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龍神の花嫁修行  作者: 霜月 如(リハビリ中)
分岐 『小鳥遊 緑』 『小鳥遊 小百合』ルート
59/83

45-2 アンデッド

立ち入り禁止のロープが張られた、夜の旧中学校の校庭で

傷だらけの住職を介抱し、それまでの経緯を尋ねる



「お父さん、いったい何があったのよ」

「まさか、お前達がこんなに早く帰ってくるとは、思わなかったわ…うぐ…」


見たところ致命傷は無いみたいだが、結構な数の切り傷で血が滲んでいるのが伺える


「昨日、瑞樹君の話を聞いて。もし、地縛霊として成仏出来ずに居るなら、父親として経をあげ、成仏させてやろうと思ってな」


そうか…

それで、先輩に司君を祓う処を見せぬよう、街へ連れ出すように言ったのか


本当なら、映画かカラオケでもって思っていたのに、先輩のニンニクマシマシのせいで、予定を切り上げて帰ることになり、司君と住職の戦っている処に出くわしたって訳か


「救急車を呼びましょうか?」

「いや、それでは大事になってしまう。骨も折れとらんし、かすり傷など寝れば治るわい」

「お父さん…さっきの…」

「詳しい話は後だ、少し騒ぎすぎたから警察が来るかもしれん。事情聴取とか厄介じゃからな、お寺(ウチ)まで移動するぞ」


住職はそう言って、先輩に支えられ、お寺へ移動することになった。



お寺にて、傷の手当てをしながら

住職は、旧中学校であった出来事を話始める

「昼間の目撃談がなかったので、日が沈むのを待って、あの校庭へ行ったのだが…」


住職の話だと


旧中学校の校庭で、待つこと2時間、もはや諦めて帰ろうとしていたら

校舎の影から、赤い眼を光らせた司が現れ、襲いかかってきたと言うのだ

その走る速度は、人間のそれを凌駕し、あっという間に間合いを詰められ

爪で住職を切り裂こうとするのを、紙一重で避けて、不動明王の真言で火炎術を撃ち込むが

殆ど効果が無かったとのこと


「炎が効かないって事ですか?」

「うむ、火炎術どころか、帝釈天の雷撃も効かなかった…いや、効かなかったは言い過ぎだな。効いても『即再生した』と言うところだろうな」


なんだよそれ、龍神並み…いやそれ以上の再生力かも

だとしたら、明らかに人間ではない

そもそも、司君の姿が、前にシチューで気を失った時に見た、先輩の記憶にあった姿のままだったし


不老不死(アンデッド)…」

先輩が呟く

「そんな…非現実的ですよ」

「千尋ちゃんね、非現実で言えば、貴女が女体化してるのも、龍化してるのも、そうなんですからね」


言われてみれば確かに

龍化は全然自覚が無かったわ


だって、龍の癖に火が吹けるとか、そういうの全然無いし

人より膂力(りょりょく)があるってだけだしなぁ


どちらかと言うと、龍化より女体化のが、影響力が大きかったりする

なんか、色々違和感が無くなって、馴染んで来てしまってるのは確かだ

雄々しさがない…



しかし、アンデッドか…

霊体も、死んでは居るものの、成仏出来ていないって点で、アンデッドだし

そもそも霊体は、僕の一番嫌いなタイプ。

だって卑怯でしょ、こっちの攻撃はすり抜けるのに、向こうの攻撃はこっちにダメージが通るなんて、絶対勝てないし


でも、それを考えると、住職が錫杖で物理攻撃を打ち込んでたので、霊体じゃない?

腐敗してなさそうだったし、ゾンビじゃないよな

ゾンビなら、初撃の不動明王の火炎術で、火葬になってるはず



「まさか…吸血鬼(ヴァンパイア)?」

先輩を見ると、どうやら同じ考えに至ったようで、僕を見るなり同意だと頷く


まだ、はっきりと決まった訳ではないが、ヴァンパイアだとすると厄介だ

僕が知ってる限りの弱点は、十字架、聖水、樫の杭、銀の銃弾、ニンニク、日光…


日光に関しては、デイウォーカーって言う、日光に強いのも居るみたいなので絶対弱点とは言えない

まぁ、僕の知識は映画とかアニメからなんで、信憑性もどこまである事やら…



先輩は、御住職の手当てが終わると、部屋を出ていってしまう

まさか独りで行く気じゃ…

慌てて先輩を追いかけようとして、立ち上がると

「瑞樹君、緑を頼む」

そう住職に声を掛けられ、僕はだまって頷くと先輩の後を追う



先輩が入った部屋は、飾り気がなく机等、最低限の家具しかないような、年頃の女子の部屋とは思えないシンプルな部屋だった

「ここ、先輩の部屋ですか?」

「何にもないでしょ?私は悪霊や物の怪を祓って、力をつける事しか考えて無かったから」

「ん~先輩の部屋らしくて良いと思いますよ。逆に、ファンシーなぬいぐるみで一杯の方が、リアクションに困りますし」

「酷いこと言うのね、私だって女の子なのよ」

「知ってますよ。弟思いの優しい女の子だって事は…本当は、司君を助けたいんでしょ?」



「私のせいなの…私が悪霊に手間取らなければ…いえ、司を一緒に連れて行きさえしなければ、こんな事には…」

畳の上に先輩の涙がこぼれ落ちる

「先輩…」

僕はそっと先輩を抱き寄せると、堰を切ったかのように声をあげ泣き始めた


穴に落ちた司君を、置き去りにしてしまった罪の意識に、ずっと(さいなや)まされて来たのだろう

当時、出来ることなら助けに戻りたかった筈だ

だが、力不足な子供の先輩に出来ることは、たかが知れている

その悔しさからか、普通の女の子がするような、遊びや生活を全部捨てて、修行に明け暮れたのだ

いずれ、シュレディンガーの箱が開いたとき、司君を助けられるように



どれだけ時間が経っただろうか

先輩の嗚咽(おえつ)の声もほぼ無くなり、僕はハンカチで涙を拭ってあげようとしたが

「ダメ、こんな顔見せたくない」

そう言って、更に深く僕の胸に顔を押し付ける


微妙に胸を揉まれてるような…気のせいか?

