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龍神の花嫁修行  作者: 霜月 如(リハビリ中)
分岐 『小鳥遊 緑』 『小鳥遊 小百合』ルート
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48-2 不死者の最後

街灯のない夜道を、月明かりだけを便りに、旧中学校へと辿り着く


シチュー(硬化剤)を用意したり、色々準備していた為


神社(ウチ)を出た時間が遅くなり、グランドに着くころには、丑三つ時に成ろうとしていた



小鳥遊先輩の実家(お寺)からなら、10分と掛からなかったんだけどね

ウチからだと、そうは行かないので、仕方がない



「千尋ちゃん、今日は巫女装束じゃないのね」

「いやまぁ、女子の制服着ちゃったから、脱ぐのも面倒でそのまま……」


「ついに、女の子として、観念したかのかな?」

「ち、違います。身体は仕方ないとしても、心までは諦めてませんから」

「そうなの? 可愛いのに勿体無いなぁ」



まったく、人の気も知らないで……

身体が男の子のままなら、先輩とだって、普通の恋愛が出来たのに……


いや、先輩と普通って……思い浮かばないや

だいたい、この人に普通を求めるのが、間違っている


今までだって、往来で襲われそうになったり、僕の着替えで鼻血吹いたり、どさくさ紛れ胸を揉まれ、デートと思いきやニンニクを入れてラーメンを食べる


(ろく)な思い出がないな


でも━━━━

いつの間にか、気になる存在になっていた


そんな僕の視線に気が付いてか

「な、なによ」

と、ジト目で見てくる先輩に

「別に~何でも無いですよー」

そう、はぐらかして答える



「千尋ちゃんの癖に、生意気じゃない」

「なんですか僕の癖にって、だいたい、先輩は女子力が低すぎるんです。普通デートでニンニク食べないでしょ」

「男の子の千尋ちゃんに、女子力云々は言われたく無いわね。それに、あれはタダの買い物だったじゃないの」

これだよ……


「ま、分かってましたけどね。先輩に普通を求めるのは無理だって」

「そう? じゃあ、私にだって女の子らしい一面があるって見せてあげるわ」

そう言って僕を引き寄せると、顔を近付けてくる



僕の唇と、あと数センチと無いところで止まると

「お出でなすったわ」

「無粋な弟ぎみですね」

月明かりに照らされる、赤い眼の司君を視界にとらえた


僕は、袋から魔法瓶を出して、いつでも投げれるように用意する



先に火蓋を切ったのは先輩の鞭だった

南莫(ナウマク) 三満多(サンマンタ) 嚩日囉(バサラ)赧憾(タンカン)!!」

不動明王の真言で鞭に炎を纏わせ、そのまま叩き付ける

すごい轟音と共に、グランドに穴が開く

威力は絶大だが、当たらない


その後も、息をつく暇をも与えず、鞭を振るうも、全て避けられている


誤算だ

あんな素早いのに、どうやって魔法瓶のシチュー(硬化剤)をぶち当てろと?


「千尋ちゃんの秘策はどうしたのよ!」

「あ、いや……動きを止められないですよね?」

「止められないどころか、かすりもしないわ!」

何よ! 作戦穴だらけじゃない! と叫ぶ先輩に

僕は、頑張って下さいとしか、言えないでいる


こんな時何も出来ない自分が、歯痒て仕方ない


どれだけ長く、攻防を繰り返しただろうか

先輩の動きに疲労が見え始める


マズイ

相手は疲れを知らない不死者なのに

このままではジリ貧だ



相手も分かっているのか、隙をうかがう動きになってきている


先輩の火炎鞭が避けられ地面を叩く

と同時に、砂埃が舞って、視界が遮られてしまう


しまった!!


砂埃の中から飛び出してくる司君に反応が遅れ


司君の鋭い爪が先輩に迫る

「先輩!!」

僕は、間に入ろうと駆け出すが、間に合わない


もう駄目だ! そう思った時


横から魔法弾が飛んできて、司君にヒットし吹っ飛ばす



「これは、マジカルショット!?」


振り向くと、マジカルサキュアと、ぬいぐるみになった龍ちゃんが居た

「チャンスだぞ!」

「分かってる!」

龍ちゃんの言葉に頷きながら、まだ立ち上がらない司君の上に魔法瓶を投げる


「先輩!! 魔法瓶を!!」

僕の合図で鞭を薙ぐ先輩


3本の内、2本のシチューを掛けることに成功した

十分だ!


