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45 常夜(常世)

チャイムが鳴るとほぼ同時に校門をくぐる

どうにか、遅刻は免れたようだ


「走って登校とか…何時のギャルゲーだよ」

「正哉…原因を作ったお前が言うのか」

「俺じゃねえ!龍神様と熱く語り合ってたら、いつの間にか気を失って居たんだから仕方ないだろ」

正哉と二人して、香住を振り返る


「え?何?私は玄関先に居たおサルさん2匹に、邪魔ですよーって肩に手を置いたら、倒れちゃっただけで…ねえ」

終始笑顔で答える香住に恐怖する

それ…肩に手を置いたってレベルじゃありませんよね?

絶対、首に手刀が入ってると思うんですよ

龍神なんか、香住の1撃に慣れてないせいか、玄関先に倒れたままだったし…

指先で地面に『かすみ』ってダイイングメッセージまで残して…



教室に着くと、クラスメート全員後遺症は無く、元の性別に戻って居た

「何で俺だけ…千尋、どう言う事だ?」

「僕に聞かれても解るわけ無いだろ、知ってたらとっくに教えてるから」

「だって…皆戻ってるし、おかしくね?」

ショックで立ち尽くす正哉だが

僕的には男に変わる処をちょっと見てみたい


正哉は、クラスメートから

「よお!斎藤はまだ戻らないのか?」

「どうしたんだ?女子で居るのが気に入ったのか?」

と、茶化されていた


もしかすると、直に飲んだ一口のせいかも…

それ以外、他のクラスメートとの差異は無いし



一応、担任の先生に正哉の後遺症を伝えて置く

途中で変わりますけど、驚かないようにと…

昨日の騒ぎを、皆身をもって体験していたので、すんなり了解された。

何か…僕も騒ぎに乗じて、男に戻らないって事にしちゃった方が良かったかも…


やがて9時を少し回った頃

クラスメート全員が注目する中、正哉の身体が少しずつ大きくなっていく

と同時に胸も引っ込み、喉仏が出る

何か、映画の特撮を、生で見ているような感じだった


先生が

「お、おい斎藤…お前大丈夫か?」

と声を掛け

正哉は、大丈夫っすっとは言っていたが

本人曰く

骨が伸びるとき結構痛いと、今朝神社で洩らしていたので、可哀想ではある。


まぁ可哀想だが、僕達素人にはどうにもできないしなあ

多分、小鳥遊先輩を見付ければ、何とかしてくれるだろう

電話待ちかな、先輩の教室知らないし



そんな正哉には悪いが

僕は…此処のところ、様子のおかしい香住の事が、気になって仕方がなかった

授業の内容など、殆ど頭に入らず

香住の方ばかりを見ている


ずっと、ただの幼馴染だったのになぁ

龍神に女体化させられてから、氷ついて停滞いた関係が溶けて動き出す

だが、良いことばかりじゃ無く、元の男の子に戻れなくなってしまった

龍神は、香住を男の子にしたら?って言ったが

僕の勝手な都合で、香住の女の子としての人生を変えてしまって良いのか?

そう思うと、切り出せずズルズルと引き延ばしてしまっている


時間は過ぎ、お昼休みに入ろうとした寸前

チャイムと同時に



『時間切れだよ』



誰かにそう耳元で囁かれた


直ぐに、香住の机に目をやるが、そこに香住の姿はなかった


さっきまで、此処に居たかの様に、教科書とノートが出しっぱなしで消えていた


おい、何処に行くんだよと言う正哉に、ごめんと一言謝り

校舎内を捜して回る



僕のせいだ

もっと早く香住に切り出して要れば…

そう自分を責めながら北校舎も見て回る

物の怪の気配はするが、前の半龍の時みたいに、襲って来ることは無さそうだ

学園内を彼方此方(あちこち)捜して要ると、午後の授業が始まってしまう

構うものか

今は香住を捜すことに全力を尽くす



暫く学園内を歩き回って居ると、スマホのバイブ機能が振るえだす

表示は…小鳥遊先輩?

