35 鎮魂
2つに切るか、迷ったのですが
1つ長めで行きます。
「くっ、一思いにコロセ!」
又しても、僕の寝床に入ろうとした龍神を、布団で簀巻きにしロープで縛る
「また変な事ばかり覚えてきて…大体、服着てるならまだしも、裸で寝床に入り込もうとしたお前が悪いんだからな!」
そう言いながら、ロープを引き絞る
「これが『えすえむぷれい』と言うヤツか」
「へえ、余裕があるじゃないか」
減らず口が叩けぬよう猿轡を噛ませる
龍神は、モガモガ何か言っているが、放置で風呂に向かう
まったくもう…最悪な目覚めだ
昨日も、風呂にゆっくり入れなかったし、沐浴も兼ねて入ってこよう
お湯は抜いてしまってあるので、シャワーで済ませる
熱いお湯を頭に掛けながら、眠気を飛ばし
昨日、龍神が言った言葉の意味を考える
「慰め労る…か」
言葉に出して言ってみるが、どうすれば良いか、一向に解らない
慰めって、具体的にどうやるんだよ
パソコンを、龍神に占拠されてる為、スマホで調べたところ
京都の方では、祭りで祟り神を鎮魂するとかあったが
ウチのような小さい神社で、そんな大規模な祭りは出来ないし
結局、出たとこ勝負か…
沐浴を済ませ、朝の供物の用意をする
あのバカ龍、供物は何処で食べる気だ?
そう疑問に思って、僕の部屋に戻ると、龍神は簀巻きのまま寝ていた
どうせ、先程までネットしてて寝不足なのだろう
起こすと五月蝿いし、面倒なので此のまま放置する
供物は、起きたら食えるよう、ラップしてテーブルに置いといてやる事にして
簀巻きは婆ちゃんが、解いてくれるだろから放置で良いとする
そんな事していると、玄関の方から香住の声がする
「お邪魔しまーす。千尋、起きてる?」
此方も丁度、制服のズボンを履き、サラシ待ちの状態だったので、良いタイミングだ
「ちょ、ちょっと…龍神様どうしたのよ」
「マゾに目覚めたらしいから、簀巻きにしてやった」
そうなんだ…と呆れて立ち尽くす香住に、恒例のサラシ巻きをお願いする
相変わらずの締め付けで、息が出来ずに気を失い掛けるのだが
このサラシ巻きも、後何度かで終わるんだと思うと、感慨深いものがある
一応、婆ちゃんに龍神の縄の事を置き手紙し、学園へ向かう
相変わらず、何処に行ったのやら行方不明であるが、たまに湯飲みが出てたりするので
神社内には居るようだ
「そうそう、正式に男に戻れそうなんだ」
登校の途中で香住に報告する
「また、根拠もなく言ってるだけじゃないの?」
「本当だってば、婆ちゃんと龍神が話してて、契約終わりにするって言ってた」
「それが本当なら良かったじゃないのよ、サラシともお別れね」
「うん、そうなれば体育も普通に出られそうだし」
と、そこまで言ってから気が付いたんだけど…
もしかして、フラグ立てちゃった?
これ…元に戻る前に、今夜死んじゃうんじゃ…
まさか、縁起でもない
そう呟いて不安を払拭する
「じゃあ、料理修行は終わりなのか…」
ちょっと残念そうに言う香住に
「うん、なので此れからもずっと、ご飯の用意お願いします」
と言って見る
あれ?
