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龍神の花嫁修行  作者: 霜月 如(リハビリ中)
分岐 『小鳥遊 緑』 『小鳥遊 小百合』ルート
60/83

46-2 変若水(をちみづ)

日付が変わるまで、まだ少しある寂れた公園で、小百合ちゃんから突然の真相を告げられる


「小百合ちゃんが司君?」


「はい、でも『誓約』があり、人に告げることを禁止されているのです」


「え!? それ話しちゃっていいの?」

「こうして、まだ生きているので、瑞樹先輩になら、大丈夫みたいですね」


「生きているって……失敗だった場合は?」

「死んでいますね、たぶん」


あはは、と(おど)けて笑う小百合ちゃん



「それ、巫山戯(ふざけ)てる場合じゃないよね」

「大丈夫ですよ。誓約の内容は『司の魂を持つものが、この事を他の人間に伝えるを禁ず』と言うのが決められた誓約ですから」


「だから、言ったらまずいでしょうに」

「瑞樹先輩、まだ気が付かないんですか?言ったらダメなのは『他の人間に』ですよ」



「あれ? そうか! 本当に自覚無いから忘れてたわ、龍だったね」

お寺でも言われたばかりなのに……


人間じゃなければ良いのなら、他に話せるとしたら、ウチの龍神ぐらいか

ま、無理に話してリスクを上げることも無いけどね



「でも、呼ぶとき困るな、小百合ちゃん? 司君のがいいの?」

「あ、小百合でいいですよ。司だと言うのは他の人間に言えませんし、それにこの身体は、小百合のものですから」


「つまり、外見が小百合ちゃんで、中身が司君ってこと?」

「そんな所です。ただ、小百合の記憶も共有してますから、小百合でもあるんです」

ややこしいな、『憑依』……いや、小百合ちゃんの意志が無いなら『転生』ってことなのかな



「でもどうして、司君が小百合ちゃんに?」

「簡単に言うと、7年前の夏に、小百合も司も、ほぼ同時期に亡くなっています」

「え!?」

「司は身体を失い魂だけの状態、小百合は心が壊れ生きることを拒否した状態で、死んでいるも同じでした」


「そんなの酷すぎる……」

僕は2重の苦しみを味わった、小百合ちゃんの心を推し測ると、痛いほど拳を握り締めた。


「でもそこへ、不思議な声が司の魂に呼び掛けたんです。本来死ぬ訳じゃ無いのに死んだから、もう一度チャンスをやろうって」

「それであの誓約って訳か……」

「そうです。生きるのをやめてしまった小百合の魂の代わりに、司が小百合として生きる事……そしてそれを他の人間に告げない限り、また姉様の近くに居られるんです」


でもそれは、寂しかっただろうに……


小百合ちゃんとしては、従姉妹(いとこ)として一番近くにいるのに

素性を明かせないことで、司君として、姉との距離は果てしなく遠い


そんな状態を7年も……



「じゃあ、結局司君は死ん……で、でいいのかな?」

「死んでで合ってますよ。霊体になってましたから」

「じゃあ、穴に落ちて転落死って事?」



「いえ……信じられないかもしれませんが、あの旧中学校の下に研究施設があるんです」



「……ゴメン……なんか突拍子もなくて……」

完全に思考停止してたわ


「無理もありません。私自身、穴に落ちて実際に施設を見るまでは、同じく信じなかったでしょう」



「つまり、上の建物が何時までも壊されずに要るのは、カモフラージュ?」

「だと思いますよ。私の調べたところ、今でも旧中学校名義で、電力が供給されてます。廃校なのにおかしいですよね」


「そんな施設でいったい何を……」

「施設の研究員は『変若水(をちみづ)』の研究だと言っていました」

変若水(をちみづ)?」

「はい、若返りの秘薬とも、不老不死の霊薬とも言われています。それを人工的に造り出そうとしていたみたいです」


「まさか!? 司君の身体が若いままなのは!?」

「ええ……実験で投与されました……」

「そんな……」


「何度かの投与のあと、気持ち悪くて……息が出来なくなって……気が付いたら、霊体になって空に浮いてたんです」

そこで、謎の声に助けられて、小百合ちゃんに転生か


「しかし、不老不死とは……」


「なんでも、戦時中に『死なない兵士』を造ろうとした施設らしいです。戦争利用の人体兵器なんて造ろうとしてた訳ですから、公に出来ず。かといって閉鎖するには予算を掛けすぎたみたいで、今更中止は出来なかったと、当時の研究員が話してくれました」



「そんな事で、8歳の子供を……」

「たぶん、その変若水(をちみづ)は未完成です。と言うのも、実験されて分かったんですが、膂力と再生力は凄いでけど、身体自体の強度はかなり脆いです。特に皮膚が弱く日の光で火傷してました」


