4 学校へ
食事の後、花嫁修行が始まった。
巫女服の着方から、龍神のお供え物の作り方等
祖母による指導は、夕方香住が来るまで続いた。
「う~、このままじゃ、本当にお嫁にされてしまう……」
と僕の部屋で、香住に今日1日の出来事を報告していた。
「千尋、巫女装束が似合ってるじゃないの」
「そこは誉められても、嬉しくないよ」
「でも、困ったわね……和枝さんも龍神様も、元に戻してくれそうも無いものね」
「何か良い方法は無いかな?」
「そうね……」
香住は、今朝取れた僕のワイシャツのボタンを付けながら、何やら考えてる
「じゃあ、さっさと神子産んじゃえば?」
「はい!?」
「神子さえ産めば、元に戻してくれるんじゃないの?」
「いやいやいや、それが嫌だから打開策を考えて要るわけで……」
香住さん本末転倒ですよ
「とは言ってもねえ、性別変更の手段持ってるのは、龍神様だけでしょ? その時点で、お手上げだし……」
「だから、そこをどうにか出来ないか、相談してるのに……決めた! 明日から登校する!!」
「え!?」
「少なくても、学園行ってる間は花嫁修業も止まるし、少しは時間稼ぎができるかも」
香住は、僕の決断を聞いて、足先から頭の上まで視線を動かし
「何とか成りそうね」
「本当?」
「私の見たところ、顔も、声も、元から女の子みたいだったし、変わりは無いわ」
それ、酷いこと言ってるって自覚ありますか?
「髪も一つに纏めて、結わえて置けば良いし…問題は、そのケシカラン胸よね」
暫く考えた後
わかったわ、何とかするから任せて置いて、と頼もしい言葉を残し帰っていった。
翌日、祖母に見付からぬよう、朝早く着替えを持って家を出て、香住の家へ行く
「じゃーん」
香住はサラシを出してくる
「これで締め付ければ、ムカつく胸もまな板同然よ」
香住さん……ちょっと私怨が入っていませんか?
「さあ、行くわよーえい!」
力一杯サラシを引っ張る
「痛い痛い痛い痛い……」
「我慢して……よね!」
「痛い、本当に痛いってば」
引っ張りながらグルグル巻いていく
すごく息苦しいが
見た目、胸の出っ張りは分らなくなった
「我ながら上手く行ったわね」
「苦しい」
「我慢しなさいよ、男でしょ」
それとも、中身まで女の子になっちゃったのかなぁっと茶化してくる。
「そ、そんな事ないよ!」
精一杯の強がりで返す
そうだ! 僕は嫁になんてならないから!
二人揃って香住の家を出た
2日ぶりの学校だが、なんだか長く休んだ後のような感じがする
「オッス! 千尋、もう学校出て来て大丈夫なのか?」
そう言って声を掛けて来たのはクラスメートの斎藤正哉である
「もう大丈夫さ」
「そうなのか? 全身毛虫に這われ、大変な事になってるって聞いたけど」
ぎぎぎっと顔を香住に向けると
明後日の方向いて、吹けない口笛を吹く真似をしている
香住さん、もっと上手い病名は無かったんですかね
風邪とかでいいのに……
その後、3人で学園へ歩きながら、昨日のテレビの話など、他愛も無い話をして登校する
なんか……久しぶりに、非日常から出てこれたような気がして、学園へ出て来て良かったと心から思った
しかし、校門を通り抜けようとした時、何か視線を感じ振り返ると
離れた電線に、黒い1羽のカラスがとまり、此方を見ていた
ただのカラスなのに、気持ち悪く感じてしまう
「千尋~、置いてくよ~」
香住の声で我に返り、気のせいだと自分に言い聞かせ、香住達の後を追うのだった。