本当に泣き顔見せたくないだけなのか疑問だ


この人の場合、男も女も関係ないからな…むしろ、女同士だから良いでしょ、て言う免罪符で好き勝手やってくる節があるから

まあ、今回ばかりは嘘泣きではないし、無下に扱うのも可哀想なので、そのままにして置いてあげる



「ねえ、千尋ちゃん。このままで良いから聞いて。もし、本当にヴァンパイアだとして、戻せる方法があると思う?」

「正直な処、僕には分かりません。そういう知識は先輩の方が詳しいでしょ、僕の知識なんて映画やアニメの受け売りしかありませんから」

「そう…」



本当は、無理だと思って居た

何故なら、自然発生のヴァンパイアは、生前に神の信仰に反したモノが、()()に成ると言われている

そう、死んだ後でないと成れないのだ


ただの死者なら『反魂』であれば…もしくは蘇生できるかもしれないが

ヴァンパイアは、既に闇に堕ちた者だ

蘇生等しようものなら、たちまち灰になるだろう



「先輩、まだヴァンパイアと、決まった訳じゃないんですから」

「じゃあ、何んだっていうのよ」

「ん~、悪霊か何かに憑依されてるとか?」

「それだと、狂暴化の説明はつくけど、姿が7年前のままで、歳を取ってない説明はできないわ」

「う…確かに」

つい先日、祟り神戦で逢った魑絋(ちひろ)でさえ、僕と同じぐらいに成長してたしなぁ

最初鏡だと思った程だ



「兎に角、虎穴に入らずんば何んとやらよ」

「先輩?ブラックテンプルの鞭持って何処行くんです?」

「吸血鬼と戦うなら、鞭って相場が決まってるでしょ。それに…司があんな姿になったのは私の責任よ」

「でも、それは仕方が…」

憐憫(れんびん)ならいいわ、司が2度と元に戻らないなら…私がこの手で、成仏させなければならないの」

まったく、この人は…すぐ強がるんだから



「わかりました、僕も最後まで付き合いますよ。ただし、今夜はダメです」

「なんでよ…」

「まず、準備ができていません。いきなり戦うとかじゃなく、戻せる方法も探してみるべきです」

「…そうね、戦闘が前提になってたわ」

「それに、相手がヴァンパイアなら、そのニンニク臭い身体では、出てきませんよ」

「うく…そんなに臭う?」

「そりゃあもう…」

「う~、明日が休みで良かったわ」


それ見越して、ニンニク入れてたんじゃないのか

登校日だったら、どうするつもりだったんだろ…


「それと、もう一つ、出発前に例のシチューを、少量で良いので作ってください」

「シチューなんてどうするの?」

「切り札として、持っていきます」

夜食にするのかな?と終始頭の上に疑問符をつけてる先輩を余所に


「じゃあ僕は帰りますね。明日の夜に来ますから、ちゃんと先輩も、情報集めて置いてくださいよ」

そう言って玄関へ向かう



「まったく、とんだ一日だった」

月明かりだけが頼りの暗い夜道を、神社(ウチ)へ向かうながら呟く


本当は、夜景の見える県庁の展望フロアで締めるはずが…


予定狂いまくった挙げ句に、アンデッドとかヴァンパイア?なんて、ファンタジーなものまで出てくるし


世の中上手くいかないものだ


そう嘆きながら帰路に着こうとすると

物陰からセーラ服の女の子が出てくる


「オバケ!?」

「誰がオバケですか」

「なんだ、小百合ちゃんか…脅かさないでよ」

「別に脅かすつもりは、無かったのですが…」

「どうしたの?何かあったの?」

「瑞樹先輩、お話があります」


「僕は大丈夫だよ、今日は遅くなるって婆ちゃんに言ってきたし」

「では、この間の魔法戦をした公園へ行きましょう」

「ここじゃダメなの?」

「はい…これは瑞樹先輩以外に、聞かれる訳にはいかないのです。場合によっては…」

なんだか、意味深な…また厄介事かなぁ

取り敢えず、後に続いて公園へ入いる


まさか、愛の告白…じゃないよな

そんな雰囲気じゃないし


小百合ちゃんは、一度大きく深呼吸すると、意を決して話始めた


「瑞樹先輩、緑姉様の弟を見たのでしょう?」

「あ、うん。旧中学校の校庭でね」

「なら、もう二度と行かないでください」

「それって、どういう…」


「姉様も絶対近付かぬよう、瑞樹先輩から止めてください!」

「すまないけど、それはできない」

「どうして!?」


「先輩は、7年前の責任を取ろうとしているんだ。そして、過去の(わだかま)りに決着を着け、前に進もうとしている。それを止めるなんて、僕には出来ない」


「責任なら、とる必要ありません!アレは司でなく、司の形をしただけの人形なのですから!」

「な!?小百合ちゃん…どうしてそんな事を?」


「私が、どうしてそんな事を言うのかって?」



小百合ちゃんは僕に背を向けもう一度深呼吸をすると




「何故なら、私が…司だからです」



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