しかし、問題がもう一つ

硬化時間だ

前回、僕は気を失っていたため、実質どのくらいで固まるのかが、分かっていなかった



「あのぅ先輩? 先輩のシチューって、どれくらいで固まります?」

「そんなの計ってないわよ」

ですよねぇ



「なんだ、お前の秘策ってこれか?」

龍ちゃんまで呆れてるよ


「固まれば、勝ちなんだけど……」

そう言いながら、司君に視線を戻すと既に立ち上がっていた


「と言うことは、硬化時間を稼ぐしかないってことだな」

サキュアは、そう言うと魔法のステッキにチャージを始める


「龍ちゃんは、何か出来ないの?」

「今回、俺の本体は社に置いてきたからな、ここに居るのは、一部を切り離した精神体で、結界を張るぐらいしか出来ん」

「じゃあ、下がってた方が良いわ」


先輩は、不動明王の火炎術を鞭に掛け直すと、司君を薙ぐ

避けられはするものの、心なしか動きが鈍くなってる気がする



連携して、サキュアがマジカルショットを放つが、鞭と違い、直線的な魔法弾な為、避けられてしまう

余程上手く意表をつかないと、当てるのは難しいだろうな



「一応、音が漏れぬよう結界を張っておくぞ」

龍ちゃんは、グランドを旧校舎ごと結界で包む



「龍ちゃん、僕にも武器を頂戴」

「持って来とらんわ」

「あんなに、量産してたじゃないか!」

「お前に策があるって言うから」

悪うございましたね


やがて、空がうっすらと、明るくなり始めた

このまま太陽が出れば……

そう思った矢先、司君も空に気が付いたのか、旧校舎を塞いでいる板を突き破って中に逃げてしまう



「あれでは、日光が当たらない」

「追うわよ」

僕と先輩は、司君が開けた穴から旧校舎に飛び込む

中は真っ暗だが、次第に目が慣れてくる


「居た! 階段を2階へ上がってる!」

先輩は火炎鞭で司君を狙う

「先輩、駄目です!! 階段が……」


僕が言い切る前に、鞭は避けられ、階段をぶち壊す

「もう、老朽化で脆いんですから、考えてくださいよ……」

「千尋ちゃんの言うのが遅いのよ!」

「仕方ありません、西側の階段を使いましょう」



校舎の逆側の階段を使い2階へ上がる

「教室を、全部しらみ潰しにするしかないんですね」

「面倒だわ」

まったく、誰のせいですか!


片っ端から見ていくが何処にも居ない

3階に上ったか?


僕らは3階に上がると、廊下を駆ける司君を見つける

「もう逃がさないわ」

「先輩、彼方此方(あちこち)脆いんですから気を付けてくださいよ」

「分かってる」

本当かよ



先輩の後を追って廊下を駆けてると

不意に足下の感覚がなくなる

「げ!」

床板を踏み抜いた!

丁度脆い場所にのってしまったみたい


僕が重い訳じゃないからね



しかし、弱った

胸がつっかえて、2階と3階の間で宙ぶらりん状態になってて、身動きがとれない

これなら、落ちた方がましだった



何か無いか、周りを見渡すと、龍神に貰ったペットボトルが転がっている

手を伸ばして、キャッチするも、どうやって使うんだこれ……

タダの水だし

う~ん……



その時、龍神が水のブレスで、液晶テレビを真っ二つにしてたのを思い出す


アイツに出来るって事は、同じ水神の龍の僕にも出来るって事だよな

試しに、ペットボトルの水を少量口に含んで、吹き出してみる

水は細くレーザーのように壁に穴を開けた


すげぇ

自分でやって置いて、驚いてしまった

今度は多目に口に含むと、僕の前方の床に弧を描くようブレスを吹く


床の支持力が無くなり、2階へ落下する

良かった、勢いで1階まで落ちなくて



「何で、上から降ってくるんだよ」

遅れて入ってきた、サキュアと龍ちゃんに出会す

「仕方ないだろ、床が抜けるんだもの」

「最近太ったんじゃねーの?」


この野郎! 言わせておけば


「太ってませんー、夫のセクハラのせいで、身がやつれて……」

「嘘を言うな! 嘘を! 最近味見と称して、出来た料理、つまみ食いしまくってるの知ってるぞ」

「おま……見てたのかよ!」

「ふ、俺もつまみ食いしようと台所に行ったら、丁度見てしまったのだ」

「威張って言うな! 同罪じゃねーか!」



「あの!! 喧嘩してる場合じゃないと思うけど!?」

サキュアが大声で割り込む

「そうだった! 先輩が危ない」

僕は急いで先輩を追う


双六の、一回休みを踏んだ気分だ

3階、4階を抜け屋上への階段をかけ上がる



屋上の扉の前で、先輩が司君と対峙していた

あの扉の向こうへ、押し出してしまえば、日光が当たって終わりなのに


司君はかなり硬化が進んでいるらしく、嘗ての機敏さは既に無くなっている



いや、何かおかしい

上半身の動きに、まだ余裕があるのだ

シチューを上から被ってるのに、下半身から硬化し鈍くなるのは変な気がする


「先輩! 罠だ! 鈍くなった振りを……」

僕が叫ぶより早く鞭を振るってしまう

それを待っていたかのように、司君は加速し先輩の懐に飛び込むと、先輩の喉元に噛み付いてしまう



「かはっ!」

噛まれた後、先輩はそのまま階段を落ちてくる

「先輩!!」

僕は、先輩の身体が、階段に叩き付けられる寸前で、抱き抱えると

ペットボトルの水をいっぱいに含み、水のレーザーブレスを吹く

が、それも間一髪で避けられる



だが、僕の狙いは司君本人じゃない

「終わりだ、不死者(アンデッド)

