40 甘い玉子焼き
遅くなってすみません
完全に寝落ちしてました。
「お巡りさん、あの人です」
正哉は、本当に呼ばれた警察官に、追われていった
小百合ちゃん…呼んだフリだけかと思ったのに…容赦無いな
「さて、先輩達は此れからどうするんです?」
そう小百合ちゃんに聞かれたが、はっきり言って、予定はさっきの餡蜜だけだったので
その後、どうするとか考えて無かった。
「此れと言って別に…香住は何かある?」
「え?んー、スーパーで夕食の買い物かな、夕方のタイムセールが見たいかも」
「だ、そうだ」
そう小百合ちゃんに向かって伝える
「そうですか…私達は本屋さんに寄っていきたいので、ここでお別れですね」
「そうなんだ、どんな漫画読むの?」
「あ、いえ違うんです。来年受験なんで、良い参考書がないかと思って…」
そう言ってくる紗香ちゃん
「千尋みたいに、ラノベとか漫画ばかりの人と違って、紗香ちゃんは真面目なんだよ」
「大きなお世話だ、香住だって僕の部屋でラノベ読んでるじゃないか」
「でも、結構面白いの買ってるよね、ケモミミ少女が出てくるのばっかだけど…」
「ふ、ケモミミこそ正義だからな」
く…だからこそ、あのフリマアプリで売られた薄い本達が悔やまれる
「もう、頭に耳乗せちゃいなよ…何なら私が縫い付けてあげるけど」
もう角があるから要らないよ
これ以上、頭に何か乗せたら、猫だか龍だか訳が解らなくなる
「大体、縫い付けるって…香住は外科手術部だっけ?」
「そんな部活ある訳無いでしょ!大体、私、医師免許なんて持ってないし」
「じゃあ、無免許医師じゃないか!法外なお金の要求して奇跡の手術を…」
「しないから!ウチの学園、医学部何て無いでしょ」
「じゃあ、何部なんだよ」
「家庭科部!入学の時に入るって言ったじゃん」
「家庭科部?そんなのあったんだ…」
「あるよ!料理だけじゃなく、ミシンで服造ったり刺繍したり色々するんだよ」
香住の話では、火を使う料理は顧問が居るときだけで、後は縫い物メインなんだとか…
「家庭科部かぁ、来年入学できたら入ろうかな」
「え?紗香バレー辞めちゃうの?てっきり学園でもバレーやるもんだと…」
「あ、うん…バレーは好きだよ、でも私の背丈じゃ…やっぱり辛いんだよ。来年からの高等部だと、大会に出てくる人が、もっと背の高い人ばかりになるし」
成る程ねえ
技術面ならともかく、背丈となると、どうにもならないものね
あれ?
よく見たら…この中で僕が一番背丈が低いんじゃ…
正哉が、確か去年182って言ってた
その妹の紗香ちゃんが、160半ばから後半ぐらい?
男だった僕と香住が、同じ背丈で160ピッタリだったが
女の子になった時5~6センチは縮んだはず…150は切って無いと思うけど…
極端に縮んだら、クラスメートが気が付くし
さりげなく、小百合ちゃんの隣に行って背丈を見比べる
微妙だが…負けてる気がする
「ねえ、小百合ちゃんさ…背丈いくつ?」
「え?私ですか?156ですよ、でも伸び盛りなので、姉様位にはなってみせます!姉様が私の目標ですから」
成る程、だから髪型とか黒髪ロングヘアで真似てるのか…
着てるのが、中学の制服じゃ無ければ、ぱっと見間違えそうだ
対照的に、紗香ちゃんは運動部だけあって短いショートヘア
髪が、肩につくかどうか位の香住よりもずっと短い
「ちなみに、その目標のお姉さんはどの位なの?」
「えっと、165ぐらいだと思いますよ」
…
やっぱり僕が一番低いのか…
角も身長に含まれませんかね?
込みで良いなら10センチ位は伸びるんだけど
一気に、後輩にまで背丈を抜かれて、へこんで居ると
「何がっかりしてるのよ、千尋はまだ伸びるかもよ」
「伸びる処か、縮みましが?」
香住のヤツ…抜きつ抜かれつ、ずっと張り合ってた背丈で勝ったからって…
ニシシって笑ってるし
屈辱だ
今日から牛乳飲むか…
でも、まさか…胸に栄養が行ったりしないよな…
胸はもう要らないから背丈ください
そんな事を考えてると、警察官に追われてる正哉が通り過ぎる
「うおおお!誰でも良いから助けてくれー!」
…
「警察官…増えてたわね」
「ああ、最初2人だったのに…5人ぐらいに成ってたな…」
「シスコン先輩は、少しは懲りれば良いんです」
「お兄ちゃん…ちょっと可哀想かも…」
受験勉強をアレに教われば良いのに、と言えなくなってしまった
まさか、正哉…未成年だし投獄されないよな
無事だったら、明日学園で逢おう…
「じゃあ、私達は此れで」
「うん、気を付けて帰ってね」
「先輩、餡蜜ご馳走さまでした、今度は二人で行きましょうね」
そう言って手を握ってくる小百合ちゃん
香住さんがキレるから、そう言うのは止めて欲しいな
ほら、殺意の波動が…
慌てて手を離す
ふふ、残念です。と舌を出して小走りに去っていく小百合ちゃん
キレ掛かった香住さんと残された僕は、もっと残念ですよ
仕方ない
香住の手を握って
「ほら、スーパー寄ってくんだろ、タイムセール終わる前に行こう」
そう言って香住を引っ張って行く
「…うん…」
どうやら、殺意の波動は消えたようだ
なんか…香住の手を引いていると
夢で見た『秘密の場所』に引っ張って行った時を思い出す
「なあ、香住…あの場所覚えてる?」
「あの場所?」
「うん、ウチの神社の藪を抜けた先の…」
「何かあったっけ?」
あれ?
