50 新しい春を迎えて
告白から、10年後のお話になります。
あれから、10回もの春を迎え
僕はいまだに、巫女として神社を切り盛りしていた。
平日なので、参拝者も殆ど訪れず、ラノベ片手に社務所で読書していると
見知った顔が現れる
「千尋ちゃーん、ハロー」
「小鳥遊先輩じゃないですか、お久し振りです」
「本当、久し振りね、最後に逢ったのは……2年前だったかしら」
「ええ、あの時は参りましたよ……アヤカシ退治に連れてかれて、盾にされるとは思いませんでしたから」
「あれは助かったわ、千尋ちゃんの『守護神』の術反射で倒せたんだもの」
「此方は、反射しなければ死んでましたよ」
ほんとよねーっと他人事のように笑っている
笑い事じゃねーての
たまたま、反射できない物理ダメージを貰わなかったから良かったものの
物理ダメージは、死んじゃいますからね
性転換薬の代金の代わりに、時々先輩の祓い屋の仕事を手伝っているのだが
僕は、戦う技とか持ってないので、主に補佐役として着いて行ってる。
これも、香住との性活の為、頑張ってるんですよ
「でも、先輩すっかり大人の女性ですね、彼氏作らないんですか?」
「余計なお世話よ、そう言う千尋ちゃんは、10年前と全然変わらないわね」
「やっぱり、龍だから寿命が長いみたいで、歳の取り方も違うんですかねぇ。前任者の龍神も、姿が20代半ばから後半位のままでしたから」
「それは、羨ましいわ」
「僕としては、愛する人と一緒に、良い歳をとっていきたいですけどね」
「あのね、歳はとっても肌年齢は歳をとりたくないのよ」
10年も女の子やってても、女心が解らないのねぇ
と
ため息つきながら、香住と同じようなこと言われた。
人間の女性は、お肌の張りが……とか、シミがとか、お手入れが大変みたいだが
本当、僕は10年前と何も変わらない為、そう言う苦労とは無縁なのだ。
なので、化粧も本当に薄くするぐらいで、本気で塗りたくる程までは行かない
100年もすれば、僕もシミとかシワとか出るんだろうか?
その辺は、雌龍の文献が無いので、実際に時が経ってみないと解らない。
「そう言えばさ、学園で性転換を繰り返してた……えっと……何て言ったっけ?」
「斎藤正哉ですか?」
「そそ、その斎藤君。ついこの間、性転換薬が欲しいってウチに来たのよ」
「え? 正哉のヤツ、今更何でそんなモノを……」
「理由を聞いたらね、今度結婚する妹さんの旦那を、女になって誘惑し、破談にしてやるっていうの」
「先輩、まさか……渡してないですよね?」
「まさか、いくら私でも、そこまでしないわ。ちゃんと断ったわよ、ちょっと面白そうとは、思ったけどね」
おいおい、家庭崩壊するから止めてあげてください。
そうでなくても、シスコンが行き過ぎてて、勘当寸前だと聞いてますから
でも、そうかぁ……紗香ちゃんも結婚かぁ
感慨深いものがあるな。シスコン兄貴に負けずに、幸せになって欲しいものだ
「それで、先輩の用件は? 今回もアヤカシ退治の補佐のバイトですか?」
「んー、そのつもりだったんだけど…そのお腹じゃねぇ」
「あ、やっぱり目立ちますよね」
「何週め?」
「30週目です。また双子だそうですよ」
「はえー、子だくさんだね」
「賑やかになったのは良いんですが、龍の血が入ってるせいで、力加減が解らず彼方此方壊して……」
そう言って、はぁ…っとため息をつく
学園を卒業してから、香住と籍を入れ夫婦となり
僕の女体化の事情を知っている者だけ呼んで、神社で和風の式をあげた
その後、婆ちゃんに内緒で、香住と二人、ウエディングドレスで写真も撮ったし
後は新婚旅行どうしようかと、二人で旅行雑誌を見て、何日も掛けて決めようとしていたら
僕が、悪阻を起こし、吐いた事で妊娠発覚
龍の角は、霊力がある人間しか見えないとは言え、病院で誰が見えるか解らないし
自宅出産と成ったのだが…
婆ちゃんが、まだか、まだかと待ちわびてて
余程、龍の神子を取り上げてみたかったらしい。
「出来れば、卵生じゃなく胎児で産まれてください」
そう願った。
卵生だと、二度と玉子焼き食えないよ
願い叶ってか、産まれたのは胎児だった……龍の小さい角付きの
香住には見えていなかったが……
人間の香住と、龍の僕の子供なんで『龍人』って処か
生まれてからも、母乳あげる以外は、婆ちゃんが面倒みていて、僕が寂しい思いをしたぐらいだ
そうそう、母乳でコーヒー入れると牛乳と違って薄いので、コーヒーを濃くして置くと良いぞ
まあ、カフェインの取りすぎには注意だが
「でも、それだけ強いお子さんなら、将来有望な祓い屋になれるわね」
