47 それは突然に
僕の部屋で目が覚めて
最初に、聞こえたのは小鳥遊先輩の声だった
「あ、気が付いたみたい」
「先輩?…香住は?」
「大丈夫よ、今台所に行ってるわ」
「良かった…」
あの時…現世に飛び出して、バランスを崩し落下する寸前
香住を、無我夢中で崖の上へ放り投げていたので、無事かどうか…
そればかりを、心配していた。
「まったく、真っ先に聞くのが、自分の事より彼女の事だなんて…」
「自分の事は、取り敢えず生きているのは解りますから」
先輩は、そんな僕を見て苦笑いをした
「でもね、無事で良かったわ…最初、千尋ちゃんを引っ張り上げた後、血がドクドク出てるんで焦ったわ」
「ええ!?気が付かない内に、何処か攻撃貰ってたのかな?」
「いやまあ…あえて言うなら内部攻撃ね」
「内部?」
「初潮よ」
「…待ってください…初潮って…その」
「そうよ、これで赤ちゃんが産めるってわけね」
「ちょ…あんな気絶するような激痛になるものなんですか!?」
「いやぁ…それがね…」
先輩の話だと
僕が気を失ってすぐ、祓い屋家業のツテで、表に出せない…物の怪にヤラレタ傷とかを治す専門医に連絡し
龍化してる僕を、普通の病院に連れて行けないので、その専門医に診せたんだとか…
そして、その医者の診断が生理だったと言うのだ。
色々調べてわかった事は、龍の身体は普通の人間の3倍以上のスピードで生理行程が行われる反面
痛みも跳ね上がるんだとかで…
3倍速なのは、他者が龍の調子の悪い時を見計らって、薬の素材や妖力アップで命を狙うので、早く通常状態に戻ろうとするからじゃないか?って医者は推察してたらしい。
『らしい』と言うのも、雌の龍って珍し過ぎて文献が無いので、あくまで推測なのだと
「いくら、早く通常に戻るためって…2日も気を失ってれば、命狙われ放題だと思うんですが…」
「うん、だから雌龍は絶滅しちゃって、残された雄龍が人間の女性と子作りするようになったんじゃないかな?」
文献が無いから、あくまで推測だけどねっと先輩は笑ってた。
僕には他人事じゃないので、笑い事じゃねーんですが…
「いや…本当はね、痛み軽減術とかあるんだけど、千尋ちゃん『守護神』持っちゃってるでしょ」
「あー、もしかして…」
「ピンポーン、痛み止めの術が効か無いのよね」
ずっと、良い事だけだと思っていた『守護神』が裏目に出るとは…
「他にもね、生理痛の薬もあったんだけど…人間には効いても龍には効かないみたいで…」
「マジですか?」
「マジよ、だから自力で耐えてね」
あの激痛を耐えろだと?
冗談でしょ…
それも、これから何度も…
「あー後ね、龍って人間の寿命より長命だから、生理周期も違ってくるはずよ、なので人間の教科書は当てにしない方が良いわ」
…
次がいつ来るか、解んないって事ですね
「まだ、千尋ちゃんは良いのよ、人間なら1週間は続くのが2日ちょいで終わるんだもの」
「すみません先輩、長くても良いから痛みは軽い方が良いです」
そう言ってベッドから起き上がると、股間に違和感が
あれ?
女性用の下着!?
「あーごめんね、トランクスだとナプキン貼れないんで、サニタリーショーツにしちゃったんだ」
いつの間にか、女性下着デビューしてた
サニタリーだけど…
「あれ!?せ、先輩、見ました?」
「見た?」
「えっと…下着履かせる時です」
「あー、千尋ちゃんがツルツルだったって事?」
「ツルツルは言い過ぎです!薄っすら生えてたでしょ!?」
そうだったかなぁーっと惚けてる
見られるとは、一生の不覚だ
だが、まだ香住に見られてないだけ良いか
そう割りきろう
そう、沈んでいると龍神が来て
「おお、気が付いたじゃないか、良かったな」
そう呑気に言ってくる
コイツ…人の気も知らないで…
だいたい、コイツが僕を、龍の雌なんかにするから、こんな酷い目に合うんだ
そう考えると、妙にイラッときて
「良くあるか!死ぬかと思ったんだぞ!」
と怒鳴ってしまう
「それだけ元気があれば、大丈夫じゃないか」
「そうよ、ツルツルだって好きな人はいるから大丈夫よ」
「な!?ち、違うから!」
「なんだお前…そんな事で怒ってたのか?大丈夫、俺はツルツルでも気にしないから」
「違うって言ってるだろ!って何んでお前が知ってるんだよ…」
「千尋ちゃん…言いにくいんだけど…最初怪我だと思って傷を診るために脱がしたのよ…」
「まさか…」
「あの場に居た全員が見ちゃいました」
仕方ないでしょ、怪我の具合診るためだったんだから、と言い訳をする先輩
終わった…
何より香住に見られたなんて…
だいたい、まだちゃんと告白も出来てない、愛しい人に見られるとか
アリエネだろ
「あ、そう言えば、香住は今回の事で、また女性化が進んだ僕に幻滅して、常夜に行ってしまうんじゃ…」
「其れはありえんな、何しろ俺が『男体化』の話をしておいたからな」
「なんで、そんな余計な事をするんだよ」
僕は、やっぱり香住の人生を、180度ねじ曲げるよな真似はしたくなかった
「でもね、千尋ちゃん…選択を与えるのと、強制するのは違うわよ、龍神様は『男体化』を話す事で選択を与えただけよ」
「つまり、決めるのは香住本人って事か…」
僕の呟きに、二人は無言で頷く
でも、逆に選択を与えることで
絶対に結ばれないと言う絶望は無くなり、常夜に行かないなら、良かったと言うべきか…
ただなぁ
香住にばかり、選択とか負担を強いるのはフェアじゃない気がして
やっぱり、僕の気持ちはちゃんと伝えるべきだよな
「先輩、あの性転換薬…まだ残ってたよね」
「ん?有るわよ」
「あれ貰えないかな?」
「良いけど…千尋ちゃんに効かないのは実証済み…あ!」
僕のやろうとしてる事を理解したらしく、声をあげると先輩
龍神の方は頭に?が出ているらしいので説明してやる
先輩の性転換薬なら、半日で元に戻るので、龍神の術みたいに永久に男性って訳じゃない
それなら、お試し感覚で、男体化出来るからどうかな?って
気に入れば、龍神に永久男体化頼めば良いんだしね
あわよくば、男の子になった香住に告白してしまおうと言う魂胆なのは秘密
丁度、皆ーお昼ご飯出来たよーっと香住の声が掛かる
「じゃあ、それで行きましょう」
と先輩もノリノリで協力を申し出てくれた
「面白そうだから俺も協力してやろう」
と龍神もそう言って立ち上がる
「じゃあ、先ず腹ごしらいしてからだね」
そう言って3人部屋を出る
さて、上手く行くと良いな
そう思いながら食卓に着くと
案の定『お赤飯』だった。
次回で、香住ENDになるのですが、龍神との話は短編でやって、こちらは締めて終わりにするか迷っています。
香住ENDは確実なので、それから考えますね。