忘れてる?
「あ、いや…覚えてないなら良いや」
なんだろ…香住の返答に、何とも言えない違和感が…
まあ、忘れてるだけだよね
きっとそうだ
そう自分に言い聞かせ、違和感を払拭する
スーパーに着いたは良いが、セール品は殆ど無くなっていた
「出遅れたわ!」
「ちょっと話し込んじゃてたし、仕方ないって」
「卵がお一人様1パックだから、千尋も1パック持って!」
そう言って卵を押し付けられる
「卵こんなに必要か?」
「当たり前でしょ、玉子焼きは毎日お弁当に入れるんだから」
「あの超甘い玉子焼だろ」
「うん、あれはね…初めて私が作った料理だから…」
「どうせ中匙と大匙間違えたんだろ」
「良いのよ…あれで男の子を1人…笑顔に出来たんだから」
…
そうか…思い出した…
7年前のあの事件で、両親を失い、毎日泣いてばかりだった僕に
香住が作ってきてくれた玉子焼き…
形もボロボロで、焦げもあったけど
甘くて美味しかった
そうか…
それで、形こそ良くなったけど、味はあの時のままなのか…
「ほ、ほら卵はもういいでしょ!あと他にも、お一人様1つの商品並んで貰うからね!」
そう言って、僕に商品を持たせてくる
「あ、待ってよカゴもう1つ無いと持ちきれないかも」
照れてる香住の後を追いかけながらカゴを追加する
「うーん、筍かぁ」
「筍御飯にするの?」
「どうしようか迷ってるのよ、アク抜きしなきゃだし」
「醤油と味醂で、田舎煮にしても良いよね」
「千尋は和食なら出来るの?」
「婆ちゃん直伝だ、と言っても凝ったモノは無理だけどね」
「そう言えば、もう龍神様との契約終わったんでしょ、花嫁修業要らなくなったね」
「いや、此れからずっと女の子で行くなら必要だと思う」
龍神の花嫁としての修行じゃなく、龍神の花嫁修業として
まあ、貰い手が無ければ、宮司の資格取って神社を切り盛りしていくかな
龍神なので結構長く生きられそうだし
「でも、嫁いだら和枝お婆さんで神社居なくなっちゃうじゃない」
「たぶん、その場合、神社庁の方から派遣されてくるんじゃ無いかな」
「神社庁なんてあるんだ」
「うん、各神社を管理してる処がね、その上に、神社庁を管理する神社本庁ってのもあるんだ」
まあ、ウチは龍神が居たんで、結構好き勝手遣らせて貰ってた節があるから
居なくなれば、当然横槍が入るだろうな
仕方ないか
「なあ、香住…牛乳買っても良い?」
「それ以上胸大きくしてどうすんのよ」
「違うから!って言うか胸大きくするなら大豆イソフラボンじゃ?」
それに、これ以上大きくしたらサラシで誤魔化しきれないよ
一応戸籍上は男の子なんだから
「じゃあ、なんで買うのよ、今日牛乳はセール品じゃないし」
「いや…ほら、カルシウムを摂ろうかなって…」
「ふ~ん、背の事気にしてるんだ?」
「ち、違うし!気にしてないし」
香住の勝ち誇った顔がムカつく
「香住はこっち買うと良いよ」
そう言って、豆乳をカゴに入れようとしたら
頭の上に激痛が走る
「ぐおおお」
「ほら、瘤で背丈伸びたわよ」
香住の手に、2リットルの水ペットボトルが握られていた
「おま…商品を…」
「まったく、千尋のせいで買い取りに成ったじゃない」
僕のせいかよ
香住の理不尽な攻撃に耐え、レジにて支払いを済ます
「結構買ったね」
二人とも両手に袋を持って歩く
まあ、僕のお弁当なんかも作ってくれたり、ウチの配達されてる食材だけでは、足りない食材持って着てくれるんで
実質2家分で消費してるようなモノだから、使いきれずにダメにしたりは無いんだろう
香住の家に荷物を置くと、香住のお母さんが出てくる
「千尋くん、悪いわね重かったでしょ」
「あ、いえ、何時もお世話になってるんで此れぐらいは…」
「お茶入れるから飲んでいきなさいよ」
お茶に誘われるが
やっぱり、両親亡くしてるせいか、こう言う家族団欒って苦手と言うか…
思い出して辛いんだよね
「すみません、神社でまだ御勤めが残っているので、僕はこれで…」
そう言って香住の家を出る
本当は、龍神との契約終わってるんで、御勤めなんて無いんだけどね
逃げる口実だ
でも、香住のお母さん見て気が付いたんだ…
香住…胸は遺伝だわ…
そう思っていると、香住の家から、スーパーで買い取った、ペットボトルが飛んで着て、頭に当たる
「ぐあぁ…何で考えてる事が解ったんだ…」
エスパーかアイツは…
そうして軽く気を失う千尋であった。