「はい、千尋です。何ですか?」

『ちょっと、何ですか?は無いでしょう。千尋ちゃんの着信見たから折り返したのに…』

「それ、朝の話ですよ」

『仕方無かったのよ、お父さんに反省とばかりに座禅させられて、警策(きょうさく)でバシバシ叩かれたんだから』

「あー先輩の御実家、御寺でしたね」

『うん、酷い目にあったわ』

「自業自得です、それより今取り込んでまして…」

『それって、高月さんの事でしょ』


!?

「先輩…どうしてそれを…」

『やっぱりね、前に龍神様が千尋ちゃんに、男の子に戻せないって告げた事あったでしょ』

「えっと、祟り神騒ぎの後ですよね」

『そう、あの時に彼女の魂が薄くなったのよ』

「そんな…僕には全然気が付きませんでしたけど」

『まあ…そう言うのは、完全な龍に成っても千尋ちゃんじゃ無理よ、修行も積んでないし、多少勘が良いって程度だもの』

「じゃあ、僕には香住を見付ける事は出来ないんじゃ…」

『落ち着きなさい、多分彼女は常夜(とこよ)に囚われたんだと思うわ』

常夜(とこよ)?」

『そう常夜(とこよ)常世(とこよ)とも言うわ、そこでは永久に時間の止まった世界…』


先輩の話だと

常世(とこよ)とは、永遠に歳をとらず、昔話の浦島太郎に出てくる竜宮城のモデルになったとか

西洋では理想郷(ユートピア)として書かれる事もあったとか、色々逸話はあるが

常夜(とこよ)と書いた場合、『神域』であり『黄泉』と言う扱いらしい


「黄泉?じゃあ香住はもう…」

『早合点しないの、黄泉と言っても完全なあの世と違うわ、多分高月さんが造り出した擬似的なモノね』

「そんな事が…」

『ええ、余程この世界に絶望した事があったのね』

「やっぱり、それって僕が男の子に戻れ無いって事…ですよね」

『でしょうね…』

もっと早く香住に気持ちを伝えて要れば…

今更ながらに悔やまれる


「ん?もしかして…先輩の造ってた性転換薬って…僕と香住の為に?」

『ち、違うわよ!あれは…ほら、千尋ちゃんの初めてを貰う為に、自分で使おうと…』

本当に素直じゃないな

「ありがとう先輩」

『ば、ばか…違うって言ってるでしょ、兎に角常夜(とこよ)の入り口を見付けるのよ』

「それって何処だか…見れば解るようなモノなんですか?」

『んー、高月さんが大事にしていた思い出の場所とか…そう言うのって何処かにないの?』

「思い出の場所…」

その時…脳裏に蛍の居た秘密の場所が浮かぶ


「1ヶ所だけ思い浮かびました」

『なら、そこへ行ってみなさい、開き方は龍神様に聞いてみてね』

「わかりました、本当に色々とありがとうございます」

『ふふ、私も抜けられたら行ってみるから、頑張るのよ』

「はい!あ、あと僕の友人の斎藤正哉の事なんですが…」

『あー留守電に入ってた件ね、そっちは直接身体見てみないと解らないから、都合の良い日に逢えるように電話してみるわ』


じゃ、頑張ってねと言って電話は切れた


そうか…

多分、幼い頃に二人で約束したあの場所だ



そうと決まれば、教室に戻り早退の申し出ようとする

丁度、授業が終わるチャイムが鳴る


思ったより学園内を捜してる時間は長かったらしい

教室で正哉に

「小鳥遊先輩が、一度逢って症状を見たいそうだ」

そう伝えた


「本当か?」

「ああ、さっき電話が来てな、お互い都合の良い日にって」

「そうか!やったぜ!此れでやっと戻れるってもんよ」

さっきまで、沈んでいたのが嘘のような喜びようだ

「じゃあ、悪いが先に帰るわ」

「何だよ一緒に帰らないのかよ」

「済まない、どうしても外せない用があるんだ」

そう言って、自分の鞄と香住の鞄を持って教室を出る


そう言えば、まだ昼のお弁当食べてない

絶対連れ帰って、香住と一緒に食べるんだ


そう決意し神社へ急ぐ


龍神の奴起きてるかな…


起きてなければ叩き起こすまで


そんな事を思いながら石段を駆け上がり鳥居を潜ると


1匹の蛍が横切る


まるで、僕を誘っているかのように…


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