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龍神の花嫁修行  作者: 霜月 如(リハビリ中)
分岐 『小鳥遊 緑』 『小鳥遊 小百合』ルート
56/83

42-2 司

翌日のお昼休み

いつも通り、香住と机をくっ付け、お弁当の用意をする



「そう言えばさ、斎藤君、最近見ないよね」

「ああ、正哉はバスケ部の助っ人で呼ばれてるからね」

「さすがよねぇ、スポーツ万能だもの、どの部も放って置かないでしょう」


知らないって良いな…


アイツ、超が付く程のシスコンで、『妹との時間が削られない』と言うのを条件に助っ人してるから

絶対、朝練と放課後の練習しないんだよね。

その分ミーティングやら、連携の確認やらを、お昼休みにやってるらしい


それだけ練習出なくても、戦力として欲しがられるんだから、スポーツの才能が凄いと言う事だ。

妹の彩香ちゃんの事を思えば、正哉が正式に部活入って、拘束されてた方が、自由な時間が出来て良いと思うのだけどね


だいたい、早く帰ったとしても、彩香ちゃんだって、バレーの練習で家に居ないだろうに

良くあれで、中学校まで着いて行かないものだ。


まあ、超シスコンと言うのを知らない女子達に、凄い人気だから、試合は体育館の周り凄いことに成るだろうな

アイツ、見た目も良いから…


本当、知らぬが仏とは良く言ったものだ。



香住の手作り弁当を、巾着袋から出そうとしていると

「ちょっと、私も混ぜてよね」

小鳥遊先輩が、お弁当を持って現れる


「先輩…毎回思うんですけど、クラスに友達居ないんですか?」

「ふ~ん、そう言う酷いこと言うのは、この口か?」

頬っぺたを引っ張られる

「はって、まいはいふるひゃないへふは」

「毎回来たって良いじゃない、一緒にお風呂入った仲でしょ、つれないわねぇ」

ちょ!?


香住の手にあるお箸が、メキッと音を立てへし折れる

「それ、僕のお箸…」

「さぞかし、お風呂…楽しかったでしょうね?」

「いえ、何でもないです…」

短くなったお箸を受け取り、涙目で弁当を食べるが、正直使いずらい



「で、先輩は嫌がらせに来たんですか?」

「千尋ちゃん、ニュースみてないの?」

「あいにく、朝はバカ龍起こしたり、朝餉の支度で忙しいんですよ」

今朝、龍神の部屋へ踏み込むと、咲哉君から回収した魔法のステッキを改造してて、更に量産していたらしく、5本に増えていた。

あまり騒ぎを増やさないで欲しい。



「小惑星無人探査機って、あったじゃない?」

「あー、小惑星や彗星とかの地表の一部を持ち帰って、成分を調べるってヤツですよね」

「そそ、その探査機がね、昨日地球帰還の際に、謎の攻撃を受けたんだって」

「まさか!?」

「丁度、時間的に合うのよねぇ」

空に向けて撃った、マジカルショットか?

