44-2 先輩と買い物
「居ない…逃げられたか…」
翌日、龍神がどうしても学園に行ってみたいと言うので、縮んでマスコットの『龍ちゃん』になって貰い、鞄に入れてきたのに
アイツ本当に何処行ったんだ?
悪さしてなきゃ良いけど…
どうせ、アニメの魔法少女モノに影響されて、量産した魔法のステッキをばら蒔きに行ったな
お昼には、先輩をデートに誘わなきゃならないのに…
そんな時、女子達の悲鳴が聞こえた
ふ、行動の分かりやすいヤツ
僕は、女子更衣室の窓に張り付いた龍ちゃんを発見すると、教室のベランダから消しゴムを振りかぶって投げる
「グァバ!」
龍ちゃんは、熱帯の木で採れる、果実名を言い残し落下した
「覗き魔…もとい覗き龍撃退完了」
3階の高さだったが、龍だし大丈夫だろう
人騒がせなヤツだ
さて、教員に発見される前に、龍ちゃんを回収しておく
「なんで邪魔するんだよ!」
「お前な、こんな動く龍のぬいぐるみが、学園内彷徨いて居るだけでも騒ぎになるのに、何してんの?」
「もちろん、人間の生体観察(女子限定)」
「よし、人間観察だな、男子更衣室に連れてってやる」
「まてまてまて、そっちは自分ので見飽きてるから、見とうないわ!」
「だって、龍ちゃん人間じゃないじゃん。人間が見たいんだろ?」
「わかった、正直に言う。人間の女の子が見たい」
ぶっちゃけやがったなコノヤロウ
「ちょっと、授業始まるわよ」
僕の帰りが遅いのを心配して、昇降口まで香住が迎えに来たので、龍ちゃんを突き出して
「コイツが今回の覗き魔です。高月裁判長!判決を」
「性転換の刑!」
「何でだよ!弁護士はどうした?」
「さっき、覗きを自供したろ。ほら、自分で作ったステッキだ、変身ボタン押せ」
「嫌だー、雌に成ったら楽しみが無くなる!」
「自分の見れば良いだろ!」
「雌龍になったお前は、それで満足したか?」
する訳ないだろ、そもそも性欲が減ったわ
「いいから押せって」
「嫌だあぁ!」
そこで始業のチャイムが鳴る
「ちっ、チャイムに救われたな」
「助かった…」
しかし、エロ龍を野放しにして置く訳にいかず、用具入れにあったロープで、ぐるぐる巻きにして引き摺っていく
こんなことなら、連れてくるんじゃ無かった
教室について、引き摺ってた龍ちゃんのロープを手繰り寄せると
あれ?
ぐるぐる巻きにされてた龍ちゃんが、狸の信楽焼になってる!
「あんにゃろ、身代わりの術かよ!」
「おい瑞樹!静かにしろ、授業始まってんたぞ」
怒られたし
その後も、休み時間の度に女子更衣室から悲鳴が上がる
授業の繋ぎである、休み時間に着替えがあるのだから、そうなるのも必至
一度、自分が男子制服だというのを、完全に忘れていて
龍ちゃんを追って、女子更衣室に飛び込んでしまい、痴漢認定されてしまった。
おかげで、鉄アレイとかチクワとか、いろんな物投げ付けられて、擦り傷だらけだ
そうこうして、やっと昼休みになったので、香住に傷薬をつけて貰う
「まったく、ドジねぇ。その格好で女子更衣室入っちゃうなんて」
「最近、学園以外は女子の格好ばかりだったから、つい素で入っちゃった…痛っっ」
「千尋さ、それって、自分が女の子だって認識が強くなってんじゃないの?」
もしくは男の子としての自覚がないとか、と言われてしまう
「…」
女の子としての認識というより、後者で言われた、男の子の自覚が無いって方のが、しっくり来すぎてる
雄々しさが無いとか…ヤバイな
「なあ、香住。男らしさって、どんなのよ?」
「それを、私に聞いてる時点で、ダメじゃないの?」
「いやほら、女子目線で、こう言うのが男らしくてカッコいいとかさ」
