49-2 三色の変若水
昔考えた話ですので、10連休には対応しておりません。
10連休対応させちゃうと、後半の学園内の事が書けなくなってしまうので、物語は通常カレンダーのままです。
爆破され、崩れていく旧中学校から無事脱出し、先輩の実家へ転がり込む。
小百合ちゃん曰く、「本来、あそこまで威力は無い筈が、施設の薬品に引火したんじゃないかな?」とのこと
(読んでる皆さんは、肥料でも造れるからって、絶対造っちゃダメだぞ)
だいたい、小百合ちゃん……中学生がそんなもの造るなよ……
小鳥遊先輩の御実家へ転がり込んだ僕たちは、変若水……西洋名エリクサーを作る為、あらゆる資料を漁る。
祟り神の一件の報酬で、神社の資料も、先輩の御実家にあるから、取りに行く手間も省けて好都合だ。
「先輩を暗室に連れて行くので、龍ちゃんも資料の方を手伝ってよ」
「えー、俺はこの胸の谷間から出たくない」
崩れる校舎から出るときに、慌てて胸の谷間に詰めて来たのが、裏目に出てしまった。
このエロ龍め
胸から引き離そうとするも、何時にもない抵抗を見せる。
「こら! せっかく買ったブラが千切れるだろ! 手を離せって」
「嫌だ嫌だ! 俺は、ずっとここに住むんだ!」
もー、仕方ない。
先に、先輩を何とかしないと可哀想だ。
取り敢えず資料の方は、小百合ちゃんに任せて、先輩の身柄を簡易的につくった暗室に運ぶ。
「ちょっと、いつまでミイラ女にして置くつもり?」
さすがに、我慢の限界がきたのか、先輩から苦情が出る。
「すみません、窓を全部覆いましたから、もう日避けに巻いた布を取っても大丈夫ですよ。調子は大丈夫ですか?」
「最悪……」
でしょうね
まあ、薬が出来るまでの辛抱ですと言って、部屋にあるテレビの電源を入れる
どの局でも、ニュースになっていないようだ
スマホでネットを確認するも、こちらも同じで、話題になってない
老朽化で取り壊し寸前とはいえ、大きな建造物の旧中学校校舎が爆破されたと言うのに、爆破の『爆』の字もないのである
「どうやら、何処かの圧力で、情報操作されてるようですね」
「でしょうね。非合法の施設で、人体実験までやってたなんて、公に出来ないもの」
確かに、公に成れば大騒ぎだ。
消防士も、火が消えれば地下施設の跡を見せぬよう、締め出されるだろう
ん!?
「ちょっと待った!! 先輩、地下施設の事をどこで知ったんです? 僕は司君が元に戻せないって話しただけで、地下施設の事は、話して無いですよね?」
先輩は、しまった! と口に手を当て、目を反らしたが
僕のジト目に、耐えられなくなったのか、観念したように話し出す
「昨日の朝にシチュー作ってたら、台所に出入り禁止になったって話したでしょ?」
「あー、確かに言われてましたね。あまりの煙の凄さに、消防車呼ばれたって」
「そそ、それで実家に居ずらくて、お昼過ぎに一度千尋ちゃんの所に行ったのよ」
昨日のお昼過ぎって……このバカ龍が告白する中学生を出歯亀してた頃
そして、洞窟内での司君についての会話……
「まさか!?」
「そのまさかで、二人の会話聞いちゃった」
てへ、と舌を出す先輩だが
「てへ、じゃ無いでしょ!! 小百合ちゃんが!!」
「聞いちゃった私が言うのも何だけど、小百合大丈夫みたいじゃない?」
そう言えば、無事生きてるし
何でだろ
「ん~誓約内容は、確か……『司の魂を持つものが、この事を他の人間に伝えるを禁ず』だったはず」
「それなら大丈夫じゃないの? 司が他の人間には言えないけど。人間じゃなく、司でもない、龍の千尋ちゃんが言うのは、誓約に引っ掛からないって事でしょ」
そんな都合の良い……
だが、文言に引っ掛かってないのは確かだ
「その誓約を課したモノは、人間じゃない者が現れると思わなかったのよ、きっと」
「どうせ、僕の存在はファンタジーですよ」
