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31 修羅場

気持ち良く寝ていると、何かに鼻を擦られる。

んもー香住だな

今日も休日なんだから…もうちょっと眠らせて…

しかし、鼻を擦るのを一向に止める気配がない

「もーいい加減に…」

そこまで言い掛けて、香住じゃないのに気が付く

寝起きで焦点が定まらないが、固さ的に指じゃない

目を凝らして良く見ると…

角!?

何でこんな処に角が…

更に目を凝らす

龍神が僕の胸を枕にして寝てるし


このバカ龍め、朝方までネットしてて、洞窟まで戻るのが億劫で此処で寝たな

まったく、デッカイ子供だな

龍神の寝顔を見て微笑ましく思えてしまう


って良く考えたら、この状況はまずい

龍神と二人きりでベッドの上って…


身を起こそうとするが、がっちりホールドされてて身動きが取れない

何度か踠いてみるが無理そうだ

はぁ…もう良いか、別に熟睡してて何かされるって訳でもないし

それに、今日の予定は無いしね


枕元のスマホを取って時間を確認する

もうすぐお昼の時報が鳴りそうな時間だ

本来なら、とっくに御祓を済ませ、龍神への供物も終わらせて無ければならないのだが

肝心の龍神が、この様では…ねえ

婆ちゃんが怒鳴り込んで来ないのも、この状況を見たからかもしれない


と言うか、僕の方がお腹空いたし

何か無いかと見回すと、テーブルの上に飴玉が見える

手を伸ばし、指の先ギリギリで包み紙を引っ張って転がし、どうにかキャッチする

これでも空腹よりましだろうと口に放り込む

甘い苺の味が口に広がるが、余計に何か食べたくなる

逆効果だったか…


そんな時

「なんだ…美味そうな匂いがする」

龍神がやっとお目覚めのようである

「まったく、僕の胸は枕じゃないっての、おまけに角が丁度鼻を突つくし…」

「通りで柔らかいと思った、と言うかお前…何一人で食べてるんだズルいぞ」

「ズルいって…ずっと乗られてたんで動けないから、飴玉しか食べてないよ」

そう言って、舌の上に飴玉を載せて見せてやる


そこへ…


龍神の唇が迫る

!?

舌の上の飴玉を掠め取るように唇を被せてくる


コイツ、飴玉欲しさにキスを!?

ウマウマと飴玉を舐める龍神に

「ば、バカ!そこのテーブルの上にまだあるんだから!」

と言って照れ隠しに怒鳴る。

自分の顔が、恥ずかしさの余り真っ赤になってるのが、鏡を見なくもわかる

今のは不意討ちだ、だから仕方ないんだと自分に言い聞かせる。

何怒ってるんの?みたいな顔が余計にムカつく


そこへ

「千尋、起きてる?」

ヤバい香住の声だ

真っ赤だった顔が、一気に真っ青になる

こんな処見られたら…

言い訳できないじゃん

「ちょ、龍神!早く退けって」

僕の上に乗ったまま飴玉を味わってる龍神を振り落とそうとするが

余計に体制を崩し僕に乗り掛かってくる


「千尋、入るわよ、今日どうす…」

部屋の襖を開けて、入ろうとした処で止まる香住


「ち、違うんだ!これは…えっと…飴玉欲しさに吸い付かれただけで」

あれ?言い訳になってないような…


「ま、待て!疲れて寝てただけで何も…」

「突かれて寝てたですって!?」

何か字が違いませんかね?

部屋のテーブルを持ち上げて向かってくる

小型のテーブルだけど、流石にそれだと死んじゃうと思うんですが

「おい、龍神!なんかフォローしてくれよ」

「お前の(飴玉)はウマかった」

「うおーフォローになってねぇ!絶対わざと遣ってるだろ!」

「それが、最後の言葉で良いのね?」

そう言って、香住がテーブルを振りかぶる

「ば、バカ!良く見ろ!ジャージ着てるだろ!(やま)しい事は何もしてないって!」

事故のキスはあったけど

「本当に何も無かったんでしょうね?」

「無いよ!」(キス以外は)