僕はそう言うと、先輩に庇うように覆い被さる

ブレスで、斜めに切れた天井が、徐々にズレて落ちる

刹那、日光が降り注ぎ、司君は低い悲鳴をあげて、灰になって行く


「硬化がやっと効いたようだな」

「あぁ……」

日光から逃げようと這ってくるが、階段を降りる手前で、完全に灰になって消えた

中身()が、小百合ちゃんに移ってるって聞いてなければ、罪悪感が半端じゃなかったが

中身の無い、ただの人形だし

それに、小百合ちゃんに移った、司君本人の願いでもあるしね



さて、問題は噛まれた先輩だが

僕が覆い被さって日光は当たっていないが、お話に出てくるヴァンパイアと同じなら

先輩もヴァンパイア化している可能性が……


「龍ちゃん、どう思うよ?」

「こればかりは……取り敢えず、お前の龍血を、噛まれた痕に垂らしてみろ」

僕は言われた通りに、龍の爪で指先を切り、血を垂らしてみる

その瞬間、傷口から煙が上がった



「駄目そうだな……」

「そんな!! なんとか成らないの?」

「ならば、作って見るか? まがい物じゃない本物の『変若水(をちみづ)』を」

「不老不死薬作ってどうすんだよ」

「ふん、『変若水(をちみづ)』が、西洋で何て呼ばれてるか知ってるか? 西洋名は『エリクサー』だ」


「エリクサーって、あのゲームに出てくる万能薬?」

「うむ、幸い材料は沢山あるだろ」

そう言って僕を指差す

成る程



取り敢えず、旧校舎から先輩の実家に移動するため、保健室のボロボロになったシーツを重ねて先輩を巻き、日光避けを作る

ミイラ男ならぬミイラ女だ



マジカルサキュアこと、咲哉君には日傘を取りに行って貰った

ここからだと、一番近いしね


一応、小百合ちゃんにも連絡しておくか

先輩に聞かれるとマズイから、簡単な事しか言えないけど


スマホを取り出すと、小百合ちゃんに電話を掛ける


「小百合ちゃん? 今電話大丈夫かな?」

『千尋先輩!? 今どこです?』

「旧中学校の校舎内、それでさ全部おわ……」

『ええええ!!』

「小百合ちゃん? どうしたの?」

『千尋先輩! 早くそこから逃げてください、地下施設に爆弾を仕掛けてきましたから!!』


……

…………

「なにぃ!! 冗談だよね?」

そこまで言った途端、爆発音と共に、激しい揺れがする


『私の特製ANFOです』

「ばかぁー」


僕は、龍ちゃんにスマホを持たせ、胸の間に突っ込み、シーツぐるぐる巻きの先輩を抱えると、校舎へ飛び込んだ時に開けた穴へダッシュする


所々、爆発音と共に床が抜け、上から天井板が降ってくる

「ヘルモードな、アクションゲームかよ!」

「俺はずっとこのままでも良いぞ」

胸の谷間で幸せをそうに龍ちゃんが言う


ぶん投げたいが、構ってる余裕がない


「おおおお! おあぁ!」

床に大きく穴が開くのを、掛け声と共に飛び越え、外に出る


シーツを巻いたとはいえ、そのまま日光の下に居たくない為先輩の実家まで駆けていると

いつの間にか、横を並走している小百合ちゃんに出逢う



「えへへ、やり過ぎましたね」

「えへへ、じゃないでしょ、えへへじゃ」

まったく恐ろしい娘



後ろを振り返ると、轟音と共に、旧校舎は崩れていく

「この騒音じゃあ、結界でも抑えきれんわ」

龍ちゃんは、そう言って結界を解く

「あーあ、爆破オチかよ!」



「悪は滅びました」

「どっちが悪なんだか……」

「何言ってるんです。司君は、非人道的な人体実験までされたんですよ」

先輩が居るため、わざわざ『司君』と他人事のように言ってはいるが、自分が実験台(モルモット)にされてたんだから、その気持ちを思うとなんとも……



「大丈夫ですよ、爆破前に非常ベル鳴らして、研究者は逃がしましたから、燃えたのは実験設備とサンプルだけです」

僕の懸念を察して、そう補足する小百合ちゃん


人が死んでないなら、良いとするか


遠くから消防車のサイレンが聞こえる


「さて、事情聴取される前に逃げますか」


「千尋先輩はどちらへ?」


「取り敢えず、お寺へ行こう」



小百合ちゃんに、先輩がヴァンパイアに噛まれた事を話ながら

先輩の実家(お寺)へ向かう



そして、マガイ物じゃない正規の変若水(をちみづ)を作らねば


出来れば材料は、内臓以外にして欲しいな

再生するにしても、痛いのは嫌だし


そう願いつつ、先輩を抱いて、お寺へ向かうのだった。


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