41 久しぶりの登校
翌朝、朝餉の用意で味噌汁を作っていると
匂いに誘われて、龍神が現れる
最近、深夜アニメとネット三昧で、引きこもりになってる御神体だ
「なんだ…お昼まで寝てるかと思ったのに」
「いや…まだ寝ておらん」
「は!?」
「実は、見逃したアニメを視るのに、通販サイト天蔵さんで『ぶるーれい』を買ったんだ」
「BDって…円盤まで買って、どっぷり填まってるじゃねーか!」
「うむ、まだ見終わって無いんだが、良い匂いに釣られて出て来てしまった」
このダメ龍め
「せっかく神社から結界消えて、外に出れるのに、引きこもりか…」
勿体無い
「いや、神社下の『こんびに』と言うヤツには行ったぞ」
「コンビニって…天蔵さんと違って、クレカかスマホ持ってかないと引き落とし出来ないだろ、支払いどうしたんだよ」
「前に言った、洞窟の金の塊持ってたんだが拒否されてな」
「当たり前だ!店員さん困るから止めろって」
まあ、今まで神社の敷地から出たこと無かったんだし、外の事に疎いのは仕方がないんだろうが…
店員さんには、後で謝っておこう
まだ目がショボショボしている龍神に、タオルを渡し顔洗って来るように言う
味見したくて仕方ない邪魔者を追っ払ったので、一気に仕上げテーブルに運ぶ
と
龍神がパンツを持って現れる
「お前パンツ履かないの?」
「履いてるよ!と言うか、そんなもん食卓に持ってくんな!」
「履いてるなら、これはなんだよ」
「知るか!帽子かなんかだろ」
まだ、女性下着に抵抗があって、未だにトランクスなのだ
「成る程…この穴に左右の角を通すんだな」
「じゃあもうそれで良いよ…」
もう面倒くさいので、投げ遣りに答える
婆ちゃんが遅れてやって来るが、パンツを被った龍神に顔色一つ変えないのは流石だ
「おい、和枝のヤツ無反応だぞ」
「婆ちゃんに、似合ってるとでも言って貰いたいのか?」
「いや…どんなリアクションするか見てみたかった」
もう良いから食えよ…
朝から最悪な気分だ
「おはようございます。千尋起きてます?」
丁度、香住が呼びに来たので
「上がってて、すぐ用意するから」
そう言って、行儀が悪いが、ご飯に味噌汁を掛けネコマンマにする
猫飯とか…ケモ好きとして、ご馳走だな
「もう、千尋は直ぐネコマンマにする、お嫁に行けなくなるよ」
「甘いな香住さん、ネコマンマは千年を超える庶民食だぞ」
「歴史で、そんな庶民のソールフード聞いたことないけど」
「本当だって、ネット検索してみなよ」
「またネットデマに流されてるんじゃないの?」
「今だって、鍋の締めにご飯投入したりするだろ」
「それは…するかもだけど…何か違わくない?」
「同じだって、昔の貴族が下品だーって言って、下品イメージが定着されただけなんだよ」
そう言ってネコマンマを掻き込む
まだ納得してなさそうな香住だが
言ったもん勝ちである
そして、恒例のサラシ巻きをして貰い神社を出る
「ねえ、龍神様の…頭のあれってパン…」
「布の帽子だ!」
「帽子?」
「そそ、たぶん防御力プラス1ぐらいの」
「そうなんだ…」
それ以上の追及は止めてください
アレでも御神体なんですよ
もう神の威厳なんて無いけど
そこへ
正哉が走って来るのが見える
「千尋おぉぉ」
「オッス、正哉シャバの空気はうまいか?」
「馬鹿野郎、本当に連行されたぞ」
そうなんだ…
「何で助けてくれないんだよ…警察官10人に囲まれたんだぞ」
「そうか、不審者が捕まって良かったじゃないか」
「良くねえ!未成年だから親まで呼ばれて、すっげぇ怒られたわ!」
「自業自得だろ」
「お陰で、妹に過剰に近付いたら小遣い減らすって親に言われた」
「じゃあウチの神社で巫女のバイトするか?」
「何で俺まで巫女なんだよ!それに、バイトなんかしてたら妹を見守れないだろ!」