「でも、そのお陰で、私は司が生きて居るのが分かったわ、姿は小百合だけどね」
そう言って、今までにない笑顔を見せる
先輩は、7年前に司君を置き去りにしてしまった呵責から、ようやく解放されたのだ。
「司は、小百合の中で生きていても、私の方がダメみたい」
「先輩?」
「たぶん、薬は間に合わないわね。どんどん変わってるのが分かるもの……」
「そんなに酷いんですか!?」
「良いとこ、もって2時間って処かしらね。ふふ、祓い屋が祓われる方になるなんてね、皮肉だわ」
く、さすがに2時間では……
「他に何か手立てはないの? 龍ちゃん!」
胸に張り付いてる、龍のぬいぐるみに聞いてみる。
「ん~龍の血だけでは、少し材料が足らないな」
万事休すか……
そう思っていると、襖の向こうから小百合ちゃんが、ちょっと良いですか? と声を掛けてくる。
僕は、先輩へ日光が当たらぬよう気を付けてながら、部屋の外へ出ると、小百合ちゃんにどうしたのか尋ねた。
「これ……使えませんかね? 実は、研究所から抜け出すとき、幾つか試験管を拝借してきたんです」
小百合ちゃんは、そう言って3種類の試験管を見せてきた。
「此れってもしかして……」
「ああ、間違いない。未完成の変若水だな」
試験管の蓋を開けて、臭いを嗅ぎながら龍ちゃんが答えた。
臭いを嗅ぐだけで解るなんて、さすが水を司る水神の龍。
「でも、未完成では駄目じゃないの?」
「いや、3本とも違ったアプローチで完成へ向かってるが、副作用が出てしまうな。本当に良いところまで着ているんだが」
「そうなんだ……」
「うむ、どれも強い副作用が出てしまっている……残念ながらな」
結局無駄骨かぁ
そう肩を落として、落胆していると龍ちゃんが
「そう、気を落とすな。まだ手立てがない訳ではないぞ」
「え?」
「龍の血を使うんだ」
「龍の血!?」
「そうだ、この未完成の変若水に、龍の血を混ぜれば、副作用を抑えられる」
龍ちゃんの話では、龍の血自体にも、エリクサーの元になる成分があるらしく、昔から珍重されていたとの事。だから、龍は命を狙われる。
しかし、それだけでは足らず、マンドラゴラの根とか、アンブロシアとか、他にも色々必要だと言うのだ。
だが、この試験管には、それらの材料が含まれてるのが、あるみたいで、龍の血を入れれば更に完成へと近付くらしい。
「じゃあ、早くやろう」
「待て待て、慌てるな。ただ龍の血を入れれば、良いってものじゃない。分量が解って居ないだろ」
「分量があるの?」
「うむ、多すぎれば、副作用だけでなく、本来の変若水の効果も、浄化し消えてしまう。かといって少なすぎれば副作用が消えきれず、命を落とすやも知れん」
つまり、そこは賭って事か……
取り敢えず、ここでは資料はあっても、実験用機材が無いため
変若水を完成させるべく、ウチの学園より近い、中学校の新校舎へ移動する。
ご住職が、緑を助ける為ならばと、前もって鍵を開けてもらえるよう、連絡してくれたので
休日ではあるが、中学校新校舎の中へ入ることが出来た。
さすが、地元で信用のある聖職者だ。
爆発炎上し、消防車だらけの旧校舎前と違い、休日だと言うのもあって、中は閑散としている。
まあ、グランドは部活動をやってる部もあるけどね。
「化学室はこちらです。あ……でも、知ってますよね」
と小百合ちゃんの案内に
「まあ、数ヶ月前まで、僕も通ってたから」
そう言って、懐かしの学舎の中を歩く。
化学室に着くと、フラスコとか色々と実験器具を用意し。
後は龍の血なんだけど……
「何で僕!? 龍ちゃんの方が龍神だし、良いんじゃないの?」
「あのな、俺は思念体のぬいぐるみで、本体は神社に居るんだぞ」
血なんか出ないと足蹴にされてしまった。
今から、神社まで戻っている時間は無いし……
くっ、結局僕が血を流すのかよ!
