43 予兆
まだ、お昼を回って直ぐなので、太陽は高い位置に鎮座し
4月終盤の日差しを優しく照らしてくる
あの、性転換薬事件のせいで、早く帰れることになったが
材料を提供してしまった為、複雑な気持ちである
「本当に、小鳥遊先輩には困ったものだ…」
「テスト期間でもないのに、早く帰れるなんて…なんか変な感じよね」
「…」
1人、無言で歩く正哉は、ジャージ姿で沈んでいた
「おーい、正哉元気出せって」
「そ、そうよ、トイレ失敗したからって…」
あ、やばっと自分の口を塞ぐ香住
そう、女の子に成ってる正哉は、何時も通りに、男子トイレの小便専用に行ってしまい
粗相をしてしまったのだ
「ほら…正哉は半日で戻るんだしさ…戻れない僕より良いじゃない」
「…千尋も最初ヤラカシタのか?」
「あ、いや…僕の場合は、女の子になったの神社だったからね、洋式だから入って気が付いたし」
神社も、外国の方の参拝者が増えたため、和式の他に洋式のトイレを追加したのだ
ウォシュレットの使い勝手が良いこと…あ、変な事には使いませんよ
「やっぱり、俺だけか…」
正哉は余計に、へこんでしまった。
「そ、そんなこと無いよ…女子トイレだって大変な事に成ってたんだから」
香住の話だと、元女子達の股間に男性用ホースが着いたため
飛距離が延びて、尿がはみ出し、床がグショ濡れで、酷いもの何だとか…
そうか…
男子化も大変なんだな
やはり、長年の習慣と言う奴を簡単に変えるのは、難しいってことだ
僕も、慣れるまで…と言っても
女の子になって、2週間位だけど大変なのは、よくわかる
「ほら、教室に正哉だけじゃなく、ジャージの元男子が居ただろ、だから元気せって」
他にも、ヤラカシタ元男子仲間が居るんだからと慰める
「…」
ダメか…
女体化云々より、粗相してしまった事のが効いてるな…
「なあ正哉、気分転換にお茶でもしてくか?丁度今は女子3人だし」
「そうよね!あやし屋で、新作のお芋餡蜜食べてきましょ」
また餡蜜かよ
「あのな…俺今ジャージだし、ノーパンなんだぞ」
あー、下着もやっちゃいましたか
そりゃあ、女の子の身体で立ってすれば、太もも伝っちゃうし、下の履き物は全滅か…
「ま、まあ…胸が大きく成りすぎず、良かったじゃないか、ノーブラでもファスナー上がるし」
「ふざんけんな!女体化するなら1番欲しいだろ!」
「要らねーって、僕なんか毎朝サラシ巻いて苦労してんだぞ」
なぁ香住っと同意を求める
「私に聞かないでよ……ただ、千尋の胸は削れろ」
あ、ダーク香住に堕ちた
この話題は、これ以上ヤバイと思ったら、正哉が…
「だいたい、貧乳じゃ旦那も子供も可哀…」
そう言い掛けて、突然倒れる
「正哉!しっかりしろ!」
白目むいてて意識がない
「おい!香住を怒らせておいて、1人であの世に逃げるな!」
ぶんぶん身体を揺するがダメみたいだ
僕の背後に殺気が…
「ねえ、千尋も同じ見解なのかなぁ?」
「ぼ、僕は大きくない方が良いって、さっきから…」
怖くて振り返ることが出来ない
「ふ~ん、千尋が言うとさ…嫌味にしか聞こえないんだけど…」
どっちに答えても『死』しか無いって事じゃん
理不尽すぎる
「じゃあさ、OHBBで許してあげる」
「おーえいちびーびー?」
香住は、僕の身体を持ち上げると
自分の膝の上に、僕を叩き落とす
「がはぁ…」
ワンハンドバックブリーカーじゃねーか!