僕の予想では『少しは自分で作りなさいよね!』と来るはずなんだけど…
香住は顔赤らめて
「しょうがないわね」
って言ってくる
なんか、調子が狂うな
「よう、高月夫妻!今日も熱々だね」
正哉が茶々を入れてくる
「何で、僕が婿養子なんだよ」
「じゃあ嫁入り?」
そう言って正哉が茶化すが
香住は、更に顔を真っ赤にしたまま言い返さない
「おい、何か高月おかしくね?」
そう言って僕を突ついてくる
「そうなんだよ…さっきから変なんだ、そのうち戻ると思うけど」
その後、学園へ正哉と馬鹿話をしながら向かう
香住にも話を振るが、どうもノリが悪い
そう言う日もあるだろうと深く突っ込まないで置く
校門が見えて来るが、どうやら今日は、小鳥遊先輩は待ち構えて居ないようだ
「珍しいな、あの先輩が千尋をストーキングしないなんて」
正哉の言葉に、昨晩先輩が言った『一門総出の準備中』との言葉を思い出す。
おそらく、先輩も学園を休んで、今夜に備えて居るのだろう
出来れば、その前に魑絋と一度逢いたくて、休み時間を利用し北校舎を歩き回ってみるも
逢うことはできず、下校となってしまう。
夕方、もう一度北校舎へと思ったが
何故か今日は、部活禁止で全員帰るように、閉め出された
テスト期間でもないのに
まるで、此れから戦場になるので、生徒は巻き込まれない内に帰れ!と言っているようだ
そうなれば、僕に出来る事をやるだけ
神社に戻り、念入りに御祓を行い、巫女服に着替える
戦闘服と言うには頼りないが、対穢れには強そうだ
供物の用意など、日常的な事を済ませ、学園へ向かうべく覚悟を決める
鳥居の処で、龍神に逢ったので
「なあ、御神体、僕に加護をくれよ」
「それなら、もう角があるだろ、それ以上の加護はない」
「此れが加護か?僕じゃ逃げ足が速いだけだ」
「それで良いだろ、逃げられれば命は助かるんだからな」
確かに言えている
だが、今夜は簡単に逃げ帰る訳に行かない
「もし、僕が帰らなかったら、さっさと契約なんか破棄して天に帰れよ」
「馬鹿め、妻を放ったらかしで行ける訳ないだろ」
生きて帰れよ!と言ってくれたが
また、フラグが立っている気がする
これ以上変な事言うと、本当に帰って来れなそうなので、黙って香住の家に向かう
さっきの御祓で、サラシを取ってしまった為、巻き直して貰うために
この胸だと、素早い動きが出来ないからね
まだ、21時だから起きてると思うが
知った仲とは言え、他所の家の一人娘を、夜にチャイムで呼び出すのは気が引けて
一応電話してみたら、直ぐ出て来てくれた
「何時も、登校の前だけなのに…何かあるの?」
「ごめん…その理由は聞かないで…」
もう死亡フラグを立てたくない
「へえ、言わないんだ…」
そう言った後、サラシがどんどん強く締め付けられる
「ちょ、それ以上は…息が…」
く、苦しい
学園へ行く前に死亡しそうだ
意識が遠くなり掛けたら、少しだけ緩まり
「ほら、言いなさい」
此方の生死を握られているので、仕方なく全部話す。
「そんなのダメ!何で千尋が危ない目に遭わなきゃいけないのよ!」
「この間、香住が電話で話しただろ、僕が病室で呟いていたって…魑絋はその失った半身なんだよ」
「だったら!私がその孔を埋める半身になるから!だから…行かないで」
そう言って僕に寄り添って来るが
「香住の気持ちは嬉しい、でも此れは僕がやらなきゃ…」
たぶん僕しか話が出来ないと思うし
ここで、魑絋を此処で見離せば、祟り神として未来永劫苦しむ事になる
僕を庇って祟り神に成ったんだ、見離すなんて選択肢はなかった。
香住の肩を引き離し
「大丈夫だって、根拠は無いけど、多分どうにかなるから」
「絶対帰ると言って」
「あ、いや…これ以上フラグは…」
「フラグ?」
「わかった、絶対帰って来る!」
あー終わった
良い雰囲気になった女の子相手に、絶対帰るって言っちゃった…死んだわ
唯一、フラグを破れるとしたら、普通の男女の仲でなく、此方も今は女の子だと言う一点
まあ、成るようになるか
一緒に来たそうな香住をどうにか説得する
ちょっと酷な言い方だが、僕独りのが逃げやすいからと言ったら、渋々引き下がった
本当は、戦場と化してるであろう学園に近付けたく無かったので結果オーライである
しっかりサラシを巻いてもらい、夜の学園に向かう
何時もなら、閉まっている校門が開いていて、黒い車が数台塞ぐように横付けしてある
もう、始まってるのか…
仕方なく、フェンスを飛び越えようとしたが、御札が空中に浮いて要るのに気が付く
試しにそっと手を伸ばしてみたら
強烈な電撃を食らう
「痛つっ…結界か…」
多分、人以外通さない結界だろう
半龍が仇になったか…
とりあえず、何処かに抜け道は無いかと、フェンスに沿って学園の外を歩いていくと
人影が見える
小鳥遊先輩?