仕方なく、指先を傷付けて血を垂らす。
再生力が強すぎて、直ぐ傷が治ってしまうため、その都度痛い思いをすることに……
「結構抜けましたね、うふふ」
僕の血が入った数十本もの試験管を前に、満足そうに笑う小百合ちゃん。
「お陰で、僕は貧血気味ですけどね……」
もう用済みとばかりに、床へ転がされて居た。
「後は私に任せて、少し休んでいて下さい」
僕は、小百合ちゃんのその言葉に、素直に甘えると、冷たい床の上で目を閉じた。
どれくらい経っただろうか……
小百合ちゃんの呼ぶ声で起こされると、3本の試験管がそれぞれ出来上がっていた。
どうやら、龍ちゃんが臭いを嗅ぎながら、一番副作用の少ない調合を行ったらしい。
「副作用が少ないと言うことは、完全には消せなかったんだ?」
「うむ、時間を掛ければ、もっと上手く行きそうだが……既に1時間半を経過しているのでな」
げ、先輩の家までの移動時間も考えれば、ギリギリじゃないか
こうしては居られないと、立ち上がる僕を、大丈夫ですか? と貧血を心配してくれる小百合ちゃんだが
床の上とはいえ、短時間だけど休む事が出来たので、普通に歩く事が出来た。
そこは、さすが龍の再生力である。
急いで先輩の御実家へ戻ると、日光を遮った暗い先輩の部屋へ行く。
「先輩、出来ましたよ」
そう言って、3本の試験管を渡す。
「姉様、3本の中の1本を選んでください」
「3本とも飲んじゃ駄目なの?」
「3本とも別のアプローチで作られてて、混ぜると危険なんだ」
龍ちゃんが全部は飲むなと釘を刺す。
「混ぜると危険って、何処かの洗剤みたいね」
そう言いながら、3本の試験管を睨む
1つ目は赤い色、2つ目は青、3つ目は緑、それぞれ微妙にキラキラ光っていた。
「あの……先輩? 急かすようで申し訳ありませんが、時間がありませんよ」
僕もちょっと焦り始めていた。
「う~ん。どれも、毒に見えちゃって……」
先輩の気持ちも、分かる気がする。だって、薄い色じゃなく、濃い赤青緑なんだもの
先輩は、暫く試験管を睨んだ後に、僕の目を真っ直ぐ見て
少し千尋ちゃんと二人きりで、話をさせて欲しいと言ってきた。
その言葉に、気を利かせて、ぬいぐるみの龍ちゃんを抱いて、部屋を出ていく小百合ちゃん。
二人が居なくなると、突然抱きつかれた。
「先輩?」
何時もの気丈な先輩と違って、少し身体が震えていた。
「ごめんなさい。少しだけ、このまま居させて」
そうか……先輩も怖いんだな……
僕は、先輩を強く抱き締め返すと
「大丈夫です。僕の龍血が、先輩を死なせるわけ有りませんから」
そう言って長いキスをする。
暫くして、ゆっくり唇をはなすと、先輩は━━
「司を見殺しにしてしまった呵責から、死なんて怖くなかったのに……千尋ちゃんに逢って、まだ生きたいと思うようになっちゃったわ。だから、責任取ってね」
そう言って、3本の試験管を僕に突き付ける。
千尋ちゃんが選んだものなら、飲めるからと……
僕は━━━━
「選ぶのは決まって居ます。僕の選ぶのは、好きな人の名前と同じ『緑』しかありませんよ」
そう言って緑の試験管を選ぶと先輩へ渡す。
どんな結果であろうとも、受け入れます……と
僕の渡した試験管の中身を飲み干すと、先輩は気を失って倒れてしまった。
それから眠ったまま、先輩は目を覚まさなかったが、絶対大丈夫と自分に言い聞かせ、目が覚めるまで待たせて貰うことに。
夕方、様子を見に行った小百合ちゃんが
「姉様がお目覚めに成りましたよ」
と嬉しそうに、戻ってきて教えてくれた。
僕は早速先輩の部屋へ行き、襖の向こうへ声を掛ける
「先輩! 入りますよ」
と言って襖を開けるが、部屋の奥で背中を向けたまま立ち尽くす先輩に、それ以上声を掛けられず、先輩の返答を待って居ると
「千尋ちゃん。笑わ無いって約束してくれる?」
「大丈夫です。僕は、どんな結果でも受け入れますって、飲む前に言ったじゃ無いですか」
そう答えると、ゆっくり此方を振り返る先輩
あれ?
