39 シスコン
甘味処あやし屋に入ると、もうすぐ15時と言うこともあり、ほぼ満席状態
「ちょっと待ちそうだね」
店員さんに、2名ですと伝えた香住が言う
「仕方ないって、この時間帯だもの」
みんな、お昼食べた後の、甘いモノは別腹なお客さんばかりなのだろう
僕としては、お昼抜きで出て来たので、まず何か食べてから甘いモノに行きたかった
でも、香住をこれ以上焦らすと、パソコン本体処か、机が飛んでくるとマズイので大人しく従っている
「お次の方、お席にご案内します」
「ほら、呼ばれたよ、早く行こ」
もう、待ちきれ無いとばかりに、僕の手を引っ張っていく
やれやれ、ご機嫌なのは良いが燥ぎすぎだ。
案内された席に着くと、お冷やも来ない内に、テーブルの上のお品書きを開き
「注文いいですか?」
といきなり注文を頼む
いくら通い慣れてるからって、店員さんも段取りがあるだろうに…
「お決まりですか?」
「えっと、此方の特製餡蜜を3つで」
「え!?3つ…でよろしいんですか?」
そうだよな…聞き返すよな…
ここの特製餡蜜は、他店の倍はあるもの…
それを3杯とか…
他店で6杯頼むようなもんだし
「はい、大丈夫です!」
香住は笑顔でそう答え、店員さんが書き込んでいく
なんか…特製じゃなく普通の餡蜜を奢るはずだったのに
いつの間にか、アップグレードしてるし…
「ほら、千尋は何にするのよ」
ヤバ
まだ考えて無かった
店員さんを待たせるのも何だし…同じ特製餡蜜で良いか
「じゃあ、僕も同じで」
そう言って注文を終える
店員さんは、店の奥から呼ばれ戻っていった
順序が彼方此方だから、お冷やは暫く来なそうだな
仕方ない
だが
その彼方此方注文が大変な事になる
テーブルの上に、処狭しと並べられた特製餡蜜
6杯
「どうしてこうなった…」
思い返すと、香住が3つと頼んだ後
『僕も同じで』と言ってしまっていた
3杯×2人=6杯
うん、数は合うな…
でも、どうすんだ…これ…
いくら空腹でも、この数は無理だ
「なあ、香住…この間5杯食べたいって言ってたよね」
「ん?言ったねぇ」
「5杯食べて良いよ」
「な!?普通のなら未だしも、特製5杯なんて無理に決まってるじゃん」
ですよね
もしかしたら、香住なら行けるんじゃ?と期待したが
流石に無理か…
どうしようと頭を抱えて要ると
「あれ?瑞樹先輩!」
声がする方を振り返ると、小鳥遊先輩の妹、小百合ちゃんと正哉の妹の紗香ちゃんの二人だった
チッっと面白くなさそうに舌打ちをする香住
コラコラ
後輩相手に大人気ない
「二人とも、特製餡蜜で良ければ食べるかい?」
「良いんですか?」
「良いよ、と言うか食べて貰えると助かる」
何で呼ぶのよとキレ気味の香住に
仕方ないだろ、この数食べきらないし
と何とか宥める
元々、4人席に案内されていたので、僕の隣に座った小百合ちゃんが
「センパイ、食べさせてあげる!」
あ~ん
とスプーンを僕の口元に持ってくるが
目の前の香住さんがブチギレ寸前だ
白いオーラが見える
止めて…このままだと胸に7つ穴を開けられちゃう
僕…生きて帰れないかも
香住の隣に座った紗香ちゃんは、殺気に当てられて震えているし
「ぼ、僕は自分で食べられるから…小百合ちゃんも自分で食べなよ」
そう言うのがやっとだった
話題を変えなきゃ
「えっと…お姉さんの左手の具合はどう?」
「んーどうって言われても、骨折してまだ5日ですよ。簡単にはくっつきませんって」
ですよね
「ふん、軟弱ね!ウチの千尋は3日で脚が生えたわ」
妙に『ウチの』を強調して言う香住
ちょっと違うぞ、生えたんじゃないから
人の脚を、切れても生えてくる、蜥蜴の尻尾みたいに言わないでください
いや、蜥蜴?
龍って蜥蜴の仲間なのか?
たまに、アニメとかでデッカイ蜥蜴めって言われてるけど
爬虫類?