あ、なんか凄い哀れんだ目で見られた
「はぁ、千尋に一番縁の無いモノよねぇ」
「僕、そこまで言われちゃうの?」
ちょっと泣く
「じゃあ、今度は男子制服でも女子制服でもない、中性的な服で更衣室…はマズイから、レディースデイに映画館入ってみなさいよ、普通に女子認定されるから」
…
否定できない
はぁ、今日はまだ半日しか経ってないのに、体力、精神共に、かなり削られて、机に突っ伏していると
「ねえ、女子トイレ覗こうとしてた、不思議生物捕まえたわよ」
そう言って、龍ちゃんの首根っこを持って、小鳥遊先輩が現れる
「さすが先輩!ソイツのお陰で今日は散々だったんですよ」
「聞いたわよ、女子更衣室に覗きに入ったんですって?」
「違います!龍ちゃんが入り込んだから、つい…勘違いして…」
「そんなに見たいなら、私の見せてあげるのに」
「あの~先輩?香住の前でそう言うのは止めてください、命の危険が危ないから」
「千尋、その日本語おかしいわよ。それに私だって、毎日キレてる訳じゃ無いんだから」
そう言って、香住お手製のお弁当を手渡してくれる
今日のお箸は折れてないや
「あれ?龍ちゃん?。僕が龍ちゃんに作ったお弁当は?」
「そんなのは、学園に着いて直ぐ食べたちまったわ」
「んもー仕方ないな、僕の分けてあげるから」
龍ちゃんを膝の上に座らせると、オカズを半分こにして食べさせてあげる
「お前の作るのと、違うもんばかりだな」
「悪うございましたね、どうせ僕の作るお弁当は、醤油色のモノばかりですよ」
さすが香住の作るお弁当は、色彩豊かなお弁当だ。栄養バランスも考えられているんだろう
「千尋ちゃん、今度私が洋食教えてあげよっか?」
先輩のその一言で、場が凍り付く
「そ、そうですね…練習の試食者も、ここに居ますし」
「まて、俺をコロ…もが…」
慌てて龍ちゃんの口を塞いぐ
「あはは、楽しみだなー」(棒読み)
「じゃあさ、今日の夕御飯で練習するって言うのはどう?」
「あ、いえ、今日はデー…じゃなかった。買い物に付き合って欲しいと思って」
香住の前で、危うくデートとか言いそうになった
半殺しにあって、予定を立てるも、何も無くなってしまうからね
「買い物?」
「ええ、良い女性下着の店があったら、教えて貰おうかと…香住は今日も部活でしょ?」
「そうね…」
なんか、ジト目で睨らまれるが、女性下着のお店じゃ仕方ないって感じなのかな
んー、本来なら香住と正式に付き合ってる訳じゃ無いし、別に気を使わなくも良いんだろうけど
この関係を壊したくないと言うか…
仲の良い幼馴染の関係に、僕が甘えてしまっているのが原因なのだ
本当は、はっきりしなきゃ行けないのにね
取り敢えず、放課後の買い物はオッケーを貰ったので、デートの切っ掛けは作れた
まあ、デートに女性下着店って言うのもどうかと思うが
それはあくまで切っ掛けであって、カラオケとか食事とか…
…
婆ちゃんにバイト代前借りしていくか
放課後
先輩と街へ行く途中で神社の前を通るから、着替えてこようとするが
「私だけ制服って、酷くない?」
「いや、でも男子の制服だと、さすがに下着の店に入る勇気ありませんよ」
「だったら、千尋ちゃんも制服にしなさい」
「だから、制服は…ってまさか?」
「そ、女子の制服あったでしょ、アレ来てきなさいよ」
マジか
「本当に着なきゃダメですか?」
「ダーメ、だいたい貰ったスカート穿いてたくせに、今更何よ。ほら、脱いだ脱いだ」
「ちょっと、先輩、サラシまで取ったら、ノーブラで行くことに成っちゃいますよ」
「これから買いに行くんだし、問題無いわ」
「いやいやいや、これ絶対透けて見えますって」