駄目だコイツ…早くなんとかしないと…
「じゃあ、私が紗香ちゃんに『お兄さんと違う学園にしなさい』ってメール送るわ」
「そんな事をしたら俺の生き甲斐が…千尋、高月を止めろよ」
「大丈夫、香住が遣らなきゃ僕がメールしてたし」
「裏切り者め!こうなったら転校届け貰ってくる!」
そう言って学園に走っていく
アイツ…来年の話なのに、今から転校してどうすんだ…
紗香ちゃんが、何処に入学願書出すか、解らないのに
「なあ、香住…本当に正哉、女子人気あるのか?」
「あるわよ…あの妹さん一筋なの…皆知らないし」
寧ろ、クラスの女子とくっついてくれた方が、紗香ちゃん解放されて良いのだが
あのシスコン具合では無理なんだろうな…
そして、最後の難関
左手をギブスで固められた、小鳥遊先輩が立ち塞がる
「はぁ…」
「何よ、人の顔見るなり、溜め息つかないで頂戴」
残念そうに溜め息をつく僕に抗議する先輩
「朝から変な人達ばかりで、体力持ってかれましたから」
「ちょっと、その変な人達って…私は入って無いよね?大体、1番変なのは千尋なんだからね」
「僕は、寧ろ巻き込まれてるだけなんですが?」
「へえ、そう言う事言うんだ…後輩に手を出して置いて、このロリコン!」
「違うから、あれは緊急事態だって言ったじゃん」
「昨日も餡蜜あ~んして貰ってたし」
「貰ってねー」
「私にも、千尋があ~んしてよ!」
…
香住は、そこまで言って顔を真っ赤にすると
僕の後ろに回り、担ぎ上げる
「千尋の……馬鹿ああぁ!」
バックドロップ!?
視界の天と地が逆転する
上手く首を反らしたので脊髄でなく、角で地面を受け止める
あ、危ねぇ
香住は、ふん!っと怒って行ってしまった。
「ねえ、千尋ちゃん大丈夫?」
そう言って、仰向けブリッジ状態で、地面に刺さってる僕の目の前に屈む先輩
「パンツ見えるよ先輩」
「余裕じゃないの、流石龍の巫女」
「いや、たまには違うリアクション返してくださいよ」
「例えばどんな?」
「例えば、『見せてるのよ!』とか…」
「…」
美人なだけに、無言でいると余計怖いんですが…
「あの~先輩?角が抜けないので引っ張ってくれると嬉しいな」
「良いけど、爪か髪頂戴」
「…一応聞きますけど、何に使うんです?」
「それは、出来てからのお楽しみかな」
まあ、良いか…『守護神』のお陰で、僕に術も呪いも効かないし
とりあえず、引っ張って地面から抜いて貰う
「じゃあ爪頂戴」
「良いですけど、たぶん歯が立ちませんよ」
ウチの爪切りは、龍の爪の堅さに負けて全滅した
同じくして、先輩の鞄から出した爪切りもボロボロに…
「だから無理ですって…」
「ドラゴンスレイヤーでも持って来ないと駄目ね」
「スレイヤーって死んじゃいません?」
その前に、そんな物騒な武器は、異世界RPGだけにして欲しい
「仕方ないわ、髪の毛で妥協するしかないか」
「僕は構いませんけど、どの位要るんです?」
後ろにゴムで束ねてあるのを見て
「5センチ位貰って良いかな?」
腰ぐらいまであるので、5センチ位構わない
どうせ、男の子として通ってる内は、髪型なんて弄れないし
先輩は、鞄からハサミを取り出し、ゴメンねっと一言掛けながら切っていく
爪と違って髪は切れるんだな
新発見だ
爪も、ある一定の長さになったら、伸びるの止まったので、一応切らずに済んでは要るが
あのまま伸びていたら、どうやって切ったら良いのやら
神をも真っ二つにするチェーンソーか!?
いや、それだと僕まで真っ二つに…
そんな馬鹿な事を考えてたら
いつの間にか、髪を切り終わって校舎に走って行く先輩が
「これで、『性転換薬』が造れるわ」
…
今なんて言った?
性転換薬って言いませんでしたか?
何か…また一波乱有りそうだな
願わくは、その騒ぎに僕が巻き込まれませんように…