今度、龍神に聞いてみよう
そんな具合に、現実逃避し考えに浸っていると
言い合いがヒートアップしてる
「あら、高月先輩は物の怪と戦えないんじゃ、千尋先輩を守れませんよね」
いつの間にか、瑞樹先輩から千尋先輩になってるし
「良いのよ、千尋は物の怪が居るような、物騒な世界とは関わらないんだから」
ダメだこの二人
食べ終わった後も、永遠と言い合いしてるので、伝票を持って席を立つ
「紗香ちゃん、ゴメンね、外出てようか」
怯えてる紗香ちゃんを連れて、会計を済ませ外に出る
「瑞樹先輩、ご馳走様でした」
店を出るなりペコリと御辞儀をする紗香ちゃん
兄の正哉に似ず、可愛い妹さんだ
正哉が、シスコンなのも頷けるわ
そう思っていたら
何処から現れたのか、正哉が走ってくるのが見える
「うおおおおおお!紗香ぁ」
前言撤回だ
アイツは少し自重しろ
僕と紗香ちゃんの間に割り込むと
「千尋!お前は俺の妹に何を!?」
そう怒鳴りながら僕に詰め寄る
「少しは落ち着けシスコン野郎」
「今、甘味処から出て来ただろう!デートか!?デートなのか!?」
「ずっと、妹をつけ回してるのか?シスコンストーキング野郎め」
「女装ケモナーなお前に言われたくない」
「バカ野郎、これは女装じゃねえ!」
ケモナーは否定しないが、女装が正装になっちまったよ!
「大丈夫か?何もされてないか?」
妹をペタペタ触っている
此さえなければ、女子にモテるのに…勿体無い
「もう、お兄ちゃん止めてよ恥ずかしい」
「だって、もしお前が千尋の子を…そんな…そんな事になったら俺は!」
「兎に角、落ち着けお兄ちゃん」
僕は、そう言って正哉の頭にチョップをかます
「お義兄ちゃんだと!?俺はお前の義兄に成ったつも…」
今度はグーで顎にアッパーを食らわす
「アホめ、此の身体でどうやって孕ますんだよ!冷静に考えろ」
「ふっ、効いたぜ強敵と書いて友よ」
メンドクサイ奴
「祝日位、妹さんを解放してやれよ…来週のゴールデンウィークもずっと着いて回る気か?」
そう言って、手を貸して引き起こしてやる
「そんな事当たり前だ!」
言い切ったよ此のシスコン
よく紗香ちゃんがグレないと感心するわ
「大体、俺が部活入らないのも、妹を見守る為だ!」
「威張って言う事か!妹の自由の為にも、拘束時間の長い部活に入れ!」
「嫌だ!」
「どのみち、紗香ちゃん中学3年で、バレー部最後の年なんだから、部活に集中させてやれよ」
「なら、俺は家族として、応援に行かねばなるまい」
こいつは…
そんな、僕と正哉のやり取りを、何時から見ていたのか
香住と小百合ちゃんが、僕の後ろでドン引きしていた
「紗香から、お兄さんがシスコンだって聞いてたけど…此処まで酷いとは…流石に引いたわ」
小百合ちゃん、もっと言ってやって良いぞ
「斎藤くんさ、終日妹ストーキングとか…流石に自重しようよ」
「そうだ、自重しろ」
僕も香住の意見に乗っかる
「ぐぬぬ…」
悔しそうだ
もう一押しだな
「ほら、紗香ちゃんも、嫌なら嫌って言った方が良いよ」
「紗香、そんな事無いよな?」
皆の視線が紗香ちゃんに集まる
「えっと…流石にずっとは…お風呂とトイレ位は…その…一人にして欲しい」
…
「よし!警察に電話するわ!」
そう言って、スマホを取り出す小百合ちゃん
「可哀想に…辛かったでしょ」
香住が紗香ちゃんの頭を撫でながら言う
「なあ、千尋…俺が悪者にされてるんだが…」
「だから、自重しろと言ったんだよ…」
大体、お風呂とトイレって
何処かのエロ龍と一緒じゃないか!
本当に、スポーツ万能でイケメンなのに…勿体無いな
バレンタインデーなんか、毎年チョコいっぱい貰うのに
僕なんか、香住がくれるだけだぞ
ん?来年は僕が用意するのか
だとしても、正哉にだけはやらん
どうせ食いきらない程貰うだろうし
リア充め爆発しろ
あーもー
香住に切り出せ無かったじゃん
正哉のせいだ!
だけど、ちょっとホッとした自分が居た
また龍神に口々言われるな…