いや、そっくりだけどちょっと違う
中学の制服だし
あー、ちょっと前に正哉の言っていた先輩の妹さんか
たぶん、今回の討伐では力不足なので、外に配置されたかなんかだろう
丁度良い、抜け道を教えて貰おう
そう思って近づくと
「出たわね!物の怪!」
そう言いながら、木刀を振り下ろしてくる
危ねえ!
何とか初撃を避けるものの
避けられた事に逆上し、木刀を連続して振り回してくる
紙一重で避けているのに、ビリビリくるので、ただの木刀では無いようだ
「ちょっと待って」
「嫌!物の怪の言葉何か聞くもんですか!」
「物の怪じゃないってば」
「嘘よ、その頭の角が人間で無い証拠」
あ、そうか…霊力の強い人間には見えるんだった
「いや、本当だってば…キミ、小鳥遊先輩…緑先輩の妹だろ」
何で知っている?とばかりに胡散臭げに此方を睨む
「やっぱりな、中学の制服だし顔もそっくりなんで、そんな気がしたんだ」
木刀を構えたまま
「ひょっとして…千尋とか言う姉様を誑し込んだ奴?」
「いや、どちらかと言うと、僕がお姉さんに襲われてるんですがね」
と言ったら木刀で叩き込んでくる
「危ないって、そんなの振り回さないでよっと」
避けながら言う
半龍化して、身体能力が上がってなければ、とっくに木刀を食らって居るだろう
まあ、その半龍化のせいで襲われてるんだけどね
全く、この姉妹は危険だ
姉は貞操、妹は物理的に狙われるとは
暫く避けていると、息が上がって来ているのが解る
よし!
動きが鈍くなった今なら出来るかも
上から振り下ろす木刀を
「真剣白羽取り!」
真剣じゃないが、木刀を両手の手の平で挟もうとする
だが
目測を誤り木刀は両手をすり抜け、頭に一撃を貰う
ぐあああ
痛みに頭を抱え塞ぎ込む
今まで、ずっと避けられてたのが、急に一撃入ったので、打ち込んだ方もびっくりしている
目に涙を溜めながら
「ふ、この程度で僕を倒せると思わぬ事だ」
そう強がって立ち上がる
あ、アホを見る目で僕を見てる
酷い奴だ
「まったく、これ以上馬鹿になったらどうするんだよ」
「悪かったわ、こんなアホに姉様が靡く訳無いもの」
本当に口が悪い
おそらく、5cmは背が伸びたであろう頭を擦りながら
「なあ、学園の中に入れる処無いかな?」
そう訪ねてみるも
「部外者に教えるわけ無いでしょ」
と冷たく言い放つ
流石先輩の妹、一筋縄では行かないか
まあ、今の言い方で、『あるわけ無いでしょ』では無く『教えるわけ無いでしょ』と言った辺り
抜け道は存在するってことだな
しかも、この妹さんが配置されてるって事は此処に抜け道が…
そう予想して、フェンスに手を伸ばす
電撃は来ない
「やっぱりね」
「ダメよ!」
抜け道に気が付いた僕とフェンスの間に立ち塞がるように割り込むと、木刀を構える
「良いさ、遣りたきゃ遣れよ」
そう言った僕の頭に2撃目が振り下ろされる
今度は何とか白羽取りが成功する
「問答無用か!!」
「だって、遣りたきゃ遣れって…」
「いや、普通は躊躇するだろう!危うく頭の上にタンコブ鏡餅が出来そうだったし」
この娘はやりづらい
「よし、なら何か望みは無いか?」
「こんなアホに叶えて貰う望みはない」
年下からアホとか…
チクショウ本気で泣くぞ
そんな事をしていると学園内から爆発音がする
こんな派手な音立てて、通報されないのかと思うが
根回ししてあるか、術でも張って在るんだろうな
その証拠に、周りの民家から人が出てこないし
しかし、この妹さんどうにか出来ないものか
仕方ない
掴んでる木刀を捻って回転させる
普通なら回転させまいと握り返すんだろうけど
そこは、龍の力で底上げされてる僕に、普通の人間が敵うわけもなく
手を離すのを見て遠くへ投げ捨てる
「姉様に貰った木刀を…よくも」
此れで拾いに行く…
え!?