背中が痛くて動けねえ
そこに、気絶から復帰した正哉が
「痛つっ…、は!?おい千尋しっかりしろ!」
「ま、待て正哉…揺らすと背中が…」
「誰がこんな事を…」
やったのは香住ですが、元は正哉の発言のせいですよ
酷い迸りを受けたものだ
数分後、何とか回復し立ち上がることができた
龍の身体じゃなきゃ、救急車呼ぶところだが、流石頑丈
だからと言って、痛みは同じですがね
「酷い目に遭った…」
「まだ、正哉は良いだろ、僕なんかOHBBだぞ」
「おーえいち?何だそりゃ」
「今度、香住にやって貰えよ」
後ろで、ふふふっと微笑んでる香住を見て
「何かヤバイから遠慮しとくわ」
危険を察知し即座に遠慮する正哉
「どうする?神社に寄ってく?」
「俺はパス!妹が帰ってくる前にトランクス洗って置きたいし」
成る程な
やはり、妹に粗相したのは知られたくないか
「兄として威厳を保たねば成らん」
「あのシスコンぶりで、威厳もへったくれも無いと思うが…頑張れ」
「うるさいよ!見守ってるだけだ」
「はいはい、もう漏らすなよ」
「漏らしたんじゃなく、うっかり間違えたんだ!」
「解ってるよ、早く帰って洗わないと、紗香ちゃん帰るまでに乾かないぞ」
おっと、じゃあな!と手を振り、慌てて帰っていく
まったく、正哉のシスコンぶりにも困ったものだ
今回の事は、正哉が不注意にペットボトルを開けたせいもあるし
半日位、女の子でも我慢して貰おう
「香住はどうするの?」
「んー、どうしよっか?、結局お弁当食べれて無いんだよね」
「そだね、性転換騒ぎで急遽帰ることになっちゃったし…じゃあさ、神社で食べてかない?」
「千尋ん所で?」
「そそ、味噌汁作るからさ、師匠に味見して頂きたい」
「そう言うことなら、味を見てしんぜよう」
ははぁっと
わざとらしく畏まって、二人して笑い会う
本当に、香住とは長い付き合いで
気も合って一緒に居て楽しい
ただ、何故か…
此処のところ、酷く悲しい顔をする時がある
だが、僕はその事を聞いてしまうと、イケない気がして
問うことが出来ずに居た
主屋に帰ると、流石に布の帽子を脱いだ龍神が出て来て
「なんだ、今日はやけに早いではないか」
「そっちは遅いお目覚めで」
そう嫌味を言うと
「まだ寝ておらぬ」
「は!?」
「いや『ぶるーれい』を朝食後に見終わってな…」
「見終わったなら寝ろよ」
「うむ、寝ようと思ってたら、2期目の『ぶるーれい』が届いてな」
もうダメだ、この龍
香住も呆れてるし
「あのー、差し出がましい様ですが、龍神様…少しお休みになった方が…」
目の下にクマのある龍神に香住が言う
「心配は要らぬ、あと3話だしな…この『せろはんてーぷ』で目蓋が下がるのを止めるから」
本当にアホだな
「そんな、眠い頭で視て面白いのかよ」
「当然だ!…あぁ目蓋が…」
「もう瞬間接着剤でくっつけてやろうか?」
「む?それは『せろはんてーぷ』より効くのか?」
「効くぞ」
ただし、取れるかどうか知らんが
「駄目だよ千尋、目蓋を上にくっつけた後、龍神様目を開けたまま寝ることになっちゃうよ」
それはキモいな
仕方ないので、セロハンテープで頑張って貰おう
と言うか、いい加減寝ろよ
ふらふらと、自分の部屋に戻っていく龍神を見届けてから
僕達も、学園で食べれなかったお弁当を出して、遅いお昼にする
味噌汁は、急ぎでワカメと豆腐と油揚げで作ったヤツだ
香住から、味のレクチャーを受けながら、お昼を完食し
二人して、ネットの女性服のお店のサイトを見てコーディネートの勉強もする
男の子だったら、近場ならTシャツにジーンズで良かったんだがなぁ
結構なお値段するのはビックリだった
一気に揃えるのは金銭的に無理なんで、少しずつ買っていこう
と言うか、自分のサイズ計って貰わねばなぁ
香住にお願いしようと思ったが、先程胸でキレたばかりなのを思いだし
取り敢えず保留にした
「それじゃあ、そろそろ夕御飯の支度しちゃいましょうか」
そう言って立ち上がる香住
「あ、もう6時か…ネット見てたら時間が過ぎるの早いな」
「さて、ちゃっちゃと作るから、着いてくるように、良いわね弟子1号」
「へい親分」
「そこは師匠じゃない?」
「イエス!マム!」
「何処の軍隊よ…もういいわ…早く作って帰らなきゃ、私の家の夕御飯の支度もあるし」
そう言って台所に向かう
やはり、長年の経験の差か
手際の良さが、僕と全然違い無駄がない
結局全部作って貰ったが、ちゃんとメモは取ったから
何もしてないわけじゃ無いよと言い訳してみる
鳥居のの下まで送ると
「此処で良いよ、龍神様と和枝お婆さんが出てきたら、温め直して出して上げてね」
「うん、色々とありがとう」
「ふふ、じゃあね」
そう言うと鳥居を潜り帰っていく
ん?
何だろう…
一瞬だが、香住の背中が透けて見えたような…
気のせいかな?
そう思っていると、僕の目の前を『小さい光』が横切り消える
蛍?
蛍が出るには、まだ2ヶ月は早いはず
そして…何処からか、幼い香住の声で『わあキレイ』っと聞こえた
何かが起ころうとしている
そんな、気がした。




