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龍神の花嫁修行  作者: 霜月 如(リハビリ中)
分岐 『小鳥遊 緑』 『小鳥遊 小百合』ルート
64/83

50-2 良い風に背を押されて

小鳥遊 緑、小鳥遊 小百合ルートはこれで終わりです。


押し掛け女房の小鳥遊先輩と、同棲が始まったのは良いのだけど……


料理の腕前が……その……前衛的と言うか……なんと言うか



朝食で、食卓の上の黒い物体を前に、その場に居る全員が固まる。


試しに、炭になった、かつて鮭であったであろう物体を、箸で掴もうとするも

完全に炭化しており、粉々になってしまう。


そのダークマターを作り出した先輩は、味噌汁をよそりに行ってるのだが

果して、本当に味噌汁だろうか? いや、味噌汁じゃないなアレは……



「何で今日もお前が作らんのだ!」

龍神がご立腹なのも納得だが、これには訳がある。



ヴァンパイアの一件以来、先輩は夜に寝ないのだ

そのせいで、僕が朝起きる前に、先輩は台所で朝餉の支度に入ってしまっている


あの時、先輩は『ヴァンパイア化が止まった』と言った

そう、『治った』ではなく『止まった』だ


実際その言葉の通り、半分ヴァンパイア化しているのだろう

完全夜型に成ってしまっている


だからと言って、昼間外に出れない訳でなく、長時間日光に当たると、肌が赤く腫れ上がる程度には、弱いと言うことだ


なので、常時長袖や日傘があれば、普通に外出が出来るらしい


まあ、夜型な分。昼間はかなり眠そうだが


今、丁度5月の連休に入ってて良かった


先輩には、連休明けまでに、昼型に慣れて貰おう



「お待たせー」

先輩の持つお盆の上に並ぶ4つのお椀

中身は濃い緑色だ


山菜がたっぷりなのかと、思うだろうが、そうではない

どう見ても、液体が絵の具を溶かしたような、濃い緑色なのである



「あのぅ……先輩?」

「緑よ! 学園外では『緑』って呼ぶ約束でしょ」


━━━確かに、そう言われたが、正直まだ恥ずかしい


「み、緑さん。少し眠った方が良いですよ。後は僕がやりますから」

隣で僕の言葉に頷く龍神、余程普通のご飯が食べたいのであろう


「大丈夫よ。それに、この時間で寝たら、夜型が戻らないもの」

「それは、そうかも知れませんが、寝不足で神楽舞の練習出来ます?」

「……が、頑張るわ」


何とも、頼りの無い返事である


この処ずっと、龍神が天に帰る時に舞う神楽舞を、練習しているのだ


最初は、僕だけが舞う予定だったのだが

嫁ぐからには、自分も神楽舞を覚えたいと、緑さんが志願したのである



まあ、仏道から神道に宗旨替えするのだから、色々初めてなのは仕方がない


何でも卒なくこなす緑さんが、四苦八苦している姿は、新鮮で微笑ましいのだが

そんな、僕の視線に気が付き、悔しそうに何度もやり直す姿は、本当に負けず嫌いなのだと、再認識させられる


今回の朝食も、僕がやるからと言っても、折れないだろう

仕方がない、覚悟を決めて先輩の料理に口をつける


習慣性だろうか? 気絶はしなくなった

━━━━が

龍神はダメだったみたいで、食卓に突っ伏している


いつも、食べずに逃げているから、耐性ができずにそうなるんだ


まあ、天に帰るのに、龍神の遣ることは別にないらしく

アニメを消化する毎日なので、別に気絶していても、差し支えはない



僕への引き継ぎとか、良いのかな?



神楽舞の練習の後、日が暮れてから街に繰り出す。

鳥居を潜るときに、緑さんの父上(御住職)が娘奪還の襲撃に来ていたが、婆ちゃんが応戦し追い返していた

毎日毎日、良くやるわ



「今日はどこへ行くの?」

「内緒です。それと、今回ニンニクは、無しですからね」

一応、釘を刺しておく


「大丈夫よ! 半ヴァンパイアになってから、ニンニクは苦手だもの」

そうは言っても、緑さんだからなぁ。


まあ、信じるとしましょう。



僕は久しぶりに、男の子の格好で出てきている

と言うのも、前回中途半端に終わってしまったデートを、やり直そうと思っているのだ



「緑さん、カラオケとかどうです?」

「良いけど、私は持ち歌とか無いわよ。カラオケ自体2度目だし」

「はい? 歌とかダメな人?」

「いやね、小百合と一緒に行ったんだけど、殆ど小百合が歌ってただけだったから……持ち歌とか無いのよね」

時間があれば、物の怪退治ばかりだったし、と苦笑いを返す

成る程

ならば、カラオケは却下だな、僕だけ楽しんでも仕方がないし


結局、映画を観に行く事にしたのだが、アクション映画を選ぶところが、緑さんらしい

その後、ファミレスで夕御飯を食べ(貧乏学生なので、高いところは無理です)