その後、ちゃんとジャージ着てるのを確認され許された。



「もう、紛らわしいんだから」

「僕だって5年は寿命が縮んだ」

なんだ、もう終わりかと、龍神は充電の終わったタブレットを持って洞窟に戻っていった

絶対わざとやってたな、後で覚えておけよ

「朝の供物持ってって無いから、何か作って持ってかないと」

「じゃあ、千尋ん処で料理修行しちゃいましょ」

「確かに一石二鳥だけど、食材が今日の夕方搬入だから、余り残って無いと思う」

「まあ、冷蔵庫見てから考えよ」

そう言って台所に移動する

「んー、人参と玉葱か…」

「あとジャガイモもあるよ」

板の間の板が一部外れるようになってて、床下の暗処からジャガイモを出す

「肉じゃがにする?」

「いや、僕的にはカレーが良いかな、ほら和風以外作って食べさせるって主旨だったし」

「とかなんとか言って、千尋が食べたいだけでしょ」

「だって、普段和風ばっかなんだもの…」

「はいはい、カレーにするわね」

よし!っと小さくガッツポーズをする


「でも、カレー粉無いみたいだけど…」

「普段カレーなんて作らないからねぇ」

「じゃあ、私が下のコンビニで買って来ようか?」

「いや、僕が行ってくるよ、香住が野菜切った方が早いし」

「それじゃ、修行にならないじゃない!やっぱ私が買って来るわ」


どさくさ紛れに任せちゃえ作戦が…

仕方ない、僕が切るか

玉葱、とジャガイモの皮を剥き適当な大きさに切る

最後に、取って置きの人参を

「いやーやめてー、良いではないか、良いではないか」

と言いながらピューラーで皮を剥いて居ると

いつの間にか、買い物から帰って来た香住にアホを見る目で見られる

「だいたい、人参の皮を縦に剥かずに、横に回しながら剥く人初めて見たわ」

「うん剥きずらいが、縦だと帯回しごっご出来ないだろ」

「本当にアホよね」

「何事にも全力投球がモットーなんだ」

香住は、もう良いわと切った野菜を炒め始める


手際よく炒めた後水を張り煮込みに掛かる

「後は灰汁を取りながら煮込むだけだから、千尋は御祓行って巫女服に着替えてきたら?そのジャージじゃ龍神様のとこ入れないでしょ」

「そうさせて貰うかな」

まあ、最近私服でも構わず入ってるけど、昨日なんか深夜ジャージで入ったし

婆ちゃんに見付からなければ良いって感じだ

流石に昼間は、ジャージで入ったらバレるだろうな

大人しく、行衣に着替え、龍神の洞窟の隣にある滝に向かう


洞窟の中から話し声が

「本当に良いのですかな?」

「ああ、もう龍の護りなんて無くも、人間はやって行けてるみたいだしな」

「…承知いたしました、これで縁が終わってしまうとなると、寂しゅうございますな」

「だが、借り腹を強制しなくて済むから、悲しむ巫女も居なくなるだろう」

「それが契約でしたから仕方ありませぬ」


「和枝、お前の孫も男に戻れて喜ぶだろうよ」

「儂は、神子を取り上げる日を楽しみにしておりましたのに…残念でございます」

「ふ、その代わり人間の赤子を取り上げてやれば良い」

「千尋は奥手でございますから、人間の女子相手では、何時になることか…」

「そうなのか?、あの香住とか言う娘なら上手く行きそうだがな」


なんか、二人して言いたい放題だが、図星な処があるだけに反論できない

さて、出てくる前に御祓終わらせて戻ってしまおう

そう思ったら、気になることを言い出した

「契約を解除するのは何時にするか…」

「そうですな…魑絋の事が済んでからのが宜しいかと」

「早い方が孫も喜ぶんじゃないのか?」

「ですが、契約が終れば神社の結界も無くなってしまいまする、そうなれば祟り神になった娘は直ぐにやって来ましょう」

「そうか、ではその娘の一件が済み次第と言うことにしよう」

「祓い屋に依頼しました故、数日で片が付きましょう」

「そうか…その娘もお前の孫なのだろう?辛い思いをさせるな」

「いえ、あれが祟り神に堕ちたのは、此方の落ち度でございますから、龍神様が気に病む事は御座いません」

「そうか…では全て片付いたら…で良いな」

「承知致しました」


ヤバ!婆ちゃんが出てくる

滝壺にダイブし潜り遣り過ごす

息が続か無くなってから顔を出すと、婆ちゃんは既に居なかった


「最近の御祓は他人の話を盗み聞きしながらやるのか?」

いつの間にか、出て来てた龍神に皮肉を言われる

「ああ、最新式の御祓だからな」

祓い屋の事がショックで、そう答えるのが精一杯の強がりだった



昨晩は、僕に任せるよう事言ったのに、祓い屋頼むなんて

いくら何んでもやり過ぎだ


祟り神になったって妹だぞ

それも、僕を助けてなったんだ…それを祓うなんて…



それだけは、絶対に阻止しなければ…



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