拾いに行く処か殴り掛かってくるし
狂犬か!
こんな事してる間に魑絋が…
何か意表を突くような事はないか
ええい、仕方ない!
揉み合ってる彼女の口を僕の口で塞ぐ
すると、力が抜けその場にへたりこむ
後が怖いな…
だが許せ緊急事態だ
そう言って抜け道から学園内に入ろうとすると
入れ違いに何かが飛び出していく
もしかして、魑絋?
学園内は酷い有り様だった
何人もの祓い屋が、倒れて呻き声をあげている
重傷者は居ても、死んでは居ないようだ
そんな中に見知った人が
「小鳥遊先輩!」
駆け寄ると、左手が変な方向に曲がり、骨折していた
「まったく、来ちゃダメって言ったのに、どうして来るかな」
「動かないで、今救急車呼ぶから」
「いや、それより千尋ちゃんは、急いで神社に戻るのよ」
「で、でも…」
「救急車は私だって呼べるし、妹の小百合も居るから…早く神社へ行かないと、彼女命と引き換えに龍神様を狙うつもりよ」
「な!?」
「ほら、早くなさい!妹さんを救うって言うのは嘘だったの!?」
痛みを堪えながら僕を焚き付ける
「ごめん先輩!」
そう言って僕は神社へ掛ける
「やれば出来るじゃない、間に合えば良いけど…」
まさか、此処で引き返すことになるとは
サラシのお陰で全力疾走ができる
神社の石段下まで来ると
上ですごい音が爆発音がする
始まっちゃったか…
そのままダッシュで石段を掛け上がり鳥居をくぐる
境内で魑絋と龍神が対峙していた
「止めるんだ魑絋!」
そう声を掛けると
祓い屋によるものだか、結界を強引に破ったものだか解らんが
魑絋は満身創痍だった
大きく肩で息をし、苦しそうにしている
「お兄…ちゃん…」
良かったまだ喋れる
「もう良い、もう良いんだよ」
そう言いながら魑絋に向かって歩みを進める
「邪魔…するなら…お兄ちゃ…でも…」
そう言って闇の刃を飛ばしてくる
僕の左脚を掠めるように当たるが、そのまま歩みを止めずに魑絋に向かう
それを見て幾つも刃を飛ばしてくる
腕や脇腹など幾つも傷を作って行く
その傷を見て思う
やっぱり、理性は残っている、本気で殺す気はないんだ
だって、全部かすり傷だもの
本気なら、初撃で首が飛ばされている
しかし、かすり傷とは言え、数が多いので出血が酷く目が霞んでくる
別に良いさ
この身体は魑絋に助けて貰ったモノだ
その魑絋の為に使えるなら…
魑絋まで、あと数メートルと言うところで、深目に刃を食らう
流石に片膝をつくが
痛みを堪えて、どうにか立ち上がり
動かない脚を引きずるように、歩いていく
「なんで…どうして止まってくれないの!」
そう言いながら泣いて闇の刃を放つが
近いのに当たらず、刃は消える
そんな魑絋を抱き締める
「ごめんよ、お前にばかり背負わせちゃって…辛かったよな」
そう言いながら、僕も泣いていた
「お兄ちゃん…」
「もう、独りにしないから…また一緒に行こうよ」
「ダメだよ、お兄ちゃんまで祟り神に…」
「良いさ、それで祟り神になるなら、悔いはない」
そう言って強く抱きしめる
「その時は…一緒に祓われよう…」
魑絋の身体が光りだし、だんだん光が強く発するようになる
そして、目を開けれぬ程眩しい光を放つと、魑絋は消えてしまう
それと同時に僕も気を失った。