飛行機が飛んでないのは、目視で確認したが、大気圏まで目視できないし


「千尋、どうしたのよ?顔が真っ青よ」

「なぁ香住…修理代ってローン効くのかな?」

「車か何か傷付けたの?」

車なら、どれだけ良いか…



「あーでもね、爆発は回収ポットを切り離した後だったらしく、中の採取物は無事だったらしいわよ」

「じゃあ…」

「ええ、探査機自体も、燃え尽きる予定だったみたいだから」

良かった

僕の龍の肝って、いくらで売れるだろうって考えちゃったよ

龍神に、魔法キャンセル機能付けるよう、良く言って置かねば



「先輩、そのお弁当は、お母さんが作ってるんですか?」

「私のお弁当はね、小百合が作ってくれるのよ」

「小百合ちゃんが?」

「ええ、昔私の手料理ご馳走した後に、お礼だからって、ずっと作ってくれるのよ」


小百合ちゃん…苦労してるなぁ


「たまには私が作ろうか?って言うんだけど、作らせて貰えないのよね」


そりゃあ、あのシチューを見ていれば…英断だと思いますよ。



「千尋ちゃんのは、和風しか作れないって言ってたのに、一口ハンバーグまで入ってるじゃないの」

「僕のお弁当は、香住大先生の力作ですから」

「力作って程でもないわよ」

「高月さん、料理()()は上手なのね」

「見た目だけでなく、ちゃんと美味しいですよ」


始まったよ…

何時もなら、早く食べ終えて離脱するのだが

短い箸のせいで、オカズが挟めないし



弁当箱の中を転がる、プチトマトと格闘していると

「瑞樹千尋さんって居ますか?」

安藤咲哉君が、教室の入り口に立っていた

ヤバイ

男子の制服で通ってるのに…女体化がバレる


すぐ背中を向けて、息を潜ませるが

「おーい、瑞樹、お客さんだぞー」

クラスメートの善意がつらい


「咲哉君、こっちよ」

先輩も呼ばないで

「あれ?ここ2年の教室でした?」

「いいえ、違いますよ。ですが、小鳥遊先輩は毎回現れるのです」

「えっとキミは?」

「私は高月香住、千尋とは幼馴染の関係で、まあ保護者みたいな者ですね」

「あ、オレは隣のクラスの安藤咲哉って言うんだ、よろしく」


どうも、と軽く挨拶を返し、後ろを向いている僕の背中を突付いてくる

「な、何だい?」

意識して声を低くしたつもりだが、あんまり変わってないかも

「千尋に用があるみたいよ」



背中に、3人の視線が集まってるのが解る

「はぁ…もう降参ですよ」

そう言って振り返り観念した


「やっぱり瑞樹さんだ。なんで男装してるか解らないけど」

男装って言われると違和感があるのは、やはりまだ女の子であると言うのを、心の何処かで受け入れきれてないのだろう


「この姿なのは…色々と事情があって…」

「そっか、ちょっとビックリしたけど、それはそれで良いと思う」

「あ…ありがとう」

正直、色々と聞かれるかと思ったが、こちらが話ずらそうなのを見て、何の追求も無かった。

結構良いやつかも



「そうだ、ねーちゃんから伝言で、『他にも古着が出たんで、取りにおいで』だってさ」

「本当?でも、良いのかな…鞠菜さんの古着って1~2度袖を通した程度の良品ばかりだし、フリーマケットとかに出した方が良いんじゃ?」

「ねーちゃんズボラだからさ、そう言うの()りたがらないんだよ。それに直ぐ着飽きるのに新しいの買うものだから、もう溜まる溜まる」

「そうなんだ、僕は本当に助かるんで、ありがたい」


前回貰った分もあるし、これでアウターは暫く大丈夫、その分インナーや化粧品にもお金を回せるし

少しは化粧の練習もしないとね


だいたい、婆ちゃんが巫女のバイト料ケチりすぎるんだよ

男の子の時は、十分間に合ってたから文句言わなかったけど、女の子になって、お金の掛かり方が尋常じゃないと知ったから

今度、婆ちゃんにバイト代値上げ交渉してみるか



「じゃあ、今日にでも取りに来るかい?」

「良いの?」

「うん、じゃあ放課後に」

そう言って去っていく咲哉君に『ありがとね』と声を掛ける

冷たい視線が僕に刺さる


「ふ~ん、ボーイフレンドが出来て良かったじゃない」

「千尋ちゃんも隅に置けないわね」

「ち、違うから、ただ古着を貰いに行く約束しただけだから」

「でも千尋ちゃん、咲哉君と一緒の部屋で寝てたじゃない」

「ほう…それは初耳ですね」

「あ、あれは咲哉君だけじゃなくて、小百合ちゃんも一緒だったし」

あれ?墓穴を掘った?