「ダメですよ、そんな危ない事。そうでなくても、幼い龍ってだけで血肉が狙われるんですから」
「だから修行して、力の使い方習うんじゃない、行く行くはスーパー龍人に」
「そんな戦闘民族にはさせません。そうでなくても、神社ボコボコなんですから」
子供達は、じゃれ合ってるつもりなのだが、突き飛ばし合っては吹っ飛んでモノを壊す
手水舎ぶっ壊した時には、婆ちゃんの雷が落ちて、少しだけ大人しくなったが…
あれで、普通の人間と学校で共同生活出来るのかと、心配で心配で
他人様の子供を、突き飛ばさないよう、良く言って聞かせたが、ちゃんと解ってるのか…
「今は学校?」
「ええ、4月からランドセル背負って行ってますよ。なにも問題起こさなきゃ良いですけどね」
「大丈夫よ、千尋ちゃんの子供だもの」
「登下校中も、車道に飛び出さないかとか心配で……」
「本当に心配性ねぇ」
「前にも、一度飛び出して轢かれてるんですよ」
「え!?大丈夫だったの?」
「ダメですよ、相手の車へこんじゃって…大変だったんですから」
「いやいやいや、車の話じゃなくて、息子ちゃん達は?」
「住尋も千香も、かすり傷だから大丈夫です。人間の血が混じったせいか、『再生』も『頑丈』さも僕よりはるかに上だし」
「なにその、漫画で見た『地球割りしちゃうような女の子』みたいな子供……」
「まあ、ウチの子供達に限っては、轢かれて異世界行きは絶対ありませんね」
むしろ、轢いた運転手さんが、ショックで異世界行きになりそうだ
兎に角、元気すぎて手に負えない。
「それに、香住の血も入ってるから怖いんです、キレるとプロレス技繰り出すんですよ」
あぁ……と微妙な顔で納得する先輩
「その旦那役の香住さんは、今日は居ないの?」
「今日は、なんでも新しい料理本のキャラ弁編が出るらしく、編集さんと打ち合わせに行ってますよ」
「さすが、料理の腕は健在ってことね」
「調理師の他に、栄養士の資格とかも取ってましたから」
「そのうち、テレビのクッキング番組に出そうよね彼女」
「そこまでは、行かないでしょう」
そんな話を先輩としていると
「トトカアサマー、たっだいまー」
と言いながら、此方へ走ってくる我が息子『住尋』
「不審者発見!とぅ!!」
掛け声と共にジャンプし、小鳥遊先輩を吹っ飛ばす
「ぶぉおるしち!」
凄い悲鳴だ……
「先輩、ボルシチが食べたいんですか?」
「さ…さすが、香住さんの子供ね…フライングクロスチョップが来ると思わなかったわ」
「こら! 佳尋、普通の人を突き飛ばしちゃダメって言ったでしょ」
「でも、不審者は死なない程度にやっても良いって……」
誰だ? そんな事教えたの……
「この人は、小鳥遊 緑さんと言って、昔から良くお世話になってる人だから、不審者じゃないの、解った?」
先輩が居なければ、性転換薬が無くて、貴方達は産まれてませんから
「おばさん、ゴメナサイ」
「お……お姉さんよ……」
痛みで悶えてるのに、執念で言い直しさせたし
今度、猛犬ならぬ、猛龍注意看板出して置いた方が、良さそうだ
「佳尋、妹の千香と迎いに行った曾祖母ちゃんは?」
「すぐ来るよ、それよりオヤツは?」
「何時ものところにあるから、あ、1つは千香に残しておくのよ」
食べる前に、ちゃんと手も洗ってね、と声をかけるが、聞こえただろうか……
「すっかりお母さんしてるじゃない……」
先輩は、そう言いながら社務所の机に掴まり、ヨロヨロと立ち上がった
「いや、僕はお父さん役ですよ。香住と二人でお母さんって訳に行きませんからね」
「香住さんが、お父さんやった方が、絶対良いって」
「む、御言葉ですが、僕は16年も男の子やってたんですよ、女の子になってまだ10年ですし、男の子暦のが長いんですから」
ふーん、お父さんねぇっと僕の大きくなったお腹を見て言う
「こ、これは、仕方ないんです。僕が男に戻れない以上、香住に男になってもらい……その……」
「ふふ、解ってるわよ」
からかわれたか……
そんな話をしていると、社務所の机の外側から可愛い龍の角が現れる
「何の話してるの? 浮気?」
背丈が足りず、角だけしか見えないが、この声は我が娘『千香』で間違いない。
「こら! 帰ったら先ず『ただいま』でしょ」
「ただいま、ねえ浮気?」
「はい、お帰りなさい、それから浮気じゃありません。この人は、鷹茄子さんで、ボルシチが食べたくて、やって来た人です」
「違うわよ!! 鷹茄子なんて、初夢で見ると縁起が良いみたいな名前にしないでちょうだい!! 私は小鳥遊 緑、エクソシストよ」
「先輩……格好つけて西洋風にしなくも、祓い屋で良いじゃないですか」