何か……先輩の股間に、昔僕にもあった懐かしいモノが……
「なんかね……生えちゃった」
てへ、と舌を出す先輩だが
「えええええ!?」
僕はさすがに、驚きを隠せなかった。
先輩は、未完成変若水の副作用により、両性具有と化してしまっていたが、命に変えられないと納得しているようだ。
「どんな結果も、受け入れるって言ったのに……嘘つき」
「あ、いえ……さすがに驚いただけで、別にそれで嫌いになったとか、そう言うんじゃ無くて……」
「本当? じゃあ、証拠を見せて」
先輩の言葉に、僕は頬を染めながら、困ったように頭を掻くと
つま先立ちになって、先輩へキスをした。
…………
……
その後、先輩が夕日の光に当たって、大丈夫だと言うのを確認し
「どうにか、ヴァンパイア化は、止まったみたいね」
先輩のその言葉に、全員で安堵の溜め息をつく。
気が抜けて、へたり込んでから、自分が埃まみれなのに気が付き
さすがに粉っぽいので、お風呂を借りて入ったが、先輩に突入されることはなかった。
夜通しヴァンパイアと一戦交えたんだ、皆疲れきっているんだろう。
僕も然別だけどね。
それにしても、先輩の家に、ずっと忘れてる着替えがあって助かった。
まさか、この時の為にずっと忘れてたんじゃあるまい……
まさかね
お風呂を上がって居間へ行くと、龍ちゃんと、小百合ちゃんと、魔法少女サキュアがテレビを視ていた。
そうか、マジカルサキュアは、悪役が居ないと戻れないのか
相変わらず、難儀な変身だ。
「そう言えば、何で住職が簀巻きにされてるの?」
今まで、テーブルの影で、よく見えなかったんだけど
猿轡をされて、うーうー唸ってるので、今更ながらに気が付いた。
取り敢えず、住職の猿轡を外してやると
「キサマー、ウチの緑に手を出したな! しかも、ヴァンパイアだと? どう責任を取るんだ!!」
お言葉ですがね御住職、血を提供して傷物になったのは、僕なんですけど
まぁ傷は、とっくに龍の再生で治っちゃたけどね。
それに、ヴァンパイア化だって、司君がやったんだし。
とはいえ、ご住職は興奮してて話になら無い。
「責任なら、大丈夫です。お父さん」
いつの間にか、現れた先輩が言う。
「み、緑。何が大丈夫なんだ?」
「だから、その責任を取って、私はお嫁に行きます」
その場に居る、全員の時が止まる
「そ、そんな事、許さんぞ!」
「あら、だってお父さんは、傷物にした責任を取れって、言ったでしょ」
「それは、瑞樹君に言ったんだ!」
「私は、どこも傷物になんてされてません。むしろ、彼を傷物にしたのは私です。だから、責任を取ってお嫁に……」
「ダメじゃダメじゃダメじゃあああ。だいたい、娘が傷物にされずに、彼氏が傷物とか、おかしいろ!!」
御住職……言いたいことは、よーく分かる。
先輩と御住職は、まだ言い合いしているが
僕には、どうでもいいや、色々と疲れきったので
「親子喧嘩は、勝手にやってください。僕は帰りますよ」
そう言うと、龍ちゃんを連れて、帰り支度をする
「こら! 逃げるのか!」
今にも、飛びかかりそうな剣幕で、怒鳴りちらす住職を他所に
脱いだ、女子の制服等をまとめていく
住職の簀巻きのロープを解かずに、猿轡だけで良かったわ
どうにかロープを解こうと、踠いてるし
「先輩、じゃ、また学園で」
お邪魔しましたと、言って外に出る。
「千尋ちゃん、本当にありがとう、必ずお礼はするからね」
そんなの良いのに
照れ臭いので、ハイハイと手だけ上げて、そのまま帰るが
まだ、この時は先輩の覚悟が、分かっていなかった
神社に帰って、ぬいぐるみの龍ちゃんを胸に抱いたまま、死んだように眠る
どうせなら、龍神本体を抱いてくれと懇願されたが、龍神本体と寝たら、休んだことにならんので却下した
そのまま日が暮れて、夕餉の支度の為に起き出すと、玄関から声がする
「こんばんは」
ん?
あの声は、小鳥遊先輩?
僕は、先輩を玄関へ出迎えると
そこには、大きな風呂敷包みを背負った、先輩の姿があった
「どうしたんです?」
「今日から、御世話に成ります。瑞樹 緑です」
僕はあまりの事に、抱いていた龍ちゃんを落としてしまう。
「せ、先輩、瑞樹 緑って……まだ籍入れられませんよ」
「厳密には、まだ小鳥遊 緑だけど、これが私の覚悟よ」
そう言って、先輩の名前が書き込んである、婚姻届けを僕に渡してくる。
「不束者ですが、よろしくね旦那様」
次話で、小鳥遊ルートが終わりになります。
もう一話だけ、お付き合いくださいませ。