だから、出現時間が夜なのか、まるでヴァンパイアだな

あと、再生力の高さも住職の話と一致する



「しかし、困ったな。司君がここに居るなら、乗り込む必要無いし」

「でしょ、だから姉様を止めてくださいって言ったんです」

「ん~でも、誓約のせいで、転生の理由は話せない……」

「はい……」



伝えるを禁ずって言うのが、微妙に嫌なところだ


話すな! なら筆記とか遣りようもあるが、伝えるな! だもの

もし誓約に引っ掛かれば、小百合ちゃんが死んでしまうし


どうしろと言うんだ



「とにかく、明日の夜まで時間があるから、帰って考えてみるよ」

「はい、お願いします」

「それと、施設の入り口って、分からないのかな?」

「透視で調べてみましたが、あの旧校舎は塞がれているようで、たぶん他に出入り口があるのでしょう」


考えてみれば、司君が落ちた穴だって偶然出来たものだし、正規ルートの入り口があるに違いない


でもそうか……なら出てくるのを、待つ以外無いってことか


すみませんお役に立てなくて、と謝る小百合ちゃんに気にしないように言うと

僕は荷物を持ち立ち上がる



「あ、瑞樹先輩! 待ってください」

「どうしたの?」

「もうひとつ……聞いて欲しいんです。司でなく小百合の気持ちを」


「小百合ちゃんの?」



「はい、これは小百合の記憶ですが……瑞樹先輩は7年前の春、傷だらけの猫の事覚えていますか?」

「うん、一緒にお寺に連れてって、御住職に手当てしてもらった時の事だよね」


本当は、あの夢見るまで忘れてたのは内緒



「あの後、小百合の必死な看病で、夏になる頃には後遺症はあるものの、歩けるようになったんです。小百合も猫も本当に幸せそうな……いえ、幸せだったと言う記憶が残っています。あの夏の日が来るまでは……」


「そうか……独りで頑張ってたんだな……ごめん、僕も一緒に看てやれればよかった」


「あの夏……子猫が虐待されてるところに出くわすんです」

「虐待!?」

「ええ、考えてみれば最初に見付けたときだって、虐待された後だったんですよ。おかしいと思いませんでしたか? 道路脇で見付けたなら、交通事故もあったでしょうが、校庭の隅っこですよ」


言われてみれば、確かにそうだ



「せっかく歩けるまでになったのに……死んでしまうんです。その後、悪ガキどもを見つけ糾弾するも、逆に、誰かに言えばお前がやったと言いふらしてやると……」


「なんて奴等だ!!」

「小百合は、子猫の仇どころか、汚名まで着せられて……それでお風呂で……」


「許せない!! 小百合ちゃんの記憶があるなら、そいつらの顔とか教えてよ!」


「あ、仇打ちなら、司の私が遣っておきました。内容は、過激なんでちょっと言えませんが……馬鹿共はもうこの町には居ません」


町を出ていく程の事って……何したんだろう……



「あと、小百合の最後の記憶で、瑞樹先輩に『子猫の事ありがとう。それと、せっかく助けてくれたのにごめんなさい』って……」


「こっちこそゴメン、僕も一緒に看ていれば、そんな悪ガキ共には……」


「あの7年前の夏、瑞樹先輩が大変だったのは、祟り神の一件で聞きましたから。それに、そう言う優しい処に、惚れてたみたいですよ小百合は、責任取ってあげてくださいね」


「ええ!? でも僕は当時と違って、女の子になってるから……その気持ちには答えられそうにないよ」

「大丈夫です! 瑞樹先輩が女の子でも構いません。だって、私は男の子の司でもあるんですよ」

そう言って笑顔を返す小百合ちゃん


いやはや、参ったな


困った顔をしていると

「瑞樹先輩……いえ千尋先輩が姉様の事を好いているのは知っています。でも小百合の気持ちも、知っておいてあげてください」

そう言って頬にキスをされる


急な不意打ちに立ち尽くす僕に


「うふふ、司は諦めが悪いですから、覚悟してくださいね」


そう一言残し、おやすみなさいと手を振りながら、公園を出て行ってしまう


なんか色々考えてたのが、一気にふっとんでしまった。


キスをされて熱くなった顔を

まだ冷える夜風を受け、冷やしながら帰る


まったく、女の子になってから、モテ期がやって来てもねえ


いやまてよ、小百合ちゃんの中身が司君なら、精神は男の子って事になるのか?


ん~


僕も元男の子だし、これは!? 精神的ボーイズラブ?

どうなんだろう……



待てよ……この間のお泊まり会

良く考えたら、先輩以外、全員中身が男の子じゃないか!!


通りで、女子なら定番の恋話に成らない訳だ

はぁ、多少なりとも、ドキドキして損した



お泊まり会で思い出したが、また洗濯物忘れたし



他にも、先輩の説得を考えなきゃなぁ


明日は忙しくなりそうだ


いろいろと考えを纏めながら、帰路に着くのだった。


ちなみに、『変若水』(をちみづ)は、万葉集にも出てくるそうです。

新元号『令和』で、万葉集ブームですが、それにあやかった訳じゃありません。

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