「大丈夫よ、これから日も落ちて暗くなるんだし」
その分、山手と違って、沢山の街灯やら店の灯りに照らされますがね
結局、女子制服を着させられ、先輩とツーショットで写メを撮られてしまった。
「あら、写真には角が写るのね」
「え?それって気を付けないと、龍だってバレるじゃないですか」
自分を写真に撮るなんてしないので、今まで気が付かなかった
「んー、鏡には映らない…のね…心霊写真と同じ原理なのかな?」
不思議そうに、鏡と写メを見比べている
僕としては、学園の窓ガラスに、角が映らないので、安心しきっていた
写真がダメなら、監視カメラの映像もマズイのかも
しかし、ネコミミみたいに柔らかいモノと違って、帽子で隠すとか出来ないし
もし気が付かれたら、ちょっと無茶言って、コスプレだと言い張るか
こればかりはなぁ…
「どうしたの?」
「あ、いえ、角は硬くて切れなかったって…」
「切ろうとしたんだ?」
「まだ未熟な半龍だったときに、角が完全に生えきったら、祝言だって言われたので、切ろうとしたんですが…」
そう言って、部屋の隅に置いてあったノコギリだったものを、先輩に見せる
「うぁ、刃が削れて丸くなってるじゃないの」
「見ての通り、角には傷一つ付きませんでした」
「成る程ね。でもこれ、羽織って着るのは良いけど、被って着るのは邪魔じゃないの?」
「あー、Tシャツみたいに、被って着るのはコツがあるんですよ。こうやって角の上にハンドタオルを被せて、それから着ると引っ掛からないんです」
「へえ、よく考えてるわね」
「まあ、普段は巫女服の白衣もジャージでも、羽織って着る系なんで、関係ありませんけどね」
角に対する生活の知恵を披露したところで、暗くなる前にさっさと神社を出る
「あ~、胸が跳ねて落ち着かない」
「本当に、改めて見ると凄いわねソレ」
うう、男共の視線が集まってるのがわかる
元男として、目が行くのは分かるが、自分が見られてるのはやっぱり恥ずかしい
「先輩、お店まだですか?」
「着いたわ、ここよ」
繁華街の一角にあるお洒落なお店だが、ショーウィンドーの値札を見て、店に入ろうとする先輩を呼び止める
「先輩!ちょっと待った!」
「どうしたのよ?」
「ちょっと予算的に…」
「じゃあ、1セット買ってあげるわよ、祓い屋の報酬があるし」
「いやいやいや、また今度にしませんか?今日の処はもっと普通の下着店で…」
買えなくはないが、その後食事もなにも出来なくなる
その後、いくつか安そうなお店を回って、3セット買う事が出来た
大きさの測定は、鞠菜さんの処で測って居たので、店員さんを呼ぶ事なく買い物も済ませられ
ノーブラ状態をどうにかする為、ブラジャーを着けに多目的トイレに入ったは良いが
初めてのホック掛けに悪戦苦闘し、どうしても上手く行かず、手間取ってしまう
「あーもー、上手く留まらない」
こう言うのも、慣れなんだろうな…
金具が、上下ずれて掛かったりして、イライラしていたら
「ほら、やってあげるから」
そう言って、先輩が助けて掛けてくれた
御礼は、揉ませてくれれば良いからと、後ろから鷲掴みにされ、散々揉みしだかれたが
僕が仰け反った時に、先輩に頭突きした形になり、危うい処で事なきを得た。
「まったく、調子にのり過ぎですよ」
僕の非難の声に、先輩は額の瘤を擦りながら
「痛つっ……でも、サイズが大きいと、なかなか良いのがないのね」
「僕としては、下着は見えなくなってしまうんだから、こだわりは無いんですが」
「甘いわ、やっぱり可愛い下着のが、パンチラした時に嬉しいでしょ」
「パンチラしたくありません!それに、どさくさでスカート捲らないでください」
