42 性転換パニック
さて、世間様がバレンタイン一色なのに、バレンタインと関係ない話を進めます。
学園TSテロです。
今朝の小鳥遊先輩が言った言葉…『性転換薬』が頭から離れず
嫌な予感しかしない
前に、『龍の身体は、どの部位でも薬の材料になる』と言っていた龍神の言葉を、今更ながら思い出す
もう一つの『物の怪の妖力アップ剤として、物の怪から命を狙われる』
そっちの方ばかり気にしていたので、薬の方は失念していた
特に、あの先輩が休み時間に1度も現れないのが、余計に不安を駆り立てる。
性転換薬なんて、誰に使う気なんだろ…
僕に、その手の部類が効かないのは、先輩も解って要る筈なのに
そんな、僕の不安を余所に、昼休みのチャイムが鳴る
考えすぎだったか…
「ゴメン千尋、今日お茶切らしてて、入れて来れなかったから、1階の自販機で買ってくるね」
お弁当を持って現れた、香住が言ってくる
「じゃあ、僕が買いに行くよ、何時もお弁当作って貰ってて悪いしさ」
変な気を使わないのっと怒られてしまった
香住が廊下に出ていくと同時に、北校舎から爆発音がする
何事!?
廊下に出て北校舎を見ると、科学室から煙が上がっている
火は出て居ないようだが、煙の量がすごい
直ぐに、非常ベルが止められ、放送で
『生徒は北校舎に近付かないように!』
と、あわてる教諭の声がスピーカーから聞こえてくる
なんか…大事になってるんですけど
廊下の奥から、小鳥遊先輩が走って来るのが見え、目の前で止まると
「千尋ちゃん、これ預かってて!」
そう言って、乳白色の液体が入ったペットボトルを渡してくる
「先輩…まさか…さっきの爆発って」
「その話は後!そのペットボトル絶対開けちゃ駄目だからね!」
それだけ言い残すと、また廊下を掛けていく
少し遅れて、その後を追うように、女教諭が走っていく
「待て小鳥遊!今度は反省文では済まさんぞ!」
今追ってったの、学年主任の前田教諭と岡崎教諭だったような…
かなり後退していた頭髪がフサフサで、胸もあったけど、あの服装は前田教諭だと思う
あれ?
まさか、性転換薬…完成してるじゃん!
渡されたペットボトルを、まじまじと見る
此れだよな…性転換薬
こんな危険なモノ、僕に渡して行くとか止めてください
だいたい、何でペットボトルなんですか
普通、試験管か何かに入れませんかね
誤飲したらどうすんだろ
そう考えながら、自分の席へ戻りペットボトルを睨んでいると
「お!?千尋、新商品か?一口飲ませろよ」
「ば、馬鹿!それは小鳥遊先輩の…」
言い終わる前に、蓋を開けグビッと呷る正哉
飲んじゃったよ…
「ぶはぁ!なんだ此れ…まっず」
「お、おい…平気か?」
「平気って何が?」
見たところ、大丈夫そうではあるが…
「千尋、そのジュースはハズレだな、甘いかと思ったらエライ苦いぞ」
そう言って、僕にペットボトルを返してくる
こんなラベルも貼ってない、怪しいモノをよく飲めたものだ
正哉が、一向に女体化しない処を見ると、失敗作だったのかな…
ペットボトルを持って中の液体を見ていると
急に温度が上がり、液体がグツグツ音を立て始める
「まさか!?」
不安は的中する事となり、ペットボトルの中身が一気に気化し白い煙が充満する
本命は液体じゃなく、この煙だったのか!
忽ち、煙に覆われる教室
これが性転換薬だとすると…ヤバイ!