取って置きの、県庁展望フロアへ、夜景を見に行く


「こんな処があるなんて……」

「夜間だけ、一般解放されてるんですよ」


さすが、穴場だけあって、カップルだらけだ


ガラスの向こうに広がる、夜景のパノラマに、二人無言で目を奪われる


「綺麗……」

「ええ……」

こんな時、何て言えば良いんだ


気の利いた言葉が出てこない


どうしようと、焦っていると、緑さんの方から切り出してきた



「千尋はさ、本当に私なんかで良いの?」

「なんですか? 僕を傷物にした責任を、取ってくれるんじゃ無かったんですか?」

ちょっと意地悪く言ってみる。


切り傷は、直ぐに『再生』で治っちゃったけどね。



「それは、そうだけど……私は今まで、普通の女の子がしてるような、遊びとかしてこなかったし……一緒に居ても退屈なんじゃ無いかなっと思って」



さっきのカラオケの事とか気にしてるな



「別に、良いんじゃないですかね。歌なんて何時でも歌えますし。それに、次までに一緒に歌える曲とか、覚える楽しみが出来たじゃないですか」

そう笑顔で答える



「他にも、プリントシールだってやったこと無いし」

「プリシーも、今度二人で撮れば良いだけです」

「他にも……」

「全部これから、一緒にやっていきましょう。やり飽きた人達よりも、新鮮みがあって良いじゃないですか」



ずいぶんと、今夜はしおらしい

きっと、司君の一件が片付いた為に、張っていた気が抜けたのだろう

ずっとこんな風なら、可愛らしいのだが

明日には、戻っているだろうなぁ、緑さんだし



「ちゃんと、最後まで付き合ってくれる?」

「ん~、どうしましょうか?」

また意地悪く言ってみる

だって、こんな緑さんそうそう無いし



「付き合ってくれないなら……」

「え?」

「千尋を殺して私も死ぬわ!!」

「何でそうなるんですか!」


緑さんに、泣きながら追いかけられるが、僕の足のサイズも、女の子になって少し小さくなってる為


男の子の格好で履いてきた靴が、ちょっと緩くて脱げそうになり、転んでしまう



「やっと捕まえたわ」

そう言って、倒れている僕のとなりに座り込むと、仰向けに成った僕と見つめ合う

「捕まえて、どうするんです?」

「こうするのよ」


そのまま(かが)んで、僕にキスをしてくる


たった数秒程度の時間が、永遠に続けば良いと願うも、やはりそうは行かないものだ


僕は、唇を離した緑さんの涙を指で拭い


「本当に強引なんですね」

そう言って笑顔を向ける


「逃げるからよ」

顔を赤らめて顔を背ける姿が、意地らしくて笑ってしまう


「ごめんなさい、緑さんの仕草が可愛くて、つい」

僕の言葉に、更に赤くなる


「もう、今夜新作の味噌汁を、味見して貰うからね。美味しいと言うまで、寝かさないから」

ヤバ、調子にのり過ぎた


「明日も、神楽舞の練習あるんで、ほどほどに……」

「ダーメ」

新作の味噌汁とか……今回は、何度意識が飛ぶんだろう……


しかし、なんと言うか……デートやキスより、緑さんからの求婚が先だったからな、順番があべこべなんだもの


普通じゃないって?


いや、これが僕達の普通なんだよ


龍と半ヴァンパイアの祓い屋ってだけでも、既に普通じゃないしね





それから、5月下旬の良日に、龍神を天に送る。

春アニメがまだ途中なので、未視聴に未練たらたらだった為。龍ちゃんを切り離して地上に残し、本体は天に帰っていった。


アニメの為に、そこまでするか?



僕は、前任の龍神が天に帰った為に、次期龍神として社を引き継いだ

変わった事は、参拝者の願いの声が、聞こえるように成った位か


どうやって、叶えてやれば良いのか、龍ちゃんに聞くと

叶えたい願いを念じてやれば、自然と良い方向に向かうのだと言う



そもそも、龍神は天候……特に雨と風を司り

豊作をもたらしたり、人間の行動に勢いをつける事が有名で

気に入られると、事業が成功し拡大するとか、社員ならトントン拍子で出世する等があると言う


龍神の多くは、水辺を好む(川や池だけでなく海もある等、例外もあります)