「千尋、短いお箸は使いづらそうね、私が食べさせてあげる」

「あの香住さん?いくら一口ハンバーグでも、半分に割って欲しいんですけど」

僕の懇願(こんがん)も聞き入れられず、そのまま口に放り込まれるハンバーグ


そして、飲み込む前にオカズをどんどん放り込まれ

僕は、餌を頬に溜め込む、リスのようになっていた

「あら、オカズ終わっちゃたわ、じゃあ私のお弁当から…はいタコさんウインナー」


もう入りません。勘弁してください

「千尋ちゃん、私のも食べる?」

先輩、鬼かあんたは



こうして、ドSな二人に、いたぶられてお昼のランチタイムは終了した。



放課後

咲哉君と小鳥遊先輩の二人と、校門前で合流し喫茶店へ向かう



「先輩?方向は同じでも、喫茶店経由だと遠回りじゃありません?」

「なあに千尋ちゃん、私が居たら邪魔なのかな?」

「べ、別にそんな事はないですよ」

ふ~ん、と意地悪そうな表情で、僕の顔を覗き込んでくる


そんな僕達に、咲哉君は大きな溜め息をつき

「こうして見ていると、カップルにしか見えねえ…昨日は仲の良い姉妹みたいだったのに」

「今日は男子の制服だから…」

「そう、それよ、見た目でこれ程印象が変わるなんて思わなかった」

中身は昨日と変わらないんだけどねぇ


「それを言ったら、誰かさんだって、マジカルサキュアの時とは全然違うし」

「う、それを言われると…」


「また変身するなら、魔法のステッキもってくるけど?」

「戻るのが大変なので遠慮して置きます」

「なあに?またブラックテンプルの出番なのかな?」

「出番は無さそうですよ先輩。だいたい、先輩は昨日、どうやって戻ったんです?」

「あのね、ブラックテンプルは悪役なのよ、正義の味方みたいに、悪を倒せば元に戻るなんて訳に行かないんだから、解除ボタンがあるに決まってるでしょ」


決まってるんだ…

てか、そんな機能あるなら、正義の味方にも付けてやってよ



「だいたい、先輩は怪我人なんですから、大人しくしててください」

「その怪我人に、シチュー鍋を蹴って来たのは、何処のだれよ!」

「あの時は、アレしか攻撃手段が無かったんです。もっと簡単に負けてくれれば、僕も鍋蹴ったりしませんって」

「負ける?私の辞書にそんな文字はないわ!あっても、ギリ引き分けまでよ」

本当に負けず嫌いなんだから



「だから、千尋ちゃんの事も諦めて無いの」

「ちょ?先輩!?」

そのまま僕の頬に手をあてて、キスで口を塞がれる

「んー」

舌を絡められ、先輩の良い匂いも相俟(あいま)って、気持ちが昂ってくる

咲哉君が見てるとか、そう言うのは頭から吹っ飛んだ

これ以上は本当に堕ちる、そう思って居ると


「二人共!往来で止めてくれよ!」

その言葉で我に返り、先輩から離れることができた。

ヤバかった、濃厚なの貰っちゃったよ

まだ胸のドキドキが収まらない



「オレの事も考えてくれよな!」

そう言って前屈みになってる咲哉君

女の子の時と違って、股間に血が流れ込むところがあるから、鼻血を拭くまで行っていないようだ


うぅ生殺しだ…と涙目で抗議してくるが

さすがに、エロ本にあるような、エッチィ処理とか僕には無理なんで

後で、自分自身で処理してください

本当ゴメン


文句なら先輩に言ってくださいね

本当、所構わず襲い掛かるんだもの


先輩は悔しそうに、邪魔が入らなければ…と呟いていたが

外でもお構いなしですか?

僕は、嫌ですよ。

最初は、やっぱりお布団の上の方が…て何考えてるんだ

先輩は同じ女の子なのに


やっぱり、さっきの熱が冷めていないようだ

僕は、頬を叩き気持ちを落ち着ける



「もう、行きますよ。周りが山ばかりで、日が沈むのも早いんですから」

「遅くなったのは、路チューしてた、あんたら二人のせいだろ」

「邪魔が入らなければ、路チューじゃ済まなかったわ」

先輩が言うと冗談に聞こえない


喫茶店に着く頃には、完全に日は沈み夜の帳が降りていた

「すみません、遅くなりまして」

「気にしないで、どうせ来るのは近所のオヤジ達だから、でも男子の制服かぁ、それはそれで良いわね」


「ねーちゃん、オレも男子の制服なんだけど」

「あんたのは見慣れてるから、別に良いわ」

「ひでぇ…オレが魔法少女で現れたのに信じなかったの、ねーちゃんじゃんか」

「解るわけないでしょ、オレだよオレって言うだけだし、新手のオレオレ詐欺かと思ったわよ」

「あんな、ヒラヒラコスチュームの少女が、オレオレ詐欺なわけないじゃん!」



「あの、姉弟喧嘩しないでください」

「あ、ごめんね。この紙袋に入ってるから」

「すみません、貰ってばかりで…」

「良いのよ!部屋が片付くし、空いたスペースにまた新しい服入れられるし」

買い増す気満々だな

まあ、お客さんも入り出したんで、長居せずにお礼を言って(おいとま)した。

今度、何かお礼を持ってこよう



「先輩も、服って沢山持ってるんですか?」

「そりゃあ、其れなりに持ってるわよ。そうだ!服で思い出したけど、昨日泊まった時に、洗濯した衣類、忘れていったでしょ」

「いえ、覚えてましたけど…住職が落書きにキレてそうで」

「あー、あれ千尋ちゃんの仕業だったの?お葬式で喪主さんに馬鹿にしてるのか!って怒鳴られて帰って来たらしいわよ」

ヤベエ

怖くてお寺行けないし

「あの~先輩が、明日学園に持ってきてくれると言うのは?」

「駄目よ、取りに来ないなら、私がイケナイ事に使うわよ」

イケナイ事ってなんだ



仕方ない、坐禅覚悟で取りに行くか…

「ん?先輩?」

隣を歩いていたはずの、先輩が居ないので、振り返ると

山際にある、旧中学校を凝視したまま立ち尽くしていた。


「まさか…そんな…」

そう呟くと、旧中学校へ駆け出した

僕も慌てて追い掛け、立ち入り禁止のロープを掻い潜り、旧中学校のグランドに入る


「先輩どうしたんです?」

「居たの…」

「え?」

「居たのよ!『(つかさ)』が!」


「司って、もしかして?」

「ええ、前にシュレディンガーの話で言ったいた弟の事よ。生きていた…生きていてくれたんだ」

そう言って、大粒の涙をボロボロと(こぼす)す。


箱の蓋は開けられたって事か…


でも、何で今なんだろう

生きていたなら、もっと早く逢いに来れば良いのに


僕は、泣いている先輩を抱きしめながら

何とも言えない、違和感を感じていた。


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