「えくそしすと? 何それ格好いい!」
「ほら、こっちのが食い付きが良い」
この人は……
「千香、台所にオヤツあるから、食べてらっしゃい」
「オヤツ!?」
「ちゃんと手を洗って、お兄ちゃんと一つずつよ、喧嘩しないようにね」
わかった~っとランドセルを揺らしながら、駆けて行く千香
「オヤツに負けたし……」
「子供の興味なんて、そんなもんですよ先輩」
項垂れる先輩をフォローして置く
「でも、千尋ちゃんが身重なのは計算外だったわ」
「すみません、流石に此れでアヤカシ退治は……」
「だったら、双子を行かせればええ」
いつの間にか現れた婆ちゃんが言った。
「だ、ダメだよ婆ちゃん、子供達に何かあったらどうするんですか!」
「お前は過保護過ぎる! どうも双子の話を聞いてると、学校で我慢してるのが、ストレスに成ってるみたいじゃぞ」
マジか……
「我慢が爆発して、人間相手でやらかす前に、アヤカシ相手にストレス発散させてやった方が良い」
「でも大丈夫かなぁ、僕は2度も死にかけましたから」
「そりゃあ、お前がヘタレなだけじゃ、あの双子は明らかに、お前より強いわい」
確かに、ウチで強さを表せば
婆ちゃん>香住>佳尋>千香>僕の順だろう
龍神で、守護神まで持ってるのに……僕弱いな……
ちょっと泣きそうだ
「大丈夫よ、私が責任もって預かるから、何なら佳尋くんは私が貰ったげる」
「先輩……ショタ好きですっけ?」
「可愛いくて強いなんて、最高じゃないの」
さっき、その可愛いくて強い幼龍に、クロスチョップで吹っ飛ばされてたのに…
先輩は不審者だと教え直した方が良さそう
性的な意味で危険だ。
「兎に角、香住の意見も聞いてみないと、僕一人の子供じゃないんですから」
「良いんじゃないの?」
パンツスーツに身を包んだ香住が言う
「え!? 香住? と言うか、打ち合わせは?」
「終わったから帰って来たのよ、千尋……可愛い子にはアヤカシ退治をって言うでしょ」
「言わねーよ!」
「もう、どうして過保護になるかなぁ」
「僕は、お腹を痛めて産んだ子達だから、余計死地に送りたくないだけです」
「半分は私の子供達だけどね」
うぐ……
「私は、子供つくる切っ掛け作ったわ」
と先輩
「儂は、出産時に赤子をとりあげたんじゃ」
……婆ちゃんまで
何で僕が責められてるの?
完全にアウェイなんだけど
「あーもー解りました。絶対に無事帰してくださいよ」
やったぁ! とハイタッチをする先輩と香住
この二人、こんなに仲良かったっけ?
まあ、いがみ合ってるより良いので、突っ込まないでおく
そうと決まれば、双子にアヤカシ退治を伝える
「やったね、久々に暴れられるし」
「お兄ちゃん、私にも残しといてよ」
あぁ…普通の子供の会話じゃない…
「いい? 二人とも危ないと思ったら逃げるの」
「やだ! 逃げるのカッコ悪い」
そう言う佳尋に、隣で右に同じと頷く千香
「じゃあ、逃げるんじゃなく戦略的撤退で」
「せんりゃ……?」
ダメか……
「もう、千尋まだ言ってるの? 良い加減、腹括りなさい」
心境としては、首をくくられる思いですがね
「ハンカチ持った? 鼻紙は?」
「お母さんか!」
「お父さんだよ!」
「ほら、千尋ちゃんがお母さんやってた方が……」
「先輩は黙っててください!」
そう言ってから、双子にガマ口財布を渡す
「この中に御守りと、500円玉を2枚ずつ入れてあります。お金はオヤツでも買いなさい、あと先輩の言うことを良く聞いて、勝手な行動は……んが……」
言い掛けたところで、香住に口を塞がれる
「ほら、千尋は押さえてるから、早く行きなさい」
行ってきまーす。と元気に出て行く双子
あぁ……出掛ける前に、抱きしめたかったのに……
最後に先輩が
「双子ちゃんは、今夜一晩ウチの寺で預かるから、退治終わって夜中に帰すより良いでしょ、じゃ行ってきまーす」
そう言ってウィンクして出て行く。
このアヤカシ討伐が切っ掛けで、今後祓い屋業界に名を轟かせる事に成るが、それはまた別のお話である。
「ほら、寂しそうにしないの、今夜は部屋で二人きりなんだから」
「ちょ……ちょっと待って、僕お腹こんななんだよ」
「今女同士だし、一緒にお風呂行くわよ」
僕は引きずられるように、風呂場へ連れていかれる
10年経っても相変わらず
ドタバタな日常を送っています。
来年もきっと……
否
新しく子供が産まれ、来年はもっと騒がしいでしょう。
瑞樹家は、順風満帆で次の季節へ向かっています。
此方は、番外編です。
その他、小鳥遊緑、小百合編を執筆中です。
龍神編はもう少しお待ち下さい。