だから、ウチも頂上の湖のすぐ下にあるんだな……



龍ちゃん曰く

「全部叶えていたら、切りがないし。複数になればなる程、叶える力が落ちるて、どれも叶わなくなる。取捨選択も大事なのだ」

とのこと

出来れば、全部叶えてやりたいが、結局全部叶わなくなるのでは意味がない



それに、人間の願い事だけでなく、龍脈も整えなきゃならないと言う


一通り説明を受けたが、何のこっちゃだか、良く分からなかった

今度、実際に遣りながら、教えてくれるらしい



だが、その龍脈操作が難しいのなんの

人間の新都市計画で、地形が変わる度に、龍脈を繋ぎ直し整えるんだけど

もう、工事は止めてと、泣きそうになるほど複雑になっていく


数年は、四苦八苦しながらやっていた

この龍脈が、上手く整わないと、気の流れが滞ってしまい、地球全体に影響してくるらしい


何とも壮大過ぎて、実感がないけど、龍ちゃんがいつになく、マジで言っているので、本当に危険だと感じた



緑さんは、今まで僕がやっていた、巫女の仕事を引き継いだ

僕が龍脈操作で、手が離せなかったりするので、大助かりなのだが


やはり料理だけは、いつまで経っても上達しなかった



御実家の母親の所に、料理を教わりに戻ったりしたが、腕前は上がらず終い

と言うよりも、母親に匙を投げられたみたいだ



それも、翌年3月までで、転機が訪れる



中学を卒業し、アルバイトが出来るようになった、小百合ちゃんが、住み込みで来てくれたからだ


「言った筈ですよ、まだ千尋先輩を諦めた訳じゃ無いって」

堂々と、緑さんに宣戦布告をしたのだ

「良いわ、年の功を見せてあげる」

そう火花を散らす二人だが、本気でいがみ合う訳でなく

空白の7年を埋めようと、じゃれ合ってるような感じだ


良い風が吹いている


自分に、龍神の加護は掛けられないが、確実に良くなっているのは分かる




そして、4月



僕は2年に、緑さんは3年に成って、新入生を歓迎する



「小百合ちゃん、入学おめでとう」

「ありがとうございます」

「しかし、緑先輩はどこ行ったんだ? せっかく校門前で、姉妹並んで写真撮ろうとしたのに」

「さぁ、私は新入生で、別入場だったから」

小百合ちゃんと二人で、緑先輩を捜していると

ブラックテンプルの姿で、新入生を勧誘している先輩を見付ける



「緑先輩、何やってるんですか?」

「ふ、知れたことよ! 新しい悪の部員を勧誘し、5人以上にすれば、同好会から正式な部活動に格上げ出来るのよ」

「5人集めたところで、活動内容で弾かれると思いますよ」


「今朝だって、ペットボトルの蓋着けたまま棄てたり、分別しない以外に、憎っくき教頭のスリッパを、トイレ用と交換しておいたわ」

「その活動内容では、許可がおりるどころか、反省文書かされますよ」


呆れて脱力していると

何処からか、魔法弾が飛んできて、近くの新入生が数名吹っ飛ばされる



「危な!」

「何々なんなのよ」

「姉様、あそこです」

小百合ちゃんが屋上を指差すその先には、マジカルサキュアが魔法のステッキを構えている


「もう、またサキュアなの!!」

「いや、他にも居るみたいですよ」



屋上に5人の影が並ぶ

「新入生を勧誘させてもらいました、これで悪事も終わりです!」

そう叫ぶサキュアの隣に、見知った顔が


あれは……香住!?


「千尋は返してもらいますよ。小鳥遊先輩」

そう言って、会議室にあるような、折り畳み式のテーブルを構えると、投げ付けてくる


「うわああぁ……」

間一髪避けるが、地面に刺さった机の姿に、青ざめる僕達


「ちょっと、千尋が反射してくれないと、危ないじゃない」

「無茶言わないでください。あれ、どう見ても魔法じゃなく、物理攻撃ですよ」



そう、魔法少女に変身した香住は、変身で上がった膂力(りょりょく)を使って、物理的に机を投げているのだ


いくらプロレス好きだからって、机の凶器攻撃かよ

普通、投げるか? しかも屋上から


物理攻撃である以上、僕の守護神で反射はできないのだ



校舎の中の死角に逃げ込んで、作戦を練ろうとするが

トイレ用スリッパを履いた、教頭先生に見付かってしまう


「小鳥遊!! 今日と言う今日は、許さんからな」


「ちっ、教頭か! 間の悪い時に……」

「敵ばっかりじゃないですか!」


僕達3人は、今日も追われ、逃げ回る。



悪役組織は現在3名。



新入生の部員を、随時募集中です。



小鳥遊 緑、小鳥遊 小百合ルートいかがでしたでしょか?

ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。

龍神ルートは、精神的男の千尋君と龍神雄のお話になります。

嫌いでない方は、そちらもお願い致します。




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