まったく、この人は…
周りのおじさん達も困ってるし
「この後なんですが、先輩は何か買い物あります?」
「ん~、これと言って別に…あ!1ヶ所行きたいところがあるわ!」
「何処です?」
「それは…」
…
……
「で、なんでラーメン屋の行列に並んでるんですか!」
「いやー、こう言うところって、独りだと入りづらいじゃない?」
「気持ちはわかりますがね…」
絶対デートじゃないよな
昔、まだ男の子だった時に、正哉とよく食べに来たが、女性客で独りは見掛けなかった
「あの呪文みたいな注文してみたかったのよ、なんとかマシマシってヤツ」
ちょっと待て、男の子だったときは余裕で食べてたが
女の子になって、明らかに食べれる許容が減ってるのが、ウチでの食事で分かっている
先輩が食べきれずに、僕に寄越した場合…絶対生きて帰れん
念のため、僕は麺少なめにしておこう
しかし、そんな心配も杞憂に終わる
先輩は、マシマシにしたの全部食べたし、あの細い身体の何処に入るんだか…
テレビに出てくる、女性大食いタレントを真横で見ているようだった
「ふう、お腹一杯だわ」
「本当に、色気も何もありませんね」
「あら失礼ね、色気ならあるわよ」
「うあ、ニンニク臭!先輩それでキスしようとするとか酷くね?」
「そんなに臭うかな?」
自分の身体の臭いをスンスン嗅いでいる
もうダメだ
これだけニンニク臭いと、映画館も入れん
まぁ、最初にお店色々回ったんで、結構良い時間ではあるし
制服なんで、遅くなりすぎると補導される心配もある
「先輩、他に用事無いなら帰りますか?」
「ちょっと甘いものが食べたいな」
アレだけ食って、まだ入るんですか
それに、先輩ニンニク臭いから、人がいっぱいな処はマズイし
仕方ない、ニンニク食べてない僕が、コンビニでスイーツ買ってこよう
幾つか見繕って買ってくると、先輩が袋を物色する
「ちょっと行儀が悪いけど、外で食べ…って早!」
「シュークリーム美味しいわね」
公園でも行って食べるかと思いきや、食べ歩きだし
「はい、お茶も買って来ましたから」
ペットボトルのお茶を渡して、ティッシュで口を拭ってあげる
どっちが先輩なんだか…
「ふう、本当に今日は満足だわ」
「そりゃあ、よーござんした」
「なあに、千尋ちゃん不満なの?」
ぷ、そうだな。この人と一緒で、普通なわけ無いよな
「いえ、こう言うデートがあっても、悪くないんじゃないんですかね」
背中で手を組んで、屈みぎみに振り返りながら笑顔で言う
「千尋ちゃん、今の仕草可愛いかったから、もう一回やって」
「嫌ですよー」
そう言って走って逃げる
そのまま、ウチの神社を通り越して、先輩を送っていく
「別に送ること無いのに」
「違いますよ、この間から回収出来ていない、洗濯物を取りに行くんです」
「それじゃ仕方がないわね」
先輩も渋々納得し、どんどん街灯が減っていく、寂れた街道を山手に向かって歩いていくと
なにか、金属を打ち合わせる打撃音が聞こえる
「旧中学校の方ね」
「先輩も気付いていたんですね」
無言で頷く先輩と、二人で旧中学校へ向かって行く
あれは…
「お父さん!」
御住職が、錫杖を振り回し何者かと戦っているようだ
「来てはならぬ!、こやつは幽霊なんかじゃない!」
雲の切れ目から月明かりが射し込み、相手の姿が現になる
「司!」
そこには、7年前と同じ子供の姿のままの、司君が住職と対峙していた。
先輩が急いで住職のわきに駆け付けると、司君は鼻を押さえ飛び退いて闇に消えた
いったい、何がどうなってる
僕は住職を介抱しながら、司君が消えた暗闇を凝視するのだった。