も終わり、僕達未成年組は、宿に戻る

さすがに色々あったんで、先に寝ますよと緑さんに言ったのだが

眠くならないんで、散歩してくると、外へ出ていった


本当に、半ヴァンパイアで、夜型なんだから……


ウチだったら、朝まで寝かせて貰え無いところだ


深夜の物の怪退治も程々に……



その願いも虚しく、深夜に電話で叩き起こされる


『こちら、○○駐在所ですが……』

……


物の怪どころか、警察からかよ!


『いや~、こちらのお嬢さん、身分証明持ってなくねー』

「……朝まで留置しておいてくだい」

そう言って、電話をガチャ切りするが


即電話が再び鳴り、ご立腹の緑さんの声が、スピーカーから漏れてくる

『ちょっと!! 酷いじゃないのよ!』

「酷いのは、寝てるのを電話で叩き起こす、緑さんじゃないですか」


『お願い~身受けに来て』

今度は泣き落としだし


「僕も未成年なんですけど? 仕方ない、緑さんのお父さんに電……」

『鬼かぁ!』

「龍です。はぁ……伯父さんに頼んでみますから、少し待っててください」


仕方ないので、伯父さんに訳を話して、緑さんを身受けに行く



「伯父様、お休みの処すみません」

「がはは、良いって良いって、許されるのは若い内だけだからな、経験しとくのも悪くないさ」

ロクな経験じゃないけどね


まあ伯父さんが、細かい事を気にしない、豪胆な人で良かった


さすがに、その後は大人しく布団に入った緑さんだが


やっぱり寝付けないらしく、気が付いたら居なくなっていたのだ。


僕は、トイレに起き出すついでに、緑さんを捜すと


屋根の上で、月を見ている緑さんを、発見する。


「また、夜の町を徘徊しに行ったのかと、思いましたよ」


「それはないわ、警察に2度も補導される訳に、いかないもの」

視線は月に向けたまま、そう話す緑さんの顔が、月光に照らされ、何時もより魅力的に見える。


僕も、緑さんと同じく、月に視線を向けたまま、口を開く

「でも、良かったんですか?」


「何が?」


変若水(をちみづ)の完成版を飲まなくて」


嘗て、小百合ちゃんが爆破した、研究所から持ち出した資料と材料━━

それに、僕の龍の血を使って、未完成の変若水を作った。


未完成の変若水の3本の内、残りの2本試験管。


その未完成品に更に手を加え、完成させていたのだ。


おそらく、完全版なら、半ヴァンパイアも戻せるんじゃないかと、思っていたのに、緑さんは飲むのを拒否していた。


「そうね……別に興味は無いかな……だって、私が輪廻の輪に戻ったら、誰が千尋の昇天を見届けるのよ」


そう言うことか……


この人は、人間としての短い人生より、日光に長時間当たれないと言う不便さはあるが、長命の半ヴァンパイアで居ることを選んだのだ。


同じく長命な、龍神である僕と、長い時を一緒に居るために……


そんな彼女を愛しく思い。抱き締める


━━━━と


「痛てててて、何するんですか!」

僕の首筋に、牙の痕が出来ていた。


「いや~、美味しそうだなぁと思って」


せっかくの雰囲気が台無しだ。


「もういいです。緑さんを愛しいと思った、僕が馬鹿でした」

そう言って、屋根から降りると、僕は寝室へ戻っていく


「あーん。待ってよーって……わぁ!」

凄い音がしたので、多分屋根から滑って落ちたのだろう


半ヴァンパイアだし、月も出てるしで、即回復するから放置で良いや。


特に、さっきの雰囲気を壊されたのが、イラッと来たので、放置だ放置!


そんな僕の背中に向かって、ごめんなさいと声が聞こえて来るのだった。



翌日の朝。


前日の迷惑掛けてしまったお詫びに、午前中は民宿のお手伝いをし、午後に帰り支度をする


お昼なんて、食べ納めとばかりに、海の幸を頬張る二人


また、直ぐに龍脈繋げて来れるのにねぇ




そして……帰省

最寄りの神社まで、渉君が見送りに来てくれる



「本当に、こんな処から帰れるのか?」


「うん、どうやら龍脈も切れて無いし、大丈夫だよ」



そう言って、境内の中央で、真下の地面に手を当てて、龍穴を開く

龍脈から吹き出した光が、渦を巻きながら光の柱を作る


「この光の柱が、神域と神域を繋ぐ、『龍脈ポータル』……緑さん風に言うと、『龍脈ワープ』ですかね」

そう渉君に説明をするが、不思議なモノを見たと、立ち尽くして居た


「じゃ、先に行くわよ」

と、眠そうな顔で、龍脈ポータルの向こうに消える緑さん。夜更かしし過ぎだ

続いて小百合ちゃんも、龍脈ポータルへ入って行った


「渉君も一緒にどう? また開けば帰ってこれるし」


そう言って、龍脈ポータルを通り、渉君をウチの神社に案内する



「おい、すげえな……本当にお前んちじゃねーか」

驚きながら、境内を見回す渉君に

お茶でも飲んでぐ? と誘ったんだが、帰って宿の風呂掃除があるからと、すぐ帰ることになった



帰りの龍脈を開いていると、地上に1部分だけ切り離し残った、ぬいぐるみの龍ちゃんが出て来て


「おい、小僧! 土産をやろう」

そう言って、渉君に玉手箱を渡す


「渉君、悪いこと言わないから、それ捨てた方が良いよ。煙が出て、お爺さんに成りそうだし」

「浦島太郎か!?」


「違うの?」

(たわ)けが! これは新型ステッキが入ってるんだぞ」


「余計悪いわ!」



「すげえ……龍のぬいぐるみが喋ってる」

そっちか

渉君の興味は玉手箱より、龍ちゃんにあるみたいだ


暫く、龍ちゃんを不思議そうに突ついていたが、開いた龍脈ポータルの光が弱く成ったため

渉君は、慌てて帰っていった


「あーあ、玉手箱持って行っちゃったよ」

「取り扱い説明書を、入れて置いたから大丈夫だろう」


本当かな……



数日後のニュースで、再びYヶ浜へ襲撃に来たクラーケンと、魔法少女に変身した渉君が戦う映像が流れている


ネットでは、特撮じゃね? とか、どっかのマイチューバーのイタズラか? なんて書き込みまで、上がってる始末


龍ちゃんは、そんな映像を見て

「上手く行っているじゃないか」

「お前な……満足そうに言ってる場合かよ!! 渉君まで魔法少女にして」

「はっはっは、悪の組織の終わりも近いな」

そう言って高笑いする龍ちゃん


「そうはさせないわ!! 光あるところに闇もあるのよ」


「く、お前はブラックテンプル! いつの間に!?」

いつの間に!? じゃねえ、同棲してるんだから、居るの当たり前だろ


「光が強くなれば、闇も強くなるのよ。リリィ! 勧誘に行くわよ!」

「了解です姉様!」

二人は勧誘に出ていく


「ふ、こうしちゃ居られん。俺も魔法のステッキを量産するぞ」

龍ちゃんも部屋へ戻っていくし


はぁ……


僕に、平和な日々は来るのかな


拝啓、黄泉の国の両親様


まだまだ、波乱万丈な日々が、続きそうです。


今回、長くて申し訳ありません。

それと、カツオノエボシは、絶対居るわけではありませんが、見付けた触らないようにしてください。猛毒です。

次は、過去真相編をやって、龍神ルートに入りますが

平成中に間に合わない……かな?

執筆遅くて申し訳ありません。

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