「正哉!ペットボトルの蓋は?」
「なんも見えん…蓋?その辺に落ちて無いか?」
そう言ってるのは、女の子になった正哉…
背が15センチは縮んだか…声もハスキーになってる
と言うか、妹の紗香ちゃんそっくりだし
「良いから蓋を探して!このままじゃ性転換テロになる!」
「ああ?性転換テロ?何だそりゃ」
成る程、鏡見てないから解ってないのね
煙の向こうで悲鳴が上がってる
ヤバイ
この教室は手遅れでも、廊下伝いに隣の教室まで、性転換が起こるとまずい
何処だ…
「お?千尋あったぞ」
「でかした!」
正哉から蓋を受け取ると、直ぐに蓋を閉じる
中身がまだ半分弱残っていた
危なかった…全部気化していたら、1年全部が性別反転していただろう
何てモノを造るんだよ先輩は…
大元のペットボトルを閉じたので、少しずつ煙が晴れていく
ああ…
見たくないなぁ
どうなってるか、予想がつくんだもの
顔が判別出来るぐらい煙が薄まると
教室の彼方此方から声が
「おい、お前…どうしたんだよその胸…」
「お前こそ、小さくて何か可愛いぞ」
…
「きゃあ、真澄…ひ、髭が」
「ちょ、愛莉だって何だその脛毛、ウケる」
…
帰りたい…
そりゃあ、材料提供しちゃったけどさ
まさか、性転換薬だなんて…思わなかったし
「な…なんじゃこりゃああああ!」
「正哉…やっと気が付いたか…」
「千尋!お、俺の胸が…」
「落ち着け!それから、シャツを脱ぐな」
「まさか…」
正哉はベルトを外し、ズボンを下ろして愛棒を確認していた
「僕が言うのもなんだけど、元気出せよ」
そう言って、正哉の肩をポンっと叩いてやる
「こ…」
「こ?」
「此れで、妹とお風呂に入れる!」
「アホか!心配して損したわ!」
「馬鹿野郎!女同士なら一緒に風呂入っても良いだろ!」
「良くねえ!紗香ちゃん可哀想だからヤメロ」
あーもー
収集がつかない
先輩を見付けて、解毒剤か何か無いか、聞かなきゃ
「千尋!どこ行くんだよ!」
「元凶の小鳥遊先輩探して、解毒剤あるか聞いてくるから、正哉はズボンを履け!」
トランクス一丁の正哉にそう言うと、廊下に飛び出す
廊下でも、性転換テロに巻き込まれた生徒が、結構な数居た
泣いて居る者や、喜んで居る者等…様々な反応見せている
皆、お昼ご飯どころの騒ぎじゃない
どうすんだよこれ…
解毒剤があったとして、数足りるのか?
と言うか、先輩は何処に行った
廊下を見回すが、何処にも居なそうだ
まさか、もう捕まって職員室に連行されたとか?
確認の為、1階の職員室を覗いてみるが、先輩は居なそうだ
じゃあ、まだ逃走中か…
あの先輩が、簡単に捕まると思えないし
上の階に逃げたか…
そう思って、階段を上がっていくと、降りてきた先輩とぶつかる
「千尋ちゃん!?」
ぶつかったショックで、階下の僕が階段を踏み外し、落下していく
こんな処で、階段落ちとか…
ゆっくり過ぎていく回りの風景
此れで終わりかぁ
生まれ変わったら、龍じゃなく猫耳少女がいいな
そう考えていると
誰かに受け止められていた
誰?
丁度、明り取りの窓からの逆光で、顔がよく見えない
「大丈夫?」
低い声なので男の子?
「あ、はい…ありがとうございます」
誰だろ?…そう思っていると
先輩が、また教諭に追われて逃げていってしまう
「あ!先輩待って!」
先輩追いかけようとして、もう一度、御辞儀をしようと振り替えったら、助けてくれた人は居なかった
本当に誰だったんだろ
今度逢えたら、ちゃんとお礼言わなきゃ
でも…
よく思い出すと…女子の制服だったような…
…香住?
まさかね
考えを払拭し先輩の後を追う
ん?追い掛けてる学年主任の前田教諭
髪が戻ってる!?
ちょっとブカブカだった服もサイズが合ってるようだし
と言うことは
時間制か!?
直ぐ様、追い掛けてるのを止めて、先輩に電話する
『はあはあ、誰?』
「僕です…千尋です」
『千尋ちゃん?さっきは、ぶつかってごめんね』
「あ、いえ此方も不注意でしたし…それより聞きたいことが」
『な、なに?今取り込んでるから手短に』
「先輩の性転換薬って時間で戻るんですか?」
『そうよ、煙を吸い込んだ量にも寄るけど、短ければ数分、長くても半日かな』
「解りました、では職員室で怒られて来て下さい」
『ちょっと、助けてくれな…』
先輩がまだ、何やら言っていたが、電話を切る
人騒がせな
しかし、此れで時間制だと言うことが判明したし
長くても半日か
クラスメートも明日には戻って要ると言うことだな
良かった良かった
そう頷きながら教室に戻ると、入り口のところに香住が立ち尽くしていた
「香住?中に入らないの?」
そう言いながら中を覗き込む
と
ほぼ全員が制服を脱いで下着の中身を確認している
「うあ…」
どうすんだよこれ…
香住と一緒に立ち尽くしていると
担任がやって来て
「お前ら!ちょっとは羞恥心がないのか!服を着ろ!」
そう怒鳴り散らしていた
正にカオス
結局、午後の授業は打ち切りになり、全生徒帰宅となった
英断だ!
性別逆転してて、半裸の元男子を見る元女子の目付きがヤバかったし
願わくば、無事に家に帰れよ…元男子諸君
しかし、香住の隣に居て気が付いたんだが
さっき僕を受け止めてくれた人と、同じ香りがするような…
ちゃんと、名前聞いておけば良かった。